なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
人類とは決して相容れない存在だと思われた魔女。
しかしてその正体が、当初の予想であった【顕象】ではなく『逆憑依』の方であったことに困惑していた私達であったが。
当の彼女──人魚の魔女こと美樹さやかが口にしたとある事実は、私達を更なる混迷の渦に放り込むことになったのだった。
「……あれー?君達あれだよね?『新秩序互助会』の人達なんだよね?」
「正確には僕とそこのキーアさんは違うけど……まぁ、概ねそうだね」
「え、他所の組織の人とかいるんだ?……へー、私は暫く閉じ籠ってたからよく知らないけど、いつの間にか色々出来てたんだねぇ」
「……あー、うん。色々と聞きたいことはあるけど、とりあえず一つだけ。……『メジロマックイーン』って知ってる?」
「あ、メジロさん?なぁんだ、知ってる人居るじゃーん。いやー、最初はなんのキャラなんだろって思ってたんだけど、なーんか暫くしてアニメが始まって『あ、このキャラかぁ!』ってなったんだよねー。……そういえば、『ウマ娘』ってアプリ始まったの?私が向こうに居た時は、まだ始まってなかったみたいだけど」
「待って待って情報が多い多い」
不思議そうに首を傾げた彼女が尋ねてきたのは、こちらの所属について。……いち早く困惑から回復した五条さんが率先して答えていたが、どうにも彼女は『新秩序互助会』における古参に分類される方の人物、ということになるらしい。
もうその時点でわりとキャパオーバーなのだけれど、同じく古参であるマッキーを話題に出した結果、更なる新情報が飛び出してきた。その内容によれば……『新秩序互助会』、
彼女の言葉が真実であるのなら、彼女が『新秩序互助会』に所属していたのは
アニメの『ウマ娘』一期の放送がその辺りである以上、彼女の発言に間違いがないと仮定するのであれば、マッキーを見て『誰?』と言えるのは
その前後で『新秩序互助会』としての雛形が出来ていたと仮定するのであれば、この組織の年齢は五歳前後ということになるわけで。……一応創立三周年とかその辺りだったはずの向こうと比べれば、些細な違いではあれどこっちの方が先輩……ということになるわけだ。
「あ、後追い、だと……!?」
「……え?……えっと、この子は一体なにに驚いてるの……?」
「あー、気にしないで気にしないで。この人、ちょっと大袈裟に驚いちゃうタイプの人だから」
「ふぅん……?……あ、そういえば君って、ちょっと前に漫画が始まったヤツのなりきりだったり?ほら、ジャンプのー、ええっとなんて言ったっけ……」*2
「……ああうん、そうそう。君が思ってるので間違いないと思うよ?……まぁ、最近って言ってもー……もう四年も前の話になるけどね」
「え、四年?……はーなるほど、時間感覚麻痺ってたかー。そりゃまぁ、
「……ごめん、ちょっと横になります……頭がパンクしそう」
「はいはい。んじゃま、ちょっと休憩しますか」
……なんかもう、ちょっと休ませて欲しい。
さやかちゃんから飛び出すワードが、全て爆弾でしかないことに気が付いた私は、そう五条さんにぼやいて思考を放棄。
暫く脳の休息に努めることにするのだった……。
で、そうやって暫く休憩をした私達はと言うと。
休んでいる内に日が暮れ始めたため、樹海近くのホテルにまでみんなで移動して来ていたのだった。……え、モモンガさんとさやかちゃんは、そのままの姿だと騒ぎになるんじゃないのかって?
いやまぁ、その辺りの問題がどうにもならないのであれば、そもそも場所を移そうだなんて考えにならないでしょって言うかだね?
「……なるほど、どうもご協力ありがとうございました」
「はーい、警察さんもお仕事頑張ってくださいねー。……いやー、倒れてた人、特に問題とか無さそうで良かったよ。キーアちゃんも、色々とありがとねー」
「ああはい、簡単な処置でどうにかなったのは幸いです、ホント」
こちらに帽子を脱いで小さく礼をしたのち、パトカーへと戻っていく警察官へと二人で手を振りつつ、彼等がホテルの敷地から出ていくのを見送る。
遠くへと消えていくパトランプの明かりを目で追いながら、隣のさやかちゃんがこちらへと礼を言ってくるのを受け取りつつ、改めて彼女の姿を見る私。
なんと現在の彼女は、普通の人間の姿……もとい、美樹さやかとしての姿になっていた。
てっきり元には戻れないのかと思っていたのだが、彼女の言うところによれば『やってみたら戻れた』のだとか。
……『叛逆の物語』*3も混ざっているのかも、とかなんとか考えつつも、彼女の軽い言葉に思わず気の抜ける思いのした私は……人間体になった彼女の瞳だけが、さっきまでと変わらずに白黒反転していることに気が付いて、慌ててそれをごまかすためにコンタクトレンズを作り出して渡したのだった。
まぁそれだけじゃなくて、彼女がその総身から仄かに立ち上らせていた『魔女の気配』とでも言うものを、その体の中に封じ込めるためのアイテムを(即興で)作ったりもしたのだけれど。
彼女の首もとで揺れているネックレスがそれである。
作る時に形の要望はないか聞いたところ、『ソウルジェム』が良いと言われたために彼女のそれは卵のような形をしているが……これ、CP君が見たらどういう反応をするのだろう?
