なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ええと、どうしましょうかこれ……」
「ぬぅ、まさかこのまま放置するわけにもいかぬしのぅ……」
マイペースに眠り始めてしまった∀を前に、困惑する私達三人。
彼の子細について確かめられていない以上、彼が不穏分子であるという説は、未だ翻されていないわけで。そうなってしまうと、彼?をここに放置することも躊躇われてしまう。
……これが、仮になりきり郷で見付けた相手だったとすれば、とりあえずゆかりんに投げて後は知らね、ということもできるのだが(遠くから「なんでよー!?」という叫びが聞こえた気がするけど放置)。
生憎と、現在の私が居る場所は『新秩序互助会』の方。……放置するにはリスクが大きすぎる、というか。
そもそもの話、リーダーとの顔合わせが済んでいない以上、ここの経営理念的なものは想像で語らざるを得ず。……この前の幽霊列車や、
……基本的には大丈夫だと思うのだが、それでも目の届かない位置に地球破壊爆弾を放置するようなものである以上、私がお目付け役になるしかないというのも確かな話。
「……はぁ。今度は文明崩壊の危機、というわけですか。……願わくば、混ざりが強すぎて
「……とりあえず、繭ごと持っていくか?」
深々とため息を吐いて、サウザーさんの提案に頷く私。
彼は軽々と──実際に軽いわけだが──繭とその中で眠りこける∀を持ち上げると、そのまま出口の方に向かって歩き始める。
その背を追いながら、ふと繭が置かれていた場所を見る私。
なにもなくなったその場所は、少し寂しげな空気を滲ませていたのだった──。
「……なるほど?だから、一旦こっちに戻ってきたと?」
「まぁ、流石にあの子は放置できなくてねー……」
そんなことがあった週の土曜日。
大体一月ぶりに実際に顔を合わせたマシュからは、色々と言いたげな視線を投げられたが……すまんね、まだ終わりそうにないんだ。
そんな感じに謝罪をすれば、彼女は諦めたように小さく息を吐いていたのだった。
ともあれ、こっちに戻ってきたその足でゆかりんルームに突撃した私は、かなり無理を言って休みの日の琥珀さんを呼び付けて貰ったのである。……なんだかんだで、すっかりなりきり郷専属の研究者として定着した琥珀さんは、呼びつけられたことに怒るでもなく、にこにこと笑っていた。
「わりと充実してますからねー。古巣では足りなかったデータがザクザク集まるとか、実際に必要な検証を実地で行えたりだとか。とにかくさほど制限無く色々できるので、下手をすると現役時代より生活に張りがある気がするんでよねー」
「これで三徹目だって言うんだから、琥珀ちゃんも大概元気よねぇ」
「……いや、それは寝なさいよ、マジで」
私達の目の前で、琥珀さんはあれこれと忙しなく機材間を動き回っている。
そしてその中心に居るのは、今話題にあがっていた人物である、エーくんこと∀。……今回の帰郷は、主に彼の精密検査のためのモノである。
なお、エーくんという愛称であるが……彼があまりにも純粋無垢なショタっぽい言動をしていたがゆえに、いつの間にやら呼ぶようになっていた名前である。……なんというか、世のショタコンの方々の気持ちに賛同してしまうくらいに、彼はあれこれと構いたくなる空気を纏っていたので仕方なかったのだ。*1
……見た目はSDガンダムなんだけどねぇ。
「……あの、せんぱい?何故ちょっと距離を取っていらっしゃるのでしょうか……?」
「エーくんの教育に悪影響かもしれない、ってちょっと警戒中」
「それは中の人の性癖では!?」*2
その空気感は、暫く彼と話をしていただけで『どけ!俺はお兄ちゃんだぞ!』と言いたくなるほどのもの。*3
あまりにも強いショタパワーは、マシュの中の
でもほら、構って欲しそうな顔してたし。……そういう構われ方は嬉しくない?ですよねー。
「……でも確かに、どうしてエーさんは、ボイジャーさんを彷彿とさせるような口調なのでしょうか……?」
「なんでだろう?ぼくもよくはわからないんだ」
「それは原作の∀が、フォーリナーのような一面を持つから……なのかもしれないな」
「フォーリナー?∀が?」
ともあれ、彼の口調や性格がこんな感じである理由は不明。
ゆえにそこにマシュが疑問を持つのも必然で──その疑問に対し、今回たまたまついてきていたブラックジャック先生が、小さく口を挟んだのだった。
