なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……あ、おばあちゃん
「ほんとうなん、なにかあったん?」
「あー、うん。あったというか、起こしていたというか……」
「?」
やってきた少女二人……もとい荷葉ちゃんとれんげちゃんをソファーに座らせ、件の依頼書を手渡す私。
返ってきた反応はおおよそ予想通りのものであり、それを見たゆかりんは頭を抱えて唸っていたのだった。
──そう、件の依頼の場所とは、彼女達と初めて出会った場所。
そこから察するに、以前まで噂になっていた
現在の
それを媒体にして、新しい【兆し】が生まれた……という可能性も、決して少なくはないだろう。
なので以前まで行っていたの警戒が緩み、なんらかの認識異常が起きていることをこの時まで認知できなかった……ということなるんじゃないだろうか?
「……まぁビースト擬き、なんてモノまで出てきたのにも関わらず、その一帯の異常が終わってない……なんて風には思わないものねぇ」
「ケルヌンノスのあとの……みたいな?」
「そうそう。あの鬼畜難易度のあとにまだ居るの!?……みたいな?」
絶望的な戦力を持っていた相手が、あくまでも序盤や中盤の壁……大トリ*1のボスはまだ背後に控えている、というのは物語においては定番の流れだとはいえ、流石にそれをリアルでやられると始末に困るというか。
ゆかりんと一緒にため息を吐きつつ、はてさてどうしたものかと悩む私。
大トリ、という風に評したものの、相手はビースト擬きという極大容量の存在を送り出したあとの残り滓、言うなれば脅威度は低いはずのモノである。
……で、あるならば予想される戦力は、先のそれに比べれば遥かに弱く、特に不安を抱く必要はないように思われるが……?
「……これまた物語の定石的に、以前の失敗を糧に更なる飛躍を遂げた相手である可能性ががが……」
「あー……」
こちらの告げた言葉に、遠い目を返してくるゆかりん。
そうなのである、一度負けたボスが再度出てくるのであれば、それは単に『
一度敗れた存在から、新たに別の存在が現れる……というパターンの場合、それは次なる脅威として明確に恐れられる存在になることがほぼ確定しているのである。
ピッコロ大魔王を倒したあとのマジュニア*3……はまぁ、敵対云々の話だとちょっとあれだが、戦闘能力的に跳ね上がっているのは間違いないし、『エイリアンVSプレデター2』におけるプレデリアンなんかは、わかりやすく脅威的ではあるだろう。*4
そういうのでなくても、『前回の敗北』を知って違う活路を求めた存在、というのは姿形が似通っていようが、以前の対処が通じないという時点で普通に恐ろしいものであると言えるだろう。……今回の場合は虫繋がりでしかない?細けぇことはいいんだよ!
まぁともかく、ビーストという脅威のあとに現れたモノである以上、例えそれが弱くとも決して油断できる相手ではない、というのは確かなのである。
「【兆し】の性質的にはちょっと違和感があるけど……まぁ、気楽に行って棒に当たるよりはマシ、ってところかしら?」
「だねぇ。……そもそも絹産姫神自体は『逆憑依』関係なしの土着の神様だったみたいだし、彼女が自身の願いのために【兆し】を利用した──言い換えれば憑依されているのが
「そこまで行くと穿ちすぎじゃない……?」
ゆかりんの言葉に、首肯を返しながら私は言う。
元々は荷葉ちゃんに対して『逆憑依』が行われるはずが、諸々の理由からそれが叶わず彼らが【顕象】となることになったわけだが……。
そもそもの話、あの場に【兆し】として現れたモノが、なにを目的にしていたのかはわからない。
結果として荷葉ちゃんの祈りに反応こそしていたものの、それが本命だったのかと言われれば、こちらとしては疑問符を浮かべなければならないだろう。
それは、人一人に『逆憑依』するはずだったモノが溢れたにしては、
桃香さんの例からわかるように、【兆し】というのはキャラとして成立していなくても、その存在が曖昧となっていさえすれば、ある程度自由に動くことのできる存在である。
それは、それらの【兆し】に定められた方向性を満たす者を探すのに、罠を張るように一ヶ所で待ち続けるのは非効率に過ぎるから、みたいなところがあるのだろうが……ともあれ、言い方は悪いが荷葉ちゃん一人に『逆憑依』失敗したとしても、彼女だけに執心する必要は本来であればないはずなのである。
と、なれば。
あの時の状況はほぼ全てが異常であり、本来【兆し】が求めたモノとは大幅にずれている、という可能性は少なくなく。
荷葉ちゃんのために三つの姿に別れたように、そもそも【兆し】の時点で彼女を優先するものしないもの、といった二者に別れていたとしても、なんらおかしくはないのである。
それこそ、先のケルヌンノスの話と同じだ。
外に出るための出口を塞がれ、その奥で待ち続けた存在──そのようなモノを幻視できるほどには、あの一件には色々と気になる点が多すぎる。
だからこそ、あそこで別たれた片方に目立つ役割を押し付け、自身は地下に隠れて着々と準備を進めていた……なんて予想も出てくるわけなのだ。……いやまぁ、悪し様に考えすぎだとは私も思うんだけどね?
