なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ではでは、BBちゃんからの耳寄りなお得情報ー!……の、前に」
……マシュから驚いたような声が上がったけど、私は気にせず彼女の方を向いていた。
「ごめんなさいせんぱい。説明もなしにアバターに干渉してしまって」
「あー、いいよいいよ。なんとなく切羽詰まってたんだなってのは分かったし」
「……そこまでお見通しでしたか。その通り、この電子の世界において、単なるアバターでは危険である……というのは、そこのお二人の存在からもご想像頂けると思います。そもそも、私が居るというのもある意味警戒の理由になるでしょうし」
単に憑依者が居る……というだけでは片付けられない状況だと言える今の私達。
現実の
……碑文PCも大概だし、デジモンも大概である。その上目の前のBBちゃん……はまぁ、置いといて。
いずれにせよ、現実空間でならどこかで上限に引っ掛かりそうなものなのに、その上限をスルーしているような気がするのは事実。
その感覚の理由は、どこまでもハセヲ君にある。
「俺が?」
「単なるVRゲームがフルダイブになる……それを可能にするのが碑文という特殊な……アイテム?なわけだけど。電子の海は現実よりも遥かに
「碑文は仕様外の存在ですから、説明できると言い張るのはちょっとあれですけど……逆に言えば、本来しっかりとしたプログラム・ソフトやハードが必要な部分を、代行してしまえるものの存在というのを、暗に示しているとも取れるわけで……」
まぁ、雑に言ってしまうと。
ゲームのチートというのは、あくまでもそのゲームに定められたものの中で、おかしなことをできるだけであって。
ゲームそのものの仕様を変えてしまうようなものは、現実的に言ってしまえば『
……単なるVRがフルダイブになるとか、もろにゲームの根幹に手を加えているとも取れるわけで。
そういう面が『いやなんかちょっとヤバくね?』という気分にさせる最大の要因なわけである。
設定面のヤバさだけなら、デジモン達の方がヤバいんだけどそこはそれ、だ。*1
「ともあれ、ハセヲさんの碑文が許されるのであれば、他のチート系MMO作品のキャラ達も、そのチートを存分に発揮してくる可能性は十分にあります。……ゆえに」
「
「……ん?その子って上級AIなんでしょ?別にキーアちゃんをどうこうとかする必要性なかったんじゃ?」
「え、あ、そのですね……?」
おっと、ゆかりんが余計なところにツッコミを入れている。
……BBちゃんがちょっと焦っているようなので、こちらから少しフォローを入れておこう。
「ゆかりんゆかりん、BBちゃんは上級AIだけど、人類に試練を科す系のAIだから。人間が足掻く姿を求めてるんだよきっと」
「……そ、そうですそれです!私は月の上級AI・BBちゃんですので!無闇矢鱈に力を貸すのは私の主義に反するのです!」
「……ふーむ?」
「さぁ!そういうわけですので、いざネットの海にGO!」
「おー」
「……って、どこに行く気なんだ?」
気を取り直したBBちゃんが元気に腕を上げたので、同じように腕を上げて歩き出そうとしたら、ハセヲ君から待ったが掛かった。
いや、どこに行くもなにも。こういう時にする事なんて決まってるじゃないのよ?
「そりゃもちろん、ルートタウンでしょ」*2
「情報収集はMMOの華、ですからね!ではでは、ルートタウン『アークス・ロビー』に、レッツ・ゴー!」*3
「帰りまーす」
「ああ!?せんぱい!お気持ちはわかりますがどうかここは留まって!留まって下さい!」
「嫌じゃー!!スペースオペラまで混じりそうなルートタウンなんか絶対に嫌じゃー!!!」
「えっと、アークス・ロビーというのもどこかの作品のものなのですか?」
「あー、そうねぇ……」
オンラインゲームにおいて、情報は命!
なので、それを集めるために移動しようと思ったんだけど……。
いや、なんでそこがオンライン・ロビーになっとるんですかね!!?
「な、なんだ期間限定コラボロビーか、驚かせやがって……」
「いやそもそもダークファルスとか出てきたらどうしようもないでしょ今の私達だと」*4
「そもそもPSOは現実の方の判定になるのでは……?」
あれこれ言いながらサイバーチックな建物の中を進む。
場所が場所だけにマジでビビったけど、単にコラボで内装貸して貰ってただけらしいので一安心である。
……リアルでここに飛ばされるなんて事あったら、流石にいろいろ考えねばならぬところだったけど。
いやでも現実だったら上限引っ掛かるから、そっちの方がマシだったりするのかな……?
