なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「イヤすみません前後が!前後の繋がりがまったく意味不明なのですが!?」
「うわぁ落ち着いてマシュお姉さん!説明、説明するから!」
突然の爆弾発言を落とした少女──荷葉の言葉に、持っていた皿を取り落とした少女、マシュが必死の形相で詰め寄っていく。
詰め寄られた側の荷葉は涙目になりながら、自身が経験したことをぽつぽつと喋り始めるのだった……。
「……二人が気にしてるからついていきたい?」
「えっと、ダメかなキーアお姉さん?」
家で準備を進める中、部屋にやって来た荷葉ちゃんが言ったのは、そんな感じの言葉だった。
なんでも彼女の使い魔?的な存在となった蚕と猫が、自分達の居た場所が騒動の発端となっている、ということに思うところがあるとのことで。
それらの確認と対処のため、現地に向かいたいとテレパシー的なもので主張されたのだという。
……まぁ確かに、立つ鳥跡を濁さず*1という話が守られていないのであれば、ある程度引け目のある両者にとって居心地の悪さを覚えるものである……というのもわからなくはなく。
とはいえ、彼女達は結構ややこしい立場の存在である。
二匹を連れていくということは、すなわち両者とは切っても切り離せない存在となっている、荷葉ちゃんとれんげちゃんの同行をも意味するものであるわけで。……私個人の裁量では連れ出せないよなぁ、というのが正直な気持ちなのだった。
「そういうと思って、さっきのうちにゆかりんに許可は取っといたん」
「ええ、れんげちゃん
なお、そんなこちらの反論は読んでいた、とばかりにれんげちゃんから差し出されたのは、ゆかりん直筆の外出許可証。
引率者がキーアちゃんなら大丈夫大丈夫、といわんばかりのその許可証に、思わず半笑いを返してしまう私だが……。
「……まぁ、そっちの二匹は戦闘力全振りで意外と強い、ってのは最近の検査でもよくわかってるし……うん、いいよ。おばあちゃんともお話ししたいだろうしね」
「ほんと?やったぁ!」
「おでかけなん!」
よくよく考えてみれば、その成立過程のせいなのか、二匹の戦闘力は並みのモノではない。
彼女達を害するのは、最低でもシャナクラスでなければ難しい……なんて予想まで立つくらいなのだから、私の心配も半ば杞憂と言うものだろう。
思えば荷葉ちゃんは『逆憑依』系では珍しい、変化前の人間関係が明確に残っているタイプの人物でもある。……祖母に会える機会があって、それが問題にならないというのであれば、こっちが殊更に否定する理由もないだろう。
まぁ、彼女の知る祖母とこの世界に居る祖母が正確には別人、という可能性もなくはないが……それを踏まえてもなお、会えるのなら会っておくべきというのも確かである。
そんなわけで、急遽少女三人旅となることが決定したわけなのだが。
流石にそれだと、
と、いーうーわーけーでー。
「……久しぶりに呼んだと思えば、お前は私を便利屋かなにかと勘違いしてない?」
「そんなことはとてもとても。頼りにしてますよパイセン?」
たまたま暇だったぐっちゃんパイセンを引率として迎え、ぶちぶちと文句を言う彼女の機嫌を取りつつ、ゆかりんのスキマでさっくりと現場に向かったのだった。
「……ここまでに問題点は見られませんね……」
「であるならば、やはり現場でなにかが起きた、ということでしょうか……?」
荷葉の話には、特に不審点などは見られない。
至って普通の──言い換えれば特にヤマもオチもない、単なる導入部分だ。
それ故に、やはり出向先……彼女達の故郷であるその地にて、なにかがあったのだと見るべきなのだが……。
「……また居たのよ」
「虞美人さん、また……とは?」
そうして考え込む面々に声を掛けるのは、この場にやって来ていたうちの一人、虞美人。
不機嫌そうな彼女の言葉に、マシュが子細を聞き返せば。
彼女は不機嫌そうな表情を更に歪めながら、忌々しげにその言葉を口に出したのだった。
「……イマジナリィ」
「え」
「ビーストⅢi/L。その名を持つに足るものが居たってのよ、あそこに」
「……は、はぁ!?」
「ここかァ、祭の場所はぁ?」*2
「なんでいきなりガラ悪くなったのお姉さん……?」
「気にしない方がいいわよ、そいついつもそんな感じだし」
再び足を踏み入れた、彼女達の故郷。
特に大きな変化もないそこは、変わらぬ景観を私達に見せてくれる。
変化があるとすれば、先の警察からの警告により、蜂達を恐れて人々が外に出てこなくなっている……ということだろうか?
あの時は正月近くだったこともあり、人の活気で賑わっていた商店街も、そのほとんどがシャッターを下ろして、不気味な静かさを作り出している。
天気が曇りなこともあり、薄気味悪さを感じさせるような空気が漂っているのは間違いないだろう。
「そういえばパイセン、例のあれ、上手く行ってるみたいですね?」
「……これ付けてると体が重くなるから、あんまり使いたくはないんだけど。付けないと通れないし、ホント嫌になるわね……」
このまま商店街を見ていても、単に気が滅入るだけだと判断した私は、私達と一緒に
それに返ってきたのは、体調不良と引き換えであるのでめんどくさい、といった旨の言葉だった。
以前、ゆかりんのスキマとパイセンの相性が悪い、という話をしたことを覚えているだろうか?
