なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「だから、おかしいだろって!なんで俺こっちになってんだよ!!」
「……いや、それを私に言われても、ねぇ……?」
「クソッ、分かったよ、もういいっ!!……って、なんだよアンタら、何見てるんだよっ!」
「あ、いや。……騒いでる人がいたらふつー見るよね、アグモン」
「へ?あーうん。それだけ騒いでたら気になるよー」
滅茶苦茶騒いでる人と、その前でなんとも言えない空気を醸し出す女性の組み合わせ。
そんなものが目の前で繰り広げられているのだから、見ない方がおかしいよね?……みたいな感じで観察していたら、騒いでいた方に目を付けられてしまった。
まぁ、こっちに話し掛けてくれるのなら、そのまま乗るよ?情報収集したいし。
そんな感じでアグモンに話を振れば、彼は素直にこっちの言葉に同意してくれた。
……なんというか、小学生の男の子を相手してるような気分になるのはなんなんでしょうね?
まぁ、話し掛けた相手の連れが人じゃないって事に気付いた彼?は、キョトンとして怒気というか意気というかが、いい感じに抜けたようだったけど。……ある意味計画通りである。
「え、あ、アグモン?アグモンなんてのもありなのかここ?」
「へー、こういうのもあるんだねー」
「えへへ……キーア、なんだかボク人気者みたいだ」
「そりゃねぇ。ポケモンの方が流石に知名度は高いけど、デジモンだって好きな人多いわけだし。……で、御両人は何を言い争ってたんです?」
まぁ、騒いでた方の姿を見れば、なんとなく理由は分からないでもないんだけど。
そんな感じで改めて視界に収めた二人の姿は、どこかで見たことがあるようなもの。
黒いのと白いの。黒髪と茶髪。黒いコートと、白いマント。
……うん、キリトとアスナの姿をした二人がそこにいた、のだけど。*1
なーぜか、キリトの方がGGOの時のモノっぽく見えるというか。
ぶっちゃけると、いわゆる『キリコ』*2の姿のPCが、そこに居たのでしたとさ。
「いや、コラボアバターガチャで当たりを引いたんだよ」
「私はアスナで、彼はキリトね」
席を移して相席になった二人から話を聞く。
なんでも、二人はこのゲームをやっている一般人らしく、つい最近SAOコラボ装備が手に入る、有料ガチャを回していたのだと言う。
それで女性の方はアスナの服装一式を、男性?の方はキリトの服装一式を当てたのだそうで。
無論、大当たりも大当たりなので、喜び勇んで着替えたのだが……。
「確かにキリトのアバターだったはずなのに、装備した途端にこれだよ、髪が突然伸びてたんだ」
「それと、顔の作りもどことなく可愛くなっちゃったんだよね。……うん、まんまキリコよね」
「うーむ、データ見ると女の子になってるっぽいし、最早キリコって言うか完璧にTSキリトなのでは……?」
「……わ、わけわからねぇ……」
ふむ、着替えたらいきなり髪が伸びた……というか、アバターが性転換した、と。
はて、とりあえず彼等がなりきり組かどうかはわからないけど、仮に違った場合はこれ、何かしら他の不思議現象だったりするのだろうか?
ここに来てなりきり以外にも不思議現象が存在する、とかいうのは止めて欲しいところだが……うーむ。
ぶっちゃけると、BBちゃん居ないと判別できないんだよなぁ。
ウエイトレスさんが持ってきてくれたミルクティを飲みつつ、キリト君側の動きを注視する。
……んー、特に変な動きは見当たらないような、どこかぎこちない気がするような。
アスナ(仮)さんの方は普通に正常なPCっぽい動きをしているから、多分関係ないのだろうけど。
キリト君の方だけ、なーんか怪しいんだよなぁ。……ふむ、鎌を掛けてみるか?
「ところで、なんだか最近、飲み食いモーションにも課金要素が増えたんだってね」
「え、そうなんですか?」
「ホントホント。ほら、普通だったら飲んでるふり食べてるふりだけど……」
「あ、ホントだ!ケーキとか飲み物とか、ちゃんと減ってる!」
「でしょ?このゲーム、変に技術力あるよねー」
「ですよねー、私もアスナの格好で『フラッシング・ペネトレイター』を再現できた時はすっごい嬉しかったですし!」*3
「え、できるのアレ!?」
「はい!できちゃいました!」
飲み食いモーションに上位が存在するよ、なんてダミー情報を流すと、アスナさんが話に食い付いてきた。
ふむ、アスナのアバターだからか、食べ物関係がちょっと気になる様子。*4
なので話を進めると、まさかの原作アスナの技の一つを再現できた、との返しが。……いや、この人わりと凄いな?
このゲーム反射神経重視でモーションアシストとかもないから、単純にコントローラーで動きを再現してるのだろうし。……結構なゲーマーと見たぞぅ?