なんてことをぼんやりと思いながら、ホテルのカウンターの方へと視線を向ける私。
そこでは、大家族の父親……という
そう、それは私が『新秩序互助会』で愚痴を溢していた、見た目に特徴のない普通の男性だった。……ここまで言えばわかると思うが、私が向こうでそれなりに仲良くなっていたあの男性は、実はモモンガさんの変装した姿だったのだ!
……いやまぁ、正確には向こうで会っていたのは単なる思念体で、ここにいるのは実際にモモンガさんが変装した姿なわけなのだけども。
多分、どの媒体でも直接的に描写されたことのない『鈴木悟』を彼なりに再現したもの、ということになりそうというか。
そんな感じで色々と衝撃の展開が続いたわけなのだが、話としてはこれからが本番。
先ほどの『キョウスケ』とやらの詳しい話も含め、このまま森の中で続けるのは無理がある……みたいな感じで、場所を移すことになったわけだけど……。
「結果的に……なんだか旅行に来た、みたいなことになってるよね」
「このホテルも、結構高そうだしね……」
ホテルの入り口付近にまで戻ってきた私は、所在なさげに立っていたアスナさんと小さく苦笑を交わしあう。
ともすれば奥さん、と勘違いされそうになっていた彼女は、それを否定するために変な労力を使ったばかり。
モモンガさんが『娘です』と主張することでどうにか収まったものの、そりゃまぁお疲れなのは仕方がないというか。
まぁ、それ以外にもモモンガさんがポンっと代金を払ってくれたとはいえ、結構高そうなホテルに来ていることもあり、変に緊張してしまっているということもあるだろう。
正直このテンションでまっとうな話し合いとかできるんだろうか、と思わなくもないのだが……。
「やらねば寝れぬ、というヤツじゃな」
「だよねー……」
末の妹役を押し付けられて、若干不満そうにしているミラちゃんの言葉に頷きつつ、こちらに手招きをするモモンガさんの元へと歩き始める私達なのであった。
「で、だ。できれば夕食の前に話を終えておきたいわけだが……」
「どこまで話してたんだっけ?」
「えーっと、前のリーダーさんの名前について、くらいかな?」
「そうだったそうだった。『キョウスケ』の話をすればいいんだよね?」
大部屋を借りた私達は、室内のテーブルを囲うように座り、向かい合っていた。
暫くすれば夕食に呼ばれるらしいので、それまでに話を詰めておきたいというモモンガさんの言葉により、先ほどまでの話が再開されるわけなのだが……。
そもそもの話、彼女の言う『キョウスケ』とは一体誰のことなのだろうか?
元々人当たりがよくて、突然豹変したとされる件の『キョウスケ』なる人物。
腹に一物というか隠し事をしているということであれば、『リトルバスターズ!』の棗 恭介*4とかが思い浮かぶが……、彼のそれは悪人のそれではなく、大切な人を思うがゆえのもの。
組織のみんなから聞いたイメージ像とは、微妙にずれている気がするので違うと思われる。……いやまぁ、カリスマ性とかの点だけ抜き出せば、結構あってるような気がしないでもないけど。
それから……そういえば『5D's』の鬼柳さんも『
マッキーとの会話の中で思い浮かべてしまったように、豹変したとかリーダーシップがあったとか、細かい点を見ていけば彼が該当する、という風に見てもよさそうな気はするが……。
仮にそれが正解だとしても、そこまで具体例が出ているのにも関わらずマッキーが『思い出せなかった』辺りに疑問点が残る。
彼女はあの時『強ち的外れということもない』みたいなことを言っていたが、仮に前リーダーが本当に鬼柳さんなら、その時点で思い出せていてもいいはず。
余程強力な忘却系の技能が使われていて、実際に顔を合わせるでもしなければ思い出せない……みたいなことでもない限り、鬼柳さんが前リーダーというのはまずあり得ない話だろう。
それから、『まどマギ』の上条恭介という線も基本的にはない。
それならもうちょっと、さやかちゃんからの反応があって然るべきである。……恨み言とか惚気とか、思わず漏れてもおかしくないわけだし。なので彼の可能性はほぼない。
他にもちょくちょく『キョウスケ』というキャラには覚えがあるが……どいつもこいつもリーダーシップとかカリスマ性とかはあるものの、決定的な証拠とでも言うべきものに行き当たらない。
唯一、『絶対可憐チルドレン』の
いやまぁ、『
そうしてあれこれと考えていた私は。
さやかちゃんから件の『キョウスケ』とやらの子細を聞いていく内に、それが誰なのかに気付いてしまって。
「……
「べ、べーおうるふ?」
と毒づく羽目になるのだった。……絶対諦めてねーじゃんそれぇ!!