なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
蜂の巣の駆除は梅雨に入る前に終わらせましょう
第二形態一歩手前まで使わされたあの事件から、はや一月ほど。
季節は春から夏へと移り変わる最中、梅雨らしきものが変な時期にずれたせいで、どうにも周囲の生き物達の生活リズム?的なものがずれていることを感じざるをえない、*1そんなある日。
「……蜂の巣の駆除ぉ?」
「ええまぁ、そうなるのよね……」
これまた突然に呼び出された私は、そこでゆかりんから今回の用件について説明を受けていたのだが……。
ええと、私の聞き間違いでなければ、害虫駆除って言いましたかこの人?
怪訝な視線を向けながら問い直せば、彼女は頭を掻きながら先ほどと同じことを、もう一度私に告げてくる。
「だーかーらー、これに関しては外で起きたことだけど、うちにも関係のある話なのよっ」
「猛烈にいやな予感がしてきたんだけど帰っていい?」
「だーめーでーすー!!」
「そんなぁ」
……聞き間違いかなー、と思っての再度確認も、こうして無駄足に終われば肩を落とすよりほかなく。
……いやその、それはもしかして私が蜂嫌いなことを知っていて仰っていらっしゃる……?
「え?貴方蜂ダメなの?」
「スレでずっと言ってたじゃないですかやだー!!」
「そうだったかしら……?」
いやだいやだと駄々を捏ねる私に対し、ゆかりんは首を捻って困惑顔。……そうだったもなにも、スレでずっと蜂はダメって言ってたじゃないですかやだー!
この辺りが元ネタの存在するキャラと、存在しないオリキャラの違いと言うやつで。
元ネタありきのキャラ達は、原作に描写されていたことを極端にねじ曲げて表現することは許されない……とでもいうべきか。
ともあれ、原作で猫好きだったのに何故か猫嫌いになっている棗鈴……とかやられても、それはなりきりとしては失格も失格、なんのためになりきりやってんだテメー、となる行為なわけである。
なので、実はなりきりというのは結構難しい
まぁその辺りは置いといて。
非オリジナルのなりきりにおいては、原作という指標をどれだけ遵守できるか、というところが上手さの争点となるわけだが、オリジナルの場合は少々毛色が違ってくる。
なりきりを扱っているところでも、場合によっては『オリジナルはなりきりじゃない』なんて言われることもあるように、基本的な仕組みは普通のなりきりと同じながら、『守るべき設定』というのは、基本的に周囲は
これがなにを意味するのかといえば、要するに普通のなりきりに対しての評価点となる『再現度』が、オリジナルの場合は最初っから計測されないのである。
なにせ、その『なりきり』が元ネタに忠実かどうかは、やっている本人にしかわからないのだから。
一応、スレを始める際にある程度の情報開示は行われるものの、普通のなりきりが『擬似的に二次元キャラとの会話を楽しむ』のが主体であり、それを相手に実感させるための『再現度』を求めるものであるのに対して、オリジナルのなりきりは『相手の
結果として、余程の設定魔でない限り……いや設定魔でもやるかな?
ともかく、キャラの性格部分はともかく、普段の話や自身の経験の話などについては、自身──やっている本人の体験したものを主体に話す、という形になることがほとんどとなる。
……長々と語ったけど、要するに『話の流れ上で重要でない話に関しては、わりとアドリブで決めてしまうことが多い』ため、結果として一番話題の引き出しやすい『自分自身のこと』が、そのままキャラの設定になることがほとんどなんだ、と思って貰えばよい。
この辺り、大まかな設定こそあれど基本的には中の人の主張が強くなっていく『Vtuber』とかに近いと思わなくもないわけで。……え?じゃあなんでなりきりって廃れてるのかって?そりゃまぁ、文章だと目が滑るし、そもそも場末でやってるし、トーク力とかコミュ力ある人ならそのまま『Vtuber』やった方が上手く行くし……やめよっかこの話題!
ぐだぐだと語ったけど、最終的に言いたいことは一つだけ。
……
人を騙すには本当のことに少しの嘘を混ぜるのがよい*2、みたいな話があるが、全くのほら話を一から作って見せる……というのが難しいことは言うまでもない。
ましてやそのほら話で相手を楽しませなければならないというのであれば、あからさまな作り話感というのは、それだけで興醒めするきっかけを作ってしまうモノとなりかねないわけで。
毎日モノを書くのを繰り返す、となれば引き出しが潰える可能性もそれなりにある。
ならば、自身の日常を面白おかしく脚色してしまう、というのも立派な手段になりうると思わないだろうか?
