なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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塵も積もればなんとやら

「……ええと、つまりはどういうことなの?」

「確かに、今ここにいる私は()()()キリアだけど、同時にそれが許されているのは私の持つ特殊性ゆえ。他の面々の場合は──そうね、素直に『再現度の壁』に阻まれて、兆しすら生まれずに終わるんじゃないかしら?」

「…………????」

「長い、三行で」*1

「ワタシ

 再現度いらない……

 弱いね……」*2

「何この人、顔の横に吹き出し作ってまで三行で説明したんだけど!?」

「えー、やれって言ったのそっちじゃーん」

 

 

 長い会話でシリアスを維持するのに疲れたのか、段々所作が雑になってきたキリア。……あの子(キーア)にしてこの親(キリア)あり*3ということか、気の抜きかたはとてもよく似ていると言えるだろう。

 ……それ故に周囲は調子を崩されているわけなので、決して良い話ではないのだが。

 

 ともあれ、彼女の説明を聞いた紫はといえば、結局よくわからないのか首を傾げている。

 でもそれも当たり前である。そもそもの話、キリアは一番重要な部分を話さないままに、自身のことを説明しようとしているのだから。

 

 

「……えー、でもなー。この子(キーア)が説明したくない理由もわかるからなー。説明すると余計なプレッシャー掛けちゃうだろうしなー」

「ええと、それほどまでに説明したくない()()がおありなのですか?」

 

 

 とはいえ、それに触れると言うことは──彼女にしてみれば、余計な心労をこの世界の人々に与えるモノにしか思えず。

 既に『逆憑依』という驚異に晒されているこの世界に、新たな問題を引き込むのもなー……なんてぼやきながら、小さく頭を掻いているのだった。……いわゆる()()相当の人物に、余計な警戒をさせたくないという思いもなくはなかったが。

 

 ともあれ、ここまで話したのならもういいか、なんて気分が湧いてくるのも事実。

 後でこの子(キーア)がどうにかするでしょう、という凄まじいまでの雑な放り投げを決め込んだ彼女は、あっさりとそれを話すことにしたのだった。

 

 

「私が()()()()()ってことはね、その世界の滅びが近いってことと同義なのよ」

「……は?」

 

 

 そう、まるで明日の天気を話すかのような気軽さで放たれたその言葉は、まさに戦略核*4の如き衝撃を周囲にもたらしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……は?いや、は??」

「彼女が私を呼びたくなかった理由もよく分かるわよねー。だって()()()()()()()()()第二形態(キリアになる)ってのはどこぞの()()()()()の偏屈共と似たようなことをしている、ってことになるんだから」

「いやその!!説明!ちゃんと説明してください!!」

 

 

 周囲は正に大混乱。

 ある程度先に話を聞いていた三人にしても、そこに関しては初耳だった為唖然とした顔を晒しているし、その他の面々も程度の違いこそあれど似たようなもの。

 そんな中、次いで放たれた言葉にマシュは涙目になりながら説明を要求。……薄々何を言っているのかはわかっていたが、それでも否定材料が欲しくて相手の説明を求めてしまう辺り、重症である。

 無論、最弱の魔王様(キリア)はその辺りを一切気にもせず、確りと答えを述べてしまうわけなのだが。

 

 

「ほら、アトラス院。あそこって世界の滅びを覆す為に、更なる滅びを生み出してしまうタイプのところでしょう?*5……少なくとも、キーアの認識上では()()()()()()()()()()()()()()ってのはそれと同義。だって、私がこうして()()姿()()()()()()()()世界っていうのは、最早滅びかけの虫の息、なんで生きてるのかわからない……まるで鋼の大地*6の地球のようだ、ってことを示すものなんですから」

「…………」<ブブブブ

「紫が白目を剥いて泡を吹いてる!?」

「わー!?」

 

 

 真面目にヤバい話だった為、紫は死んだ。……無論比喩表現だが、実際心臓が止まってもおかしくない衝撃だったことは確かである。

 

 気になることは多数あれど、よもや世界の滅びを告げる使者だったとは。

 そんな困惑を隠しきれないまま、マシュは更なる説明を要求する。……こうなったら『毒を食らわば皿まで』*7というやつである。

 

 

