なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「え?どしたのキーア?」
「どうしたもこうしたもあるかよぉぉっ!!まさかの私もフルダイブの仲間入りだよちくしょぉぉぉぉおっ!!?」
こちらを心配するような声を掛けてくるアグモンに思わず詰め寄り、詰め寄ったあとにそんなことをしても仕方ないやんけ、となって思わず項垂れる。
……いや、ホント。なんでいきなりこんなことに……。
「おやおやおやー?哀れなせんぱいが落ち込んでいますねー?これは優秀で最高な後輩としましては、思いきって慰めてあげちゃうのもありかもしれませんねー?」
「はっ!?この地味にウザい喋り方はまさか!?」
「は、はぁっ!?いやちょっと、ウザいってなんなんですかせんぱい!そんなこと言うせんぱいには──こうです!」
「うわっ!真っ暗になった!!?」
「あ、もうっ。ダメじゃないですかせんぱい、可愛い後輩がせっかくせんぱいに
「はい、ここにリンク置いておきますから、ちゃあんとクリックしてくださいね?」
「……私の状態が万全なら、いちいちこんなサイトの制約とかに縛られずに、せんぱいをあれこれサポートできちゃうのになぁ……」
「なりきり板のみなさーん、相変わらず自堕落な日々を送っていますかー?」
「突如大海原に放り出されたネコちゃんのように、アタフタしていますかー?していますねー?」
「いやーん、姿形がもとの自分から変わっても、生活にメリハリが残っているなんて皆さんサイコー!これには邪悪なBBちゃんも思わず拍手喝采です!」
「ま、といっても面白い、のベクトルではなく、ご愁傷さま、のベクトルなんですけどね?」
突然の視界ジャックから、謎に気合の入ったオープニングまで見せ付けられて、思わず遠い目になる私と。
視界ジャックは(というか彼女との遭遇が)初体験だった他数名は、まさに水嫌いなのに海に投げ出されたネコのように、ことごとく慌てふためいていた。
……まぁ、事前知識的に知ってるマシュだけは、他とは違って慌ててはいなかったけど。
「な、なんだこりゃ!?まさかAIDAがリアルに存在したのか!!?」
「うわぁぁっ、デ・リーパーだーぁ!?」*1
「はいそこのお二人、なまじっかデジタルの世界に詳しいからと言って、自身の知識だけで答えを出そうとするのは良くない傾向ですよ?……というか、アグモンさんは私に会ったこと、ありますよね?」
「え?あ、ホントだ。この間タチバナをくれたお姉ちゃんだ」
「はいせいかーい!見事思い出せたアグモンさんには、ご褒美にBBちゃんポイントを贈呈いたしましょう。頑張って集めて、BBちゃん特製セットをゲットしてくださいね?」
「わーい」
「いやわーいじゃないが」
初登場にもかかわらず、とにかくインパクト重視で発言するのやめーや。
それとアグモンも、得体の知れないもの貰って喜ばないの。
ともあれ、改めて視線を彼女に向ける。
……視界ジャック中なんだからどこ見ても変わらんだろ、というツッコミは置いといて。
さて、目の前に映るのは、長い紫の髪と頭の左側にある赤いリボン、丈の短いスカートと黒いコートが特徴的な少女。
……本人も何度か口にしている通り、彼女は月の違法上級AI、『BBちゃん』に間違いないだろう。*2
なりきりによる憑依とか凄まじく嫌がりそうな彼女が、どうしてこんなところに居るのだろうか?*3
「おや、せんぱいは私の事が気になるご様子。でもその前に、せんぱいの体に何が起きたのか、知りたくはありませんかー?」
「いや、別に」
「あらっ?」
暫く彼女を見詰めていたら、ニヤニヤ笑みと質問を返されたので別に、と返しておく。
……拍子抜けしたようにこちらを見るBBちゃんに、小さく鼻を鳴らす。
彼女がどういう状態であれ、変に隙を見せると調子に乗るのは変わっていないだろうから、こちらとしてはこういう態度を取らざるを得ないのだ。
そんな私の姿をしげしげと眺めていた彼女は、ふむと頷いて、ニヤニヤ笑いから
「その顔は、いろいろ気付いたのだと解釈しても?」
「……わざわざ『タチバナ』だったのがちょっと引っ掛かっててね。……あれ、『
こちらの問いに、BBちゃんは無反応。
代わりに、リアルの方でジェレミアさんが周囲に質問をしていた。
「失礼、『非時香果』とは一体何なのでしょう?」
「マシュちゃんおねがーい」
「あ、はい。『非時香果』とは『古事記』『日本書紀』などに記されている
「で、その常世の国に生っている『非時香果』──現代で言う『橘』は、不老不死を得ることができる霊薬であり、時の天皇・第十一代垂仁天皇が求めたものとしても有名だったりするわね」*4
「なるほど、不老不死の。……ところで、何故橘だと彼女の動機に結びつくのでしょう?」
みんなが橘の実についていろいろ語っているが、対面のBBちゃんはさっきの笑顔のまま。
……そりゃそうだ、みんなちょっと推理が先走り過ぎてるんだもん。こういうのは、もっと簡単に考えたほうがいい。
「
「ぴんぽんぴんぽんだいせいかーい!流石せんぱい、知識だけは無駄に持っていますね!!」
「……あ、常世の国!」
「そういえばかの場所は死後の国とも言われている……つまり、電脳世界の食べ物を口にすることで、電脳世界の住人になった、ということ?」
「正確に言えば、この世界との繋がりを作った、という方が近いですけどね。そういう意味ではペルセポネの逸話の方が正しいかも知れません」
あ、いい加減色付き文字止めますね?などと宣いながらBBちゃんの笑顔が普通のものに戻る。
……なんと言うかこの子は、毎度毎度遠回しなお節介しかできないのだろうか?
