なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
まぁ、朝食に逃げたところで話が終わるか、といえばそういうわけでもなく。
朝食が終わればそのまま再び缶詰め、昼食に出てきたあとに缶詰め、夕食食べて缶詰め風呂に入って缶詰め……というような感じで、ほぼほぼ缶詰め状態で二日目は終わり、早くも期限となる三日目である。*1
……いやまぁ、残り時間があと二十四時間を切ったというだけで、正確には四日目の正午までが期限なのだが。
で、肝心のビジューちゃんの成長度合いはと言うと……。
「──ええ、これならば問題はないでしょう。できるのならばもう少し応用等も仕込んでおきたかったところですが……時間もありません。ここからは実際に指輪を探すことを優先致しましょう」
「ご、ご指導ありがとうございました……」
ヴィットーリオ氏の言葉に、膝から崩れ落ちるビジューちゃんを、地面にキスする前に抱き止める私。
気を失っているものの、その表情は実に安らかなもので。
視線を上げた先の教皇様は、満足げに頷いていたのだった。……うん、まぁ満足そうなのはいいんだけどさ?
「随分スパルタでしたね……」
「呼ばれた以上は務めを果たさねば、というところですよ。そもそもに私達がこうして集まるのも、随分と久しぶりのところがありますし」
想像以上に厳しめなその教育方針は、流石の私も身を震わせるものであった。……いやまぁ、持たされている力に対して、成長率が全然足りてない以上、仕方のない措置だってのもわかるんだけどさ?
その原因となった私が言うことではないのだが、なんというかもうちょっと穏便なやり方でもよかったんじゃないかなー、というか。
まぁ、ヴィットーリオ氏が言っていた通り、この問題が片付いても別の問題がやってくることは目に見えている……というか下手すると既に迫っている可能性はあるわけで、あまり悠長なことを言ってられない、って部分もあるんだろうけど。
などと脳内でぼやきつつ、ビジューちゃんをお姫様抱っこしなおしていると。*2
「おーいシル、修行が終わったって聞いたけど?」
「おおっとヘスティア様、丁度よいところに。ビジュー様をお部屋にお送りしますので、そのあとの様子を見て頂いても?」
「ん?そりゃまぁ別に構わないけど……君が直接見ないってことは、なにか他に用事があるのかい?」
「ええ、ちょっとこれから皆さんと会議を」
「ふーん……?」
部屋の扉を開いて、中を覗き込むヘスティア様の姿を発見したため、これ幸いとビジューちゃんが起きるまで様子を見て貰うように頼む私。
その流れで「なんで自分でやらないのか?」というようなことを聞かれたが……答えとしては単純明快、このあともまだ私達は仕事が残っているからという、ただそれだけのことである。
その言葉を聞いたヘスティア様は、一瞬こちらをジーッと眺めていたが……そこに嘘がないことを悟ると、小さく笑みを浮かべながらこちらを急かすのだった。
「そういえば、CP君は大人しくしてますか?城のメイドに迷惑を掛けたりとかは?」
「心配しなくても、あの子は部屋で大人しくしてるよ。見た目大きな芋虫だから、周囲に怖がられるかも……みたいな懸念もあったみたいだけど、どっちかと言うと珍しい生き物扱いで、他所に引っ張られることを気にしてたらしいし」
「……ああ、確かに。極力念話を使っていたのも、周囲に人語を解する存在だと言うことを知らせないため、ってことでしたしね」
そうしてビジューちゃんを部屋へと送るために歩きながら、世間話程度の気楽さでヘスティア様にCP君の近況を尋ねてみる私。
CP君とヘスティア様は、今回に限ってはほぼ巻き込まれただけの部外者であるため、基本的にはこちらの修行には加わらずに自由行動となっている。
なのでまぁ、私が居ない間になにか変なことにでも巻き込まれていないだろうな?……具体的にはアリア社長辺りに連れられて、どこかに行ったりとかしてないだろうな?
