なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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タイトルがフラグの場合逃げ切れない(4話ほど前のタイトル参照)

 お、思わず叫んでしまったが落ち着け私!

 終盤戦なら後ろに向けての軸合わせビームは飛んでこない、はず!……え?前も同じ事を言ってた?二回確認ヨシ!*1

 

 とりあえず私がすべきことは、できる限り邪魔にならない位置で戦闘が終わるのを待つこと!

 なんてったって、電子の世界ではチートも何もないからね!

 

 

「このゲーム、レベルの概念ないみたいよ?どっちかと言うと、単なるプレイスキルがモノを言うみたい」

「クソァッ!!」

「せ、せんぱい落ち着いてっ!?」

 

 

 なんでMMOなのにレベル式じゃないんじゃい!!

 というか少なくとも『.hack』が設定とかの下敷きに含まれているっぽいのに、レベルでゴリ押しすら許されざるとか許されざるよ!(混乱)*2

 

 

「……おーい、もしもーし」

「はい?……おわっ!?」

 

 

 なんて風に混乱してたら、当の黒い少年から声を掛けられる。

 後ろを確認すると、倒された相手である三爪痕(トライエッジ)──もとい、蒼炎のカイトがポリゴンの塊に変化して消えていくのが見えた。*3

 ……あれ?憑神(アバター)戦は?って言うかこの子、2ndの見た目なのにどことなく5thっぽい雰囲気じゃない?

 

 

「いや、そりゃそうだろ。現実でAIDAとかクビアとかと戦わせようとすんなっての」*4

「……あっ」

 

 

 あ、これあれだ。私が先走ったやつだこれ。

 アバターにはこっちの表情とか感情とか反映されないから彼にはわからないだろうけど、リアルの私多分顔真っ赤にしてるやつだこれ。

 

 突然黙り込んだ私に少年は首を傾げていたが、やがてこちらが初心者だと判断したのか、頭を掻いたあとにこちらに自己紹介を行ってくる。

 

 

「あー、知ってるかもしれねーけど。ハセヲだ、よろしく」*5

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 

 ……毎回私は先走るんだ!(錯乱)

 

 

 

 

 

 

「なるほど?つまり俺みたいな奴は、結構存在してる……と」

「えっと、そういうことなるのかな」

 

 

 聖堂の外に出て、橋の欄干から黄昏に染まる空を眺めつつ、ハセヲ君にこちらの状況を解説する私。

 さっきの三爪痕(アレ)は、このマップにたまにポップするレアモンスターなのだそうで。

 彼は腕試しとか実験とかを兼ねて、ソロで彼に挑んでいたのだとか。

 

 

「このゲームじゃ反応速度を鍛えた方がいいからな。三爪痕(アレ)反則技(データドレイン)は使ってこない、普通の双剣使いみてーなもんだし」

ツインユーザー(双剣士)?……いや、それは1の時の呼び方だからツインソード(双剣士)?」

「いや、『tri-qualia』だと普通に双剣使いって職業(ジョブ)だ」

「……グリーマ・レーヴ大聖堂があるのに?」

「グリーマ・レーヴ大聖堂があるのに、な」

 

 

 ハセヲ君の言葉になんとも言えない気分になる私。

 ……いや、ここに来て(ゲームを始めて)から数時間も経ってないけども。

 さっきからツッコミ所しかないのはなんなの!?

 

 

「お、おう?」

「話の内容からして君なりきり勢でしょ?!なんでアバターがハセヲなの?!」

「あ、これはキャラメイクすると、自然とこうなるって言うかだな?……一応、板に居た時はハセヲやってたけど」

「わっけわかんねぇ!!それリアルは普通ってこと!?」

「い、いや。リアルも一応『三崎亮』にはなってるけど……」

「あーっ!アバター含めて原作判定?!わからん!被せもの(名無し)被せもの(憑依者)してさらに上に被せもの(アバター)とかもうわからん!なんもわからん!」

「お、おい、落ち着けって」

 

 

 こちらの様子にハセヲ君がおろおろしてるが、こっちのヒートアップは止まらない。

 だって考えてみてよ!?アバター含めて憑依してるっぽいハセヲ君なんて例がここにいて!

