なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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サクリファイス・エスケープ

「……で?結局のところ、何をどうすればゴールにたどり着くんだい?」

「うーん?そうねぇ、彼女(キーア)に『うるせェ!行こう!』ってできたらゴール?」*1

「いや、どうやって聞かせるのよそれ……」

 

 

 こっちも元と変わらず閑散としてるのねぇ、なんて結構失礼な言葉を吐きながら、キリアは頼んだナポリタンをくるくるとフォークで巻いている。

 それを「おおー、華麗なフォーク捌き……っ!」などと感動しながら見ているココアとか、はたまた「うちもスパゲッティ食べたいん」「じゃあお昼はそれにしよっか」などと仲睦まじくお昼ご飯の相談をしている荷葉とれんげの二人はまぁ、置いておくとして。

 

 とりあえずの目標として、リリースして特殊召喚……いや寧ろ重ねてエクシーズか。*2

 ともかく、世界から消えてしまった(フィールドに居ない扱いの)キーア*3をこちらに呼び戻すことを目標と定めた一行だが、その進退は最初から窮まっているのだった。*4

 

 

「……アンタが無理矢理連れ戻せば早いんじゃないの?」

「そりゃまぁ、早いかもしれないけれど。……それって死者蘇生の時の『それ本当に本人?』問題を解決できないから、正直おすすめはしないわよ?」

「むぅ……」

 

 

 ここでもどこかでもない場所で、ただ漂う存在となっている現在のキーア。

 しかしてそのような状態であれ、ここにいるキリアならば呼び戻せる、ということは確かだろう。与えられている設定が全て真であるのならば、それくらいできてもおかしくはない。

 

 が、それに対して彼女が口にするのは、死者蘇生というものの難しさについて。──この場合はあくまでも臨死であり、本当に死んでいるわけではないものの。一つ対応を間違えれば、そのまま黄泉の国に落ちていってしまうような場所に、現在の彼女があることは間違いなく。

 で、あるならば。それを呼び戻すという行為が、例えばイザナギだったりオルフェウスだったりの『黄泉返り』の逸話に近しいものであると考えるのは、決しておかしい話ではない。

 

 故にこそ、彼女はそれを指して、完全な死者蘇生の難しさを口にするのだ。

 一度完全に断たれたモノは、例え同じ地点から再開しようとも『一度途切れた』というラベルを貼られてしまう。

 それはすなわち、その断絶の前後が、本当に同一のモノであるのかを疑問視させるものだ。

 もし、蘇生のあとにふと『人が変わった』と感じることがあったとして。──それを、『蘇生のせい』ではないと言い切れる者が、どれほど居るだろうか。

 

 故に、細い繋がりすら残されておらず、完全に途切れたモノを再度呼び戻す──完全な死者蘇生というものに、彼女は疑問を提起するのである。

 

 

「仮に本当にそれ(死者蘇生)できたとしても、些細な違和感で不和を呼ぶものにしかならないのは明白。名称ターン(いち)じゃないなら、墓地に行ったモンスターを蘇生して再度効果が使えるように。確かに同じもの(カード)なのにも関わらず、蘇生前後で違うもの(カード)と扱われることは幾らでも類例を出せるもの。……そういう違和感に付き纏われ続けても良いって言うなら、私が全部やってもいいけど……」

「……いやその、恐らくはこちらに発破を掛けるための言葉なのでしょうが……何故例に出されるのがデュエルモンスターズなのですか……?」*5

 

 

 まぁ、彼女が説明に使うもの(カード)のせいで、今一会話が引き締まりきらないわけなのだが。

 

 マシュからの困惑混じりの苦言に、キリアは首を傾げながら答えを返す。

 

 

「……?えっと、デュエマとかマジックとかの方が良かった?私そっちは履修してないから、調べながらの説明になるけど……」*6

「いや説明に使うものの問題ではなくてですね?」

 

 

 世界は一枚のカードの表と裏から始まった、*7なんて話もあるくらいだし、説明するにはピッタリだと思ったんだけど。

 ……などという、ずれにずれまくった返答に気概を根こそぎ抜かれつつ、マシュは小さくため息を吐く。

 

 ともあれ、仮に全て一人で解決できたとしても、彼女を頼る……というのは難色を示されるものである、ということはわかったのだから、ここはもう彼女に関しては単なる賑やかしだと思っておく方がいいだろう。

 そんなことを周囲に話しながら(当の本人(キリア)はそれを聞いて、ケラケラ笑っていた)マシュは椅子から立ち上がる。

 自身に集まる視線を受け止めながら、マシュはキリリとした顔で宣言するのだった。

 

 

「せんぱい天岩戸作戦です!」*8

「……なんて???」

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、キーアの奴が?手違いというか勘違いというかで?自分を死んだと勘違いしてこの世ならざる場所に閉じ籠ったから?外で楽しそうにすることで引っ張り出す?……わりぃ、俺の頭じゃ何言ってんだかさっぱりだわ」

「なるほど、なりきり郷では常識に云々、というわけですね!」

「……いや、なんでその結論?」

 

 

 マシュから事情を説明された銀時は、常と変わらぬ死んだ魚のような瞳を、僅かに困惑に染めながらそう答えるのだった。

 