「そうねぇ……彼がキーアになった時、少なくとも彼の認識上では()()()()()()ってことになってる、ってところから話す?」

「」<ブブブブ

「マシュが死んだ!?」

「この人でなしー!!」*8

 

 

 なお、与えられた衝撃は更に大きく。マシュは一度三途の川を見る羽目になるのだった。

 

 数分後、漸く告げられた言葉の衝撃から立ち直る一同。

 ……何度も何度も『認識上では』と前置かれている辺り、誇張表現の可能性があることに気が付いたからだ。

 

 

「そうねぇ、まぁ幾つかは認識に間違いがある、ってのは確かね。その辺りも踏まえて──いい加減、私がなんなのかを話しておきましょうか」

「はい、よろしくお願いします……」

 

 

 さっきまで泡を吹いていた二人に、周囲からの視線が突き刺さるが……両者は大丈夫、という風に小さく笑って、彼女の言葉を待っている。

 それを見たキリアは小さく苦笑すると同時、自身が一体どういうものなのかを話し始めるのだった。

 

 

「『都市世界シリーズ』って知ってる?」

「え?……ええと、川上稔氏の執筆した小説群の総称、ですよね?」*9

「ああ、あの辞書みたいな太さのラノベね」

「それが、この話になんの関係が?」

「いやまぁ、これだけが関係ある、って話じゃないんだけど。──この作品群には、流体(エーテル)*10ってものがあるのよね。それから……『ゼロの使い魔』なら虚無によって操作されているらしい小さな粒とか?……まぁそういう風に、世の中には殊更に小さいもの、っていうのを定義したりしている話があるのよね」

 

 

 彼女が話し始めたのは、万物を構成する原子──それよりも小さいものについて定義した数々の作品達のこと。

 現実においても、原子内の陽子の数を変化させられるのなら、あらゆるモノが作れるかもしれない……なんて話をキーアがしていた通り、もしも殊更に小さい世界を自由自在に操れるのなら……それは想像以上に、恐ろしいことができてしまう証左になるのかもしれない。

 

 

「……いや待ちなさい、もしかしてお前……」

「その中でも『流体』の考え方にはちょっと驚いたんじゃないかしらね、だって彼はその作品をさほど見ていなかったけど。──()()()()()()()()()()()()()人が居たって、後から気付くことになったのだから」

「同じようなこと……?」

 

 

 そして話題は最初にあげた例──『流体』についてのものに戻る。

 これは、ありとあらゆるモノ──それこそ単純な物体に止まらず、光や闇・時間や空間に至るまで、その全てを構成するとされる最小の物質である。

 物質だけでなく非物質──特に時間という形のない概念的なモノをも構成している、という辺りに現実との大きな差異を認めざるを得ないが──しかし、現実でも似たような議論というものはされている。

 

 超弦理論*11と呼ばれるそれは、自然界に存在する四つの力──すなわち【電磁気力】【弱い相互作用】【強い相互作用】【重力】の四つを一つの記述に纏めようとする『万物の理論』の証明候補となるとされているものである。

 詳しく語るとまたスペースを圧迫するので、端的に述べるのなら──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだと言えるだろう。

 

 

「ところで、話を戻すのだけれど。──もし仮に、絶対に誰にも勝てないモノがあるとして。それって、どういうものだと思う?」

「え?ええと……」

 

 

 そして、話は元に戻ってくる。

 

 最弱とは、どういうことか。

 あらゆる状況、あらゆる場所、あらゆる相手に対して、必ず負けるものがあると定義する時。それをもっとも単純に満たしうるモノとは、一体なんなのか。

 答えはとても簡単。──()()()()()()()()()である。

 

 

「先の『流体』で言うのなら、それを構成する数千億の素詞達。それは『流体』の性質を決めるものだけれど──逆に言えば、()()は『流体』という形に()()()()()()と見ることもできる。そんな感じで、構成要素となる小さなモノ達が、全て隷属して(負けて)いると仮定し続け、ひたすらに小さなモノを求め続け──」

 

 

 その果てに存在しうる、殊更に小さなモノ。

 ひたすらに割断を続け、小さく小さく負け続け。

 どんなものにでも、必ず()()と──含まれ(隷属し)ていると言い張れるほどに微細となったもの。

 