 なんか知らんけど、彼の原作にあった特別な場所が再現されてて!そこに出るモンスターもちゃんと関連してる奴で!

 のくせして、よくよく思い出したらメニューの開き方とUIがSAO方式だったし!

 なんかこのノリだと他のMMOとかも混じってそうで今から頭が痛いんだよ!どうすんだこれは!!

 

 

「……いや、それを俺に言われても困るんだが」

「第一村人なんだから色々聞くでしょ普通はっ!!」

「だ、第一村人……っ?」

 

 

 困惑するハセヲ君。

 ……いや、そもそも困惑してる顔になってるのも大概おかしい。これ単なるVRぞ?表情連動しないはずぞ?

 そんな事を問い掛ければ、ある意味予想通りの答えが返ってくる。

 

 

「なんつーか、俺だけフルダイブみたいになってるっていうか」

「完全に碑文PCじゃんか!!」*6

 

 

 単なるVRのはずなのに感触とかあるらしい。

 ……再現度判定どうなってんのかわかんないけど、アバターの判定は碑文PCになってる、というのは間違いなさそうで。

 

 いやもう、全部投げたくなってきた。

 このノリが許されるなら、他のMMO系から憑依して来た人も、大概酷いことになってるかもしれないじゃん。

 電子の海での事だから、現実であれこれやるよりも判定緩くなってる……とかありそうですっごい怖いんだけど! 

 

 

「あー、俺は見たことねーけど、他のマップに無茶苦茶やってる奴がいるとかいないとか……」

「聞きたくなーい!盾持ってるのとか出てきたら私投げるからねー!?」

「せんぱい!盾使いに悪い人は居ないはずですよせんぱい!?」

「性格が悪くなくても、スペックが悪以外の何物でもないんだよなぁあの子ォ!」*7

(……一人で何喚いてるんだコイツ……?)

 

 

 ハセヲ君の口から飛び出した、他のマップとそこで無茶苦茶やってるらしいPCの話。

 ……詳細を知りたくない。最終的に確かめなきゃいけないのだとしても、できうるなら聞かないまま終わらせたい。

 特に黒い盾持ってて黒い髪で黒い鎧の子が出てきたら、私は回れ右する。……いろいろ巻き込まれかねないんで、絶対近付きたくないです。

 

 なんて事を言ってたら、ゲーム外から盾使いとしての自負故に声を掛けてくるマシュが。

 ……いや、うん。あの子自体は悪い子じゃないんだけど、変に悪運というかが強いせいで、基本的に関わりたくない事になってるというか……。

 無論、マシュの声はハセヲ君には聞こえていないので、一人で何か騒ぎだしたようにしか見えてないらしく、ちょっと視線が冷たいモノになりつつあったり。

 

 ……うん、一旦全部横に置こう。

 とりあえず、このゲームについてもうちょっと調べなければ。

 

 

「そういうわけなんで、フレコ交換しない?」

「あ、ああ。構わねぇけど」

 

 

 メニューバーからフレンドを選択して、近くのメンバーを検索してフレコを飛ばして……。うーむ、MMOって感じ。そんでもって、

 

 

「フレ申請を間違って近距離から全体(マップ)にしてしまうことによって、思いがけないものを見付けてしまうのもMMOにありがちなやつ……」

「あん?……っと、確かに俺達以外にも誰かいやがるな」

 

 

 操作ミスってマップ全体にフレコ送るとか言う迷惑行為をしてしまったが、代わりにこのマップ内に他の誰かが居ることが知れてしまった。……隠密(ハイド)状態でもないみたいだったから、別に隠れてたってわけではなさそうだけど。

 で、その間違ってフレコを送ってしまった相手は、聖堂の反対側からこっちに向かってきているようだ。

 一応誰なのかの確認と、場合によっては謝罪の必要性もあるので、ハセヲ君に確認をとって待つこと数十秒。

 さて、聖堂の扉を開いて現れたのは。……現れ、たのは?

