なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
そこから先は、まさに怒涛の一言であった。
原作において一番最初に『
ビジューちゃんに扉の開き方、それから閉じ方などを原作知識を用いて
虚無発現に必要な強い感情の発露は、ジョゼフとシャルル両名の体を張ったあれこれで踏破し。(
心が挫けそうになった時には、学友であるティファニアやルイズ達からの強い励ましの言葉を受け。(
そんな苦難を乗り越えながら、ビジューちゃんは虚無をモノにしようと必死に訓練を続けていた。……え?所々なんか変なモノが聞こえた?知らんなぁ……。
まぁともかく、彼女はその身命を賭して、己の更なる成長へと邁進していたわけなのである。わけなのであるのだが……。
「」
「おお、こりゃまた真っ白に燃え尽きておる……」
三日漬けどころか一夜漬け。*4
あまりにもハードスケジュール過ぎるその修行は、彼女の心体に過大な負担を強いるものであり。
結果、日が明けるのを待たずに真っ白に燃え尽きて椅子に座る、ビジューちゃんの姿がそこにできあがったのだった。……これは ひどい。
「……流石にこの有り様は気の毒ね……キーア、なんとかならないの?」
「と申されましてもねぇ……、今の私はシルファ・リスティ。ビジュー様の使い魔兼護衛としてここにいる、単なる一介の平民ですし」
「おいこら、どの口で平民だなんだと宣ってんのよアンタ」
そんな彼女の様子を見たルイズが、とても気の毒そうな様子でこちらに声を掛けてくる。
本来であれば虚無の魔法使いとして、自分がその位置にいるはずだった……という罪悪感的な意識も少なくないからか、
そうは言われても現状の私は『シルファ・リスティ』という、ビジューちゃんとは別個の存在である。
例えば前回と同じく私が彼女に憑依しているとか、はたまたここにいる私がシルファでないとかであるのならば、一応彼女を手伝うこともできただろうが。
生憎とここにいる私は、シルファという器に押し込められている──正確には逃げ込んでいる──ようなモノでもある。……そもそもに技能の大半が封印されている状態、とも言えるわけで。
となれば勿論、虚無を扱うなど夢のまた夢。
私の虚無は
一応、私の場合の虚無の動かし方、というものを教えることはできるだろうが……その場合、車を運転するのにどこぞのルルーシュ専用
その辺りも手伝って、私はビジューちゃんを応援するくらいしかできないでいる、ということをルイズに伝えたところ、凄まじく怪訝そうな視線を向けられることになったのだった。
「……信じてない?」
「いやだって、虚無は虚無でしょ?」
「……言っとくけど、私の
「貴方がそんなに頭が良いようには思えないんだけど?」
「ぬぐっ……いいですか、私は脳内で演算を行う領域を、個別に確保しているんです。五条さんがずーっと無下限術式を回しているのと、似たようなモノですね。これは私自体の計算力を補うモノではなく、あくまで虚無を扱う際に起こる煩雑過ぎる処理を、極めて簡略化するためのもの。……普段の私の行動に伴わないのは道理なのです」
「ふーん……参考までに聞いておくけど、その計算ってどれくらいややこしいの?」
「普通に計算してたら一生掛かっても足りないくらい、ですね」
「……は?」
「貴方には言ってませんでしたけど、私の虚無は『一の中に無限を見る』……その行為をそれこそ無限回繰り返した果てに、ようやく届くかも知れない微小領域を扱うもの。こちらの虚無も万物の中の小さな粒を扱うモノなので、多少の応用は効きますが……それでも、それを普通の人が真似するのには少々無理があるのですよ」
話している途中で、よくよく考えたらルイズには私の『虚無』がどういうものなのかを話していなかったことに気が付き、思わず丁寧語になりながら説明することになったが……。
私がなんでもできるように見えるのは、なにもかも『手間の掛かかり過ぎる模倣で、実際にできるまで繰り返しているもの』だからでもある。*6
万物に敗北しうる、何物よりも小さい世界の粒──翻って、何に対しても含まれているとされる私の『虚無』は、なるほどその性質だけを見れば『ゼロの使い魔』で言われている小さな粒……『虚無』と同じものだと見なせるだろう。
だがしかし、私の虚無はその性質上『ゼロの使い魔』での虚無の微細な粒よりも、遥かに小さいものなのである。
人を細かく見ていけば細胞が見え、細胞を細かく見ていけば分子が見え、分子には原子が、原子には陽子や中性子・電子が見えるというように。
もし何もかもが分けることができると仮定する時、何よりも小さく何物にも含まれている微細粒子とは、一体どんなものになるのか。……それはつまり、全てを作る材料である、ということになる。
電子の世界での『零と一』がわかりやすい。
電子の世界にある全ては、零と一で作られているモノである。どんなに複雑なモノであれ、それを細分化していけば必ず零と一に突き当たる。
私の虚無とは、そういうもの。
人の認識の果てにある、いつかたどり着く最小単位。
そして、全てを構成するための材料であるがゆえに、その組み合わせを伸長していくことで、あらゆる全てを再現できる。
……わけなのだが、これは言うなれば『どんな膨大な数でも、最悪一を永遠と足していけば到達する』というような、凄まじく頭の悪く運用効率も悪いモノで。
数学者であれば、まず間違いなくもっと簡便でわかりやすい式に書き換えてしまうような式を、無理矢理数で押して使っているようなものなので、少なくとも私よりも遥かに大きい力である『ゼロの使い魔』の虚無を動かすために使うには、非常に効率が悪いのである。
ついでに言うのなら、算数を習う一番最初の時に、変な計算の癖を付けてしまうようなものでもあるので、できれば真似して欲しくないところが大きく。
それらの色んな事情を加味した結果、私はビジューちゃんを応援するだけに留めていた、というわけなのだった。
……まぁ、この説明を聞いたルイズは、その意味を理解するのに暫く時間が掛かっていたわけなのだが。
「……ええと、要するに凄まじく迂遠で稚拙で処理の膨大なやり方をしているから、師事する相手としては向いてない……ってことよね?」
「ああはい、そうなりますね。ついでに言うなら先程申しました通り、計算に関しては自動化しておりますので、言語で説明すると先程のヴィットーリオ氏のモノよりも、更に抽象的な説明になりますよ?」
「あれよりも!?」
「ええあれよりも。言ってしまえば本来どこぞの一方通行さんラインの計算が必要なものを、全部オートメーション化して音声認識だけで済むようにしているようなものなので。結果として別ラインとなる通常思考の私が、計算だけしている私の説明をするなら、ドガーッとかバーッとかジャーッみたいな擬音になりますし、仮に計算だけしている私に説明させるなら、大学の授業を百倍速で説明してもまだ足りないような、金切り声染みたモノになるでしょう。……どっちも大概抽象的、でしょう?」
「……貴方の頭、一体どうなってるのよ……?」
「はてさて、どうなっていることやら」
意味のわからないものを見るような目でこちらを見てくるルイズに苦笑を返し、改めて我が主──ビジューちゃんの方を見れば。
「では次はこちらを覚えましょう」
「お待ち下さい教皇猊下!?それは今回のあれこれとは別件では?!」
「何を仰いますやら。この問題が片付いたとて、貴方の成長が足りていなければまた新たな火種を呼び込むことは必至。であるならば、覚えられるモノは全て覚えるべきでしょう」
「……き、休憩っ!!一先ず朝食休憩です!!」
教育熱心なヴィットーリオ氏に迫られて、たじたじとなっている彼女の姿を見ることができたのだった。……うん、まぁ、頑張れ?