あの時話題にあげた時の列車も、スペックダウン品とは言え乗れている辺り、そのうち銀河鉄道の方とも縁があるのだろうか……なんて話は置いとくとして。
パイセンがスキマに触れると、何故かスキマが保てなくなるため彼女はスキマを通れない、みたいなことを私は言っていたはずである。
なのに何故、彼女がこうしてスキマを利用できたのか。……その理由が、彼女の右手に嵌められたブレスレット。
これは、パイセンの持つ特性を抑え込み、現在の肉の形を定義し直すことで、存在の揺らぎを一定に保つ……とかなんとか言う触れ込みのアイテムであり、これを装着することにより彼女とスキマとの間に起きていることを干渉を抑え、彼女がそれを利用することができるようにする……という、とても画期的な道具なのである。
以前、たまたま琥珀さんに『そういえばパイセンってスキマ通れないんだよねー』と話したところ、興味を持った彼女が計測を繰り返し、最近やっとこさ完成した特注品だ。……もはや琥珀さんってよりはコハクナージって呼ぶべきでは?*3
ともあれ、これによりある意味では最高戦力でもある、パイセンの長距離運用が可能となり、送られてくる問題ごとへの対処も捗るようになったわけなのだ!
……まぁ、一時的にとはいえ大地と彼女の繋がりを切断しているようなものでもあるらしいので、あまり長時間使うと体調不良とかを招くらしいけど。彼女の不満顔も、主にその辺りの副作用から来ているモノだし。
じゃあもうスキマは通ったんだし、外せばいいのでは?……となりそうなものだが、そこはまだ完成品とはいえテストが足りてない、というやつで。
「……付けたら暫く外せない、ってのはどうにかならなかったの?」
「まぁ、試作段階だとそのうち許容量オーバーでぶっ壊れてたことを思えば、まだマシになった方じゃないです?」
ふぅ、とため息を吐く彼女を宥めながら、改めてこの腕輪……『真祖パワー抑える君Ver.2.8』について思い起こす。
これは要するに、精霊の一種である真祖──正確にはパイセンは擬きだが──のスペックの高さが、地球からのバックアップによるモノであることに注目したアイテムである。
パイセンがスキマに触れるとそれを掻き消してしまうのは、吸血鬼自体が揺らぎを持つものであることの他に、『惑星一つをそのまま移動させようとしているのに等しい』という理由があると見た琥珀さんは、それらを一時的に無効にするという方式で試作品を作ったのだ。
……が、それに関しては大失敗。
結果、暫く普通の人間スペック状態になっていたパイセンは、許容限界を超えた腕輪と一緒に爆散する羽目になったのだった。
……なんでパイセンが爆散したのかって?ホースの口を抑えていたハサミが吹っ飛べば、中の水はどうなるのか……という話である。
要するに、普段自然に受け取っているバックアップの数十倍のパワーが突然流れ込んだため、耐えきれず水風船のように破裂した、というわけだ。
字面だけだと笑い事のような気がしてくるが、実際は呪詛爆弾なので近くで実験を確認していた面々は阿鼻叫喚。
暫くは除染ならぬ解呪作業に終始する羽目になったのは、記憶に新しい。
「……人が爆散したのに笑い事、ってのはどうなの?」
「まぁ普通なら人が爆ぜるってテロとかだろうから、徹頭徹尾笑い事じゃないんだけど……これ、パイセンの話だからねぇ……」
「あー……」
なお、荷葉ちゃんからは至極まっとうなツッコミが飛んできたが……。
これ、パイセンの話なのよね……と返せば、彼女はなんとも言えない表情で頬を掻くのだった。
話を戻して、例の腕輪について。
試作品は『バックアップを全部遮断する』方向性で作ったからこそ失敗したが、そうして爆発するまでは塞き止められていたというのもまた事実。
そこで参考となったのが、噂の幻想御手。
ただまぁ、そこにも試行錯誤があり。
パイセンからまったくの別人に受け流すのは無理があり、結果として腕輪そのものの強度の上昇や、それを保持するサブシステムの構築などなど……。
色々詰め込む形となった結果、見た目はゴッドイーターの腕輪*5みたいなゴツさになり、また安全に取り外すためにクールタイムが設けられる、などの改良が加えられることになったのだった。
なお、クールタイムの判断は『彼女が自力で腕輪を外せるようになるまで』。
彼女に流入する力を絞る、という形で成立したものであるため、自力で外せるまで能力値が戻ったらそれ以上の使用は破損する危険がある、という形で装着者に知らせる形となったのでしたとさ。
「……まぁ、いいわ。とりあえず聞き込みでしょう、さっさと行くわよ後輩」
「あらほらさっさー」
「……なにその気の抜ける返事」
そんな感じで始まった、荷葉ちゃん達の帰郷。
しかし、その先にあんなものが待っているなんて、私達はまだ想像さえしていないのだった……。