 

 

「ボクを呼んだのは君達かぁ?」

「あん?なんだこの黄色いトカゲは?」

「……あ、」

「ど、どうしたのですかせんぱ……ひぃっ!?せせせせせせんぱいのお顔が真っ青に!?」

「あ、うん。流石にこれは私も知ってる。こういうところで出会いたくない系統のキャラなのも知ってる」

「紫様、こちらに」

「ああ、ありがとジェレミア(ちぇん)。……さぁて、どうしたものかしらねぇ」

 

 

 周囲があれこれ騒いでいるけど、こっちとしては今すぐHMDを外して逃げ出したくて仕方がない。

 ハセヲ君のところでもわりと頭が痛いってのに、今度は、今度は……!!?

 

 

「ある意味究極AI(アウラ)とかよりヤバい電子生命体(デジモン)が居るとか、私にどうしろってんだよぉぇぇぇぇ……」

「お、おい大丈夫かっ!?」

「え、なに?ボク何かした?!」

 

 

 思わず嘔吐(えず)く私に寄ってくるハセヲ君と黄色い恐竜のような生き物を見ながら、このゲームどこに向かってんだよ、と思わず泣きたくなるのであった。

 

 

 

 

 

 

「ボクアグモン!よろしくね」*8

「お、おう。……それ、アバターだけがそうなってんのか?」

「あー、実はボク、ネットの中に住んでるんだ。このゲームが一番暮らしやすいから、ちょっと間借りしてるってわけ」

「……はぁ?」

「ゆかりーん、もう私どうすりゃいいのか全くわかんないんだけどー!?」

「ちょっと待ってなさい、今『電脳と現実の境界』を全力で弄ってるからっ」

 

 

 アグモンさんはまさかの電脳世界の住人だった(驚愕)

 ……いや、相手はデジモンなんだしそれが普通なんだけど、一応なりきりしてた記憶があるってことは、元は普通の人間だったってことだから、電脳世界から引っ張り出せるようにしとかないと、後が怖いと言うか……。

 

 ボイスチャットと普通のチャットを併用することで、ゆかりんの台詞を二人に伝えつつ、改めて黄色い彼……アグモンに視線を向ける。

 

 ……うーん、見間違いでもなんでもなく、完全にアグモンである。

 ピカチュウとか見てきたんだから、ある種居てもおかしくはないわけだけど。……なんでMMOに居るんですかね本当に。

 

 このノリだとどっかに黒いビーター*9とか、可愛い女の子(復讐の女神)を連れた聖騎士なのに暗黒騎士みたいな少年*10とか、はたまたひたすらクソゲーに突っ込んでいく半裸で鳥頭の男*11とかも居るんじゃないだろうな?

 

 ……みたいな不安が、さっきからひっきりなしに襲ってくるのである。

 碑文PCがどこまで再現されてるのかわからないけども、それでも普通のVRがフルダイブになるところが再現されてる辺り、どうも電脳世界ならある程度はっちゃけてもいい……というか、現実世界の憑依に比べて修正?が入りづらくなっているような気がするのだ。

 

 なので、ゆかりんには早急に電脳世界への干渉手段を手に入れて頂きたいのだけど。*12

 ……んー。なんと言うか、ちょっと難しそう。正確には時間が掛かりそう。

 

 

「そっかー。じゃ、これ食べる?」

「へ?えっと、ミカン?」

「んー、正確にはタチバナだって」

 

 

 目処が立つまでちょっと待機、ということで三人でポータルの前で駄弁っていると、アグモンから黄色……オレンジ?色の果実を渡された。

 

 ……タチバナ、橘か。基本的に橘って生食には向いてないとかじゃなかったっけ?ジャムとかにはいいって聞いたけど。

 いやまぁ、私普通のプレイヤーなんでゲーム内でモノ食べるとかできませんけどね。

 

 そんな事をぼやく横で、ハセヲ君とアグモンは橘の皮を剥いで中身を食べ始めている。

 ……そういや、ハセヲ君は食べられるんですね、一応。

 

 

「ん?ああ、ほんのり甘いぞこれ」

「だよねー。……なんか、久しぶりに他の人と一緒に食べ物食べた気がするよ」

「……ああ、そりゃそうか。アンタ以外は普通のPCだもんな」

 

 

 ……なんか地味に重い事言ってませんかねこの子。

 いやまぁ電子生命体である彼と違って、普通は単にゲームしてる人しか居ないんだから、一緒にごはんとかできるわけないんだけどさ?

