なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「それで?貴様のことだ。単に休憩に来ただけ……というわけでもないのだろう?」
「おや鋭い。流石はマステリさんですね」
メルクリウスさんがふて寝してしまったのを見届け、半ば諦めたように息を吐き、手に持っていたテリチキにかぶり付いたマステリさん。
そうして無言で食べ続けること暫く、彼は残った包み紙をくしゃくしゃに丸めてくずかごにシュートしたのち(行儀が悪い、と山じいが怒っていた)、改めてこちらに声を掛けてくる。
……私?私はまだ食べてるよ。口小さいしね。
まぁそんな感じで話し掛けられた私は、先ほどの自室での出来事を、もう一度話すことになったわけなのだけど……。
「ふぅむ、連絡手段か……『
「一度でも見ていれば使えるかも知れませんが、今の状況だと取っ掛かりもないので……」
山じいの口から溢れたのは、
確かに、使えるのならばそれが一番早いだろうとは思うのだが……私が
いつぞやかに使っていた『ハマノツルギ』なんかは、
ともあれ、現状では知識外のモノとなる『伝言』は、私にとっては模倣はできないもの、というのは間違いないだろう。……まぁそもそもの話、仮に一度見るという行程をクリアできたとしても、今度は『伝言』を送る相手のアドレスがわからない……という問題にぶち当たるわけだが。
あれは一応、ネットゲームの連絡手段が転じた
既読無視なのかを確認することもできない以上、相手が反応を返してこなかったらそこでおしまい、以後素直に待ち続けるのみというやつである。
「ふむ、ダメか。うまく行くと思ったのじゃが」
「こうなれば最終手段、予知系とか遠視系技能で探知を……ってあ、そういえばあの人探知対策とかしてたような……?」*3
「流石にそれは切っているのではないか?」
「……いや、仮に切ってたとしても攻撃連動部分だけ、探知に対しての逆探知は残してると思うから、場合によっては喧嘩を売ったと見なされたりするんじゃ……?」
「そこまで警戒せずともよい、と思うがのう」
相手に直接『伝言』するのが無理そうだとなると……あとはもう、
マステリさんの言う通り、オートで攻撃魔法によるカウンターを仕掛ける……という形の対策は、恐らくオフにしているとは思うのだが。
逆に言えば、探知に対しての逆探知に関してはオフにする必要が見受けられないため、そのまま使っている可能性が高い。
と、なれば。
迂闊に覗き見をすればいわゆる『ガンを付けた』こととなり、敵対行動と見なされて、会話をすることもままならなくなるかもしれない。
そうなってしまえば、私としては非常に困ったことになる。基本的にはこことは良好な関係を築きたいと思っているので、変に敵対的な状態になられるのは困るのである。……え?幽霊列車での一件?あれは直接戦ったりとかはしてないので……。
まぁともあれ、魔法とかスキルで見付け出そうとするのは、現状良い行動だと言えないのは間違いないだろう。
そうなってくると……。
「うーむ、衛星でもハックしてそっから確かめる……いや、バレないかもしれないけど砂漠でダイヤ探すようなことになるかぁ……」
「……貴様、サラッととんでもないことを言っていないか……?」
「ぬぅ、この童女こそ騒動の発端だったか……?」
「うぇ?……あ、ああ。やだなぁ、G◯◯gleマップとか使おうとしてるだけですよ?あははは……」
高高度から、機械の目を使って探すのが一番なのでは?
