なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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ダーツとサイコロ、どっちがいい?

 さてはて、唐突な文明崩壊の危機より暫く経ち。

 

 件の彼(エーくん)の言動が、その当時配信されていなかったとあるゲームのイベントキャラに、なんらかの影響を受けていると思しきモノであったことを知って、ちょっと一悶着あったりしたものの。

 基本的には平穏に、かつ平和に日々を過ごしていた私なのでありましたが……。

 

 

「……幾らなんでも、長すぎるのではないでしょうか?」

「なんじゃいきなり?藪から棒にどうした?」

 

 

 ベッドに腰掛けて雑誌を読んでいた私は、それを乱雑に閉じて隣に投げながら、一つ声をあげるのだった。

 そんな突然の奇行に、最近ずっと私達の部屋(うち)に入り浸っているミラちゃんが、胡乱げな視線をこちらに向けてくるのだが……。

 

 

「どうもこうもありませんよ!幾らなんでもここのリーダーさん、不在期間が長過ぎます!」

「うむぅ、不在期間とな?……ふぅむ、今日で確かー……大体五ヶ月目くらいじゃったか?お主がこっちに来てからとなれば、大体一月と半月ほど──……なんじゃ、まだまだ余裕があるではないか。焦るのならば、不在が半年を過ぎてから焦るが良いぞ?」

「ごかっ……?!いやそもそも半年!?……ええい、このまま座して待っていては、すっかりこっちの子になってしまいます!」

「……その、それに関しては今更じゃないかな?キリアちゃんってば最近はずっと、エミヤさんのデザート開発に付き合ったりしてるみたいだし……」

「……ぎゃふんっ」

「令和の世にもなって『ぎゃふん』、なぞと言う奴がまだ残っておった、じゃと……?!」*1

「お、喧嘩を売ってますか?売ってますね?買いますよ言い値の三割増しで。どうぞどうぞ言い値を吹っ掛けて来てくださいよええ」

「いやちょっ、やめいやめい!言葉の綾じゃ!水を得た魚*2のように絡んでくるでないわっ!」

 

 

 こっちの口が荒くなるのも宜なるかな。

 彼女の言う通り、私がここに来てから経過したのは、大体一月と半月(15日)ほど。

 それでもなお、件のリーダーさんについては、未だ影すら見えていない状況である。

 

 彼との話し合いを主目的と定めてここにいる私は、このまま無為に彼の帰還を待っていると、ずるずるとこっちに居続けることになってしまう。

 そうなってしまうと、そのうち向こう(なりきり郷)の魑魅魍魎達がこっちに突撃してくる、だなんて事態にもなりかねないのだ。

 ……私がこっちに拉致られてるんじゃないかって心配よりも、これだけの長期間私がこっちに居るんだから、なにか楽しいことでも起きてるんじゃないか……という興味と好奇だけの突飛な行動の結果として、その暴挙が起こりうるのである。

 

 そんなことを許してしまえば、恐らくは目も当てられないような大惨事が、この『新秩序互助会』の施設の中で引き起こされてしまうことになるだろう。

 ……ある意味では純粋無垢とも言えてしまうここの人達に、向こうのノリとテンションを持ち込むということは、最早コウノトリ云々*3とか真面目な空気の作品にボーボボを持ち込むとか、そういう酷いことにしかなりえないわけで……。

 

 そんな悲惨な事態はなんとしても避けたい私としては、どうにかしてリーダーさんと面会を果たし、話し合いを粛々と終わらせたいわけなのです。

 ……え?心配するところがおかしい?向こう(なりきり郷)が単なる武力でどうにかなる所なら、端からもっと世紀末な世界でおかしくないんだよなぁ……。

 そもそもの話、向こうは施設ごと()()()()()が施されているわけで。……その技術を転用できるのなら、最早全ての争いは単なる意地の張り合い、迷いも多いこっちの人達に対抗できるかは微妙なところがあるというか。

 

 それと、そろそろ()()()()()()()かも?

 ……的なことをゆかりんが言っていたため、できればそっち方面でもとっととオサラバしたいというか。

 現実で死滅回遊*4擬きなんてやろうとしなくていいから、ね?

 

 ……まぁともあれ、現状のなんの準備もできていない状況での第一種接近遭遇*5は、両組織に要らぬ不和をもたらすというのは確かな話。

 なので早急に、なんならテレビ電話とかでもいいので、直接言葉を交わしたいと思っている私なわけなのですが……。

 

 

「とは言っても……のぅ?あやつが今ここに居らぬ、というのはどうしようもない事実。基本的には下の者に行き先を伝える……ということも無いようじゃし……」

「ぬぐぐ、初手から行き詰まってるじゃないですか……っ!」

「なぁに?キリアお姉ちゃんはお困りなのかい?」

 

 

 ミラちゃんの言うところによれば、リーダーさんは部下達に行き先を告げる、ということはほとんどしないらしい。

 ……件のリーダーさんが、予想通りにあの骨の人だというのであれば、部下に行き先を告げずにどこかへ向かおうとする理由については、なんとなく察せられる。

 

 とはいえ、彼のここでの部下と言えば、幹部級は夏油君とかアスナさん、普通の部下であればミラちゃんとかハジメ君……。

 

 ……うん、別の意味で心休まらねぇな!

