なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ……いや、なに、あれ……」
「げほっ、ごほっ、ごほっ……」
「大丈夫ミラちゃん?はい、お水」
「……いや、寧ろ……なんでアスナは、無事そうなんじゃ……?」
「え?いやその、あ、あはは……」
(格好だけ真似てるのかと思ったけど、もしかしてフィジカル*1も頼光さんめいてるのかなこの人……)
唐突に巻き起こった破壊の嵐から、命からがら逃げ延びた私達。
手頃な切り株やら小さな崖やらに腰掛けた私とミラちゃんは、アスナさんがどこからか取り出したペットボトルの水をがぶ飲みしながら、荒くなった息を整えていた。
アスナさんだけ全然平気そうなのは……まぁ深くは考えないことにして。
ともあれ、ようやくミラちゃんと合流できたのだから、ここは彼女の話を聞くのが最優先だろう。
息を整え終えた私達は向き合って、その辺りを話し始めたのだけれど……。
「……不審者に追っかけ回されたぁ?」
「うむ……よくは見えなかったのじゃが、目線の追えぬ何者かにのぅ」
「目線が追えない……?」
「眼帯してたとか?」
彼女の言うところによれば、森の奥へと進む人物を追い掛け始めてほどなく、ミラちゃん自身が何者かにあとをつけられていたのだという。
暫くは気のせいかと思っていたのだけれど、自身の土を踏む音に重なる微かな靴の音に気付き、わざと地面を踏む直前で止まることで、後ろにいる誰かに気付かれないように、踏み出すタイミングを誤るよう誘導して……明確に増えた足音に背後の人物の実在を確信した途端、殺気を感じたミラちゃんは、そこからずっと逃走劇を続けてきたのだとか。
ただ、その攻撃の激しさゆえに、追跡者の顔を確認することは叶わなかったのだそうだ。
唯一わかったことといえば、幾ら薄暗い森の中とはいえ眼光が全く見えなくなるということはないだろう……ということから推測できる『相手が目の辺りをなにかで隠している』可能性だった……。
そこまで話し終えたミラちゃんは、疲れたように大きくため息を吐いた。
生憎とどれくらい時間が経過しているのかはわからないが、それでも一時間そこらということはない。……それだけの時間を、姿の見えぬ追跡者に追われ続けたというのだから、その心労は推して知るべしということだろう。
アスナさんと顔を見合わせた私は、ミラちゃんの肩をぽんぽんと叩いて労いつつ、改めて現状の整理を始める。
「とりあえずー……ここにはモモンガさんが居るはずだけど、今のところ見付かってはいない……」
「痕跡も見付かってないね。人の姿に化けてるって言うなら、余計のことわからないだろうし」
「……鈴木悟の時の姿の詳細って、どっかで出てたっけなぁ……?」
今回の私達の目的は、基本的に『新秩序互助会』のリーダーであるアインズ・ウール・ゴウン……もとい、モモンガさんの捜索である。
よもや
日本においての仮装の立ち位置なんて、テレビの企画かオタクの集まりかハロウィンでやるもの、というイメージがほとんどであるだろうから、人目を避けたいなら余計のこと原作の姿をそのまま使う、ということは考えられない。
じゃあ、問題無さそうな転移前……鈴木悟の姿をしているのではないか?と思ったものの、そっちはそっちでよくわからないため、仮に
なので、逆説的に『森の中でなにかを探している人物が居れば彼なのでは?』という感じに探してみようか、ということになっていたのだが……。
「その結果がこれ、じゃしのぅ」
「……迂闊だったなぁ、そりゃまぁ、人目を気にするなら後ろ暗いこと、ってのは普通なわけだし……」
大慌てで逃げた結果、現在位置もよくわからなくなってしまったことに大きくため息を吐き、頭を掻きながら空を仰ぐ。
頭の中では確かに考慮していたはずなのだが、実際にそれと出会すとは思っていなかった私達は、揃ってポンコツ行動を起こしてしまったわけである。……そもそもの話、始めから私が分身して片方で追い掛け、残った方は二人と警察を呼びに行けば良かったのであるが、その対処がすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
その理由が『普通に事件が起きるとは思っていなかった』な辺り、三人とも気が緩んでいたと言われても仕方のない失態である。……というか、その人見失ってるし。
「まぁでも、森の中でどかんどかんと爆発してたら、自殺しようって気にはならないんじゃないかなー……」
「あー、うん。死ぬ気でいたのに周囲が騒がしかったら、逆に文句の一つでも言いに行きそう」
文字通りの死ぬ気なのだから、怖いものなんてないだろう的な意味で。……笑えないブラックジョークで気を紛らわせつつ、次の話題へ。……気にはなるけども、こっちもこっちで命の危機なので、申し訳ないのだが二の次というやつである。警察への連絡そのものは終わってるみたいだし、そちらが間に合ってくれるのを祈るしかないだろう。