……と一瞬考えたものの、探す相手はただ一人。それを行き先の目星すら付いていない状態で探すのは、砂漠に落ちたダイヤを探すよりも困難なことだと思い直し断念。
……そもそもの話、ダイヤが落ちたのが砂漠なのか・はたまた大海原や雪原なのかすらもわかっていない現状で、機械に頼った捜索を行うにはちょっと無理があるだろう。……ルリちゃん辺りに手伝って貰って処理速度を上げる、とかの対策も思い付かなくはないけれど、それにしたって無謀にもほどがある話だし。
なお、そうしてポツリと呟いた言葉に、周囲二人から危険物を見る目を向けられたが……一応、言葉の綾だと言うことにしておいた。
ラスボス然としているが、この二人(+一人)は本人そのものではない人物。……基本的には良心に従って行動しているので、度を越した行為だと判断されれば、普通に敵対されかねない。
彼等の前では、法とか人道に触れるような真似は控えよう……そう誓う私なのであった。……まぁほら、こっちの姿になってからはわりと傍若無人なところがあったし、自分を見つめ直す良い機会だったということで……。
「……サヨナラッ!!」
「あ、逃げたぞ!」
「こらっ、待たぬか悪ガキが!」
そんな自己弁護は通じなかったため、慌てて逃げ帰ることになる私なのであったとさ。
「うーむ、あの分だと暫く顔を見せない方がよいでしょうねぇ……」
命からがら……とまでは行かないものの、わりと真面目に流刃若火(杖モード)を脳天に叩き落としそうな空気を纏った山じいから逃げおおせた私は、走り回った結果として自室からは離れた場所にたどり着いていた。
外に飛び出して口調を戻した途端に「ははは、行くがいい我が華!ここは私が任された!」とかなんとか元気を取り戻したメルクリウスさんが、こちらに『先に行けムーブ』をしてくれなかったら危なかったかもしれない……なんてぼやきつつ、額の汗を拭う。
とはいえ、逃げてきたこちら側から自室に戻ろうとすれば、彼等の部屋の近くを通らなければいけないこともあり、暫くはこっちで時間を潰さなければならないだろうが。
そうして周囲を見渡せば、そこは地下ながらに緑が見える場所で。
確か、日の当たらない地下で滅入ることのないように……とかなんとかの理由で作られたのだという、地下庭園の入り口に私は逃げてきたようだ。
……まぁ、落ち着いたところでちょっと考えを纏めたい、と思っていたのも確かな話。
そうして一つ頷いた私は、どことなくお嬢様とかが御茶を楽しみ遊ばされていそうなその庭園へと足を踏み入れ。
「……どうして……やはり予祝……」
「うわぁ」
庭園のお洒落なテラス席で、紅茶片手に
彼女はまぁ、
彼女もまた、純正のウマ娘とは言い難い性格をしており。
「今シーズンはおしまいですわぁ~~っ!!」
「いやその、勝負は時の運と言いますし……」
「このまま進むと自力V消滅ですのよ!?あんまりですわぁ~~っ!!」
「ああはい、落ち着いてくださいよ……」
……ご覧の通り、ネットでのマックイーンネタの殆どが組み込まれた存在なのである。
チョコをパクパクと食べるし、食べすぎでちょっと太りやすかったりするし、猛虎魂を持っていたりするし。*6
そんな感じで、純正のマックイーンに比べるとネタ要素が大きいのが、ここにいるメジロマックイーンなのである。……え?アプリとかアニメでもわりと変な面を見せてた?
まぁともかく。
存在自体が珍しいウマ娘であることも手伝って、色々と交流を持つことになったのだが。
向こうのオグリとタマもわりと意味不明な生態をしている、ということを知った時には、彼女もまた少々間抜けな顔を見せていたのは記憶に新しい。……いやまぁ、さっきのFX顔もどうかとは思うけども。
「こうなれば自棄食いですわ!パクパクですわ!」
「……別に自棄じゃなくても、それなりに食べるじゃないですかマッキーは」
「……その、何度も言っていると思うのですが。マッキーは止めてくださいませ!別の人にしか聞こえませんわ?!」
「……アグニカ・カイエルの魂?」
「集いませんからね!?」*7
まぁ、彼女とはわりと仲が良い方だとは思う。
こうして変な話をできるくらいなので、こちらの事情を知らない相手としては上位に入るくらいの仲の良さだろう。
なのでまぁ、こっちの事情を察する力も大きいわけで……。
「まぁ、トレーナーさんと?」
「ええ、はぁ、まぁ…………んん?トレーナー?」
微妙に沈んでいるというか、困っているというか。
そういったこちらの心情を察した彼女に促され、事情を話したところ。
彼女は腕組みをしながら、うんうんと小さく唸っていた……のだけれど。……今、微妙に聞き捨てのならない単語が聞こえたような?
「え?……ああ、はい。ここのリーダーさんは、私のトレーナーも兼業されていますのよ?」
「……あの人が?!」
「うわっちょっ、おち、落ち着いてキリア!溢れ、紅茶が溢れてしまいますわ!」
「あ、ごめんなさい……」
そんな私の疑問に返ってくるのは、間違いなく彼が──アインズ・ウール・ゴウンことモモンガさんが、彼女ことメジロマックイーンのトレーナーを担当しているという話。*8
……どういう繋がり!?と驚く私を嗜めるように、彼女は小さく笑みを浮かべるのだった。