 ともあれ、原作の方の骨の人なら、部下からの過剰な敬愛に嫌気を指して、ちょっと一人になりたくなる……みたいなのもまぁ、わからなくもないのだけれど。

 こっちの幹部級二人は、その優秀さに関しては普通に良好な部類ではあるものの、かつての彼の部下のような過剰な敬愛を示す彼に示す……というようなことはないだろう。

 

 さっきのミラちゃんが発した随分と気安い台詞などの、施設内に漂う空気を見るに……、彼等からの扱いは、どちらかと言えば親しみのある近所のおじさん、くらいのモノであるような気がするし、それゆえに上に立つもののプレッシャーで胃を痛めている、というようなパターンではなさそうな予感がする。

 

 若干の問題児気質を持つアスナさんにしたって、これでも血盟騎士団副団長を務めたという記憶を持つ人物、真面目なところではしっかり締めるタイプの人である。

 相手を敬ったりそれを緩めるタイミングについても、勿論心得ているはずだろう。

 

 すなわち、自身より頭脳明晰な相手に傅かれることに辟易している……という可能性は限りなく低いと言える。

 ならば何故、彼は部下の一人にすら行き先を告げずに、長期間施設を留守にするなどという行動をしているのだろうか?

 

 山じいの話によれば、元々彼は前任のリーダーを打ち倒して、ここのリーダーとなったのだという。

 それがいつ頃の話なのかはわからないが、例えばその前任者が諦めておらず、どこかに隠れて再起を図っていて、その対処のために方々を駆け回っている、とかだったりするのであれば、一応は説明が付くが……。

 

 

「……ただでさえこっち(新秩序互助会)についてお国からは知らされていなかったのに、その上更なる火種が転がっている、ですって……!?」

「……キリアお姉ちゃんが怖い……!?」

「ぬぅ?どうしたエーよ……ってぬぉわっ!?キリア顔!顔!」

「え?……あ、これは失礼」

 

 

 また貴様らの仕業か急進派ぁっ!!

 ……的な怒りが漏れていたのか、膝上で抱えていたエーくんに酷く怯えられた私は、ミラちゃんの言葉で表情が凄いことになっていたことに気が付く。

 まるでどこぞの優しい王様のパートナーがぶち切れた時のような形相であったため、周囲に怯えられたらしい。*6

 

 小さくため息をついて、自身の顔を揉み解した私は。

 

 

「……とりあえず甘いものでも食べてきます……」

「お、おう。気を付けて行くんじゃぞ……?」

 

 

 困惑するミラちゃんにエーくんを任せて、ふらふらと部屋の外に出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「……それで儂らの元に来るのも、どうかと思うがの」

「他に落ち着ける場所が思い付かなかったんですよ……食堂だと、他の人に迷惑でしょうし」

「ふぅむ、それもそうか」

 

 

 そうしてたどり着いたのは『目覚め』……もとい、こっちの失言により呼び名の変わってしまった『泥の底』の部屋。

 

 何度か止めましょうと諫言したものの、聞き入れて貰えなかったので諦めたわけだが……なんやかんやと入り浸るうちに、こっちはこっちで落ち着ける場所となっていたのであった。最初のうちは山じいにビビってたのに、ねぇ?

 

 

「……どの口が言うのか。貴様はほぼ最初から、泰然と立っていたではないか」

「おっとマステリさん。テリチキ*7要ります?」

「……()()繋がりとでも言いたいのか?まぁ、貰うが」

 

 

 こっちに来る前にエミヤさんに作って貰ったお昼ご飯を、奥からぬっと現れたマステリさんに渡しつつ、包みを剥がして中のハンバーガーを一口。

 ……ううむ、酸味と旨味のバランスのよいタルタルソースに、ぷりぷりの身がたくさん詰まった海老カツ。さすがはエミヤさん、ジャンクフードとはいえ全力ですな。

 

 うまうまとハンバーガーを貪っていると、なにか言いたげだったマステリさんが、小さくため息を吐いたのちに隣のダンボールに腰を下ろした。

 

 

「……ああ、エミヤさんにジャンクを作らせた手練手管(てだれくだれ)についてですか?最近の世の中は高級志向のジャンクフードもありますよ、って言ったら渋々ながらに作ってくれました!」

