なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「どうですかキリアさん!こちらの様子は、せんぱいに届いていますでしょうか!?」
「うーん、どうかしらねぇ?
「もっと派手にですね、了解です!ではココアさん、ここはデュエルを申し込みます!」
「え、いきなりデュエル?マシュちゃんのテンションがよくわからないよー!」
「……収拾がつかねぇやつじゃねぇか、これ?」
「いつものことだろう?今更ぼやくことじゃあ、無いんじゃないか?」
天岩戸とはよく言ったもので、ラットハウスの中は今やちょっとした宴会の様相を呈し始めている。
その様は、異変解決後の神社でのお祭り*2を彷彿とさせるものでもあるからか、当初は渋い顔をしていた紫もいつの間にか酒飲みテンション(一応勤務時間中なので飲んでない)になってしまい。
隣に座っていたアインズは、基本的に彼の前では『幻想郷の賢者・八雲紫』のキャラクターを崩さなかった彼女のあまりの変貌ぶりに、思わず目を白黒させていたのだった。
まぁすぐさま沈静化が働いたのか、はたまた程度は違えど羽目を外す面々を知っていたからか、静かに動向を見守り始めたのだが。
諦めて放り投げたとも言う。
「……話に聞いていたところでは、彼はアンデッドの王を名乗るに相応しい、残酷非道な性格をしているとのことでしたが……はて?」
「いやアルトリア、それどこで聞いたんや……?元ネタの方は……まぁ、外伝でもあらへんと取っ付き辛いんは確かやろうけど。*3少なくともこっちのあの人は、中身の主体が人だった時の方やからそこまで警戒せんでもええ、てキーアが言うとったやん」
「……?寧ろタマモは、それをどこで聞いたんだ?私は初耳なんだが」
「あ、あれ?なんでウチが変なこと言うた、みたいな空気に……?」
「タマモさんタマモさん、その話は
「……あー、そっち行った時に聞いたんやっけ。そら知らんわな、すまん二人とも」
「むぐむぐ、気にしてないから大丈夫だ」
「はい、無用な警戒であるのならば、それに越したことはありませんからね、はぐはぐ」
「ああ、おおきに。……ところで二人とも、いつまで食べる気なんや……?」
「「無論、死ぬまで」」*4
「いやそれはおかしいやろがいっ!?ってかハモんな!」*5
「え、ええと。私も『パクパクですわ!』と仲間に入った方が宜しかったりしますか……?」
「やめーやマックイーン、アンタまで混じったら収拾つかへんやろ!?」
そんな彼を見つめながら、アンリエッタ……もといアルトリアがふむ、と小さく息を吐く。
アインズ・ウール・ゴウンと言えば、極悪非道の
まぁ、事前にキーアから『あの人は大丈夫だよー』と聞いていたタマモ
キーアは暫く
その彼女からの忠告と言うか諫言というか、とにかくありがたいアドバイスだったことを覚えていたが為に、彼女はアルトリアの対応を笑ったわけだが……それが自身の聞き間違いとかだとすると──ユニバースなんて胡乱なものに関わってしまっている彼女としては、どうにも背筋が寒くなってしまうわけで。……フォースの導き*6だったりしないだろうな、というか。
そんな、真夏の怪談には早すぎる恐怖体験は、同じ机に集まっていた数少ないウマ娘勢の一人・メジロマックイーンの言葉によって氷解する。
……まぁなんというか、タマモだけ
思わずほっ、と胸を撫で下ろした彼女は、惚けた発言をする他三名にいつものようにツッコミを入れる為、小さく席から腰を浮かせるのだった。
「……なるほど、マーボーカレー。単なる好事家共の道楽かと思っていたが、これは中々……」
「良ければレシピを持って帰るかい?」
「……!構わないのかね?」
「ああ、気にすることはない。君のような料理人に教えるのであれば、このレシピも私に文句を言うことはないだろう。遠慮せずに受け取ってくれたまえ」
「ああ、それではありがたく頂戴しよう。……今日の夜は、早速試すとするか」
「カレーなら単品が良いと思っていたが、これも中々上手いよな!」
「あ、ああ、そうだな。……ドラマCD基準だとは事前に聞いていたが、なんとも心臓に悪い顔だな……」
厨房に目を向ければ、未だ表に並べる料理を作る為に腕を振るい続けている、数名の料理人達の姿が見える。
その内の一人であるエミヤはと言うと、ウッドロウが作った本家本元とでも呼ぶべき『マーボーカレー』を一口味見して、その美味しさに感銘を受けていた。
麻婆豆腐とカレーを混ぜた、というところに型月関連キャラの端くれとしては思うところがないわけではない*7が、それが美味であるのならば些細な話。
同じく厨房に立っていた波旬になんとも言えない視線を向けながらも、ウッドロウから渡されたレシピのメモを大切そうに懐にしまうエミヤなのであった。
「……一時はどうなることか、などと気を揉んだものじゃが。意外となんとかなるものじゃのう」
「まぁ、そもそもこっちに来れる人員自体、ある程度弁えられる人物に限られているからねぇ。然もありなん、という奴さ」
