なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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キョウスケって名前には意外とリーダーが多い

 話はちょっと遡り、さやかちゃんが『キョウスケ』についての話を始めたところから。

 

 

「んー、最初はね?『キョウスケ』繋がりで着いてった感じなんだよね。ほら、二次創作とかでよくあるじゃん?」

「あー、上条繋がりでそげぶするやつとかもあったねー。*1……つまりはそういう流れ、ってことでしょ?」

「うんうん。こっちには『恭介』は居なさそうだったしね。……でもまぁ、今こうして思い返してみると、『キョウスケ』繋がりとは言ってもタイプが全然違う感じだったなー」

 

 

 しみじみと語る彼女は、どうやら件の人物(キョウスケ)との出会いの瞬間を思い出している様子。

 ぶっきらぼうというか言葉少ないというか、ともかく不器用な感じのする彼に、名前繋がりからくる興味と放っておけなさを感じて、彼女は彼に着いていくことにしたらしい。

 

 ……この時点で『ん?』って思った私なのだけれど、その違和感は話を聞き進める度に大きくなっていって。

 

 

「馬の擬人化だっていうメジロちゃんに、『お前には逃げとかがあってるんじゃないか?(貫け、奴よりも速く)』みたいなアドバイスしてたっけ。*2実際メジロちゃんって、先行する方が得意みたいだったから、そのアドバイスは結構役に立ったとか言ってたなー」

「……へ、へー」

 

 

 さやかちゃんの語る彼の言葉が、なーんか変なルビが振ってあるような気がしつつ、それでもまだ確定じゃないのでそのまま話を続けさせ。

 

 

「そうそう、『キョウスケ』って結構勝負事好きだったんだよねー。それと最終的な勝ち負けは置いといて、一つのところに大賭するのも好きだったかな?なんていうかハイリスクハイリターンが好き(分の悪い賭けは嫌いじゃない)、っていうか」*3

「…………」

 

 

 すでに情報として与えられていた前リーダーの名前と、次から次へと出てくるエピソード。

 それらを組み合わせる度に、なんとなーくそれが誰なのか、ということに近付いていくわけなんだけど……いやいや、マッキーはなんか愛想は良かったとかなんとか言ってたから。()()()だったら愛想はあんまり良くない感じだから……と、自身の中に生まれた考えを否定する羽目になる私。*4

 

 ……それが正解だった時に、『豹変』の意味が()()()()になりかねない相手であるからこそ、ある意味では逃避以外の何物でもない思考だったわけなのだけれど……それもまぁ、次の彼女の言葉で水泡と帰すことになる。それが、

 

 

「あとねー、()()()()って言うんだっけ?たまーにゲームとかやると、毎回そういうの使ってたかなー。『どんな装甲だろうと、撃ち貫くのみ』って言ってさー」*5

「はいアウトー!!やっぱりベーオウルフじゃねーか!」

「へ?べ、べーおうるふ?……ってなに?」

 

 

 彼の代名詞、とっつき……もとい()()()()*6

 それから、合わせて添えられた台詞である『どんな装甲だろうと』云々。

 ……はい、勘違いの可能性もなくキョウスケ・ナンブさんですねー、本当にありがとうございました。*7……クソァ!!

 

 ばたーっ、と机に突っ伏した私に、さやかちゃんは困惑しながら首を傾げていたけれど……。これはあれかな、そもそもさやかちゃんが件の『キョウスケ』の出身作品を知らなかったとか、そういう話かな?

 その辺りを彼女に問い掛けてみたところ、返ってきたのは次のような反応だった。

 

 

「えー?いやいや流石に知ってるよー?『インパクト』でしょ?本人から聞いたし、実際に見たもん。最後までがスッゴい長いって話も聞いたし*8……あ、あれ?みんななんでそんな沈痛そうな表情に……?」

「あー、うむ。……わかりやすいアニメのキャラも居ない、オリジナルだけの作品には目は向きにくいよな、特にファンでもない人には」

「え?なに?なんの話?!」

 

 

 モモンガさんが頭痛を堪えるように額に手を当てため息を吐く。

 ……この様子だと、彼も前リーダーのことを忘れていた、もしくは()()()()()()()()()ということだろうか?

 ともあれ、この会話の流れで思い出したのは、まず間違いなさそうで。彼は小さく頭を掻いたのち、決定的なその言葉を告げるのだった。

 

 

「ああ、間違いない。『新秩序互助会』における前リーダー、それは『キョウスケ・ナンブ』。……豹変し、国どころか世界を滅ぼそうとした人物だ」

「やっぱりベーオウルフじゃないですかやだー!!」

 

 

 ……うん、私が絶叫するのも仕方ないよね?

