なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「んー、結局ちゃんと遊べたかと言うとどうなんだろう……?」
「うちは色々やって楽しかったん!」
「まぁ、私もれんげと同じ感想かなー。なんだかんだで、ゲーセンとか入ることないし」
ゲーセンの出口付近で、だらだらと駄弁る私達。
保護者役となるクリスも居るのだから、そのままもっと遅い時間まで遊んでいても良かったのだが……そちらは選ばず、私達は家に帰ることを選択していたのだった。
まぁ、クリス達に関しては、琥珀さんが家で待ってるとのことだったし。
ちょっと前に聞いた話を思い出せば、琥珀さんを放置するのは彼女達の食事環境の危機を招くものでもある……といった感じでさもありなんというか。
まぁそうなると、私とエーくんに関してはちょっと手ぶらになってしまうわけなんだけど!
「あー、そういえば暫く家に誰も居ない……とか言ってたわね?」
「流石に八時くらいになれば、みんな戻ってきてるんだけどねー。今から大体二時間くらいってなると、微妙に時間潰しの手段に困るというか……」
こちらのぼやきに、クリスが先刻の私の言葉を思い出しながら声を掛けてくる。
朝の内に言っていたように、今日の居候メンバー達は大体が用事で出払っている。ビワでさえ山におわす
「今日って八月じゃないわよね……?」
「適当に振ったネタなのによく知ってるね?」*2
「……?なんでなんにもないのが、すばらしい一日になるの……?」
「……やめよっかこの話!」*3
なんというかこう、今までのブラックジョークの中でも洒落にならないモノのような気がしてきて、思わずそう口に出す私と、苦笑を浮かべながら頷くクリス。
間に挟まれた荷葉ちゃんと、その隣のれんげちゃんは、なにがなんだかわからないとでも言いたげな様子で首を傾げていたのだった。
「……で、特にすることもないし、夜空でも見上げながら散歩混じりに帰ろうか、ってことになったはずなんだけど……」
あれからクリス達と別れた私とエーくんは、急いで帰っても仕方ないので夜空の星でも眺めながら、ゆっくりと帰ろうとしていたはずなのだが……。
以前語ったことのあるように、なりきり郷は地下にあるものの、空間拡張技術により『空』がある場所となっている。
そこに浮かぶ太陽や星は、それを管理運行する存在によって移動させられているわけなのだが……。
「よもやよもや、星が落ちてくることがあろうとは……」
「わぁ、綺麗だねぇ」
夜空を見上げながら道を歩いていた私達は、その星の一つが不自然な動きをしたことに気付き、暫くそれを眺めていたのだが……。
次の瞬間、その星は一度キラリと瞬いたかと思うと、私達の目と鼻の先へと墜落して来たのである。……ぶつかってたら死んでたよねこれ?!
隕石の墜落?で死ぬとか洒落にもならない。
っていうか、そもそもこの夜空の星って物理的に浮かべてたんかいっ。私はてっきり映像かなにかかと思ってたよ!
「──ああいやいや。ちょっと誤解させたようで申し訳ないけど、生憎とこれは星が落ちたわけではないんだ。……いやまぁ、
「……えっと、どなた様?」
そうして土煙に視界を塞がれた私達は、その向こうから聞こえる声──鈴の鳴るような軽やかな声に、思わず耳を傾けてしまう。
不思議と『聞かねばならない』と思わせるその声は、しかしながらどうにも
そうして首を捻る内に、土煙は晴れてその向こうに居た人物の姿を暗闇の中に浮かび上がらせる。
──少なくとも、
七色に輝くその髪は、まず間違いなくなにかの創作のキャラクターであることを示しているが……どうにも、該当する人物に思い当たらない。
ここにいる人物は、基本的にはなにかしらの創作のキャラである以上、全く覚えがないというのもおかしな話なのだが……?
そんなこちらの困惑を感じ取ったのか、
「私のことは……そうだな、『メアリー』とでも呼んでくれたまえ。わけあって、姿を晒すわけにはいかなくてね」
「……はい?」
……自分のことを『
ますます困惑する私の様子に、彼女──メアリーと名乗った彼女は、楽しげにころころと笑い声をあげるのだった。
「はぁ、つまり?空から落ちてきたのは不幸な事故で?本当は違うところに行こうとしていた最中だった、と?」
「まぁ、そんなところだね。……私はこれでも忙しい身でね、本来ならばここでこうして油を売っている暇はないのだが……驚かせてしまった手前、なんにもなしに去るというのは私の名が廃る。……まぁこの通り、私は確かに美少女だが──生憎と物理的に渡せるモノがなくてね。申し訳ないのだが、私との会話を報酬として受け取って欲しい」
「へ、へー……」
……なんだろうこの、絶妙な鬱陶しさ。
顔が良いのを良いことに、自分のしたいことをすべてやんわりと押し通して来たのだと匂わせる彼女の言動は、なんというか胡散臭いを通り越してもはや逆に信用できてしまうレベルである。
主に『自分と話すことには、それだけの価値があると確信している』的な意味で。
喉元まで出かかっている誰かの名前が、しかして性格が似ているだけなので違うのでは?……という否定を私の中で生んでいるため、滅多なことは言えないが……。
これあれだよね、少なくともナルシストであることに間違いはないよね?
