なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、タクシー移動と言うものには『高い』というイメージが付きまとっているものだが。その辺りは『サービスを受ける側』の感覚が、必要以上に高いものだと
よく海外のタクシーは安いぞ、みたいな声が上がったりもするが、それらはそもそもの物価が違ったりだとか、チップ文化*1により実際の支払い金額は高いとか、こちら側が見落としているものが多くあることにより、実際は当てにならないものである。
タクシー業務を行う側から見てみても、朝から晩までひっきりなしに人を乗せ続けられれば、確かに結構な稼ぎになるものの。実際にそれを行うには、運転手の体力や都合よく客が乗ってくれるなどの運の要素まで絡むため、実際に稼げる金額というのはそこそこ……ということも少なくない。*2
低価格にしたからといって利用客が増えるわけでもない*3、といった実際の経験談もあり、タクシー料金というものは『高い』のではなく、それを高いと思う人には『必要ない』タイプのモノなのだろうな……なんてことをぼんやり考えている私。
なんでそんなことを考えていたのか、というと。
……目の前で運賃を示すメーターが、ちょっと見たことのない数字になっているからだったりする。
いやまぁ、払えないわけじゃないんだけどね?……なにかの番組の企画じゃないんだから、こんな長距離走らされたら運転手さんも迷惑だよね?*4とかなんとかちょっと目が泳いでいるというか。
……いや、ごまかすのはよそう。
タクシーの料金だとか、運転手さんも大変だよねーとか、そんなことは単なる現実逃避でしかない。
じゃあなんで、そんなことになってしまったのか。それは、
「嘘でしょぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!?」*5
「ぬぉわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
──私達の乗ったのが、
富士山の麓までは結構距離があり、そこまでタクシーで向かうのはどうなのだろう?……と思った私は、迂闊にも運転手さんにこう聞いてしまったのである。『長距離ですけど大丈夫ですか?』と。
その言葉が彼のハートに火を付けてしまったのか、運転手さんは帽子の位置を直しながら、こう言ったのである。『お任せください。三十分で着いて見せますよ』と。
思わずこちらが『へ?』と間抜けな顔を晒すと同時、彼はハンドル中央部のスイッチを押下。
するとどうしたことでしょう、車体から不気味な音が響いたと思った次の瞬間、トランク部分から飛び出してくるのはまさかのロケットエンジン。意味がわからないとこっちが固まっている内に、車体の外側にも防護用のガラスが張り巡らされていき。
次になにが起こるのかを薄々察した瞬間、私達は星になったのだった。
……いやまぁ、爆発的な加速で飛び出した、というだけなのだけれど。ワイ◯ピかなんかかよ、とこちらがツッコミを入れる暇もなく、変形したロケットタクシーは富士山までの道のりを走破していき。
それと同時、カーブをマグナムトルネード*7したり、はたまた車体の下の方からウイングを展開して滑空したり……そんな無茶苦茶をする度に、料金メーターがチャリンチャリンと加算されていくのを見て『やっぱりクレタクじゃないですかやだー!』と泣き喚いたりしつつ。
そうしてきっかり三十分後、私達は富士山の麓にまで辿り着いていたのだった、有言実行である。……ついでに言うと料金メーターはわけのわからない数字になっており、これ払うの?……とちょっと絶望したりもしたのだが。
「おっと、黙ってておくんなまし。お代は結構ですんで」
という運転手さんの言葉によりチャラになり、なんだったんだ今のは……という若干の徒労感を残すのみとなったのだった。
……というか黙っててって、やっぱり取っ捕まるやつじゃんあれ!*8
「わしらはなにも見なかった、いいね?」
「あっはい」
ミラちゃんの言葉とその迫力に、思わず頷きながら走り去っていくタクシーを見送る私達。
……なにが恐ろしいって、あの人『逆憑依』でもなんでもないんだよなぁ。
タクシーそのものはある程度の技術力があれば、ロケットエンジンを積み込むだけで再現できなくもない辺り、単なる市井のヤベー人だったということを解析した結果知った私は、それを告げた時の二人の『マジで?!』という反応に、乾いた笑みを浮かべる他なかったのだった……。
「富士の樹海と言えば、入れば二度と戻ってこられない……なんて噂があるけど……」
「基本的には誇張表現って話だね。方位磁石は確かに狂うけど、それもちょっと周囲の磁場に引っ張られるだけって話で、よく創作とかで見られるような『方位磁石がくるくる回って使い物にならなくなる』みたいなことはないらしいよ?」*9
「ふぅむ、夢が無いというべきか、面倒事にならずに済んで良かったというべきか……」
樹海の入り口からしばらく遊歩道*10を道なりに進み、周囲に手掛かりでもないか探していた私達は。
富士の樹海に纏わる噂話をあれこれとあげながら、
