なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……いや、ホントにどこなんだいここ?僕達さっきまで、普通になりきり郷を歩いていたはずだよね……?」
「転移スイッチでも踏んだのかい?」
「いやいやそんなバカな!っていうか流石に気付くよそれだと!」
辺りを見回しながら、困惑したような声をあげるヘスティア様と、私の反対側の肩の上から、彼女に確認を取るCP君。
いきなり周囲の風景が変わったわりに、CP君の反応はとても薄いモノだったが……そもそもこれが彼女のデフォルトなので、然もありなん。
そんな中私はと言えば、周囲に漂う空気感から、ここが目的地であることを確信。
それを確認したのち、彼女の肩の上から飛び降りるのだった。
「へ?いやちょっと何処へ行くのさキーア……ってあれぇ?!」
「どうしましたかヘスティア様?鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして?」
「それ僕達が出会った時の台詞ぅー!ってそうじゃなくて、大きさ!でっかくなってるけど君、戻れないんじゃなかったのかい?!……いや元よりデカいな!?」
そうして飛び降りた私を、引き留めるような声をあげようとしたヘスティア様は──代わりに私の姿を見て、驚きの声をあげるのだった。
まぁ、それもそのはず。
色々な事情から、元の大きさには戻れないはずの私が、今はこうして彼女と同じ……どころか、彼女の頭二つ分くらい大きくなっているのである。そりゃまぁ、ビックリするのが筋というものか。
なお、これはさっきの『電子世界からの容量の融通』などではなく、一応私が自由に動かせる体である。背丈が高いのはちょっと慣れないが、まぁ行動しやすくなるのはありがたい。
「……ふーん?なるほどなるほど、そういうことか」
「え、ちょっとなんでキミは何かを納得したように頷いてるのさ?僕にはちっともわからないんだけど?!」
「そりゃまぁ、そうだろうね。ボクは
「ん、んん?キャタピー何某が得意なもの?……ってあ、魔法少女?!」
なお、今の私の姿がどういう状態なのか、CP君は真っ先にピンと来た様子。
そりゃそうだ、私の
……とまぁ、ここまで言えばわかると思うが、現在の私は変身状態なのである。いわゆる『マジカル聖裁キリアちゃん』モード、というわけだ。
ヘスティア様が最初それに気が付かなかったのは、一般的なアニメでのその状態よりも更に背丈が伸び、かつ服装がより『女騎士』感を強くしたモノになっていたからに他ならない。
「……い、いや、そもそもそれで大きくなれるんなら、最初っからやっておけばよかったんじゃないのか?!」
「いやいやヘスティア様。よーく考えて下さいよ、声繋がり・見た目繋がり・年齢繋がり。そんな雑な繋がりで纏められてしまうこともある『逆憑依』において、今の私がどうなるのか……なんて、すぐにわかる話でしょう?」
「え?……ってあーっ!!?名前!?」
「その通りでーす」
無論、そんな風に大きくなれるのなら、最初からやっておけば良かったじゃないか……なんて風にヘスティア様に言われるのは折り込み済み。
予めその反論を読んでいた私は、更なる反論を彼女にぶつける。──そう、この姿の私は……ちょっと大きくなってはいるものの、
……あとは簡単な話。
存在の優先度の高い、別のキリア……【虚無姫】キリアが既にいる状態で、私が
答えは単純、キーアでいる時よりも遥かに強く早く、優先度の高い【
大雑把に言えば、対策なしに『キリア』に変身した時点で、『逆憑依』回りの雑な分類に引っ掛かって変身先が【
まさにデストラップ、仮にも希望とか光とか守ってそうな魔法少女への変身が、明日への絶望を語るものになるとはこれ如何に。……え、いつものこと?