みたいなことを問い掛けたわけなのだけれど。……ヘスティア様の様子を見る限り、その心配は杞憂のようである。
ただ、CP君が部屋に籠っている代わりに、ヘスティア様は結構自由に城の外に出ているようなので、その辺りがちょっと心配だったりするが……。
「まぁ、アカリちゃんと一緒に遊んでる、とかでもなければ大丈夫でしょう」
「ん?なにか言ったかいシル?」
「ええ、ヘスティア様の交遊関係についての心配を少し。嘘を見抜けるので大丈夫だとは思いますが、大丈夫だと思っている者ほど騙しやすいというのもまた真理ですので」*3
「……いや、君は僕のことを一体なんだと思っているんだい?」
「そりゃ勿論、薄い本で危ない目に合いやすいキャラだと……」
「その辺りを突っ込むのは止めてくれないかな!?」*4
まぁ、現状そっち方面で危険人物である、アカリちゃんと一緒に遊んでいるとかでもなければ、特に問題はないだろう。*5……という感じに、無駄にフラグを立てておく私。
こうして予めフラグを立てたことを明言することで、フラグの成立を阻止するフラグブレイク作戦、というわけである(適当)。
……続けて私が述べた通り、下手に嘘を見抜けてしまうために、実際は相手の言葉を探ることがおざなりになっている感じがあるのが、ここのヘスティア様の悪い特徴である。
いわゆる心理学避けのやり方
嘘を見抜けるだけなら、それを抜く方法というのは幾らでも転がっているモノである。
現状では彼女が動くこと自体がリスクのようなので、ヘスティア様の補助というのは難しいかもしれない。
浸父モードなら戦闘能力も多少は付くものの、それはそれで周囲への精神汚染が酷いし、いざという時にしか使えないだろう。……なんなら、今心配している問題の根本原因に、変な警戒をさせることにも繋がりかねない……という懸念もある。
(CP君は『ARIA』知ってるはずだから、その辺りもジッとしてる理由かもなぁ)
「……君はさっきから何を一人で百面相してるんだい?」
「いえね、この世界って問題だらけだなー、と悩んでいたのですよ」
「あー……最初に君達がここに来た時にはドラゴンが、今回は水の精霊が……って話だけど、それ以外にも?」
「ええまぁ。……二次創作での『ゼロの使い魔』の話も混ざっているようなので、その辺りも心配なところですね」
「?二次創作が混じってると、なにか問題でもあるのかい?」
無論、そんな風にむむむと唸っていれば、傍らのヘスティア様に心配されるのは半ば必然。
流石に貴方のことで悩んでいますとは言えなかったので、代わりにこのハルケギニアがどれほど不安定なのか、ということを説明する私。
ゼロの使い魔は、途中で作者が亡くなってしまったために絶筆と
そのため、現実時間ではおよそ五年ほど『ゼロの使い魔』の真相というものがわからないままだった時期があるのだ。
これがなにを意味するのかと言うと、刊行が止まっていた二十巻以前とそれ以降、設定の齟齬が生まれたために更新を停止した作品がそれなりに存在する、ということである。
最後の使い魔である『リーヴスラシル』についての仔細や、『聖地』についての真相。──そう、何故聖地を目指すのか?ということは、ゼロの使い魔における最大の謎でもあったわけで。
ゆえに、そこを二次創作者達は、それぞれの捉え方で描いていたわけなのであるが。
ラスト二巻、そこに記された真相によって、その辺りが瓦解する羽目になった作者は、それこそ腐るほどに居たのだった……というのが今回の問題。
なんでそれが問題になるのか?と言えば、それはこのハルケギニアが『二次創作で書かれていたようなモノも混ざっている』ことにそこある。
これは一時期の『ネギま!』などがわかりやすいのだが……ストーリーラインの違う、原作を一にする作品が存在する時、それらの設定を取捨選択して作品を作る、というのは二次創作においてはわりとよくある話だったりする。
先の『ネギま!』の場合、いわゆる本家である普通の『魔法先生ネギま!』に対し、アニメである『ネギま!?』から派生した漫画作品『ネギま!?neo』の設定を引っ張ってきた作品、というものが存在していた。*7
なんでそんなことに?と思われるかもしれないが……当時の本家連載時にはまだ敵であった『フェイト・アーウェルンクス』が、『ネギま!?neo』の方ではちょっと扱いが違ったのである。
詳細は省くとして……彼の設定を『neo』側にすると、メインヒロインである明日菜を
そんな感じで、欲しい設定だけ他所から引っ張ってくる、というのは二次創作においては日常茶飯事。
それで後々致命的な設定の齟齬が生まれた場合は、そのままエタる……というのもまた、二次創作においては日常茶飯事だったわけで。
改めて『ゼロの使い魔』に話を戻すと。
この世界においては、作中の悪役に分類される二人──ヴィットーリオ氏とジョゼフ氏の両名は、普通に味方枠の存在となっている。
まぁ、彼等は『逆憑依』なので当たり前と言えば当たり前なのだが……そうなると困ったことが出てくる。そう、設定の齟齬だ。
特にヴィットーリオ氏に関しては、ゼロの使い魔が『聖地』とその奪還、及びその先にあるものを主軸とした話だったため、彼が敵でないというのは大きな変更点となる。
その齟齬を解決するに辺り、設定として組み込まれそうなモノこそが。
「『聖地』を目指す理由として、当初語られていた──後に否定された『聖地』にあるという魔法装置。それがこの世界では実際に存在する可能性が高いんですよね……」
「……はい?」
私の言葉に、ヘスティア様はよくわからない、とばかりに首を傾げていた。……まぁ、ヘスティア様は『ゼロの使い魔』よく知らないらしいから、仕方ないね!