なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「えっと……そもそもマッキーは前リーダーをトレーナーにしていたと……?」
「まぁ、そうなりますわね。……今にして思えば、ウマ娘としての身体スペックとそのアイドル性、その両方を彼が欲した結果なのでしょうが……」
改めて紅茶などの飲み物を頼み、詳しい会話をすることとなった私達。
その中で彼女が一番最初に語ったのは、メジロマックイーンという存在がこの組織の中でも、古参に分類される存在だと言うことだった。
……というか、そもそもの話『前リーダー』とやらが一番最初にこの組織に招き入れたのが、今私の目の前にいるメジロマックイーンなのだという。……ちょっと衝撃的な事実過ぎて、脳みそが付いていけてないんだけど???
いやだって、マッキーだよ?……ええ……?
「……貴方、私のことをなんだと思っていらっしゃるので?」
「え?……えっと、やきうのおウマさんでは?」*1
「ん゛ん゛っ、ごほんごほん。ええと確か……前リーダーの話でしたわね?」
(すっごい露骨に話題を逸らした!?)
そうして困惑していると、彼女から若干不機嫌そうな視線を向けられたわけなのだが……こちらからの返しの発言を聞いた彼女は、露骨に咳き込みながら話題を修正し、その辺りのことを有耶無耶にしようとしていたのだった。……いやまぁ、いいけどね?
ともあれ、彼女が語るところによれば。
このメジロマックイーンは、現在ここに所属している
そんな相手に気安く話し掛けて良かったのだろうか、と今更になってちょっと心配になってきたが、『キリアさんはそのままでいてくださいな、畏まられるだけというのは、辛いのですわよ?』と、ちょっと寂しげに言われてしまえば黙る他なく。
まぁそんな感じで、言葉使いを直す機会は、永遠に失われたのだった。
「ええと、それで……ああ、前リーダーですわね。……不思議と
「……まぁ、ここの人達を曲がりなりにも纏めていらっしゃったと聞きますし、少なくとも外面が良かったのは想像できますが」
「ええ、その通り。彼がそのカリスマ性を持って、本来であれば纏まらなかったであろう人々を、見事に纏め上げたのは確かなのです」
そうして話は戻り、前リーダーについて。
色んなところで伝え聞いていた通り、彼は人当たりがよく。皆の話をよく聞き、よく纏めた人物だったのだという。
それは一種のカリスマと言い換えてもよく、彼の背を追った者達は皆一様に『彼の元でなら凄いことができる』と、半ば妄信的な確信を抱いていたのだそうだ。
──それが、ある日を境に変わっていったのだという。
「まさしく
「不穏……というと、国家転覆のような?」*2
「はっきりと口に出したことはなかったように思いますが、概ね似たようなことを述べていたような気は致しますわね」
小さく嘆息しながら、マッキーが紅茶に口を付ける。
淹れた人間はエミヤさんではなかったモノの、そちらと甲乙付けがたいほどの芳醇な香りを醸し出す、恐らくは計算し尽くされた淹れ方をされた紅茶であった。
誰が給仕したのかはわからないが、恐らくはとても有能な
……まぁ、そんな私の予感は置いておいて。
紅茶の香りと味に心を落ち着けつつ、話は続いていく。
前のリーダーとやらは表にその野望を見せることなく、表面上は今まで通りに周囲を導き、良き指導者として慕われていたらしい。
鋭い者──山じいだとかは、仄かに香る不穏さに眉を顰めたりもしていたようだが。幾ら火のない所に煙は立たず*3と言えど、火種すら見えていない状況下で、傍目からは良き指導者以外の何者でもない彼を糾弾することはできず。
時折小言を挟みつつも、それでも組織は順調に回っていたらしい。
所属人員のストレス解消も、外の世界での異常──荒ぶる神としての【顕象】達の討伐などの体を動かす仕事によりまかない。
転生者と自認している者達特有の向上心も満たしながら、徐々に組織は大きくなっていき……、
「そして彼は弾けた、のですわ」
「……脳内での前リーダーさんのイメージが、某サティスファクションなリーダーさんに固定されてしまったのですが?」*4
「まぁ、私達も顔を覚えていませんし。……
「……いやまぁ、それはそうなんですが……」
とあるきっかけにより、『新秩序互助会』は組織を二分するほどの、大騒動に見舞われることになったのだった。
……それはいいのだけれど、彼女の語り口のせいで『満足性の違い』で解散した*5、みたいな印象が付いてしまったのはどうしてくれるのか?
そんな私の文句には、マッキーは静かに微笑みを返してくるだけ。……
「…………」
「どの口が言ってるんですか、みたいな視線を向けてこないで下さい」
「どの口が……」
「実際に発言しろ、とも言っていませんからね!?」
……まぁ、その辺りのツッコミはまさしくブーメラン。マッキーからはなに言ってんのこいつ、とでも言わんばかりの視線を返されたわけなのだが。……私は悪くねぇ!