「……水銀って奴は、弁えられてるのか、あれ」
「あれは例外だろ。変に押さえ付けて反発されても困る。とりあえずはちっさい方のキリアを与ときゃ、基本的には無害だしな」
「……それ、キリアが生け贄にされてる、ってだけじゃねぇのか?」
「平和の為の礎というやつじゃな。あやつもきっと草葉の影から笑っておることじゃろう」
「……いや、死んでねぇっつーかそっから呼び戻す為に、こうやって騒いでんだからな?間違ってもマシュの前で言うなよ、それ」
「いや、キーアの事じゃから雑な扱いをされればツッコミに戻ってくるじゃろう、と踏んでのことだったんじゃが……」
「あん?」
「ワンパターンな呼び戻し方じゃあ、それが間違いだった時にリカバリーに追われることになるだろう?私達は敢えて泥を被ろうとしている、というわけさ」
(……言ってることは間違ってねぇはずなのに、なんでこう胡散臭ぇんだろうな、こいつら)
(俺に聞くんじゃねぇよハセヲ、んなことわかるわけねぇだろうが)
店内を見渡しながら呟くのは、久方ぶりの穏やかな時間に骨を休めているミラと、そんな彼女にベリージュースの類いを渡すライネス、それから引っ張られてきたハセヲとハジメ達。
老人のようなことを呟くミラと、それに相槌を打つライネス。
それから、それらの発言に律儀にツッコミを入れるハセヲと、若干のうんざりしたような表情を浮かべるハジメ。
口の悪い男子ということもあり、話が合うんじゃないかというどこかの誰かのお節介によりセットにされた二人だったわけだが。
ハセヲの方はと言えば、相手の口の悪さが
基本的に空気の読める彼なので、その辺りは配慮が勝ったということだろう。……誤算があるとすれば、向こうはどちらかと言えばそれを指摘してほしい、と思っていなくもないということか。
(……一言『それ、ダルくねぇか?』とでも言って貰えれば、こっちも口調を崩せるのに……とか思ってそうな顔じゃのぅ)
(まぁ、私達は指摘するつもりはないんだけどね?)
によによ笑う少女二人。
その笑みを後ろを向いていたハジメは見ることは無かったが……突然背筋に走った謎の悪寒に周囲を見渡していた辺り、彼の前途は多難そうなことだけは確かだろう。
「あ、エーくんはんにゃすー」
「はんにゃすー、れんげ。なんだか久しぶりな気がするねぇ」
そことはまた別のテーブルでは、お昼ご飯を食べるれんげと荷葉に声を掛ける∀の姿があった。
今回の彼は先に昼食を済ませていたようだが──所詮は腹八分目だったのか、その手には近くの大皿から山のように盛られた数々の料理達の姿がある。
付き添いで一緒にやって来たクリスはもういつものことだ、とばかりに気にしていなかったが……。
「……ホントにたくさん食べるのね、貴方」
「?シャナは食べないのー?」
「あーうん、今はいいかな……ちょっと胸焼けしてきたというか」
「僕は食べられないからあれだけど……君が結構な大食いだ、というのはよくわかったよ」
「そうかなー?僕まだまだ食べられるよー?」
「……エーくんは燃費悪すぎじゃない?」
「いっぱい食べたら、もしかしたら大きくなるかもしれないん!」
「SDからリアル形態に*8、って?……あ、割りと否定できないんじゃないの、これ?」
「うわぁ……うわぁ……」
「未だ成長期、ってこと?……ゾッとしない話ね」
一緒にやって来ていたシャナとアルフォンスは、揃って微妙な顔。
それもそのはず、彼女達はあくまで風の噂に『∀はたくさん食べるタイプ』と聞いていただけで、実際にその食事風景を見るのは今回が初めてだったのだから。
まるでワドルディの食事風景のように、吸い込まれたわけでも飲み込まれたわけでもないのにどこかへと消えていく食事達は、特にシャナに対して少なくない胸焼けを覚えさせたわけで。
……あとで
そんな、多種多様な人々の騒がしくも楽しいやり取りを眺めながら、マシュはポツリと声を溢す。
「──せんぱい。せんぱい?これは貴方が勝ち取ったもの、貴方がやって来た事の成果。見えていますか、届いていますか?貴方はいつも自分を卑下するけれど──それでも、確かに救われたものはあるのです」
優しげな声音で溢れ落ちていくそれは、彼女のせんぱいに対してのもの。
もっと上手くできたんじゃないか、とか。
もっと別の手段があったんじゃないか、とか。
そうして悔やんで悩む彼女の背を、見ていた彼女だからこそ。
それを赦すように落とされる言葉には、確かな慈愛があり。
「ですから、せんぱい。──貴方は、ここにいていいのです。ここに、居てください、せんぱい──」
祈るように、願うように。
真摯な言葉は、確かにその胸に届き。
「…………恥ずかしい台詞禁止!」
「……!せんぱ……せんぱい?」
照れ臭そうに声をあげながら、彼女は帰ってくる。
その懐かしい声に、彼女は喜色を浮かべながら声の方に視線を向けて。
その姿に、思わず声を漏らした。
「せ、せんぱいが……」
「「「「「「小さくなってるーっ!!?」」」」」」
「ちっちゃくないよ!」
そう、現れた彼女は──人形サイズにまで縮んでいたのだ!