そんなわけで、さっきまで『変身して大きくなる』という手段は取れずにいたのだった。
……なお、もし【
キーアとキリアは別人、両津勘吉と浅草一郎の関係*1みたいなもので、例えキーアを呪ってもキリアに、キリアを呪ってもキーアに変身すれば、対象不在で呪いは解除されてしまうのである。
……どこの遊戯王かアンデッドアンラックか、という話だが。
そういうものだと納得してもらうのが、一番わかりやすいだろう。
となると、
一番わかりやすいのは、ロアとシエル先輩の関係だろう。*2効果で名前が変わっている時の遊戯王カードの扱い、とかでもいい。
シエル先輩はロアとは別人だが、その転生体だったこともあり魂のラベルには『ロア』の名前が刻まれている。
言うなれば『プロト・サイバー・ドラゴン』などと同じだ。このカードはフィールド上にある限り『サイバー・ドラゴン』として扱うが、逆に言えばフィールド上にいる限りは『プロト・サイバー・ドラゴン』としては扱われない。*3
それ故に、『プロト・サイバー・ドラゴン』を指定する効果は意味をなさないのである。*4
これは、魂のラベルが『ロア』になっているせいで、『シエル』という存在に対しての破壊行為が意味をなさないシエル先輩とよく似ているとも言える。……なんて話はまぁ、型月民かつ遊戯王プレイヤーならよく言っている話なので割愛するとして。
今の私の状態、というのもそれに近いのである。
私は確かに『キーア』という存在だが、その元となっているのは『キリア』の設定である。
つまり、先の例で言うのであれば私の魂のラベルは『キリア』──
そのため、他の『キリア』が居るとそっちに引っ張られてしまう、なんてことが起きてしまうのだ。……『キリア』と名の付くモンスターはフィールド上に一枚しか存在できない、的なやつだ。
じゃあ、『キリア』に変身するのはどうなのか?と言うと。
既に【
要するに先の例よりも遥かに影響力が濃くなってしまうため、変身しただけで即お陀仏、なんて羽目になってしまうわけである。
なので、私は『キリア』に変身して大きくなる……みたいな対処を今まで取れずにいたのだ……ということを、ヘスティア様に語って見せたわけなのだけれど。
「うーんうーんコンマイ語難しい……」
「……あれー?」
デュエリストじゃない彼女には、却ってわかり辛かったようで。
頭を抱えて唸る彼女を前に、私は首を傾げることになるのでしたとさ。
──数分後。
どうにかこうにか説明を呑み込んだらしいヘスティア様は、思い浮かんだらしい質問を私に投げ掛けてくる。
「その説明だと、今そうして変身していることに色々疑問が湧くんだけど?」
「良い質問ですね。ご褒美代わりにもう一つ情報を付け加えますと、さっきの説明とは別の問題もあったりしますよ?」
「は?べ、別?」
「あれだろう?変身とは言うものの、君のそれは自身の能力の別解釈のようなもの。──世の魔法少女達のように、
「流石はCP君、専門家は違うねぇ」
彼女から飛んできた疑問は、『さっきの説明を鵜呑みにするのなら、今変身しているのはおかしい』というもの。
確かに、なんの対処もなしに変身すれば、待っているのはデッドエンド……と最初に言ったのは私の方である。
その癖して、今の私はこうして変身中。……危機管理能力が足りてないとか能天気だとか、散々な言われようをしてもおかしくない暴挙にも見えるはずだ。
事実、その見方は間違いではない。
そのことを示すように、私は彼女に『それとは別に、キリアへと変身するには問題がある』ということを伝える。
問題点を嵩増しするその行為に困惑するヘスティア様を余所に、CP君からは鋭い意見が飛んでくる。……まぁ、そもそも私に変身道具を渡したのは彼女なので、気付かない方がおかしいのだが。
ともあれ、彼女の言う通り。
私の変身というのは、変身という体裁を取っているだけで、その実『キーアとしての力の発露』を別の形に変化させたモノに過ぎない。
世に溢れる他の魔法少女達のように、
そう、それは即ち。
「変身しても、使っているのはそもそもの私の力。──要するに、あの虚弱状態のミニマムキーアから変身しようとしても、そもそも不発になるかそのまま残り少ないパワーを無駄遣いして霧散するか、そのどっちかしかないんですよ」
「え、ええっ!?ででででも、キミは今こうして大きくなってるじゃないか!?」
「はい、そうなのです。いやー、なんででしょうねぇ~?(棒)」
「なんだいそのわかりやすすぎる棒読みはっ!?」
──変身しても、別に強くはならない。
それが、私の持つ変身手段の問題点。変身と言っときつつ、その主用途は『変装』だからこその欠点である。
これにより、そもそも【
つまり、今の状況の謎とは、変身できない&するべきではない状況で、なんで変身できてるのか?というところに集約されるわけである。
……まぁ、その辺りはとても単純なことが答えなのだが。
「た、単純な答え?それって一体……」
「しっ、聞こえませんかヘスティア様。このお声が」
「こ、声?」
こちらの言葉に更なる疑問を溢すヘスティア様に、静かにするようにジェスチャーを向ける私。
その言葉に彼女は周囲を見渡し、そして
路地の暗がりと、そこで輝く無数の
いつの間にか周囲を取り囲んでいたそれらは、こちらを爛々とした眼で見つめている。
思わず、とばかりに後退りしたヘスティア様は、その耳に響くとある声に気付くのだった。
「ぷいにゅー」
「……あれー?」
……まぁ、思っていたような声じゃなかったので、ちょっと呆気に取られてもいたのだが。