 …………ハセヲ君が居てくれてよかったと言うか、うーむ……。

 少し考えて、腕を動かしてメニューを開いてボックス内の『タチバナ』を選んで使うをクリック。

 

 

「ん、どうした?」

「気分くらいは一緒にごはんしたつもりになれるでしょ?……生憎とそれくらいしかできないけど」

「優しいんだなキーアは」

「……ええい、こっち見ないで頂戴っ」

 

 

 二人からの視線がなんか生暖かくなってきたから、ふいと視線を逸らす。

 ……むぅ、変に気を使うもんじゃないわね、なんか顔熱くなってきちゃったし。

 そんな事をぼやきながら、手元のタチバナを一口。

 ……確かにちょっと甘いわね、って、ん?

 

 ()()()()を視界に入る位置まで持ち上げて、頭に付いてる筈のHMDを取り外そうとしてみる。

 ……うん、一応取り外せる。で、ゴーグルを元に戻して、今度はタチバナを食べるために手を動かしてみる。

 リアルの手の感覚に被さるように、ゲーム内の腕を動かす感覚が、伝わってくるような?

 そのままタチバナのじょうのう()を一つ口に入れる。……ん、ほんのり甘いね。

 

 …………………………………。

 

 

「うわぁぁあああああぁぁぁぁもおやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?????」

「せんぱい!?落ち着いて下さいせんぱいっ!?」

「これが落ち着けるかぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁっ!!!!!?????」

 

 

 いつの間にか私もフルダイブみたいになっとるやんけぇっ!!??

 なんて私の叫び声が周囲に谺し、事態は風雲急を告げるのでした。

 

 

 

*1
元ネタは工事用のヘルメットを被った猫が、変なポーズで指差し確認をしている、というキャラクター『現場猫』。大体「ヨシじゃないが」って言われるような状況の事が多い

*2
ロールプレイングゲームはレベルの概念が導入されているが、基本的に低レベルの相手は高レベルの相手に手も足も出ないものである

*3
『蒼炎のカイト』は、『.hack//G.U.』のキャラクター。不気味な容姿だが、前作『.hack』の主人公であるカイトに似た姿でもある

*4
どちらも『.hack』シリーズでの敵生体

*5
『.hack//G.U.』の主人公。作中始めの方ではトゲのある性格をしているが、本質的にはわりといいやつである

*6
『.hack//G.U.』内の、特別な能力を持つプレイヤーのこと。今で言うユニークスキル持ちみたいなものだが、彼等の場合は本当に『チート』と呼ぶべきスペックを持っている

*7
『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』の主人公、『メイプル』のこと。本人の性格は至って善良だが、やってることはどう見てもラスボスである

*8
『デジタルモンスター』より、アグモン。成長期・ワクチン種・爬虫類型のデジモンで、デジモンというコンテンツの顔役的な存在

*9
『ソードアート・オンライン』より、主人公『桐ヶ谷和人(キリト)』。黒いコートと双剣を使う姿が特徴

*10
『<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-』より、主人公『椋鳥玲二(レイ・スターリング)』。温厚だが正義感が強く、例えNPC相手であっても無為に傷付くのは見過ごせないタイプの少年

*11
『シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜』より、主人公『陽務楽郎(サンラク)』。底無しのゲーマーにして、どうしようもないレベルのクソゲーハンター

*12
上記三名(+メイプル)は普通に遊んでる方なのでまだマシ、というなんとも言えない現実


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