なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「さて、此度の我々の最終目標は、一体どうなっているのでしょうか?」
ロマリア教皇、聖エイジス三十二世……もとい、ヴィットーリオ氏からの言葉を受けた私は、ハルケギニアの地図を広げながら彼等に答えを返す。
「ハルケギニア各地に散った、『精霊との結婚』のための指輪の回収というのが、今回の目標となります。……折しも今年のアクア・アルタの前に
「『精霊との結婚』──ネオ・ヴェネツィアでの『海との結婚』が、ハルケギニアナイズされたもの……だったか?」
「そうですね。
「……なんだか、ちょっとばかし席を外したくなったんだが、ダメか?
「ダメに決まってるでしょ、ご主人様をこんなところにほっぽりだすつもり?!……でも、なんでサイトがちょっと申し訳なさそうなの?」
「ああいや、『海との結婚』ってのは、実際のヴェネツィアでも行われていた行事でな?」
「ふむふむ、それで?」
「……
「み゛」
「その時に『海との結婚』に使われていたガレー船も、合わせて破壊しているわけだ。……『海との結婚』という祭事が再建されたのは、千九百六十五年と聞く。となれば、
「……よくよく考えてみたら、ハルケギニアにナポレオンってわりと劇物なのね……」
「お前さんの名前の元ネタにしろ、ゼロの使い魔の全体的な
今回の私達の目的について、他の面々に説明する中。
どこか気まずげな顔をしているサイトとルイズが、なにやらヒソヒソと話をしている姿が視界の端に見える。
……まぁ大方、本来ならイタリアに相当するロマリアで行うべき『海との結婚』が、なんでフランス相当のトリステインで行われているんだ?……みたいな話だろうとは思うが。
実際、ロマリアには実際のイタリアにある都市・アクイレイアと同じ名前を持つ、水の都と呼ばれるような場所もあるわけなので、そっちでやればいいんじゃないか?という質問には、『確かに』としか答えられないわけなのだが。
……え?こっちのそれはヴェネツィアと混じってるけど、実際の両都市は結構離れてる?……まぁ、創作物で色々混ざる、ってのはよくある話なわけで……。*3
そもそもそのアクイレイア、アニメではラスボスであるエンシェント・ドラゴンに派手にぶっ壊されたりしているため、どうにも扱いが悪い感が拭えなくもなく。
というかこっちでもエンシェント・ドラゴン相当の存在は出て来ていた以上、下手すれば
……うん、語れば語るだけボロが出そうなので、とりあえずこの辺りで切ろう!
ともあれ、今回私達がやるべきことは、とてもシンプル。
ネオ・ヴェネツィアでの行事が、形を変えてハルケギニアでも定着したもの──そう捉えるべきものの一つ、『海との結婚』……もとい、『精霊との結婚』。
元を辿れば、
今日においては、彼の精霊と同じく『
つまりは、この祭事の目的は『トリステイン』と『水の精霊』との友好を示す為のもの。いわば国と精霊との婚姻、というわけなのである。
……まぁ、あの水の精霊がそこまで考えて、この行事をしているのかは謎な部分もあるが。
ともあれ、毎年アクア・アルタ──国を迎えに来る、という行為を見せているのは確かな話。
それを求婚と見なすのであれば、なるほど指輪を投げ入れるのは、一種の返答だと言えなくもないだろう。──貴方の愛を受け入れます、という返答に。
長く続けばそれもまた伝統となり、伝統となれば破ることは難しくなる。
結果として、一連の行為がきちんと解決しない場合、水の精霊はわりと強固な態度を取ることがある……という今の状況に繋がるわけで。
……まぁ雑に言ってしまえば、投げ入れられた指輪を数えながら、次の『
数えていたモノがなくなったので、どうにかしろと言っているのが、今のトリステインに起きている問題……というわけである。……一気に気が抜けた?知らんがな。
裏事情やらを見ていけば、確かに気の抜ける話ではあるが。
こと、水の都となっているトリステインとしては、わりと死活問題であることも事実。
……実際には先に述べた理由
「……一応聞いてみるのですが、いっそ水の精霊を滅ぼすというのは?」
「一欠片でも残ってれば復活する上に、そもそも虚無以外で倒せるのか甚だ不明な相手を、怒らせることの意味を天秤に掛けた上でそれでも実行するのであれば──まず無理、とだけお返しします」
「ですよねぇ」
笑いながら質問してくるヴィットーリオ氏に冷や汗を掻きつつ、答えを返す私。
……いやまぁ、そもそもの話として、この『精霊との結婚』を今の祭事の形に纏めたのは人間側であり、それをこちらの勝手な都合で打ち切るのは道理に合わない。
仮に相手を滅ぼすとしても、その豊富な水によって支えられている今のトリステインが、その水源を失った結果どうなるか?……なんてのは、わりと想像しやすいモノでしかなく。*4
とりあえず提案してみた、程度のヴィットーリオ氏には悪いのだが、案として勘案すること自体が馬鹿げているとしか言い様のないモノなのは明白……というか。
……っていうか、こっちはそっちが敵対の意思がないことを知ってるから、こうして笑って流せるけど。
そういうの微妙に知らない感じの人物とか、胃を痛めても仕方のない話だというかだね?……いやまぁマザリーニ卿のことなんだけども。
まぁ、彼のことは置いておくにしても、表面上の不穏さの演出は
そんな疑問を脳裏に描いたりもしつつ、そのまま相談を続ける私である。
「先に今年度の『精霊との結婚』を済ませてしまう、というのは?」
「残念ながら、その対応は難しいかと。この祭事が始まった頃ならばいざ知らず、今の『精霊との結婚』においては
「……運動会かなにかか?」
「まぁ、毎年やっていれば際限なく指輪が増えて行きますし、年に一度は行いたいとした当時の人々の交渉の結果、というところもありますし……」
続いてジョゼフから提案されたのは、今年の『精霊との結婚』を繰り上げで済ませるべきでは?というもの。
確かに、祭事とセットでやってくるアクア・アルタが一番の問題点なのだから、それをどうにかしようというのは、考え方としては間違いではない。
無論それは、こちらが毎年新しい指輪を贈っているのであれば、の話なのだが。
この祭事において使われる指輪と言うのは、以前水の精霊に贈った指輪の一部──現状の
そこから、普通の『海との結婚』と同じように男性から女性へ、そして女性から海──ここでは精霊に対して贈る、という形で使われるモノなのである。
そのため、返して貰う分の指輪がない現状で、新しく指輪を作ることになってしまうその対処は、単純に言って時間が掛かりすぎる。
更には、水の精霊の手元に残る指輪の数も減ってしまうため、彼が指輪を数える時間もまた減り、結果として次の『精霊との結婚』までの期間が短くなってしまう。
無論、その内今までと同じ期間にまで伸びることはあるだろうが……それまでにトリステインが持つかと言われれば、甚だ疑問だろう。
相手はよく言えば厳格な、悪く言えば融通が効かない頑固者である。……こちらの限界が来る方が先、というのは間違いあるまい。
なので、ジョゼフの出した案も、現状としては却下。
当初の予定通り、ビジューちゃんに虚無の力を扱えるようになって貰い、それによって全ての飛び散った指輪を回収する……というのが、現状としては最善であると、改めて議論が纏まるのであった。
「あ、あばばばばば……」
なお、自分を蚊帳の外にして全てが決まってしまった、当のビジューちゃんはと言うと。
見ているこっちが憐れになるくらいに、緊張やらなにやらでガタガタ震えていたのだった。……お労しや、ビジュー様。