ともあれ次の話題は、謎の追跡者についてである。
「さっきパッと見ただけだったけど……あれ、最低でも二人居なかった?」
「……ぬ?二人?」
「えっと、なんでそう思ったの?」
「……炎とか雷とか舞ってたけど、そうだとするとこの、」
「上?」
「……あっ、帳!」
上を指差しながらの私の言葉に、ミラちゃんが首を傾げる傍ら、一緒にここに突入したアスナさんは、それがなにを意味しているのかを知っているため、すぐに答えを言ってくれる。
そう、帳。
これは『呪術廻戦』における結界術であるのだが……すなわち、これを使われていると言うことは、今回の件には呪術師・呪詛師・呪霊のうちのいずれかが関わってきているということになる。
そして彼らの攻撃方法と言うのは──突飛なものこそあれ、基本的には属性のようなポピュラーなものを、複数扱うようなモノではない。
区分的に近いように思える陰陽師と違い、彼らのそれは『呪い』を媒介としたモノであるため、仮に炎を扱うモノが居ても、一緒に雷まで扱えるということはほとんどないのである。……いやまぁ、
つまり火と雷、それから衝撃波とかが飛び交っていた以上、それをやるのには呪術系のキャラ単体では無理がある、ということになるのである。……例外的に、ここに夏油君が居たのだとすればできなくもないだろうが……。
「そっちはそっちでミラちゃんを追い掛け回す理由がない、ってわけだね」
「実は中身が
「むぅ……それは確かに……」
できる人間が必ず犯人だ、というのは暴論にもほどがあるだろう。
それに、攻撃がミラちゃんに直接向けられていなかったというのも、判断の材料の一つである。
彼女がたまたま誰かの攻撃の範囲に入ってしまった、くらいの方がまだ信憑性があるのだ。
「……む?わしが追い掛けられるうちに、あの攻撃が始まったのじゃが……?」
「うん、だから多分だけど……さっきの攻撃の片割れ、アインズさんだと思う」
「「!?」」
そんな私の言葉に首を捻ったミラちゃんは、次の言葉を聞いてアスナさんと一緒に驚愕の表情を見せていた。……まぁ、単純な推理である。
「この帳を下ろした人が、ミラちゃんの連絡を妨害してたんじゃないかな。で、その人はイコールミラちゃんを追跡してた人」
「……根拠は?」
「
「……つまり、わしの後ろに居たのは呪術系の人物じゃったと?」
「確証はない……って言いたいんだけど。さっきから嫌な予感が凄いから、多分十割がたそう」
「十割!?」
こちらの推論に、驚いたような表情を見せるミラちゃん。
……それもそのはず、ある意味では自信満々に語っているようなものである今の私は、次第に目から光が失われている最中。何事か、と警戒を交えて驚いてしまうのも無理はない、というわけである。
まぁでも……うん。私がなにを警戒しているのかを知ったら、きっと二人も頷いてくれれれれれ
「なに……!?」
「意味不明な呪文を唱え始めたわ!?」*3
突然壊れたおもちゃのようにガタガタ言い始めた私に、二人が困惑の表情を見せるが、私の手がゆっくりと持ち上がっていくのを視線で追い、それがなにかを指差していることに気が付いて、その先を追って……。
「──へぇ、なるほどなるほど。関係者が三人、こりゃまた結構大きなヤマだった、ってことかな」
「……っ!」
指差した先。
暗がりからゆっくりと、余裕に溢れた表情と言葉を溢しながら現れるその人物に、二人が驚愕を隠しきれない表情で、こちらと相手に視線を行ったり来たりさせている。
口をパクパクさせながら、けれどなにも言い出せないその様にはちょっと笑いを覚えないでもないが……状況としては全く笑えない。
──そりゃそうだ。
なにかが起きていると言うのなら、そしてそれを知ったというのなら。率先して、事態を解決させようと出張ってくるだろう。
……問題があるとすれば、今回私達が探している相手の属性。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンといえば、基本的には*4悪の巣窟とされる極悪ギルドである。
その所業というのは、転移後の世界ではわりと洒落にならないことになっており……というのはまぁ、原作でも読んで貰えばわかるから割愛するとして。
そんな
「──連続失踪事件。さっきの骨の彼も合わせて、一網打尽にさせて貰おうかな」
「「──ご、五条悟ぅっ!?」」
──質の悪い呪霊だと思われるのが、関の山だろう。
冷や汗と苦笑いを浮かべる私と、驚愕の声をあげる二人。
それらを楽しげに眺めた彼は、眼帯を押し上げながら、小さく笑うのだった。
書きながら『悟VS悟、最強の悟決定戦!』(半ギレ)というワードが頭を過りました。