なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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それは■■の底より来るモノ

 引き続き五条さんの発動した『無量空処』によって、永遠と錯覚してしまうほどの感覚の間延び、とでも言うべきものを感じさせられているキリアがお送りします。

 

 ……いやまぁ、そんな冗談というか軽口というかを飛ばしているような余裕というものは、本来ならば全然ないのだけれど。

 正直今の私にできることと言えば、粘度の高い水みたいになっているこの空間を、必死の形相で掻き分けながら『びそくぜんしんっ!』*1……もとい、微速前進で進むことくらいしかないわけで。

 そりゃまぁ、思考くらいしか自由にできてないのだから、脳内で軽口飛ばすくらいしてないとやってられないというか?

 

 ともあれ、なんか他に対処はないのかと思わないでもないのだが、この『無量空処』が若干無理矢理に……言い換えれば完成度の低い状態で発動されているせいで、本来ならば自由に動き回れるはずの五条さんが、その場に張り付けにされているような状態になっているため、彼に『気付いてー!』と主張することもできないのである。……位置的に私の居るのが彼の背後、と言うのもバッドポイント。

 

 現在の彼は領域展開の維持そのものに、相当数の意識を割ききってしまっている。

 そのため、本来のアドバンテージである『一方的な攻撃の可否』が抜け落ちているというのは重大な欠点と言えるが……。

 それは裏を返せば術式そのものの殺意が薄まっているという風にも受け取れるため、現状を思えばわりと歓迎できる部分だったりもする。……のだけど、ここにいる()()()()がその欠点を補ってしまっているため、結局八方塞がりやんけと匙を投げたくなっているというか。

 

 

(……いや、匙は投げるなし)*2

 

 

 まぁ勿論、ここで諦めるという選択肢がないということは、私もよくわかっているので、例え無駄だとしても足掻くしかないのだが。

 

 こちらの予想が正しいのであれば、あの人魚の魔女をそのまま倒してしまう……というのは、非常に宜しくない選択だと言える。

 突然この場に現れたアレが、前リーダーの隠していた『ナニカ』だというのは半ば確定的だが──同時に例え悪性のモノであったとしても、それが単に『存在している』だけで迫害される謂れである、とは言えないわけで。

 

 私達は相手が魔女──人間の敵対者としての姿であるがゆえに、そこに会話や共存の余地はないと判断してしまったけれど。

 もし彼女が本来の魔女と違い、会話ができるだけの知性があるのだとすれば。

 もし彼女がここに現れた理由が、()()()()()()()()()()()()()()とするのなら。

 

 ……この戦いは、まったくの無意味なものであると言うことになる。

 

 

(……っていうか多分それが正解なんだよなぁ!)

 

 

 変わらず宇宙遊泳擬きを続けながら、私は内心で声をあげる。

 

 魔女という存在である事実は覆せずとも、その存在が周囲に害のみをもたらすモノである、という事実は覆せるかもしれない。

 先の被害者らしき人物の容態を確認することで、その可能性に気付いてしまった私は、それを確認することなくあの魔女を撃破する……ということを、許すわけにはいかなくなってしまったわけで。

 

 結果、今の私に残された選択肢は二つ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのどちらの選択も──本来ならば選びたくない、使いたくない類いのモノではあるが、状況が状況だけに最早四の五の言っているような暇もなく。

 

 

(……ええい、居るんなら恨むぞ神様!)

 

 

 もしや、私にこの選択を突き付けるためだけに、この二人を用意したのではあるまいな?

 ……と、見えもしない神とやらに愚痴を投げ付けつつ、私は迷いに迷った末に()()()()を選んだのだった。

 

 

 

 

 

 

(……まさか、無傷で稼ぎ切るとはな)

 

 

 内心でそう()ちる彼は、眼帯の彼が繰り出した術式に、惜しみ無い称賛とほんの少しの畏れを滲ませていた。

 

 時間停止対策は必須と述べたこともある彼だが、しかしこの術式は単なる時間停止などとは格が違う。

 自身の耐性を以てしても完全には防ぎきれないそれを、周囲一帯に張り巡らせる結界術──そういう風に彼は認識したが、その異様な性能には舌を巻くほかない。

 

 

(気を抜くと思考が鈍るな……)

 

 

 今のところは、意識して思考を保つことでどうにかなっているが。未完成と思わしきこれが、もし真に完成を見ることがあるとすれば……なるほど、先ほど対峙していた時に感じていた仄かな悪寒というのも、あながち間違いだとは言い切れないだろう。

 

 引き伸ばされた体感時間の中では、目に映る全てがゆっくりと流されていく。

 自身にそのような負荷を強いてくるあたり、これを対策しようとするのにはさぞ骨が折れることだろう。

 先ほどの戦闘の中で()()を使われなかったことを喜ぶべきか、今こうして使ってくれたことをこそ喜ぶべきか。そんな思考を浮かべながら、彼は心の中で苦笑を溢す。

 

 ──そう、既に彼は先ほどまでの敵対者、眼帯の彼が()()()()()()()()ということには気付いている。

 所属組織の違いがどうということではなく、彼自体があくまでも闘争を()()と捉えていること、どうして自身との敵対を()()()()()()()()()()を踏まえて、だ。

 

 見るからに自由奔放、それでいて実力は遥かに高く、気ままで自分勝手……そのような彼の性格をこの短い交戦期間で察した彼は、思わず相手の所属する組織の長の心労を思って涙しそうになったくらいだ。*3

 

 ともあれ、今は味方でよかったと喜ぶのみに止め。

 改めて、今現在彼等が敵対しているモノへと視線を移す。

 

 それは、彼もまた()()()()()存在であった。

 ──魔女。とある作品における魔法少女の成れの果ての姿であり……同時に()()()()、と言うように根本的に人類とは相容れない存在である。

 自身もまた、『死の支配者(オーバロード)』という人類の敵対者……アンデッドの王とでも呼ぶべき存在であるが、しかして自身にはそうではない(相手とは違う)と確信するだけの理由がある。

 

 ゆえに、彼は人を守るために動くことに、些かの疑問も持っていないのだが……。

 

 

(…………む?)