 場所は変わらずラットハウスだが、あれこれと人が呼ばれた為、その店内は想像以上に賑やかなモノになっている。

 呼ばれた人達はキーアとそれなりに関わりの深かった人達ばかり。それ故、ある意味では同窓会みたいな空気になっているわけなのだが……。

 

 

「ふーん、なるほどねぇ。……正直頭が痛いって思いの方が強いんだけど、まぁキーアを呼び戻すのには手を貸すわ。ここで借りを作っておくの、後々のあれこれ的にも良さそうだし」

「凛ちゃん、それ魔法少女らしからぬ理由じゃないかな……?」

「正しさばかりでは物事は立ち行かぬ、ということだな。……一応行っておくが、私は打算なしに手伝うつもりではあるわよ?」

「ああはい、宜しくお願いしますねチーム魔法少女の皆さん」

 

 

 キリアとキーアの設定について説明された結果、理解を放棄してとりあえず恩を売り付けることに決めた凛と、それに苦笑を溢すなのはや、小さく頷く翼。

 少し離れた位置では琥珀が何やら機械を弄っているし、更にその奥ではその機械を物珍しげに眺めるさやかの姿も見えた。

 

 

「ふむ……なるほど、言いたいことは山程あるが、今は置いておくとしよう」

「そいつはどうも、水の神様(メルクリウス)さん?……そういうとこ、本人(原作)からすると取っ付きやすくていいと思うわよ?」

「はははは獣のこれは喧嘩を売られていると見ていいのかなはははは」

「……やめよ、このような場所で戦端を開こうとするな、水銀の」

 

 

 そのまた向こうでは、なんとも言えない不快感を覚えるのか、とはいえ彼の『華』の(意味合い的には)母になる相手だから殊更に厭うこともできないのか、なんとも言えない小競り合いを続ける水銀とキリア、それからその二人を宥めるマスターテリオンの姿がある。

 どこからともなく話を聞き付けてやってきた、とのことだが……全てを抱き締めるモノであるとはいえ、その肩書き(魔王)通りの人物であることやら、その肩書き(魔王)から感じる印象などから、なんとも微妙な空気になってしまっているようである。

 

 まぁ、厨房で料理をしている魔王(波旬)に出会う方が、酷いことになるのは目に見えているので、ある意味まだマシな光景なのかもしれないわけだが。

 

 

「……うちのメンバーが苦労を掛けるな」

「ははは……大丈夫、まだ耐えられますわ」

「そ、そうか……」

 

 

 そことは別のテーブルでは、粗相をしそうになっている仲間にハラハラしているアインズと、その横で(そもそもこの座っている位置自体が胃痛の原因なんだってば)とでも言いたげな紫が、表面上は仲良さげに会話をしている姿も見える。

 ……粗相云々については、そのまた別の席で『キーリートーくーんー?』『げぇ?!アスナ!!?』している二人組を筆頭に、結構わちゃわちゃしているのでアインズが心配するのも然もありなん、と言ったところではあるわけだが。

 

 ともあれ、ラットハウスが騒がしくなっていることは確かな話。

 そんな店内を水銀から離れ、楽しげに眺めるキリアは。

 

 

「……ふふっ、まぁいいんじゃないかしらねぇ」

 

 

 と呟きながら、手にしていたカップを傾けるのだった。

 

 

*1
『ONE PIECE』より、チョッパー勧誘時のルフィの台詞。ゾロからは『うるせェって勧誘があるかよ』と言われたりもした

*2
『遊☆戯☆王OCG』より、諸悪の根源()の一つ。特定のモンスターに対し、それに重ねることで特殊召喚できるタイプのエクシーズモンスターのこと。召喚条件が緩すぎるって言ってるでしょうが()

*3
エクシーズモンスターの素材となったカードは、その間フィールドには『カードとしては』存在していない扱いになっている。その為、そのカードの持つ効果などは発揮されず、またフィールドには居ない扱いなので『フィールドから墓地に行った時』などの条件を満たすこともできない。……『フィールドから』と書いていない、単なる『墓地に行った場合』などの表記であれば、それらの効果は発動する。お前のことだよイーバ()

*4
『進退窮まる』とは、中国最古の詩集『詩経』内の一文『人また言あり、進退(これ)(きわ)まる』を由来とする言葉。前にも後ろにも進めず、どうにもできないことを指すもの

*5
名称ターン一とは、『遊☆戯☆王OCG』における『名前を指定してある状態で一ターンに一度の制限のある効果』のこと。ループの原因になるような効果だったり、そもそもに強すぎる効果などに課せられる制限の一つ。現在は『このカード名の~』から始まるが、昔は直接そのカード名が書かれていたりした。名前を指定している為、同名の別カード(いわゆる二枚目)であっても一度効果を使っている場合は同一ターンにその効果を使うことはできない。逆に名称指定がない場合、一度墓地や手札・山札に戻った同一カードであっても、再度効果を発動することができる。その様を『一度非公開情報になった為、同一性と連続性を失った』という例としてあげている、という話

*6
前者は『デュエル・マスターズ』、後者は『マジック・ザ・ギャザリング』のこと。両者ともカードゲームの名前

*7
『遊☆戯☆王GX』の最後の方で唐突に明かされた真実。カードゲームが主体の世界は、そもそもカードから生まれた世界だった……!?

*8
日本神話における一エピソード、及びその舞台の名前。日本の最高神である天照大神がこの洞窟に隠れた為、世界が闇に包まれる『岩戸隠れ』が起きた


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