 その果てを指して彼は、こう名付けた。

 

 

「──【虚無(Forfeiture)】。*12星を砕いた(スターダスト)その先に、現れし虚ろの根源。ありとあらゆるモノを無に帰せし、呆気ない終わりの形。それが私という魔王の真の姿、ってことになるのかな」

 

 

 

 

 

 

「……中二病以外の何物でもない」

「ちょ、八雲さん!?」

「あっはっはっ!だよねー、黒歴史まっ逆さまだよねー!」

「ええっ!?」

 

 

 大真面目に語られた妄言に、紫は半ば死んだような目で返答を溢し。

 それを受けたキリアは、腹を抱えて大笑いをしている。

 間に挟まれたマシュはと言えば、わけがわからず困惑するばかりだ。

 

 そんな中、虞美人だけはその言葉の意味を察し、小さく考え込んでいたのだった。

 

 

「……あらゆる全てを纏めたが故に虚無と化した、とか言う話は?」

「あ、それ聞いてたんだ。……そうねぇ。(虚無)を見つける為の実験……みたいなものかな?あらゆる全ての構成要素を一つに纏め、それらを使いこなすモノを作ろうとしたどこかのバカ()が、大ポカをやった結果……というか?」

「……ああ、なるほど。さっきの鶏卵の話繋がりで、お前を産んだ誰かに付いてもキーアは書いていたのか」

「そういうこと♪まぁ、フレーバーみたいなものだから適当に流しておいてー」

「もう何一つとしてよくわからないんだけど……つまりどういうことなの?」

 

 

 そうして彼女が尋ねたのは、以前キーアが語っていた彼女の能力の説明について。──それもまたキリアからキーアにする時に設定を簡略化した結果のもの、と答えを返された虞美人は、小さく頷きを返すのだった。

 

 ともあれ、口頭での説明が専門用語やら中二病的言葉やらが混ざる為に、わけがわからないモノになっている……というのは、紫の反応からしてもよくわかるわけで。

 そんな彼女の憮然とした様子を見たキリアは一つ頷いて、わかりやすい例を一つ見せることにするのだった。

 

 

「『今貴方の口を私で上書きしたけど、どう?』……ってなにこれ!?」

「なんにでも含まれている、って言ったでしょ?──私が居るってことは、そんな風に()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性を産む、ってことでもある。……もうこの時点でSK-クラスとかNK-クラスとかの世界終焉シナリオ*13感あるでしょ?……まぁ、実際には私が滅ぼすんじゃなくて、私が出てくるほど現実が曖昧になってる……ってことの方が重要って話なんだけど」

「……もういっぱいいっぱいなんだけど、まだ何かあるわけ?」

 

 

 その例と言うのは、紫の口を勝手に動かすというもの。

 彼女はありとあらゆるモノに負けている為、ありとあらゆるモノに含まれていると言える。*14

 それ故、こんな風に唐突に相手を操ることもできるのである。

 最弱とはなんなのか、一体どういう原理で操ってるのか?……疑問は尽きもしないが、話は更に先がある。

 

 

「さっきも言ってたでしょ?世界の滅びかけ云々って。……砕かれた星は、新たな星の種となる。雑に言えば、私って言うのは()()()()なのよ。新世界のね」

「はぁ???」

 

 

 いよいよもって、紫達の困惑はピークを迎えるのだった。

 

 

*1
遥か昔のネット黎明期から続く、長文への返し文句。他には『三行でおk』『今北産業』(=()スレに来た()ばかりなので三行(産業)で流れを説明して欲しい、の略)などが類似の言葉か。なお、日本人の五割ほどは五行以上の文章は読まない、なんて噂があったりする。長い文を要約する技能にも関わってくるので、三行に纏めるのは意外と難度が高い

*2
ヤンマガの下品な漫画(どれだ……?)『サタノファニ』より、フロイド・キングの台詞。調べる時は(結構下品なので)気を付けよう!……なお、このとにかく下品下品と言う流れ、ヤングマガジンの漫画を語る時にはわりとテンプレートな語り出しだったりする(『ヤングマガジンはそろそろあの下品な漫画を打ち切るべき』『どれのことだ……?』というお約束めいた流れがある。まぁ比較的?表に出しやすいのでも『彼岸島』とかなので然もありなん)。なおこの台詞、コラで『進撃の巨人』のライナーが、原作者の諫山創氏に捕まっているモノが有名だったりする(こっちは『ワタシ原作者……強いね……』となっている。そりゃ強かろうよ……)

