なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、久方ぶりになりきり郷に戻ってきた私は、エーくんの体調やらなにやらの検査を、琥珀さんにお願いしていたわけなのですが……。
「……はい、結論から言いますと……恐らくは使えますね、『月光蝶』」
「まーじですかー……」
「大マジです。というか、ぶっちゃけて言いますと『
「ゲェーッ!!?」
琥珀さんの口から飛び出した言葉に、思わず叫んでしまう私。
だってそうだろう。つまりここにいるエーくんは、それこそアルくんと同じような状態だと証明されてしまったわけなのだから。
どういうこっちゃ、と思われるかもしれないが、ここではとりあえず『∀は中身がある程度スカスカである』ということにだけ注目しておいて欲しい。
……要するに、鎧だけで動いているアルくんと、エーくんはそこまで違いのない人物だということで。
アルくんも大概おかしいのだが、それと同じようにおかしいのがエーくんであるわけで……なんだか混乱してきたぞ?
まぁともかく、普通のSD組のように『人種違いであって区分上は人である』というわけでも無さそうだという彼の存在が、かなり特異であることが証明されたと言えなくもないこの状況。*2
……もし仮に、彼の内部構造が流出した日には……。
「現実にはミノフスキー粒子*3がありませんので、そこまで大袈裟なことにはならない……とは、言い切れないんですよねぇ」
「ナノマシン……」
難しい顔で小さく唸る琥珀さん。
彼女の言う通り、現実世界にはミノフスキー粒子と言うものは存在しない。
いやそもそもの話、特定の──現実には存在しない
……が、しかし。
ここにいるエーくんが、
もし仮にである、彼の持つナノマシンの生成機構が、自身の保持以外の目的──必要なモノを作るための生産機構として転用できたとすれば。
それはすなわち、現実世界にミノフスキードライブを持ち込むことも──ひいてはミノフスキー粒子を現実世界に持ち出すことすら可能になる……かもしれない、ということになるわけで。
魔法少女のための変身アイテムとかは、結局のところ本人の素質を前提とするモノであるがゆえ、
が、純粋には技術でしかないミノフスキー粒子が普及する、というのはそれらとはわけが違う。
下手に普及してしまえば、そこに待っているのは宇宙世紀の再現……かもしれない。
どこかの天才がサイコフレームでも作った日には、ボッシュみたいになる人*4が量産されるかもしれない……!
「……いやあの、着地点おかしくないです?」
「うるせー!真面目に考えると頭おかしくなるんじゃーい!!」
「──まぁ、レーダーだの弾道ミサイルだのの機能が、大幅に阻害されるわけだからな。もし仮にミノフスキー粒子が普及なぞすれば、世界の勢力図は大きく変化することとなるのは、目に見えていると言えるだろう」
「わー!わー!口にしないで災いになるぅー!!」
「わー、キーアちゃんが大騒ぎしてるー……ふふふー」
「八雲さんまでおかしく!?」
ゆかりん含めてテンションがおかしい人が多く発生しているが、それも無理はない。
ロボット系列がほぼ持ち込まれていない、という話をした通り、基本的にお偉いさんが研究に熱をあげていた『創作由来の技術』というものは、そのほとんどが応用の効き辛い『術者の素養を必要とする技術』であった。
魔法少女にしろ、ライダーにしろ、錬金術師にしろ。
それらは根本的に、『逆憑依』の対象になった者か、よっぽどそれらの技術と相性のよい人物にしか、扱えないものだったのである。
この間のデンライナーにしたって、元の
結界擬きを発生させる呪符や、空間投影モニターなどなど、使用者を限定しないモノであれば、ある程度応用も進んでいるようだが。
この間のコナン君のキック力増強シューズのようなモノは──使用者が『逆憑依』や【顕象】であることを前提とした造りとなっているらしく、一般に普及する予定は一切無いのだそうで。……いやまぁ、琥珀さんが趣味で作っているようなものなので、端から量産とかは一切考えていないんだろうけども。
「ともあれ、彼のナノマシンが破壊ではなく、物の製造のために転用できるとしたら……今まで加工技術や必要な素材、その他色々な面から再現を諦めていた物品達も、続々と実用可能になる可能性は、十二分にあると言えなくもない……というか、その辺りは
「ああぁあああもぉおおおおおおっ!!」
∀に搭載されたシステム、月光蝶が文明のリセットを主目的としたナノマシンによるもの、というのは以前述べた通りだが。
もし仮に、地球から木星までを覆うほどの出力を持つとされる*5それらのナノマシンが、プログラムの変更によって破壊ではなく創造を行えるようになったとしたら。そしてそれが、デビルガンダムのように三大理論を備えているのだとしたら。
それはすなわち、人類があらゆるモノを作り出す力を得た、ということに等しい。
錬金術というのは、現代においては空想の産物であり、実現の余地はない……などと思われているが、その実原子の定義というものが、内部の陽子と中性子の個数によって決まっていることが明らかになってからは、『陽子の数』さえ変化させられるなら、鉛を金にすることだって可能だと言うことは、理論的には判明しているのである。*6
問題があるとすれば、それを行うには超高温であったりだとか超高圧であったりだとか、とにかくそれが成立する状況に持っていくために、膨大なエネルギーが必要だと言うこと。
……なのだが、それもエーくんが∀のダウンサイジング版であるのなら解決してしまえる。何故なら彼は、
「──縮退炉。それも二基も搭載しているとなれば、世界が彼を巡って争いを始める……だなんてことも、大袈裟な予想とは言えないかもしれませんねぇ」
「ぬわっ!?びび、びっくりした……なんで居るんですか、シュウさん」
「なに、グランゾンの力を持ってすれば容易いこと……というのは冗談として。彼に少し興味があったので、無理を言って入れて貰ったと言うだけのことですよ、フフフ……」
(う、胡散臭ぇ~!)