「まぁともかく、最近色々と緩んでいるのも確かな話。ここらでちょっとビシッと気合いを引き締め直す意味も込めて、ちょっとマジモードで挑むべきかもって言いたいわけよ、私は」
「なるほど。じゃあ行ってくれるのね?」
「いやです……」
「うわぁっ!?キーアお姉さんの顔が!?」
「行きたくないって気持ちがこれ以上ないくらいに顔に現れてるね……」
ただでさえ最近は、あれこれと問題にぶつかってばかりな毎日。
それらも気の緩みが引き起こしているのだとすれば、それを嗜めるは人類の敵対者を名乗る魔王としては、普通に仕事の一環だと言えなくもなく。
……みたいな気持ちの話をしたところ、ゆかりんから返ってきたのは笑顔の出動要請。
いやまぁ、こっちの言葉だけ聞いてたら、やる気に溢れているように思えるかもしれないけれどさ?……ちゃうねん、ここはわけわからない話で煙に巻かれて、頭からプスプスと黒煙を吐くゆかりんの姿が欲しかっただけやねん……。
そんなこっちの思惑は知らぬとばかりに、ゆかりんは『yes以外聞かないわよ』みたいな笑みを浮かべ続けていて。
暫く無言で続いた闘争は、ゆかりんがいつまで経っても笑みを崩さないことに折れたこっちの負け、という形で終わりを告げ。
たまたま遊びに来ただけの子供達二人は、おバカな大人二人の争いに、終始疑問符を浮かべていたのだった。
「ぬぅ、蜂の巣の駆除、蜂の巣の駆除かぁ……」
「なんでキーアお姉さんは、蜂が嫌いなん?」
「中の人云々って言っても、今のお姉ちゃんならどうにでもなるんじゃないの?」
ゆかりんルームをあとにした私は、二人の少女を連れだって自身の家へと歩み始めていたわけなのだが。
その帰路の中、二人から飛び出したのはそんな疑問の声だった。
……確かに、単なる人間ならばいざ知らず、今のこの身は魔王を僭称するもの。
たかだか蜂の巣の一つや二つ、瞬きする間に片付けられそう、なんて二人の言葉もわからなくはないのだが……。
「……いやねぇ、なんというかさ?……今から現地で『死ぬがよい』って言われる予感がひしひしとして来ててね……?」*5
「……?」
「あっ、うん、そだよね知らないよねー……はぁ。同じ
こちらが思わず、とばかりに溢した言葉に、二人はキョトンとした顔を返してくるのみ。……いやまぁ、確かに知らない人にはわからないだろうけども……。
これが本当に単なる蜂の巣の駆除ならば、私も嫌がることは……いやまぁ嫌がるけども、ここまで拒否することはなかったはずだ。
じゃあなんでここまで嫌がっているのかというと、これが『逆憑依』案件の話だから、ということが大きい。
今回の場合は【顕象】の方だが──ともあれ、これがこっち方面の話である、ということは半ば確定的である。
前情報としては、とにかく素早い蜂とのことだが……その姿が異形としかわからないのはともかくとして、その
つまり、ここで出てくる蜂とやらが、普通に思い浮かべるスズメバチとかではなく、もっと意味のわからないものである可能性の方が遥かに高い……と言えてしまうわけで。
その結果が緋色の蜂だったりした日には、私は大量の弾幕に擂り潰されて終わりである。
そうでなくとも蜂系のなにか、って時点で大概である。
例えばポケモンのスピアーとかでも、こちらに捕獲手段や対抗手段がなければ普通に無理!……ってなる類いのやつである。
大きさ一メートル級で、かつ普通のスズメバチみたいに群れてるとか絶望しかないっすよ……。
そんな感じにぼやいていた私は、家に帰ってから嫌々出掛ける準備をして、そのまま現場に向かい……。
「……キーアお姉さん、記憶喪失になっちゃった……」
「せんぱいぃぃぃぃっ!!??」
──こうして戻って?来た結果、なんかそういうことになったらしい。
はぁ、なるほど?