なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・ウンディーネとオンディーヌ

『とりあえず、水の精霊が毎年この時期になると水位を増す、ってのは正解。その理由がアンドバリ*1とは関係ないってのは──半分正解・半分不正解って感じかな』

『ふむふむ?ってことはやっぱり、今年のアクア・アルタはいつものモノとは違う、ってことでいいのかい?』

『うん、それでいいと思うよ。……ネオ・ヴェネツィアが混じっている上に特定の現象(アクア・アルタ)の名前を与えられている関係から、水位が上がるとしても精々膝上くらいまでの浸水がほとんど……っていうのが、トリスタニアにおけるアクア・アルタの概要でね?』

 

 

 念話を続けながら、周囲の様子を観察するキャタピー。

 

 貴族達に混ざって平民達もあちらこちらに動いている……というのは最初の方に述べた通りだが、その服装は軽装のモノが多く、彼等が軍属ではないことを知らせてくれている。

 緊急時とは言え、兵士でもない存在が宮廷内を闊歩している……というところに、少し思うところがないでもないが……。

 

 

『まぁ、()()()()()()()()()だから。ちょっと()()()()()()()()()()んだよ』

『……んん?』

 

 

 そうして返ってきた、どこか含みのあるキーアからの念話に、キャタピーは小さく唸る。……どうにも、何かややこしい事情が隠れていそうだ、と彼女が察するには余りあり。

 けれど一先ずは、その事情がこちらに何か不利益をもたらすことはない……ということも彼女の言い方から察して、今のところは後回しにすることに決める。

 ここで必要なのは、結局のところ()()()()()()()()()()()()()、ということに集約されるのだから。

 

 

『まぁ、お察しの通り。──ビジューちゃんの虚無の暴走ってのは、彼女の意識していないところで起きているものでね?』

『ああうん、つまりはあれだろう?……彼女の扱える力の範囲というのは、君が憑依する前のモノから比べても徐々に大きくなって(成長して)はいるものの。……それでも、君の広げた器に見合うような状態にまでは至っていないから、その支配範囲から漏れ出た力は、勝手に虚無を発動させてしまっている。……水の精霊の護る秘宝の近くに、()()()()()()()()世界扉(虚無魔法)によって、その指輪はハルケギニアのどこかに飛ばされてしまい。それを探す為に、水の精霊は自身の水位を上げている……というわけなんだろう?』

『んー……不正解のような、正解のような……』

『あれー?』

 

 

 なので、まずはビジューと水の精霊の間にある問題について、答えだと思われる推論を口にしたキャタピーだったのだが。

 

 その推論を聞いたキーアから返ってきた反応は、どうにも中途半端なもの。……先程も口にしていた『半分正解であり半分不正解』というその言葉に、キャタピーは思わず首を傾げてしまう(念話をしていないヘスティアに不思議そうな顔を向けられた為、ごまかすのに少し時間を要した)。

 間違いであるとも、正解であるとも言い切らない彼女の様子的に、一部は合っていて一部は間違っている……ということなのだろうが。

 

 そうして首を捻るこちらの様子に、苦笑のような声を返してきながら。キーアは続けてこう告げるのだった。

 

 

『ああうん。ハルケギニアにおける、アクア・アルタには別の名前が合ってね?それが──』

 

 

 そして、この世界でのアクア・アルタに与えられた、もう一つの名前を聞いたキャタピーは。その名前が示すものに、納得したように一つ頷くことになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 念話越しにCP君の疑問に答えつつ、リアルの方ではマザリーニ卿に連れられて、とある場所へと向かっている私。

 

 城内の地下、薄明かりが照らす暗渠*2とでも呼ぶべきそれは、遠く離れた位置にあるラグドリアン湖より、水の精霊が意志疎通のために顔を見せる──いわゆる連絡路とでも呼ぶべき場所である。

 

 

『久方ぶりだな、【矮小にして無量なる同胞】よ』

「その節はどうも。……それで、なんだけど。例のアレ、もうしばらく待って貰うことは可能?」

『それはそちら次第だ。我を『誓約』の精霊として定めたのは、我らではなく単なる者達自身なのだから』

(遠回しに約束守れ、って言われてるんですけどー!?)

 

 

 その暗渠の中心部……溜め池のようなその場所から、こちらに現れたのは水の塊のような生命体。──水の精霊は、私の姿を見付けると同時に、こちらに話し掛けてくる。

 

 ……色々な作品で『人を視る』者として扱われていた存在だからなのか、はたまたそもそもに視え方が違うのか。

 ともあれ、こちらのことを正確に把握したような言葉には舌を巻かざるを得ないが、そもそもその発言の強硬さ自体も舌を巻くレベルである。

 ……要するに、こちらは人間達のあれこれに合わせてやっているのだから、その結果としての自身の行動も守られて然るべきだ、みたいな?

 

 いやまぁ、アクア・アルタとそれに纏わる()()()()()は、このトリスタニアにとっては最早切っても切り離せないモノであるのは(マザリーニ卿に、耳にタコができる*3ほどに聞かされているから)よーく知っているが……。

 こういう時、アルトリアもといアンリエッタが居れば楽だったのだろうな、と苦々しい気分を抑えられない私である。

 

 アンリエッタ(原作の彼女)としてならば、そこまででもないのだろうが。……アルトリア(騎士王)としての要素を持つ彼女は、水の精霊には最早『愛されている』と言ってもおかしくない程の加護を受けている。*4

 ゆえに、この状況でも彼女が鶴の一声をあげるだけで、水の精霊は素直に待ってくれるはずなのだ。……まぁ、アルトリアとしては修行が終わるまでこっちに戻ってくる気はないだろうから、これもまた机上の空論でしかないわけだが。

 

