なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「こんにちわ、遠い場所からお越しくださった異郷の神様。私はアリシアと申します。本日は観光でございましょうか?」
「アリシア、ヘスティア様が混乱してるから、からかうのはそれくらいにして貰える?」
「あらあら、うふふ。……ええ、シルの言う通りね。折角のお客さんを困らせても仕方がないし、とりあえず中に入っちゃいましょうか?」
路地裏から出てきたこちらを迎えてくれたのは、長い金の髪と青い瞳が殊更に目を惹く、たおやかな笑みを浮かべた一人の女性。
彼女の名前はアリシア。『ARIA』シリーズにおいては『フローレンス』の姓を持っている彼女は、こちらでは
……個人的には、その声がとある人物を思い起こさせたりもする……っていうか、アリシアさんってば結構な呑兵衛なんだよね。──
まぁ、それが理由……というわけじゃないけれど。
アリシアとはそれなりに、仲良くさせて貰っている私なのであった。
「ええと、キーア?」
「こちらではシルファでお願いしますね、ヘスティア様」
「……ええと、シルファ?彼女はその、
「いいえ?彼女はどちらかと言えば
「ってことは、こっちでの
「この姿であれこれしてた時に、色々と助けて貰いましたので。その時の縁……と言うやつですね」
そんな私達の間の空気感を訝しんだヘスティア様が、怪訝そうな顔をしながらこちらに質問をしてくる。
──原作ゼロの使い魔において、王女アンリエッタから申し渡された、ルイズ達の城下町への潜入任務。
それに近い話がこちらでも起きた結果として、私と数名の仲間達はチクトンネ街にある酒場・『魅惑の妖精』亭へと、平民に扮して雇われることとなり。
その任務の中で、実は酒豪・かつ『魅惑の妖精』亭の主人と同じく平民出身であり、その縁から彼とも仲の良いアリシアが、仕事終わりにお酒を飲んでいるところに
そこから一悶着あった結果、こうして名前で呼びあうほどに仲良くなった……というのが、私とアリシアの関係の簡単な略歴となる。
……こっちのハルケギニア、基本的には平和な世界だったのでは?……とか思われるかも知れないが、それは世界に一切悪人がいない、と言うような話では決してなく。
そもそもの話として、人間種ではない亜人達による被害というモノも確かに存在しているし、なんならいつぞやかの『我らが一つに』みたいなドラゴン種──いわゆる魔獣系統に属する存在による被害というのも、実際にはそれなりの頻度で発生している。
それらの事情もあり、わりと平和な方に分類されるこのハルケギニアであっても、個人なり国家なりの武力というのは、それなりに必要とされているモノだったりするのでしたとさ。
「はぁ、なるほど。……ええと、よくわからないんだけどさ?」
「はい、なんでしょうかヘスティア様?」
「……結局、僕達がここに居る理由ってなんなんだい?」
そんな内容のモノを、通された応接間でお茶を飲みながら、彼女達に対して話していたわけなのだけれど。
その結果として、部屋の奥に消えたアリシアを待っている間、手持ち無沙汰になってしまったヘスティア様から。
──何故私達がここにいるのか?……という根本的な部分が解消していない、と疑問を呈されることになったのである。
とはいえ、ここまでくればなんとなく、その理由についてもわかってきているはずだとは思うのだが……。
口にせねばわからぬこともある、というのも確かな話。なので私は、その答えを彼女に教えるのだった。
「まぁ単純に言えば──ゲートの安定化のため、ですね」
「……んん?ゲートの安定化?」
こちらが口に出した答えに、小さく首を傾げるヘスティア様。
ここで言うゲートとは、他の世界同士を繋ぐ扉……的なもののことを言う。
例としてあげるのであれば、原作『ゼロの使い魔』での
それを無闇矢鱈に発生しないようにすること──それこそが、今回私達がここにやって来た理由ということになる。
で、先程の彼女の質問への答えを、もう少し詳しく述べるのであれば、次のようになる。
「……なりきり郷の中に現れたゲートを探していた、だって?」
「そういうことになりますね。……向こうで郷内のあちこちに視線を向けていたのは、時空の歪みとでもいうべき
「は、はぁ。わかったような、わからないような……」
小難しく言うのなら、次元境界線の歪曲──雑に言えばワープゲートの探索。
世界間移動を意図せず引き起こすそれを、