 

 

 そこまで思考して、彼は小さな違和感を抱いた。

 ──もしかして自分は、とんでもない思い違いをしているのではないか?……と。

 

 確かに、この戦闘は相手(魔女)から攻撃を受けたからこそ始まったものであり、そういう意味では()()が安全なモノであるという証明にはなりえないが……。

 同時に、相手が()()()()()()()()()()()()()()()こともまた、明確な事実である。

 

 

(……え、マジで?)

 

 

 ここに来て、ようやく彼に焦りが見えた。

 偉大なる死の支配者を()()()()()のが(ほど)かれ、その素の部分が顕になる。

 そうして顕になった素の部分は──現状が非常に不味いということに、すぐに気が付いた。

 

 なにせ、背後の時計は既にカウント終了まで二秒。

 時間感覚が引き伸ばされているため、感覚上ではまだ二十秒とか二分とか、それなりの時間が残っているように思えるが……この結界内では、実際に経過する時間までが引き伸ばされているわけではない。

 つまり、物理的にはちゃんと『二秒しか残っていない』わけで。

 

 要するに、スキルをキャンセルするために口を開く暇もなければ、相手に蘇生魔法を掛けて対処をする暇もない上に、そもそもに強烈な処理の遅延を食らっている状態なので、実際に動き出せるのはどう足掻いても二秒経ってから。

 ……端的に言わせて貰えれば、いわゆる詰みの状態なのであった。

 

 

(──い、いやいやいや!まだだなんとかなる!アイツに気付いて貰ってどうにかするとか……あっダメだ!余裕全然無さそう!滅茶苦茶不敵に笑ってるけど、頬がぴくぴくしてる!)

 

 

 それでもリーダーたる彼の矜持として、最後の最後まで諦めるつもりはなく。

 視線の端に映る眼帯の彼に、どうにかしてこちらの懸念を伝えようとした彼は、しかして当の本人がこちらを見るような余裕が一切ないことに気が付く。

 

 己にここまでの負荷を強いるこの術式は、どうやら術者本人にも相当の負担を強いるモノであるらしい。

 見た目こそイケメンさを崩さずに笑っているだけ思えるが、その実やせ我慢にやせ我慢を重ねている状態であるため、周囲に気を配る余裕は一切ないのだ。

 

 ここでの不幸は、彼──モモンガの奥の手が、遅延発動するものであったこと。それから、彼──五条悟の奥の手が(本物がどうなのかは別として)時間に直接干渉するものではなかった、ということ。

 

 強力な効果を持つが遅延発動になってしまうモモンガのそれと、本物と違って本人が動けないがゆえに、術式の対象外となる無機物などでの攻撃を予め行っている必要が生じてしまった五条のそれ。

 その二つが噛み合った結果、ある意味で必殺のコンビネーションとなったわけだが……同時に、途中で止めることが実質不可能になってしまったわけでもあり。

 

 

(う、うそだろ……)

 

 

 最早、内心でそうぼやくことしかできなくなった彼は。

 ──今までに感じたことのない、おぞましい気配を感じ取った。

 

 

「──っ!?」

 

 

 死の支配者たる自身に、まるでその肩書きすら嘲笑うかのような、余りにおぞましき死の気配。

 

 足元から蟻の大軍が上ってくるかのような怖気にも似たそれは、彼の背後から迫ってくる。

 それは単なる先触れであり、あくまでも主菜に対する前菜のようなもの。

 それにも関わらず、思わず震えてしまいそうになるその気配に、振り返りたいような、振り返りたくないような思いを持て余すことになって。

 

 

(……なんだ、これは)

 

 

 そうして一周回って冷静になった彼は、この気配の持ち主こそが魔女なのでは?……と思ってしまう。それくらいに異質のそれは、しかし目の前の魔女から漏れだしたものではなく。

 もしや、一体ではなく二体、いやそれ以上にいるのだろうか……と半ば混乱した状態で思考を進める彼は、

 

 

「……っ?!なっ!?」

「えっ?!」

「ぬぉっ!?」

「……はぁああぁっ!!?」

 

 

 思考の停滞が突然解かれたこと、周囲が困惑の声をあげたこと、それから──自身の背後にあった黄金の時計が、影形すらなくなってしまったことに、誰よりも大きな声をあげ。

 

 

「だすけてぇ……

「「「「!?」」」」

 

 

 それから、しくしくと泣きながら助けを乞う見知らぬ少女の姿を見て、四人揃って驚愕する羽目になるのだった。

 

 

*1
『アズールレーン』の公式四コマ漫画のこと。フレーズが同じだととりあえず口にしてしまうのはオタクの悪い癖……

*2
『匙』はスプーンの一種。基本的には調剤用などに使われる小さなモノを指し、それを投げ出すということは医者が薬を作るのを諦めた、と解釈することができる。そこから、見たまま『医者が治療を諦める』こと、および何かしらの専門家が、特定の物事について『自身の手に負えないと悟って諦める』ことを示す言葉となった

*3
「なんか知らないけど胃がっ!?」「大丈夫ですか紫様?」

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