突然現れた黒幕……もとい、シュウ・シラカワさんの意味深な笑みに、思わず後ずさってしまう私。
相変わらず胡散臭いが、一応は単なる興味心で来ただけ、というのも間違いはないだろうから、とりあえず無用な警戒は止めておく。……疲れるだけだし。
ともあれ彼の言う通り、∀とは超小型ブラックホールエンジン……もとい、縮退炉を二基積み込んだスーパーマシンである。
もし仮に、ここにいるエーくんの主動力も同じであるとすれば……使えるエネルギーはほぼ無尽蔵、本来であれば使用するエネルギーと対価が釣り合っていないがために、有効活用されていない元素変換も、半ば無理矢理押し通ることができてしまうというわけで。
結果、もし仮に彼のナノマシンを生産目的で活用できるのであれば、それこそミノフスキー粒子だけでなく、科学的な再現性を持っているはずの様々な創作技術を、全て実現することが可能になると言えてしまうかもしれない。
……琥珀さんが
「……早急に向こうのリーダーと話をしたい気分になってきたよ……微妙にお国の支援を受けてそうな気がすることも踏まえて、裏取りとか確り取っとかないと安心できない……」
なりきり郷は、一応国の機関の一つである。
公的な面を持っている以上、所属人員の報告は半ば義務であり、それゆえにこちら側でエーくんを保護する、というのはあまり宜しくない。
報告書を作って提出する必要がある以上、子細を上に知られてしまうことになるし……その結果として、急進派達の目にも入るだろう。
そうなればどうなるかは、火を見るより明らか。
ナノマシンを有効活用し、あらゆる科学技術を発展させ──どこかで必ず、他の国との争いになるはずだ。
ミノフスキー粒子の時点で、現代戦におけるほとんどの対抗手段を封じるのである。
その他の戦闘に転用できる技術達も、本当に再現できてしまえばヤバイことにしかならないだろう。
日本は積極的な戦争はしないから大丈夫……なんて、そんな阿呆みたいなことも言ってられない。
余所の国にそれらの技術が露見した時点で、よくないことに発展するのは目に見えている。
その結果として、日本側が戦争という対処を取らざるをえない状況に追い込まれる可能性も、十二分にある。
そういった良くない未来を未然に防ぐには、エーくんの存在を公表しないのが一番だろうが。
そうするためには、『新秩序互助会』が国の関連組織ではない、という確証が必要となる。
要するに、向こうに匿って貰うのが現状を考えると一番マシだが、同時に向こうの背景がわからない以上、迂闊に任せると更に酷いことになる可能性があるということ。
それと──恐らくはないと思うが、向こうの人員の内、エーくんの能力を悪用しようと言う者が居ないとも限らない、ということ。
悪用とは言わずとも、ハジメ君辺りは新しい武器を作るのに、未知の金属を求めることもあるかもしれない。
そこで『いいよー』とでも言わんばかりに、エーくんがサクラダイトとかヴィブラニウムとか*7を作り始めたらどうなるか。……笑い話にもならないので想像したくないが、周囲からあれこれと頼まれることになるのは間違いなく。
「……嫌な予感しかしねぇ……」
久方ぶりの大問題に、思わず頭を抱える私なのであった。