なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なるほど、事前調査というわけですね?」
「……どことなくジャパニーズホラーの空気*1を感じますが……その次はどうなったのです?」
当初はキーアの記憶喪失の真相を探る為のものだったそれは、出てくるのがビースト擬きだということが予め明かされていることもあり、いつの間にか観賞会の様相を呈し始めていた。
キーアの記憶喪失の理由が
唯一、気になるところがあるとすれば。
そんな聞き手達の態度に対して、話し手の彼女達がどこか申し訳なさげだと言うことだろうか……?
「外に出ると蜂達に拐われる、ねぇ……?」
建物の中に閉じ籠ってしまっている住民達に、外から声を掛けるこの行為……。
周囲の空気の暗さも相まって、なんだか獣狩りの夜にでも迷い混んでしまったのかと錯覚しそうになる私である。*2
いやまぁ、向こうの人の排他的な空気と比べると、ここでの聞き込みは寧ろ、建物の中の人達に心配までされてしまうような有り様なのだが。
見た目がよく似ているからと乗り込んだAC乗り達が、揃って困惑したというデモエクを思い出す感じというか?*3
「……デモエクってなに?」
「ブラック企業で働いていた人がホワイト企業に入って驚く、みたいな風に思っとけばいいよ」
「いや、そっちの方が子供にはわからないっての」
なお、荷葉ちゃんは趣味がちょっと今の子とはずれているため、よくわからなかった様子で首を捻っている。……彼女の提案する主な遊びが、あやとりとかコマ回しとかのような、どことなく昭和感溢れるものであることを思えば、彼女の『最近の遊びはよくわからない』という感想もわからなくはないのだが。
ともあれ、無駄話を行いつつも情報は揃っていく。
村人達の話によれば、外に出た人間は『蜂に拐われてしまう』のだという。
……いきなり胡散臭さと危険度が跳ね上がったが、なんでも命からがら助かった人物が、そんな感じのことを口走っていたらしい。
とはいえこれには語弊があり、例えば『巨蟲列島』や『地球防衛軍』みたいに巨大化した蜂が襲ってきた、というわけではなく。*4
普通サイズの蜂に襲われた人が倒れたあと、それを引き摺って行く何者かの姿を見た、というのが正解なのだそうだ。
ただまぁ、それが本当だとすると『蜂を自在に操る人がいる』というオカルト方面の話になってしまうため、警察などからの警告は単に『蜂に注意』というものになっているようで。
蜂使いについては半信半疑でも、スズメバチが飛び回っているということならば素直に警戒するだろう……という形で、村人達にお触れが出された、というのが今の状況のようだ。
……まぁ、田舎の噂の伝播する速度*5もあって、結果的にはさっき聞いたように、『蜂に拐われる』という微妙に警察が警戒させたかったこととは違う方向の話が、周囲に広まってしまっているみたいだが。
そんな警察の悲喜交々な話は置いとくとして。
先の噂で気になるのはやはり、人の手が関わっているというところだろうか。
現実において『蜂使い』を探すのは難しいだろうが、創作において『蜂使い』を探すことは、そう難しいことではない。
単純に当てはまる人物をあげるとすれば──『HUNTER×HUNTER』のポンズだとか、『Fate/Zero』の『魔蜂使い』オッド・ボルザークなどが例示されるだろうか?
蜂のみに限定しないのであれば、『NARUTO』の油女シノのような『虫使い』なども候補に上がってくるだろう。
なので、関わっているのが『なりきり』関係だと思われる現状、犯人の具体例をあげること自体は難しくはない。
問題があるとすれば、なんのために『人を拐っているのか?』という部分だろうか。
「……?そこは気にするべきところなの?」
「いやまぁ、単純に考えるのなら『蜂の繁殖のため』……つまりは餌にするため、ってことになるんですけど」
「うわぁ」
「は、ハチさん人を食べるん……?!」
「……こんな感じで、あまりにもショッキング過ぎる話になるというか」
「ふむ……?」
スズメバチ類は確かに肉食の昆虫だが、主にそれに該当するのは女王蜂と幼虫のみ。
巣の中で一番多い働き蜂は、基本的に餌を与えられた幼虫が分泌する透明な液か、さもなくば花の蜜を食べるというのが基本である。*6
これには理由があって、単純に働き蜂は液体以外を摂取できない……というのがその理由になる。
これがどういうことかというと、人の腰のくびれの綺麗さを称える言葉に『
……要するに、その細い腰を通って胃袋に到達するモノしか、彼らは食べられないのだ。
その辺りは子細に語り始めると長くなるので割愛するが、ともあれ人を襲う理由が餌にするためであるとするのならば、襲われた人が無事である保障はほぼないし、どこかに大きな巣があることも察せられるだろう。
ただ、この仮定には一つ問題点がある。
これが恐らくは『なりきり』絡みの事件だ、ということだ。
「……ああ、なるほど。単純に餌として人を襲う利点がないのね」
「利点?……うーん、どういうこと?」
「現代社会において人を襲うモンスターなんて現れても、それが物理無効だとか繁殖速度が異常に速いとか、はたまた隠れるのが凄く上手いとかでもない限り確実に絶滅させられるだけ、ってこと」*7