「……いや、聞きたいのはそういうことではなかったのだが。……そもそもそれを余が聞いたところで、試す機会がないと思うのだが?」

「……?普通に自分の食べたいものを頼むのに、使えばよいのでは?言い方は尊大な感じで。エミヤさんfgoでの経験もありますし、尊大な物言いもそこまで気にしないと思いますよ?」

「それもそうか……ってそうではなく」

 

 

 わかっているだろうに、話を逸らすな……とでも言いたげな彼の視線に、小さくそっぽを向く私。

 この微妙な空気は、先ほどから会話に加わっていないもう一人に理由がある。

 

 

「……我が華……我が愛しの君……どうして……何故……」

「ええい、いつまでもめそめそしておるでないわっ!」

「君にはわからないだろうさ山本元柳斎!私の愛はただ一人のためのもの!芳しくも清らかな一人の聖女にのみ捧げられるもの!今の彼女では……ないのだ……ッ!!」

「……歯を食い縛るほどに嫌なのか……」

「知りません。ええ私は知りませんとも」

「おのれ悪鬼!我が愛を愚弄するかぁ!」

(……めんどくさいが面白いな、水銀の)

 

 

 その理由……メルクリウスさんは、淀んだ表情でダンボールに腰を掛けている。

 いつもの鬱陶しさはなりを顰め……顰めてないな別方向になってるだけだわ。ともあれ、常とは違う面倒臭さを彼が発揮している理由は、私が『泥の底』にいる間はキリアの喋り方を止めていることにある。

 

 なんでも、彼の言うところによれば彼が華として愛でているのは、あの喋り方を含めたキリアであって、今の楽にしている状態ではないのだという。

 結果、姿形こそ華そのものである今の私を、否定したいような否定したくないような、なんとも面倒臭い気分になっているのだそうで。

 

 こっちで楽にしていると毎回こんな感じなので、最早私も慣れきってしまっているというわけである。……いやまぁ、同居人二人にしてみれば、彼が毎回毎回ぐちぐちぶちぶち鬱状態になるため、できればなんとかして欲しいというのが本音らしいのだが……。

 

 

「その場合、私は山じいの秘密をバラすことになりますが……」

「この話は他言無用!以後、口にすることを禁ずる!」

「山じい……」

 

 

 長く入り浸れば、秘密の一つや二つ知りもするというもの。

 孫に甘いお爺ちゃんのようになった山じいの姿に、マステリさんがホロリと涙を流していたのだった。

 

 

*1
元は『ぎょふん』だったとされる。この場合の『ぎょ』は『ぎゃ』と同じ感動詞であるとされ(恐らくは『ぎょっとする』の『ぎょ』と同じ)、『ふん』の方は『ふむ』と同じ承諾の言葉だったとされる。合わせて『言い負かされて言葉もでない様』を指す言葉。『ぎゃふんと言わせてやった』と言う形で使うことがほとんどだが、実際に『ぎゃふん』ないし『ぎょふん』という言葉を口に出させているわけではない。江戸時代くらいからある、結構古い言葉

*2
元々は三國志における『蜀書 諸葛亮伝』にて、蜀の劉備が孔明を手厚く扱ったことに対し、嫉妬した関羽や張飛に向かって、その嫉妬を解す為に述べた話が元だとされる(いわゆる『水魚の交わり』。魚は水の中でしか生きることができない、切っても切り離せない間柄であることから、殊更にに親密な間柄を示す言葉として使われる)。そちらの『仲が良い』ことを示す言葉としては『魚の水を得たるが如し』があるが、『水を~』の方も元の意味は同じだった(いわゆる語源が同じ)。時代を下るに連れ、『自身の能力を活かすことのできる職場や場面にであって活躍する』というような意味になっていったようだ。なお、元が故事成語である為、『水を得た魚』の『魚』の正しい読み方は『ウオ』となる

*3
『幽々白書』より、とある人物の言葉。ある意味では性癖暴露。ジャンプは時々ヤベー奴を生むなぁ、と思わせてくれる言葉

*4
『呪術廻戦』の用語。とある人物が仕掛けたデスゲーム。名前の由来は自身の生息域から流されてしまい、全く異なる環境に適応できずに死亡するという『死滅回遊魚』だとされている

*5
アメリカの天文学者ジョーゼフ・アレン・ハイネック氏の提唱したUFOとの接触段階の定義から。第一種接近遭遇の場合、相手UFOの仔細を確認できる程に近付いた事を表す

*6
『金色のガッシュ!』より、俗に言う鬼麿。ぶちギレて鬼か羅刹か修羅か、と言わんばかりに表情を変じさせた清麿君のこと

*7
()()焼き()()ンのこと。ここではハンバーガーだが、単品でもテリチキはテリチキである


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