*3
元の故事成語は『この親にしてこの子あり』。『孔叢子(くぞうし)』の居衛篇内の文章『子思曰、有此父、斯有此子、道之常也』が由来とされる。元々は『このような立派な親だからこそ、このような立派な子が生まれるのだ』という良い意味の言葉だったのだが、日本で使われるうちに『このような親だから、子もこのようになってしまうのだ』という悪い意味も含まれるようになっていった。現代日本で使う場合は、似た意味の『蛙の子は蛙』等と共に、基本的に悪い意味としての使用が多くなるようだ。ここでは順番がひっくり返っている為、子供の態度を見れば親の性質も自ずと見えてくる、的な意味になるだろう

*4
核兵器の中でも、戦略的目標に対して使われる(もしくはそれを想定した)威力のもの。戦術核よりも威力が高いと覚えておくとわかりやすい

*5
型月世界に存在する組織の一つ。魔術協会の三大部門の一角であり、主に穴蔵の中で錬金術を主体に扱うとされる場所。『世界の滅び』に対する研究をしているのだが、一つの滅びを覆す為にそれよりもヤバいモノで吹っ飛ばす、みたいな脳筋行為しかできないヤバいところでもある。仮にどこぞの財団があったのなら、絶対キレ散らかしていることだろう

*6
奈須きのこ氏の小説の一つ……だが、実際は作品としては発表されてはおらず、その設定やエピソードなどが断片的に語られるのみとなっている作品。星が滅びたにも関わらず、その地表で足掻き続ける人類に対して降りかかる、様々な災厄が主な主題となっている

*7
江戸時代には『毒食わば皿()ぶれ』という表記だったとされる。一度悪事に手を染めてしまったのならもう後戻りはできないのだから、最後まで徹底的にやるべきだ、という意味の言葉。そこから、『乗りかかった船』と同じく『一度関わった物事を、最後までやり通す』という意味が加わったらしい。その場合『毒を~』の方はどちらかと言えば、やけっぱち感が付き纏う感じがある

*8
海外アニメ『サウスパーク』で頻出するやり取り、およびそれを元ネタとした『カーニバル・ファンタズム』での『ランサーが死んだ!?』『この人でなしー!』から。死ぬということが異様に軽い場所だからこそ、飛び出す台詞とも言えなくもない……かも?

*9
『境界線上のホライゾン』『終わりのクロニクル』なども含まれる川上稔氏の作品群のこと。全体でどれくらいの長さになるのかとか考えてはいけない()

*10
『A・TELL』。ただ語るもの、などと呼ばれるもの。作中世界のありとあらゆるモノを構成している最小物質。音律による変化を産んだ為、こう名付けられたのだとか

*11
『超ひも理論』とも。物質の最小構成単位を素粒子──(零次元)ではなく、(一次元)として捉えるもの。なおそれだけだと『弦理論』なので、そこに『超対称性』(ボソンとフェルミオンの入れ換えを可能とする理論)を加えたモノが『超ひも理論』となる。何故そんなことが必要なのかと言えば、素粒子には大きさが存在しない為。正確にはわからない(計測できない)ので零として扱っている(実際その扱いで大体の計算には影響が無かったりする)なのだが、これをそのまま重力関係の話に突っ込んでしまうと『大きさがゼロなのに質量がある』となり、たちまちブラックホールになってしまうのである。これが今ある理論の問題点であり、それを解消する為に『紐だから長さがある』としたのが『弦理論』というわけだ

*12
英語の意味は『放棄・紛失・没収』など。『あらゆるモノを纏めた結果、失った』という事を指してのネーミング

*13
『SCP財団』で語られる世界の終わりの(K-クラス)シナリオのこと。前者は支配シフト、後者はグレイ・グーなどとも呼ばれている

*14
さっきの理論から。なお『負けてるのになんで好き勝手出来てるの?』という部分には答えていない


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