彼が言うところによれば、そもそも∀とは外宇宙から飛来した
そして、型月世界においては人の活動域よりも外の宇宙は外宇宙扱いされ、そこに起源を持つものは雑にフォーリナーに分類される、という話がある。
──ターンXという、外より飛来した
ある意味では、その成立過程自体がフォーリナーのそれに近いものであるからこそ、そこから性格付けの参考として、同じく機械仕掛けのフォーリナーを模されたのではないか?……というのが、彼の主張である。
「まぁ、確かにこの子にはなにかが混じっている、という感じはなさそうですしねぇ。……言動とか経歴とか、これほどまでに混ざりものっぽい感じなのにも関わらず、特に混じったという痕跡や確証が見えない辺り、ちょっと不思議な感じでもありますが」
「その辺りは私は専門外だ、素直に専門家に任せるさ」
無論、いつも通り状況証拠からの推測でしかないので、これが当たりである保証もないわけだが……と彼は言葉を締め括る。
琥珀さんからの賛同めいた言葉も、小さく肩を竦めるだけで流し、彼はそのまま近くの壁に背を預け、黙り込むのだった。
彼が今回ここにいるのは、エーくんの素性を確かめるため
じゃあ、なんで彼がここにいるのか、という話になるのだが……その前に、エーくんの素性について話を戻そう。
ブラックジャック先生は、エーくんの性格の参考にボイジャー君が使われているのでは?……というようなことを述べていたが。
だとすれば、彼は【顕象】なのではと彼が予測している、という風にも言えるだろう。『逆憑依』の方であるのなら、
「んー……でもこの数値は、どちらかと言えば『逆憑依』の時のモノに近いような……?」
「む、そうなのか?」
「ええ、はい。【顕象】だとこの数値がこうなるのが一般的?なのですが、ほらエーさんの数値は……」
「……ふむ、確かに。だとすると……」
が、データを取っていた琥珀さんからは、エーくんは【顕象】ではなさそうだという言葉が。……話している内容は専門用語が多くてよくわからないが、とりあえずは彼が【顕象】である確率はかなり低いらしい。
ということは、彼は『逆憑依』だと言うことになるのだが……。
「……本当に混ざってないんです?」
「んー……確かに、今までの常識だと混ざりものであるはず、と言うのも確かなんですよねぇ……」
「……ぼく、なにかおかしいのかしら?」
「いやどうでしょうねぇ。人間なんて千差万別、私もそこまでデータを取り尽くせているわけでもないですし、単なる例外という可能性もなくはない、かも?」
「ふぅん?」
何度か話題にあがっているが、基本的に『逆憑依』とは
キャラの性格設定は基本的にガワのものであるため、ガワにそれらの設定が付与されていないものが『逆憑依』してきた時にどうなるのか、というのは案外話題に上ったことがなかったわけで。
結果、今回のエーくんのパターンにより、例外を示されてしまって困惑している……というわけである。
一応、例の『フルカラー劇場』であれば、SDな∀の性格参照先としては十分に機能するわけだが……。
「……なんでも埋めたくなる、ってのは当てはまってないしなぁ」
「ぼく、埋まるのは好きだよ?」
「埋めるのは好きじゃないでしょ?」
「……そうだねぇ。勝手に埋めるのは、よくないと思うの」
エーくんの言葉に、小さくため息を吐く私。
彼は確かに、向こうの∀のように地面に埋まるのが好きなようだが……同時に、向こうの∀のように他者を埋めることは好きではない、という違いがある。*6
この性格の違いは、細かいようでいてとても大きい。
彼が『逆憑依』にも関わらず、
それらを見ている限り、やっぱりそのあり方は【顕象】の方がよっぽど近い気がするのだが……。
「うーん……何度確認してもダメです。エーさんは【顕象】ではない。……少なくとも、これはほぼ確定した情報として扱ってよいでしょう」
「りょっかー。ぼくは例外、ってことだねー」
「……
時折飛び出す、彼独特の謎言語に首を捻りつつ。
一先ずはその辺りの謎を放り投げることにする、私達なのであった。……まぁ、元々別の要件のついでだからね、仕方ないね。
なお、後日始まったFGOのイベントにおいて、件の挨拶達が飛び出したことにより、別の問題が発生することになるのだが……それはまぁ、また別の話である。
「……埋まってるのが好き、だと……?」
「?……どうしたのキーアお姉ちゃん?」