まぁなんにせよ、できれば何事もなく終わって欲しいものですとしか言えないや。
そんな事を思いながらふとアイテム屋に目を向けて、そこに売っているものに目を丸くした。
「……ポーションにやくそうにキズぐすりに……って、節操無さ過ぎやしないこれ?」*5
「このゲームのオーナーが色んな会社に頼み込んで、コラボを成立させた結果だって聞くぜ」
「いや、頼み込むにしても限度があるでしょ……」
「とはいえ、そのおかげで私達が目立たないところもありますから……」
「……そうか、コラボアバターだと思われてるのか。……いや、それでもアグモンは目立つんじゃ……いや、目立たないなこれだと」
置いてある品物が、どう考えても他所のゲームのアイテムばかりだったので、ちょっと呆れてしまった。
……とはいえ、BBちゃんの言う通り、その節操の無さで私達が目立たなくなっているのも確かなようだった。
周囲を見渡せば、本当に色んな見た目のキャラクター達がロビー内を闊歩している。
その中には、寧ろどうやって許可取ってきたんだろう?みたいな世界一有名なネズミの姿もあった。……いや、本当にどうやって許可取ってきたし?*6
ともあれ、この節操の無さがこのゲームの醍醐味の一つなのだろうな、というのはわかる。
そもそも『三爪痕』がモンスターとして実装されてる辺りがわりとびっくりなわけだし。……と、すれ違ったPCがアトリの姿だったのを見つつ思う。*7
「逆に、見ただけじゃなりきりなのかどうかわからないわね、これだと」
「んー、ハセヲ君みたいにわかりやすければいいけど、そうじゃなかったらちょっと見付けられるかわからないかなー」
「その辺りはこのBBちゃんにお任せを!それくらいなら問題ありませんので!」
「なるほど、頼りにしてるよー」
「あ、はい。お任せ下さいせんぱい」
(…………なんでしょう、このBBちゃんから感じる違和感は)
見た目だけじゃ相手が単なるコラボアバターなのか、それとも私達みたいななりきり組なのかわからないね?
みたいな話をしていると、BBちゃんからそれは任せて欲しいとの提案。
……まぁ、そのくらいなら大丈夫かと思って了承の言葉を返したのだけど……。
おっと、マシュも流石に違和感を抱いたらしい。
こちらに問い掛けるような視線が向いているような気がする。
とはいえ、今それを話すのは彼女も望んでいないようだし……まぁ、後でいいか。
「ところで、ここからどこに行く?」
「んー、談話室的なものがあればそことか?あとはそこらのお店の近くにいる人に話を聞くとか」
「……なんか、異世界転生モノのテンプレみたいな行動だな」*8
「テンプレと言って侮るべからずよハセヲ君。情報収集なんて、大体似たようなやり方しかできないんだから」
折角のオンラインロビーなんだから、目立たないところでちょっと立ってるだけでもある程度話は聞けるわけだし、まぁ適当でもどうにかなるんじゃない?みたいな感じで一時解散。
十分後を目処に、またポータルの前に集まることにして、二手に分かれる。
私はアグモンと、ハセヲ君はBBちゃんと一緒だ。
「キーア、ボク達はどこを目指すの?」
「そうねぇ、本当に異世界転生なら酒場とかなんだけど。生憎とこれゲームだからねぇ」
「でもあるみたいだよ、カフェ」
「へ?……ホントだ。……いや、そこまで再現してるんだ?」
傍らのアグモンとどこに行こうかと話す私。
……情報収集と言えば酒場、っていうのはどこが最初に言い出したんだろうね?
なんて思いつつ悩んでいたら、アグモンが天井から吊り下がっている看板を指差しながら声を上げる。
見れば、ショップエリアの東側に『フランカ's カフェ』なる場所に繋がるテレポーターがあると記されていた。
……そういえば、最近のMMOって食事についてもいろいろ実装するようになったんだっけか。
とはいえ、コラボ先の内装をどこまで再現する気なのか、という気がしないでもない。
……許可取ってるんだから怒られたりはしないんだろうけど、それにしたって期間限定なんでしょこれ?
使いまわしもできないものなのに、どんだけ本気で作ってるんだか……。
「……まぁ、とりあえず行ってみる?アグモンが食べられるものとかあるかも知れないし」
「ホント!?やったぁ、パフェとかあるかな?」
「カフェだしあるだろうねぇ」
両手を上げて喜ぶアグモンの手を引いて、そのまま人の波を歩く私達。
一分もしない内に目的のカフェについたので、そのまま店員に案内されて席につく。
「どしたのキーア?なんか難しい顔してるけど」
「いや、あのウエイトレスさんの服、どっかで見たことあるような気がするんだけど思い出せなくて……」
「ふーん?」
机に頬杖を付きつつ、むむむと唸る。……喉元まで出かかってる気がするんだけど、うーむ。
再び戻ってきた店員に注文を頼むアグモンを横目に悩むものの、ちょっと思い出せそうにない。
……なんかこう、ちょっとしたきっかけがあれば思い出せそうな気はするんだけどなー?
「まぁ、こういうのはそのうち思い出すよね、というか。私チーズケーキお願いしまーす」
「はい、ジャンボパフェとチーズケーキですね?お飲み物はどう致しましょうか?」
「そうねぇ……ん?」
店員さんに注文を告げている最中、奥の席の方でなにやら騒いでいるのが見えた。
……ふむ、こういうのって積極的に絡みに言ったほうがいいのよね、基本的に。
なんて思いつつ、ちょっと席から身を乗り出してみた私は、騒いでいた人物の姿を見て思わず唖然とするのでした。