 

 

 

 

 

 

「さっきからずっと言ってるけど、ベーオウルフってなに?……あ、待って思い出した!BGMの名前だよね!なんだっけ、鋼鉄……だっけ?」

「──『鋼鉄の孤狼(ベーオウルフ)』。まぁ君の言う通り、彼の戦闘BGMの名前だね」

「あ、やった!大当たり!……でも、戦闘BGMになんの関係が?」

 

 

 一応彼の登場作品を知っていたさやかちゃんが、『ベーオウルフ』が彼のBGMであることを思い出していたが……、まぁうん、派生作品(OG系)を知らなければそんな感想にもなろうもの、というか。

 

 

「えっとね、さやかちゃん。……ベーオウルフってね、平行世界でのキョウスケさんの異名なの」

「へ?平行世界?……なんかすっごい嫌な予感がするんだけど、その平行世界のベーオウルフ、さん?って、どういう人なのかなー……?」

「……現行生命は失敗作。自らが新たなる種となることを画策する破綻者……って感じかな?」

「……ボスじゃん!それも単なるボスじゃなくてラスボスとかの類いじゃん!」

 

 

 周囲の人達から説明され、思わず悲鳴をあげるさやかちゃん。

 ……ベーオウルフとは、アスナさんの言う通り『平行世界のキョウスケ・ナンブ』に与えられた異名である。

 スーパーロボット大戦シリーズに登場するオリジナルの主人公達、それらを集めて展開される『OriginalGeneration』シリーズ。

 そこに彼が出演することになった時、新たに加えられた設定の一つであるそれは、当時の人気キャラの一人である『アクセル・アルマー』の設定にも関わるものであり、それなりに賛否を呼んだモノでもあったが*9……まぁ、その辺りは置いておいて。

 

 このベーオウルフ、端的に言うと同『OG』シリーズの二作目におけるラスボス枠と区分的には同一となる存在で、実際にアニメだとラスボスとして登場したりもした人物である。

 そんな彼は、現在の霊長は失敗作であり、自身が新たなる霊長を作る・もしくは霊長となる的なことを主張しながら、全てを破壊し尽くすヤバい奴である。

 

 それもそのはず、彼が同格となっている存在は、原作においては『創造主』の一画と言っても遜色ない存在。それが永き時と人の愚かな行為を見て狂った存在だというのだから、そりゃもう厄ネタも厄ネタな存在なのだ。

 

 豹変した、という評がもし()()()()だとするのであれば、その創造主──『アインスト』の存在まで示唆する形となるため、できれば間違ってて欲しい……だなんて後ろ向きな言葉が飛び出していたわけなのだった。……まぁ、後の祭りだったんだけどね!!

 

 

「……この世界、呪われてるのでは……?」

「否定はできんな。次から次へと問題が沸いてくるさまは、正直『日刊地球の危機』と揶揄されても仕方がないだろう」

 

 

 モモンガさんは、小さくため息を吐いている。

 ……こうして言葉を交わすまでは、彼の存在もまた『地球の危機』の一端と思われていた、というのも頭の痛いポイントだろうか。

 いやまぁ、あれこれ話すうちにこのモモンガさんはちょっと違うなー、と思うことになったわけなのだが。

 

 

「そりゃあ、まぁ。私はアインズよりも鈴木悟としての自意識が強い存在だ。……恐らくはだが、原作の私よりも人としての部分が多いから、なのだろうな」

「あー、『転生者(憑依者)』だからか……」

 

 

 彼が異形種としての精神に傾いていないのは、『逆憑依(転生)』という現象が『人の体に人を降ろす』という形に解釈できるからかもしれない、と彼は言う。

 

 素体となる人の体と、そもそも持っている人としての魂。

 原作では異形の体と人の魂──すなわち一対一で比重が決まっていたがために、より存在の重い異形としての価値観が人としてのそれを侵していったが、ここにいる彼の場合は一対二……どちらが重いかと言われればまだ異形としてのそれの方だろうが、ここにいる彼は原作での精神汚染のようなモノについては知識がある。

 結果として、異形として振る舞うことにブレーキが掛かり、総じて人間味のある人物として成立しているのではないか?……と言うのが、彼の主張なのであった。

 

 それが正解なのかはわからないが、ここにいる彼が自身の古巣にさほど執着していないというのは確かな話。

 山じいとかが彼をリーダーに推すのもわかるくらい、立派な人物としてそこにあるのだった。……ただ……。

 

 

「今回、こうして前リーダーのことを思い出すに当たって……どうにも不安点とでも言うべきものが、出てきてしまったような気はするな」

「……原作にある変化なら、後から付け加えやすい……みたいな?」

「同一人物同士の【継ぎ接ぎ】は馴染みやすい、ってのは僕が実例みたいなもんだしね。まぁ、注意するのは間違いじゃないと思うよ?」

 

 

 彼等の言う通り、原作で『変わった』ことが描写されている人物には、異様なまでに【継ぎ接ぎ】が馴染みやすいらしい、というのも事実っぽいわけで。

 ……ゲームから異世界への転移の際、異形の心に囚われたモモンガさん。

 それが、今なお起こり得る事態である……とでも示唆するかのような、前リーダー・キョウスケ氏の突然の変貌。

 

 話を聞いている限り、元からアインスケ*10だったというわけではないだろう。

 ならば、どこかのタイミングでアインストと接触してしまい、それに侵食されてしまったと見るのが正しいように思われる。

 