対し、さっきから無言のキリト君。ちらりとその様子を窺ってみると……。
「…………………」
あっ……(察し)
……さっきまで隠していたのであろう表情を、もろに表に出しながら、目の前のショートケーキを一口一口味わうように、フォークで切り分けながら食べ進むキリコちゃんがそこに居たのでしたとさ。
これは……黒じゃな?*5
すかさず秘匿のショートメール。
件名は「美味しいですか?」で、受け取ったキリコちゃんはタイトルを確認した時点で吹き出していた。
「え、どうしたの?」
「ななななんでもないっ!ほら、今日はアイテム堀りに行くんだろっ」
「え、あ、ちょっ、えっと、また今度お話しましょうねキーアさんっ」
「はーい、また今度ねー。……うーむ露骨にも程がある、大方キリコの方でなりきりしてたとかだなあれは」
「どしたのキーア?小声で何か喋ってるけど」
慌てたように
……まぁ、何かあれば向こうからショトメに返信でもしてくるだろう、ってな感じで一つため息を吐く。
そしたらアグモンが首を傾げていたので、とりあえず頭を撫でておいた。
……こうしてると彼は気持ちよさそうに目を細めるんだけど、なんというかその姿が可愛いんだよねー。
私ってば猫派のはずなんだけど、爬虫類系も意外にイケるのかな、なんて気分になるなぁ。
そんな感じにちょっとほのぼのしつつ、アグモンがパフェを食べ終わるのを待つ私なのだった。
「で?集合時間に遅れたと?」
「いやはや面目ない。アグモンから発せられる癒やし効果を甘く見てたよ」
たはは、と笑いながら、ジト目でこちらを見てくるハセヲ君に弁明する私。
いや、まさかアグモンを撫でてたら、人の山に囲まれるハメになるとは思わなかったと言うか……。
最初はテイム*6したモンスターか何かを愛でてるんだ、と思われて「そのアグモンってどこにいるモンスターなんですか?」なんて聞かれたんだけど、
……いやはや、デジモン人気を舐めていたと言わざるを得ない。
中にはスカモン*7になりたい、なんて人も居てちょっとびっくりしたものだ。
まぁ、そんな感じにスクショとか撮られたりしつつ這う這うの体で逃げ出して、ようやっとポータルの前に到着したのは集合時間から三十分ほど遅れてのことだった、というわけなのだった。
「いや、実際凄い人だかりだったわね」
「皆さん、とにかく写真を撮ろうとしていましたからね……」
「なんであんなに大人気だったんだろうね?アグモンは確かに目立つけど、どこぞの王様*8とかの方が、写真需要は高い気がするんだけど」
「え、せんぱい気付いてないんですかぁ?」
「へ?何が?」
マシュとゆかりんの言葉に頷く。
いやまぁ、デジモン人気を侮っていた事は否めないけど、それにしたって囲まれて身動き取れないような事にはならないんじゃないかな、という気分がどうにも拭いきれない。
そもそも他にも写真を撮りたくなるようなアバターとかいっぱい居たと思うんだけど、なんて事を口に出せば、BBちゃんが呆れたように口を挟んできた。
「いや、他のアバターよりも自然に笑う美少女が、アグモンを慈しむように見詰めながら、その頭を優しく撫でている……とか、撮らない方がどうかしてると思いませんか?」
「……そういえば私も
言われてみれば、今の私の姿はほぼほぼ現実の私と同一である。
最初のキャラクリの時点でそれなりに近い姿にはしていたけれど、それでもところどころ違う姿をしていたわけなのだが。
現在の私は、服装がゲーム内の初期装備であること以外、ほぼ私と同じモノになっている。
特にこのウェーブ掛かった髪に関しては、同一パーツが無かったのでストレートでごまかしていたものである。……逆に言うと、この髪型かなりレア物に見えてる可能性もあるわけで。
……うん、そりゃ目立つわ。ただでさえアグモン以外に見当たらないデジモンを連れてる女の子が、そのアバター自体も目立つってんならそりゃ囲うわ。
「これがアグモンさんじゃなくて私かハセヲさんだったら、もう少し穏便に事が進んだのかも知れませんけど……」
「その場合は下手するともう片方にシワ寄せがいってた、ってんだろ?……へいへい、この話はこれで終わり。キーアも、それでいいな?」
「はーい、以後気を付けまーす」
「ホントにわかってんのかコイツ……」
どっちにしろ、私達が目立つ集団だというのは変わらないわけで。
じゃあ気にするだけ無駄、ということで気持ちを切り替える。
そもそも、時間は有限なのだからあれこれ悩んでる暇もないのだ。
「思考が加速できるなら違うんでしょうけどねぇ」*9
「……止めてくれるゆかりん、変なフラグ立てようとするのは」
「あんな危ないプログラム、見付けたらぽいっ!しちゃいますからね?」
「まぁ、思考を一千倍に加速とか、危ねー香りしかしねーもんな」
「そうかなぁ?」
「……デジモンの感覚で喋るのは止めたほうがいいよ」*10
あれこれと喋りながら、皆でポータルの前に立つ。
さて、ここからはフィールド探索だ。鬼が出るか蛇が出るか、精々警戒しながら飛び込むとしよう。
『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。』*11
「MA☆TTE!!」*12
「落ち着いてくださいせんぱい!これもコラボ!コラボですから!」
「なんで不安にさせるような部分にコラボ持ってきてんだよ製作者ぁっ!!?」
──まぁ、最初の一歩でちょっと躊躇するハメになったんだけどね。