それを遂行するには、向こう側に居る状態の私では力が足りていない……もといゆかりんに協力を頼むしかないので、こうしてわざわざハルケギニア側にワープしてきた、という事情もあったりするわけだ。
「……んん?その言い方だと、八雲のに任せれば問題はなかった、ってことになるのかい?」
「
「……なんだか含みがあるなぁ。その解決方法は望ましくなかったりするのかい?」
「まぁ、そうですね。……紫に任せるやり方だと、こっちへの転移は二度と叶わなくなる、というのは確かだと思います。いつかこちらに戻るかもしれないアルトリアのためにも、あまり選びたい手段ではないですね」
「わりと
こちらの述べた答えに、ヘスティア様は露骨に驚きを見せる。
確かに、ゆかりんはその能力の応用範囲の広さゆえに、大体の事態を解決できるだけの汎用性を持っている、というのは確かだろう。
けれどそれは
今回の場合で言うのなら、彼女はゲートという転移窓を閉じることはできるだろうが、それを再利用できるようにすることはできない。──無理矢理に閉じて、それで終わりである。
一応、こっちに渡ってきて、詳細な状況を確認した上で
それをするには、彼女の立場というものが引っ掛かってくる。
彼女はなりきり郷の代表者であるため、あそこから長く離れることは叶わない。……時間の流れがこちらと向こうでは違うため、一見するとどうにかなるようにも思えるが……この事件を解決するというのは、即ちそれらの
一昼夜で終わるような問題でもない以上、結果として彼女の長期不在を前提としてしまう形になる、彼女を主体とした事態の解決というのは認められない可能性が高い。
それらの理由も手伝って、彼女に協力を仰ぐのは非推奨……というのが、今回私が出した結論なのであった。
「それと先に言ってしまいますと、今回の事件って言うのはこっちの私……もといビジュー嬢が、以前の一件以降高まり過ぎてしまった虚無の力を、どうにも持て余してしまった結果……みたいなところもありますから。その辺りの解決を見ないままに単純にゲートの安定化だけを行うと、ゲートの作成者であるビジュー嬢が、
「……やっぱり、予想以上に大事じゃないかいそれ?」
私の説明に、微妙に引き気味な表情で呟くヘスティア様。
より正確に言うのであれば、
その辺りは事態の解決を図る内に一緒に解決できるもの、程度の問題であることも確かなので、ここでわざわざ述べるようなことはしない。
……一度にあれこれ説明しても、彼女に余計な心労を掛けることになるのは、今の反応でわかっていることだし。
「あら、二人でこそこそと何のお話?」
「午後からの予定を少し、ね?──ビジュー様は、宮殿の方に?」
「ええ、ずっと仕事で詰めていらっしゃるみたい。貴方のことを恋しそうにしていたから、一目見たら元気になっちゃうかも……ね?」
「ははは、それは従者冥利に尽きるね。──ではヘスティア様、行きましょうか」
「んむ、行くってどこに?」
そうして話を終えたタイミングで、準備を終えたアリシアが部屋の奥から戻ってくる。
私はカップに残っていた紅茶をぐい、と飲み干すと、ちびちびとカップを傾けていたヘスティア様に声を掛けた。
彼女は不思議そうな顔で、こちらを見上げていたが……この状況で向かう先なんて決まっている。
「何処って、王宮ですよ、王宮。我が主であるビジュー様が、仕事で缶詰になっていらっしゃいますので、迎えに行かないと」
「……ええと、どこからツッコミを入れればいいのかなこれは?」
当たり前でしょう、みたいな気分でそう告げたら、ヘスティア様からはジトッとした視線を向けられることになった。……何故に?
なお、こっちに来てアリシアに出会ってから、一切口を開かないでいるCP君だが。
彼女は『流石に人語を話す虫は混乱しか生まないだろう』、と判断して自重していたため、口を挟むことをしなかったのだということをここに記しておく。
「ぷい?ぷい、ぷいぷいっ?」
「…………(助けてくれ、の視線)」
「あら、アリア社長。ダメですよ、お客様のお連れ様を困らせちゃ。貴方も、私に遠慮せずに動いてくださって構いませんからね?」
「ぷいにゅー?」
……まぁ、そんなこと知ったことか、とばかりにアリア社長に絡まれていたのだが。彼に心配されていた、ともいう。
虫が得意な女性、っていうのも中々いないモノだし、彼女のその行動自体は、決して間違っているモノじゃないとは思うけどね?
でもまぁ、ここのアリシアは平民出身なので。
虫に対しての耐性は普通に強い方だった、というのは彼女の誤算になるのだろう……と、彼女に頭を撫でられているCP君を見ながら、しみじみと頷く私なのであった。