「そうだねぇ、私が無秩序にそこいらを歩けば、それだけで世界は争いあってしまうかもしれない……これは比喩でもなんでもなく、実際に起こりうることだと言えるだろう。いやまぁ、他人の醜い争いとか好きじゃないから、できれば御免被るけどね!」
「それそんな爽やかな笑顔で言うことかなー……」
「うわぁ、これは見習っちゃいけないおとなだー……」
「おおっと失礼だな君は?……いやまぁ、私を真似しても良いことはない、というのは間違いないとは思うけどね?」
(……で、ナルシストの癖にどことなく、自嘲癖っぽいのが見えるんだよなぁ)
そんな感じで終始鬱陶しい言動のメアリーだが、言葉の節々にはなんというか自嘲的なモノを感じるため、表面的なモノが全てではないのだろうな、とも思うわけで。
……なんだろう、このめんどくさいタイプの人。っていうか、そもそも私はなんで彼女と世間話なんてしてるんだ……?
「ははは。……まぁ、君達が手持ち無沙汰にしていたから、この私と会話をする権利を下賜した……みたいに思って貰っていいよ?」
「なんだろう、上から目線で喋るのやめて貰っていいですか?」*4
「ははは。……いやいや、それは笑えない冗談かな?君、基本的には
「……喧嘩売ってるなら買いますけど?」
「売ってない売ってない。私はただ事実を告げただけ、だよ」
……これやっぱり知ってる人じゃない?
会話の内容から、相手がこちらについて
……面倒臭いのは、ここまでやっといて本当に相手側に
「まぁ、そこが上手くできてるなら『メアリー』だなんて名乗らないよ」
「……」
だから突然自虐的になるなと。
テンションの乱高下を受けているような気分になりつつ、ため息を吐いた私は彼女に視線を向けて、とりあえず一つだけ聞いておく。
「……お望みの展開にはなってます?」
「さぁ、どうだろうねぇ。私としては、君のことはどちらでも良かったんだ。──そもそもこの世界自体が、奇縁の果てにあるもの。その奇縁の中でしか
「……その口ぶりだと、今は違うと?」
半ば相手の正体に気付きながら、そこを明言しないままに進められる会話。
傍らのエーくんが頭上に『?』を浮かべまくっているのに苦笑しながら、私と彼女の会話は続いていく。
──そもそもに。
この世界には特定のモノしか現れないはずで、その中で足掻いていた彼女にしてみれば、突然に現れた私はイレギュラー、それも彼女の求める計算結果には、関係のないものでしかなく。
そもそもに私と言う数値は、いわゆる計算上のノイズに近いモノであり、それをあてにして動くと言うのは──言い換えれば無料ガチャで欲しいものを手に入れることを、半ば確定した事実として語るような──そんな、荒唐無稽のモノでしかない。
ゆえに彼女は最初、それをどうでもよいと捨て置いたし、どう動いても気にしないつもりでいたのだけれど……。
「いやはや、見誤っていたというか、見くびっていたというか。……私達の世界とは
「うへぇ、勘弁して欲しいんですけど……」
「はっはっはっ。まぁ、頑張ってくれたまえ。──
頬杖をついて、大袈裟にため息を吐く私を見て、彼女は変わらず楽しげに笑みを浮かべている。……それはまるで、『楽しむ』という感情以外が欠落しているかのようにも思えるもので。
無論、それは気のせいでしかない。
幾ら彼女が
そんなことを思いながら、正面に向けていた視線を横に動かせば。そこにいたはずの彼女の姿は、既になく。
目を瞬かせ、彼女の姿を探すエーくんに小さく苦笑しながら、もう一度大きくため息を吐く。
「……
風に吹かれて夜空に舞う
……今日は侑子のとこに行ってやけ酒でもするかなぁ、なんてぼやけば、エーくんは意味がわからないとばかりにまた首を傾げていたのだった。