……その結果として、昔っから『お前は肌が弱いのだから、蜂なんかに刺されたら二度も待たず一度目で死ぬだろうな』などと親から脅され続けてきた
ある時名無し達からの『嫌いなものは?』という話題提供に対し、自身の蜂嫌いを堂々と公言することになった、というわけである。
この辺り、非オリジナルであれば、好き嫌いの設定は明確に定まっていることが多く。
例えば中の人が猫が好きなのに、猫嫌いを公言するキャラクターのなりきりをして上手く行くのか?……みたいな話にも繋がってくるものだったりする。
少なからず自身に近しい人物である方が、そのキャラを『再現しやすい』のは道理、というわけだ。……まぁ、演劇とかのその道のプロであれば、そういう『自身との不一致』もある程度はごまかせるのだろうが……それこそ蛇足というか、今語る話ではないだろう。
「……ええと、早口で捲し立てられたわけなんだけど、結局キーアちゃんはなにを言いたかったんだと思う……?」
「蜂嫌いは中の人由来なので、別にキャラクターとしてのキーアが情けないわけではない……みたいなことではないでしょうか?」
「ちょっとー!?目の前でいちゃいちゃするのやめて貰えますぅー!?」
……そんな私の言葉は、あまりに長かったためかほとんど聞き流されていたようで。
なんやねんその扱いの雑さ、キーアん泣くぞちくしょう、みたいな感想を私が抱くのも仕方がないんじゃないかなー、と思ってしまうのだった。
「ええと、話を戻すけど……『蜂の巣の駆除』がうちと関係がある、ってのはどういうことなわけ?」
「どういうことって……発生した蜂が【顕象】だったってだけよ?」
「やっぱりいやな予感しかしないんですけど?」
で、あれこれと話した結果として、事の子細を尋ね直してみた私なのだが。……【顕象】の蜂ってどう足掻いても厄介事じゃん、という感想しか出てこないわけで。
確かに、出てきたのが普通の蜂ではなく、創作の世界にしか存在しないような蜂であるのであれば、そんなもの一般の人に駆除なんてさせられるわけがない……という理屈はわかるのだが。
いや、なんでよりにもよってうちに案件が回ってきたんです……?
「元々は
「うーん役所仕事感……」
そんな私の疑問は、次のゆかりんの言葉であっさり氷解する。……あー、なるほど。向こうでやってた猪退治みたいなものってわけね、これ。
その流れは今の向こうでも続いているらしく、その仕事のうちの一つがあの猪狩りであった。……一応倒しきったはずだけど、あの付近では昔から巨大猪の噂が耐えなかったらしいので、倒してもそのうちリポップしてたりするのかもしれない。
ただ、それらの存在は文字通りの『怪異』であり、今日本に蔓延っている『逆憑依』関連のモノではなかったとかで。相手の凶悪さというか強力さが増したのはつい最近、ということでもあるらしく。
そういう意味で、
まぁ、その辺りのあれこれは一先ず置いておくとして。
そんな『怪異の噂』があった場所の一角において、例年とは違う異常が立ち上ったというのが、今回の依頼の発端となったようで。
元々そこでは他の
地元の警察が調べたものの、その蜂らしき生き物はあまりにも速く飛ぶため、本当に蜂なのかを含めて確認が取れておらず、結果とりあえず危ないので外出禁止、という状態になっているらしい。
……凄まじく大事になっているが、それにしては住民達は落ち着いてもいるらしく、その辺りも含めてなにかしらの異常が起きているのは間違いない……みたいなことを上司から受け取った依頼書より読み取ったゆかりんは、『私の手には負えません』とばかりに私を呼んだ、ということになるらしい。
ツッコミどころしかない話だが、とりあえず一つ。
「……ハーブかなにかやっておられる?」*3
「疑うんなら私の頭じゃなく現地の常識にしてちょうだい」
「いやそうじゃなくて」
「……?なによ、なにか問題でもあった?」
「あるもなにも、これ……」
「んん?……んんん?」
ゆかりんから受け取った依頼書の一部を指差しながら、彼女に問い掛ける。……ゆかりんはこれが他所から回ってきた仕事だと思っているようだが、厳密には違う。
それを示すものが、そこには書かれていた。……それは、依頼者の名前……ではなく、この依頼がどこから送られてきたモノなのか、という相手の所在地の部分。
指差されたそれを見たゆかりんは、最初の方は首を傾げていたが……やがてそれが
おかしいと私が言ったのは、
少なくとも上司さんとゆかりんは気付けておかしくないのにも関わらず、実際には私の手元に渡るまでそれらの事実は気付かれることなく進んでいた。
その辺りを踏まえて、
そうして彼女がなにかを言おうとした瞬間、
「にゃんぱすー」
「……あれ?なにかお取り込み中?」
「……なんてタイミングなのよ……」
「「?」」
部屋の扉を開いて、こちらに挨拶をしてくる二人の少女。
その姿を見たゆかりんは、頭痛を堪えるように額を右手で抑えるのだった。