いやまぁ、一般的に思い浮かべられる『樹海』のイメージと比べれば、驚くほどに明るいしおどろおどろしい雰囲気もないのだけれど、同時に後ろ暗いモノも見えてこないため、結果として森林浴しているだけ……とでも言うような状態に陥っており、若干気が滅入って来ているのである。
幾ら明るいとはいえ、視界に入るのが木々ばかりと言うのも、その状態に拍車を掛けていた。
「でもまぁ、遊歩道をちょっと外れて森の深い部分に入ると、普通に迷ったりするらしいけど」
「だよねぇ……で、恐らくは私達の探し物も……」
「そっちの方にある、ということになるのぅ」
三人で顔を見合わせ、深い森の奥に視線を向ける。
……いやまぁ、流石に遭難とかはしないだろうとは思うのだけど。周囲に見付からないことを優先するのであれば、目的地が森の奥にある可能性は非常に高い。
そして、富士の樹海はそれなりに大きいモノである。それゆえに、探索しなければならない範囲と言うのも膨大になる。……
「……んー、今日は近くの宿で一休み、する?」
「できればさっさと見付けて帰りたかったんだけど……まぁ、仕方ないか」
「空から探すにしても、限度があるしのぅ」
困ったような笑みを浮かべるアスナさんに同意すれば、ミラちゃんが周囲を見渡したのちに小さくため息を吐いた。
さっきも少し触れていたが、『富士の樹海』に纏わる噂話というのは、大抵が尾ひれのついたモノであり、事実無根とは言い難いものの、イメージ上でのそれらよりは遥かに安穏としたものであるといえる。
……それがどういうことに繋がるのか、というと。
森に入るために必要な装備をしっかりと準備し、森林浴を楽しんでいる観光客達だが。対して私達は、ほぼいつもの格好。
それだけでも目立つのに、例えば遊歩道から外れて森の深い方に向かえば、ほぼ確実に周囲から引き止められるだろう。空を飛んで探すという方法も、まず間違いなく写真やらなにやら撮られて大事になることは想像だに難くない。
最終的にはまぁ、お国がどうにかしてごまかすのかもしれないが、余計な手間を取らせるなとか怒られるのは目に見えてるわけで。
そうなってくると今日一日は様子見として流し、明日の早朝の人の居ない時間帯に周囲に見付からないように探索を開始する、というのが一番良いように思われてくるわけなのである。
実際、一瞬周囲の視線をごまかすことはできても、そのあと『さっきまでそこにいた女の子達が居なくなった』という事実までは消せない。
そうなれば、『富士の樹海』の噂話の中でも一番大きいもの──『自殺の名所』という噂から、捜索隊が結成されるのは必至。
周囲に迷惑を掛けたいわけではない以上、そういった余計な心配事は発生させないように立ち回らなければならない、というわけだ。
「そういうわけだから、今日は諦めよう?」
「だねぇ。帰ればまた来られるんだし」
「となれば、どこに泊まるかじゃが……って、ん?」
そうして一先ず引き返すことを決めた私達は、そのまま踵を返そうとしたのだが……その最中、ミラちゃんが眉を顰めて森の奥を見つめ始めたのである。
……なにかを見付けたのだろうか?そんな感じに彼女の視線を追った私とアスナさんは。
「人……?」
「森の奥に入っていくね……?」
周囲に気取られないように、森の奥へと進んでいく人影を見付けることとなったのだった。
……『富士の樹海』で周囲に見付からないように、その奥へと歩を進めていく人影となると……。
「えっ、ちょっと待って?……もしかして、
「わからんが、あとを追った方が良いかも知れぬのぅ」
「と、とりあえず警察!警察呼ぼう!」
この樹海が『自殺の名所』と呼ばれていることは、先ほど述べた通り。
件の人物が
ゆえに、私達は三者三様に慌て始めたわけで。『逆憑依』絡みの事件ならともかく、そういったものが一切関係なさげなことに関しては、ちょっと後手になりやすいというか。
ともあれ、人命に関わる話なので慌て続けるわけにもいかず、とりあえずアスナさんが、近くの人へ警察に通報するようにお願いをしに行き、相手に関してはミラちゃんが追い掛けることになった。
残った私はというと、ここに留まり位置を覚えておく係である。……私が追い掛ける役でも良かったのだが、ミラちゃんから『お主はここで位置を覚えておくように。最悪、ここからでもこちらの位置は把握できるじゃろう?』と言われ、そのままそれを受諾した形だ。
実際、念話とか探知などの面でどちらが残るべきか、と言われれば私の方になるだろう。
なりふり構わなければ相手にもすぐ追い付けるだろうが、それはそれで相手を驚かせるだけだし、単純なコミュ力という点ではミラちゃんの方が高いのも確かな話。
場合によっては相手に思いとどまるように説得する必要もあるのだから、カテゴリ的に『魔王』──悪いものになる私よりも『賢者』である彼女の方が、相手の緊張を解きやすいのはまちがいあるまい。……いやまぁ、どっちも見た目幼女なので、どっこいどっこいのような気がしないでもないが。
ともあれ、役割分担も決まり、それぞれが動き出したわけなのだが……。
「……なんでぇ!?」
結構な時間が経過しても戻ってこない二人に、私は大いに困惑することになったのだった。