 まぁ、愚痴を言っても仕方ない。

 ()()()()()()()()()とも言えてしまう以上、この事態を見過ごすのはあり得ない。

 で、あるならば。

 

 

「……はぁ。わかりました、ではあと三日下さい。それで全てを片付けてご覧にいれましょう」

『承った。待っているぞ、【矮小にして無量なる同胞】よ』

 

 

 ぐにゃぐにゃと形を変えながら、水の中へと沈んでいく精霊を見つめつつ、深くため息を吐く。

 ……こうなってしまっては仕方ない。早急にビジューちゃんの成長フラグを立てねばっ。

 

 

「そういうわけですので、戻りますよマザリーニ卿。それから、聖エイジス三十二世及びジョゼフ王に、取り急ぎ連絡をお願いします」

「シル殿はどちらに?」

「魔法学院へ。ティファニアを連れてきます」

 

 

 そうして私は、再び四の四を集めるために行動を始めるのだった──。

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ、その辺りは融通が効かんのだな、水精霊(オンディーヌ)殿は」*5

「融通が効かないというよりは、役割に忠実なのでしょう。何せ彼の水精霊に誓約の任を与えたのは、遥か昔のトリスタニア王だと聞いております」

「……なるほど、長くその役割を押し付けられて来たのだから、今更それを変えるつもりはない……ってことだね?」

 

「……あの、お三方?世間話も程々にしませんか?」

 

 

 数時間後。

 あらゆる手段を駆使して各国に連絡を取った私は、虚無の魔法使い達を召集。

 集まった彼等はどこか呑気な空気を醸し出しながら、トリスタニアに訪れたアクア・アルタについての話を交わしていたのだが……。

 比較的真面目・かつ王侯でもないティファニアがおずおずと声をあげ、漸く彼等は姿勢を正し始めるのだった。……マザリーニ卿が胃の辺りを押さえてるけど、私は知らない。

 

 ともあれ、こうして再び揃った四の四。

 面子としては私が抜けてビジューちゃんが加わる形になっているが、ともあれ彼等が今回のキーであることに変わりはない。

 

 

「……じゃあなんで、私まで連れて来られたわけ?」

「こっちを見て薄く微笑んで(はしたなくも大笑いして)いらっしゃいました、姫君の御友人を久方ぶりに城へとお招きした……というだけのことでございますが?ティファニア殿も、学友が居る方が御安心なさるでしょうし」

「いけしゃあしゃあと……」

 

 

 なお、私の傍らでぐぬぬと唸っているルイズに関しては、ほぼ延べている通り。……面倒事にまた巻き込まれてやんの、とばかりに大笑いしていた彼女を、そのまま引きずり込んだ形である。

 隣のサイトが苦笑している辺り、なんともいつも通りな感じの空気である。……まぁ、今の私はシルファなので、他の人の目のある現状では他人行儀を貫くことになるんだがね!

 

 閑話休題。

 今回の主題──その中心となるビジューちゃんは、他の面々の前でガチガチに緊張した状態で立っている。

 まぁ、然もありなん。

 現状アルトリアが居ないからこそ、虚無の魔法使いである彼女が代わりに公務を行っている……という形である以上、彼女はどこまでも名代(みょうだい)である。

 ガリアの双王に、ロマリアの教皇。……ティファニアに関してはまぁ、あくまでも学友だろうが。

 

 ともあれ、目の前に居る人物が、本来自身がお目にかかることができる人物だとは思えないのは無理もなく。

 それゆえにガッチガチに緊張して、笑顔が引き攣ってしまっているのは、最早当たり前としか言いようがないのである。

 ……その繋がりの元を正せば、自分ではない自分──私が憑依して居た時のものである、というのも気の引けてしまう理由だろう。

 

 なので、彼女がこちらに向けてくるのは、言外に『助けて』と言っているような視線なわけなのだが。

 そこで私がどうこうするのであれば、彼女の成長は望むべくもなく。

 可哀想な気がしないでもないが、ここは心を鬼にする私である。

 

 

「ビジュー様、どうかご健闘のほどを」

「無茶言わないで下さいシア!……あっ、いえその、教皇様方に何か問題があるというわけでは、決して!」

 

 

 ……なお、涙目でわたわたと言い訳を述べる彼女の姿に、ちょっとだけ嗜虐心を刺激された、というのはここだけの秘密である。

 

 

*1
なおこのアンドバリの指輪、名前の元となるのは北欧神話のドワーフ『アンドヴァリ』だと思われる。その為、この指輪のモチーフには彼の所有していた富をもたらす魔法の指輪『アンドヴァラナウト』も含まれていると思われる。なおこの指輪、北欧神話に深く関わりのある『ニーベルングの指輪』における指輪と『ラインの黄金』の元ネタと思われる部分がある(アンドヴァリ以外に使えないように、手に入れたモノに破滅をもたらす呪いが掛けられている)

*2
地下に設けられた水路のこと。蓋をして外からわからないようにしてある水路も、同じく暗渠と呼ぶ。排水用の水路が一般的だが、熱帯地域で蒸発を防ぐために水路を地下に埋める、というパターンも暗渠の一つではある

*3
この場合のタコとは生き物のことではなく、ペンダコに代表されるような、何かしらの行為によって角質化してしまった厚い皮膚──いわゆる『胼胝(たこ)』のこと。要するに同じ事を聞きすぎて耳が固くなってしまうほどになった、ということを示すモノ

*4
原作におけるアルトリアは、湖の精霊の加護を受けており、水の上に立つことも、そのまま走ることさえもできる。なお、別に水の中に入れないわけではない

*5
四大精霊の一つ、ウンディーネはドイツ語での呼び方。フランスでは『オンディーヌ』と呼ばれる。因みに英語だと『アンディーン』というのが正解


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