「相手がどこかに潜伏している、という可能性はあるものの、『前リーダー』の影響はすでにこの組織には残っていない……と?」
「まぁ、それがトレーナーさんの望みのようでしたし。私も、微力ながらにお手伝いさせて頂きましたわ」
それから語られた内容は、内戦の様相を呈してきた一連の騒動の中で、現リーダーである骨の人……もとい、アインズさんがめきめきと頭角を現して来たことや、その流れが続くうちにリーダー同士の一騎討ちに発展していったことなどに飛び火していき。
結果として、結構な時間を単なる昔話で消費してしまうことになってしまっていたのだった。……いやまぁ、興味深い話ではあったけどね?
それと、彼女がアインズさんを手伝った手段、とやらについても詳しい解説があった。
どうやら彼女、ある意味では洗脳に近い影響力を持っていた、前リーダーの思想を施設の中から払拭するために、皆の前で華麗な
うちのウマ娘二人は
……もし仮に、向こうに彼女が行く時があるのであれば、その時は他の二人も巻き込んで、存分にうまぴょいして貰おうと密かに決心する私である。
そんな謎の決意を内心で抱きつつ、話は佳境へ。
彼の決め台詞(?)である『時間対策は必須なのだがな』*7などの言葉も飛び出したりしながら、最終的に彼は見事に前リーダーを打ち倒した。
そうして敗れた前リーダーの、その後の行方だが……そちらについても彼女達はよく覚えていないらしい。いやまぁ、顔も覚えていないのにその末路だけ知っていたら、それはそれでなんか不気味なのでアレだが。
ともあれ、話を聞くに『前リーダー』の存在というものが、不自然なほどにメンバーの記憶の中で曖昧なものになっている、というのは確かな話。
それがなにを意味しているのかは、今はまだわからないが。……用心しておくに越したことはない、と心に刻み付け、彼女に話の続きを促す私である。
「そうですわね……前リーダーの息の掛かっていた人物には、積極的なカウンセリングを実施し、彼が密かに進めていた計画についても、その全貌を探って協力者を割り出し……そういった雑多な事後処理を全て終えたあと、トレーナーさんはちょっと長い休暇を取っていたわけなのですが……」
「この時点で結構お腹いっぱいなのですが、まだ続きがあるのですか……?」
「あるのですわ。まずはこちらをご覧あそばせ」
「はい?……ええとこれは、手帳?」
「ええ、トレーナーさんの予定を記した、スケジュール帳ですわ」
「……ウマ娘側のスケジュール帳ではなく?」
「私の?……って、違いますわ。そういうのではなくてですね、これは
「……いきなり証拠物件渡すの心臓に悪いので止めませんかっ?!」
彼女から渡されたのは、一冊の手帳。
パラパラと捲ってみれば、几帳面そうな文字がびっしりと書き込まれていることが目に付いた。
彼女の言うところによれば、これは前リーダーが自身の予定を書き記していたものなのだという。
ざっと流し見したのちに彼女に返し、これが今までの話にどう関係して来るのか、ということを視線で尋ねる私と、慌てない慌てないとでも言うように、長話で乾いた喉を潤すかのように紅茶に口を付ける彼女。
カップをテーブルに置いた彼女は、一拍を置いて再び口を開く。
「基本的に悪事というものを行う場合、人目に付かないように行動する……というのが一般的ですわね?」
「……ええ、まぁ。白昼堂々と犯行を行う方もいらっしゃいますけど、それでもその準備というものまで表で行う、ということは早々ないのではないでしょうか?大掛かりな話になればなるほど、早期に露見して止められる可能性が高まりますし」
「ええ、その通り。彼もまた、自身の野望については私達の目の届かない場所で準備を進めていたのだと思われます。……日本という国において、他者の目から隔絶する……というのは、意外と難しい話だということはご存じですわね?」
「村社会と言うように、余所者の動向には常に警戒を張り巡らせているから、ですよね?」
こちらの返答に、彼女は満足げに首肯を返してくる。
日本人が殊更に余所者を警戒するタイプである……というのはまぁ、よく言われている話である。
人種の坩堝であるアメリカならばいざ知らず、日本という国においては基本的に自身の生活圏、その内容物というものは早々変化しない。
これは田舎になるほど顕著になり、それゆえに『人の口に戸は立てられない』という言葉を実感することになるわけなのだが……それが、今の話となんの繋がりがあるのだろう?
そんなこちらの困惑に微笑みを返しながら、彼女は次の言葉を紡ぐのだった。
「──謀は密やかに。そうして選ばれた秘め事の地は、創作においても何度も取り沙汰されてきたとある場所。……
「……はい?」