「あー……」
パイセンの言葉に荷葉ちゃんが首を捻るが、次の私の言葉には得心したようになんとも言えない表情を浮かべていた。
これが本当に異世界から現れた存在だとかであるのならば、人間が『自身達を積極的に害そうとする生物に対し、どういう反応をするのか』を知らないだろうから、人を襲うなどという暴挙を行うのもわかるのだが。
ここで想定されるのは【顕象】──すなわち『なりきり』関連の存在である。
支配のための行動ならまだしも、相手を食べるために襲うなんて行為を犯した時に、人類がどう対処するのか……その結果としての絶滅戦争が推測できるだけの知能を持つはずの相手が、そんなことをするとは考え辛いのだ。*8
そもそもにここにいると推測されているのは、八割方弱い方に分類される実力の【顕象】。
タコ殴りに合うこと必至の行動など、まともな考えができるのならばやらないだろう。
で、この推測は『蜂を操る者』がいることで、ほぼ間違いないモノになる。
昆虫の思考形態であるのならば、ある程度の考えなしも許容はできる。……キラービーのように、敵対者に執着し尽くすタイプの仲間もいる蜂系の昆虫であるのならば、その許容値は更に上がるだろう。*9
だがしかし、ここにいる蜂は
明らかに自身の不利益になるだろう行為など、普通はやらせないはずだ。
だからこそ、街に広がる噂が『蜂に食い殺される』ではなく『蜂に拐われる』なのだろうし。
「ただまぁ、そうなると『食べるため』でない場合の、人を拐う理由ってなに?……って疑問に戻ってくることになるんだけども」
「そもそも異形の蜂、って部分も解決していないしね」
一同揃ってため息を吐く。……議論はふりだし、というか。
食糧として人を襲うのはリスキーであり、指導者がそれを知っているだろう存在である以上、それを目的に人を襲っているという線はほぼ立ち消える。
が、そうなると今度は、わざわざ蜂の毒を使って気絶させてまで人を拐っている理由とはなにか?……という、最初の疑問に戻ってきてしまう。
またパイセンの言う通り、異形の蜂というのについても解決していない。
もしそれが特殊な蜂──すなわち創作界隈にしか存在しないようなタイプのモノを指すのであれば、恐らく【顕象】の付随物扱いにされるモノとなるため、そもそも餌自体必要ないんじゃないか?……なんて話にもなってくる。*10
……要するに、余計のこと人を襲う理由がわからなくなるのだ。
こうなってくると、聞き込みだけでは最早判別できない、としか言い様がないだろう。
見えない速度で飛ぶだとか、人を拐うだとか。
それらの情報は全て口頭であり、例えばなにかしらの認識阻害によって情報が統制されている……ということになれば、容易く引っくり返されるモノでもある。
「こっちにはパイセンが居るんだ、以前みたいなトンでも結界でもない限り、大体の異変は看破できるってものよ!」
「……ねぇ、もしかしてわざとやってるのお前?」
「はい?」
「……素みたいだね」
「キーアお姉さんは時々おとぼけなん」
「え、なに、なんで私ディスられてるの?」
「自分の胸に聞いてみなさいよ」
だが、例えそんな認識阻害が実際に行われているのだとしても、流石に現場を目撃すれば看破できようというもの。
こっちには大地からのバックアップを受けているパイセンも居るんだ、以前みたいな失態はおかさねぇぜ~!
……みたいなことを言ったところ、周囲から返ってくるのは冷ややかな視線。
い、いやね?前回は確かにダメだったけど、今回は予想される敵戦力は低め、流石にパイセンまで騙される……なんてことは二度もあるわきゃないって寸法でね?
そもそも仮にパイセンがダメでも、私が見破れない方が低確率……ってのは以前のあれこれでわかってるし。
だからほら、なんにも問題はないのです!
……ってな感じに主張してみるものの、三人からの白けた感じの視線は変わらず。
「な、なんだよぅ。これじゃあ私がポンコツみたいじゃんかよぅ!」
「……場を和ませるためのものなのかもしれないけれど、それだけフラグ立てしてたらそりゃ呆れられるわよ、当たり前でしょう?」
「げふん」
……はい、言葉もございません。
暗くなってる空気をごまかすために、変なフラグを立てているのでは世話がない……。
口は災いの元と常々言っているのはお前の方だろう、などと言われてしまえば、私も流石に黙るしかないのでしたとさ。
気持ちはありがたいけど、と添えられた言葉に苦笑しつつ、いい加減ぐだぐだしているのを止め、真面目モードに切り換える。
人が拐われている……というのは、恐らくは本当だろう。
それを指示する何者かが居る、というのも事実。……だとすれば、その人物を探すのが今回の目標になるはずだ。
そして、今の私達はこの街で唯一外に出ている存在。……待ち伏せしていれば、その目標は向こうからやってくるだろう。
「そういうわけなんで、二人にも警戒するように……って、既にしてるか」
「うん、なんか嫌な感じ……って言ってるかな?」
つまり、ここからはほぼノンストップだ。
そのことを告げれば、他の面々は小さく頷きを返してくるのだった。