なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……これは……」
「できれば穏便に終わらせたかったのだが……仕方ない」
「あっよけたなこいつぅ!」
地面を叩き割るかのような轟音と、それに伴って巻き上げられる地面。
土煙が周囲に立ち込める中、仲良く喧嘩していた二人はその素振りすら潜め、こちらに後退して来ていた。
とはいえ、それを指摘するような暇はない。
隣で大口を開けて間抜けな顔を晒している(それでもかわいいけど)ミラちゃんはアスナさんに任せるとして……、小さく冷や汗を拭って、目の前に現れた新たな
それは、なんとも形容しがたい姿をしていた。
少なくとも、まっとうな生物には見えないだろう。
三つ目の西洋風の鉄兜に大きな襟とピンクのリボン、翻すマントと、下半身の魚体。
鎧の腕に携える大きな剣を含めれば、余りにちぐはぐな印象を与えるそれは、しかしどことなくハートの女王……そう、女性をイメージさせる姿をしていた。
……遠回しな言い方を止めるのであれば。
私達の目の前に居るのは、魔女。『魔法少女まどか☆マギカ』における、とある人物の末路の姿──『
それが今、私達の目の前に立っている存在なのだった。
「ん?あっ、このこみたことある!きりあちゃんだっけ?」
「……っ、頭に響くな、こいつの声は……っ!」
こちらに視線を向け、何事かを叫ぶ魔女。
しかしそれはミラちゃんの言う通り、私達に取っては意味のない、耳障りな高音のなにかとしてしか認識できない。
唯一わかることは、彼女に見られているというだけで悪寒が止まらない……ということだろうか?一応はキリアの姿である私も、どちらかと言えば不快感の方が強いように思ってしまうあたり、他のみんながどう感じているかはお察しあれ、ということだろう。
「あれ?なんかけんあくなくうき?ちょっとうるさいからちゅうさいしただけなんだけど、もしかしてよくなかった?」
「……ええぃっ!キンキン煩いわっ!」
両耳を塞ぎながら声を荒げるミラちゃんだが、相手にその言葉が通じているかは未知数。……目の前にいる魔女が原作通りの存在であるのなら、そもそもコミュニケーションの取れる相手ではないはず。
こちらに向けてなにかを話しているように見えても、それは無意味な音を溢しているだけのはずだ。
ゆえに、彼女の抗議には意味がないわけで。
そんな彼女の様子を横目に、先ほどまで争っていた二人が示し合わせたかのように動き始める。
「……一応聞いとくけど、お仲間とかでは?」
「バカか貴様は。さっき私も攻撃されていただろうが」
「いやいや。区分的には似たようなモンでしょ、君達」
「……どうやら貴様とは、あとでしっかりと話し合う必要があるようだな」
「ははは、だねぇ。──ま、そういうのはとりあえず、」
「「こいつを片付けてからだ!!」」
「……さっきまで争ってたのに、もう息ぴったりなんだけど」
「えなにそれ!にたいいちとかひきょうだぞ!」
「……心なしか魔女が怒っているような気がしますね」
「なんでもよいわ!とりあえず黙らせんことには、おちおち話しもできぬ!」
さっきまでの戦闘はなんだったのやら、まるで長年連れ添った相棒かのように連携を始めるモモンガさんと五条さんに呆れつつ、とりあえず後方支援でもしようかなぁ、と一瞬思った私だったが。……そういえば『魔女の口づけ』を受けていると思わしき人が居たことを思い出し、そちらの救助を優先することにする。
そのことを伝えたアスナさんは手伝おうか?と言ってくれたが……パッと見た感じ単に倒れているだけのようだったし、一人でもなんとかできるだろうと判断してその申し出を断る。
……相手が人魚の魔女である以上、周囲への車輪を使った攻撃をしてくる可能性もある。
そうなると治療中の私では患者を庇うくらいしかできないので、その辺りの露払いをお願いしたいことを伝え直せば、彼女は確かにと頷いて相手の魔女を油断なく見つめ始めるのだった。
そうして彼女が警戒を始めてほどなく、流石に一対四は無理があると判断した人魚の魔女が、車輪による攻撃を交え始めたため、アスナさんは一瞬だけこちらにサムズアップをして、私の近くから離れていったわけだが……。
まぁ、これで倒れていた人の容態の確認に集中できる、というのも確かな話。
小さく感謝の意味を示しつつ、小走りに私は倒れている人の元に駆けていくのだった。
そうして患者の元にたどり着いた私は、改めてその人物がミラちゃんが最初に見付けた人物──この慌ただしい流れの発端になった、森の中へと進んでいた観光客であることを確認したわけで。
なるほど、先ほど五条さんが口走っていた『連続失踪事件』とやらは、恐らく『魔女の口づけ』による自殺
「…………?」
患者の首元に付いているマークを、改めて確認する。
それは『魔法少女まどか☆マギカ』の作中において、人魚の魔女のマークとして扱われていたモノ──五線譜と五本の剣をモチーフにしたモノであったのだが、確かにそこから感じるのは淀んだ魔力だというにも関わらず……。
「……生命力が、減ってない……?」
いっそ不自然なほどに、患者の体力などが減っていない。
ともすれば、
いや寧ろ、これは……!