最初から説明してくれてれば、こんなにややこしいことにならなかっただろうに。
……いやまぁ、多分そこを聞くと「だって面白くないじゃないですか?」とか言われかねないわけだけども。
「無論、完全に電脳世界の住人になったわけではありませんよ?そんな事しちゃうと、そこにいらっしゃるアグモンさんと変わらないですし」
「……そこまでできるってことは、アグモンを現実に送り出すことも可能なわけ?」
「ご期待下さっているせんぱいには、残念なお知らせなのですが……違法上級AI・BBちゃん無双も今は昔。ここに居る私では、そこまで大掛かりな事はできないとご理解くださいね?」
「……BBちゃんぽんこつー」
「だ・か・ら!なんでせんぱいは、私に対してやけに辛辣なんですかぁ!?」
「いきなりフルダイブを強制しといて、なんで大切に扱われると思ってるんですかねこのパンツ丸見え女子は」
「ぱっ……!?……ふ、ふんだ。折角貴方の頼れるBBちゃんが、耳寄りな情報をお持ちしたっていうのに。そんな態度を取るんだったら、こっちにも考えがありますよーだっ」
「耳寄りな情報?」
いじけてしまった彼女から飛んできた言葉にふむ、と顎に手を置いて思索に耽る。
……なりきりとはいえ、彼女はBBちゃんである。
その言葉を素直に受け取っていいものか、ちょっと迷うところがないとは言い切れない。
実際、若干対応が辛辣なのも、彼女を頼りすぎるのが良くない……という先入観があるからだったりするのだし。
とはいえ、こんなタイミングで出てきた彼女を無視して行くわけにもいかないだろう。……うーむ、仕方ない。
「あー、そっかー。BBちゃんが頑張って入手してくれた情報かー。すっごく聞きたいけど、さっきから疑ってばかりだからちょっと気が咎めるなー」
(い、未だかつてないほどの棒読みですせんぱい!?)
(しっ、静かにしてなさいマシュちゃん!!ここが正念場なのよっ)
外野がすごくうるさいし、ゲーム内の二人からもなんと言うか呆れてるというか唖然としている空気が伝わってくる。
……いや、だって相手BBちゃんだよ?謝るとか隙見せるとか、どう考えても死亡フラグ……。
「わっ……!……んん。こほんこほん。……せ、せんぱいがどうしても謝りたいと仰るのでしたら、私も聞いてあげなくもないと言いますか、教えてあげなくもないと言いますか……」
……誰これ?
いや、こっちの言葉に一瞬顔を輝かせたあと、はっと気付いたように咳払いをして、ちょっと視線を逸してそっぽを向きつつ、手元では両手の人差し指をつんつんしてる……んだけど、こんな事BBちゃんしないで……はっ!?
え、まさかの?そういうあれ?……えー……?
真実に気付いてしまった私は、自身の行いを深く反省した。
……いや、そりゃそうだ。よくよく考えなくても、BBちゃんが素直に憑依とかするわけ無いじゃんか。
最初に抱いた疑問がそのまま答えだ、じゃあこれからするべきことも決まっている。
「ごめん
「……!……し、仕方ないですねぇせんぱいは!わかりました、この上級AI・BBちゃんが貴方をしっかりバッチリサポートしちゃいましょう!!」
「え、せ、せんぱい!?急にどうなさったのですかせんぱいっ!?」
「マシュちゃんがすっごい慌ててるんだけどなにこれ?」
「ポジション被りを気にされているのかと」
「ああ……」
謝った途端に顔を輝かせた彼女に、先の疑念を確信に変えつつ、彼女の話を聞くために居住まいを正す。
……あとでマシュにはいろいろフォローしとかないとなぁ、なんてボヤキは胸の内にしまう私なのだった。