 本来【継ぎ接ぎ】というのは、本人から遠く離れたモノには変化しないはずなのだが、彼等のようなタイプはそもそもに原作で()()()()()()ため、それらの変化に影響されやすい可能性がある。

 それがもし仮に本当であるのならば……。

 

 

「……琥珀さんに【継ぎ接ぎ】防止装置でも作って貰う、とか?」

「いや、幾らなんでもそれはあの人を過大評価し過ぎじゃない?」

「すでに【継ぎ接ぎ】を応用しての変身アイテムっぽいの作ってるのに?」

「……俺がいない間になにがあったし」

 

 

 もしかしたら、あのマッドサイエンティスト・琥珀さんこそが希望の星なのかもしれない。

 そんな世迷い言を口走りながら、話し合いは続いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──そういえば、と彼女は振り返る。

 

 彼に「ここに居るように」と願われ、その言葉に従ってそこに居続けた彼女は。

 いつの間にか絶望……もしくは魔力切れを起こし、魔女に変貌した。

 

 そこで自我を得て、「このまま外に出たら不味いことになるよなー」となんとなーく思い浮かべ。

 微妙な空腹感を気のせい気のせいとごまかしながら、部屋の中で縮こまっていた日々。

 

 そこでは音はなく、光はなく、あるのは自身の脳内に映し出される想像の世界だけだったが──、

 

 

(──あの声。()()()()()()()()()は、一体なんだったんだろう?)

 

 

 そんな世界に突如紛れ込んで来た、可愛らしい小動物の声。

 子猫でも迷い込んだのかと思った彼女が、実に四年越しに部屋の外へと赴き。

 そこで、争う人の姿を見付け、その仲裁をしようとした結果、自分は今ここにいるわけだが。

 

 ──あの小動物は、はたして無事に逃げおおせたのだろうか?

 

 

「あれ、どうかした?さやかちゃん」

「んー?いやなんでもないよ」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()それを想いながら、彼女は四年ぶりの食事を楽しむために、部屋の外へと飛び出して行くのだった。

 

 

*1
ここでの『上条繋がり』とは、『とあるシリーズ』の主人公・上条当麻と上条恭介のこと。二次創作ではあるが、恭介の方に『幻想御手(イマジンブレイカー)』を持たせてハッピーエンドにする、なんて話もあったりした。……実際にはできなさそう、というのは内緒

*2
実際には『OG』でのライバル役、アクセル・アルマーの台詞。アニメやゲームでの話のタイトルになったことも。メジロマックイーンが『逃げ・先行が得意』ということもあり、そこから(相手より先に、という意味で)彼の台詞を思い出したのだと思われる

*3
初出である『compact2』では無かった設定。初期の方の作品であることもあり、主人公のキャラが薄かったとか。リメイクである『impact』において現在にまで続く様々な設定(分の悪い賭けうんぬんなど)が追加されたとのこと

*4
初出の『compact2』だと敬語キャラだったのだとか。戦闘中は普通に『撃ち貫くのみ』とか言ってるので、元来の性格は変わってないのかもしれないが。ともあれ、『impact』以降は『内に秘めるタイプ』になったのは確かである

*5
彼のキメ台詞。重装甲だろうがなんだろうが、驚異的な速度で近付いて行ってぶち抜く。その潔さとでも言うものが好かれている部分とも

*6
『とっつき』は、『アーマード・コア』シリーズでの『射突型ブレード』、及びその武器の機構からパイルバンカー全般の呼び方として使われるもの。元々は誤読なのだとか。『ステーク』の方は『アルトアイゼン』の武装の一つ、『リボルビング・ステーク』のこと。実は詳細な設定が決まったのは結構後(2021年12月発売の『HGアルトアイゼン』に合わせて設定を整理した)とのことで、暫くは『実はパイルバンカーではないかもしれない』装備だったのだとか。今はちゃんとパイルバンカー的な装備となっている

*7
『スーパーロボット大戦』シリーズのオリジナル主人公の一人。『分の悪い賭け~』という台詞は、形や意味を変えて後の主人公達にも受け継がれていたりする

*8
『impact』は元々三部に別れていた物語(compact2)を一つに纏めている為、なんと一周するのに100話近くのステージをクリアする必要性がある。慣れた人でも150時間くらい掛かると言えば、その長さもわかろうというもの

*9
『スパロボA』の主人公でもあるアクセル・アルマーは、ゲーム序盤では記憶喪失になっており、三枚目的な性格になっていた。『OG版』では記憶喪失前のキャラをベースにしている為、その辺りで賛否を呼んだとのこと。なお、その記憶喪失中の彼(俗称アホセル)は、派生作品の『無限のフロンティア』シリーズにて登場し、その作品の主人公との関係性も合わせて話題を呼んだ

*10
ベーオウルフさんの俗称。『アインストのキョウスケ』で、縮めてアインスケ。……そんな気安いキャラではないような?




十三章はこれにて終わりなので、お次はいつものです。

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