思わず嫌な予感がした私は、患者に向けていた視線を上に向け。
──モモンガさんの背に浮かぶ、巨大な時計の姿をその目に映すのだった。*3
「もう、ちょっとくらいひとのはなしききなさいよ!」
「ええいお喋りな!いい加減にぃ、せぬかっ!!」
「えっうそぉおっ!?」
大振りに剣を振る人魚の魔女に対し、ミラはその剣筋を見切って下に潜り込んだのち、【仙術奥義:開眼】によって跳ね上がった身体能力を生かしてそれを上空にカチ上げる。
よもやこんな小柄な少女に自身の武器を吹き飛ばされるとは思っていなかったのか、魔女が奇っ怪な叫び声をあげるが……その隙を見逃す周囲ではない。
「……これなら、どうかな?──【虚式『茈』】」
「こいつも持っていけ!
手始めに仕掛けたのは五条悟であり、架空の質量を打ち出す『茈』は魔女の胴体に的中、更にその上からダメ押しの二重斬撃が飛ぶ。
そして、それが着弾するのを見計らうように、一人の影が躍り出て、
「──『マザーズ・ロザリオ』!!」
アスナの放った片手剣系ソードスキル・驚異の十一連撃である『マザーズ・ロザリオ』が先の連携の上から叩き込まれる。*4
最強二人の攻撃の上に、彼らには及ばずとも強者の一人である少女の攻撃まで叩き込まれた魔女は、断末魔の叫びを──、
「もう!びっくりするでしょ!」
──あげてはおらず、未だ健在。
これは、キリアが治療に専念したあたりから変わらずに続いている光景であり、すなわち彼らは攻め
彼等の攻撃によって起きた爆発に隠れるようにして、魔女から離れた四人。
華麗なバックステップで後退した五条は、軽口を叩くように口を開いた。
「あー、なんだっけ。あれだよあれ。遊戯王みたいな……」
「……
「そうそうそれそれ。確か魔女って、魔法少女じゃなきゃ倒せない……みたいなのあったよね?」
「……あった……かな?*6……よくわからないけど、もし彼女がその法則をしっかりと受け継いでいるのなら……」
「わしらの攻撃は千日手、ということか?」
「多分だけど……」
「ふぅん、そりゃ厄介だ」
先ほどまでは敵対者も混ざっていた……ということすら忘れたかのように、目の前の驚異を前に当たり前のように言葉を交わす彼等に、思わずとばかりにモモンガは目を細めるが……、
「じゃあ骨の君。──そろそろ終わらせる?」
「……まぁ、それが良いか。私達ではそれ以外の対処も無理なようだし、な」
「え、なになに?なんかいやなよかんがするんだけど?っていうかわたしのはなしきいてくれない!?」
先ほどまでの敵──特徴的な眼帯を付けた彼の言葉に、仕方がないと小さくため息を吐く。
相手が特殊な耐性によって絶対の守りを敷いている以上、そしてそれを破る手段を模索するには時間が足りない以上──現状こちらが取れる手段は、あらゆる耐性を突破する
先ほどまで敵対していた彼に、こちらの手札を開示するというのは些か業腹だが……文句は言えまい。
前リーダーが残したという、
その一つと思われるものが目の前にある以上、それを放置して撤退するというのは考えられない。
奥の手一つで解決できるというのなら、それに越したことはない。そう自分を言い聞かせ、先ほどまでの好敵手に、彼はこう告げた。
「──
彼の
それゆえに、彼は五条に対してその時間を稼げるのか、と問い掛けたのだが。……対する五条は、その言葉を挑発と捉えたかのように獰猛な笑みを見せ。
「誰に物言ってるのかな?──時間なんて、幾らでも稼いでやるよ」
右手で独特な印を結び、付けていた眼帯を外しながら。
──彼は、その名を告げた。
「領域展開──『無量空処』」
(──っ、いやほんとどこまで強くなる気なのあの人!?)
現状を把握した私は、半ば弾かれるようにして走り始める。
とはいえ、それが意味を為すものかと問われれば、ノーだとしか言いようがないだろう。
(──流石に、本物よりは強制力が落ちてるんだろうけどっ)
領域展開『無量空処』。
つまるところそれは、相手に対してその行為の全てに無限回の試行回数を付与するというものだ。
あらゆる行動が永遠に引き伸ばされ、決してたどり着けなくなるこれは、その中で自由に動ける五条さん以外の全てを、永続スタンにするモノだとも言えなくもない。
一般人相手に使えば、その脳への負荷により廃人化は避けられないとまで言われ、ゆえに彼は『0.2秒の領域展開』などという曲芸まで見せることになるのだが……。
流石に、ここの五条さんが使う『無量空処』に、それほどの絶対性はない。
とはいえ、仮にも『領域展開』を名乗る以上、それが無様な術式であるということもない。
じゃあ、なにが違うのかと言えば……原作のそれが無限の引き伸ばしによって、ほぼ止められているように見えるのと違い、彼のそれは『特定の時間単位を無限に割ったもの』に近い。
……意味がわからない?とりあえず、例え百年に一ミリ・千年に一ミリのような低速であれ、進み続けているのならいつかどこかにはたどり着くはず、というのが近いだろうか。
要するに、彼のそれは確かに『無限回の試行回数』を相手に付与するモノだが、同時に『無限回こなせば確かに進む』のである。
原作のそれが『無限に無限をぶつける』ことで相殺できるか微妙なのに対し、彼の場合のそれは明確に無限をぶつけられるのなら、確かに前に進むことができるものなのである。
それゆえ、そもそもに無限使いでもあるキーアならば、一応は先に進むことができるのである。
……まぁ、正しく牛歩の歩み*7、これではどう考えても間にあいやしないとしか言えないわけなのだが。
なにせ、モモンガさんの背後に『
……突然に降って沸いた絶望的展開に、ワタシノカラダハボドボドダ!!(悲鳴)
……いや、ホントにどうしよう……?