なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……魔法装置、本当にあると思います?」
「いやー、どうだろうなぁ?確かにある方が、話としての収まりがよいというのは確かだが……」
「そんなものはどこにもなくて、ビジュー嬢に『拡散する虚無!』みたいなことを、やって貰う必要もあったりするかもねぇ」*1
「今思えば、キーアちゃんがエンシェントドラゴンを倒しちゃったの、わりと問題だったのかも知れませんね……問題の押し付け先がなくなった、という意味で」
「「「あー……」」」
「……人が居ない間に、随分と楽しそうな話をしていますね、皆様方?いえ、私はシルファ・リスティですので、キーアとか言う人の悪評とか、特に思うところはありませんがっ」
「……語るに落ちてはおらんか?」*2
ビジューちゃんを部屋のベッドに寝かしつけて、会議室に戻ってきた私が見たのは、机を囲んでむむむと唸る虚無の使い手+α達の姿。
他の面々と違い『逆憑依』でもなんでもないジュリオ君は、他の面々へと紅茶や軽食などを提供しながら、戻ってきた私に助けを求めるような視線を向けてきていたが。
済まんね、君にはまだまだ心労を掛けることになりそうだ……と小さく頭を下げると、彼は絶望したような表情を見せていたのだった。……そんな状態でもしっかり給仕はこなしている辺り、流石は虚無の使い魔だと褒めてあげたいところだけど。
ともあれ、本格的な会議はこれから。
周囲の面々と同じように椅子に座った私は、彼等を見渡しながら口を開く。
「じゃあこれから思う存分、ハルケギニアの未来を憂うことと致しましょう」
「……んー、やっぱり大隆起そのものは起きる、ってことでみんな見解は同じなんだね?」
「ええ、数ある二次創作においては、確かに
「……まぁ、まさか地下の風石全てを虚無で消し飛ばす、という対処を取るわけにもいかんしのぅ。幾らなんでも負担をビジュー嬢一人に押し付けすぎだ」
「まぁ、今回の騒動で得た経験を糧にすれば、やってやれないことはないでしょうけどね、風石全ての破壊という方法も」
「あー、『世界扉』の同時展開でもしないと間に合わないでしょうしね、指輪の回収……」
「ええ、そういうことです」
虚無組であれこれと語ること、およそ一時間ほど。
地下に埋没している風石──風の精霊力を封じたそれらが飽和し、上にある陸地ごと剥離するモノ。
大いなる災厄とも呼ばれる大隆起とは、おおよそそのような原理で起こる現象である。
ハルケギニアの空を行く、アルビオン浮遊大陸もこの大隆起の名残だと言うのだから、風石の持つ力の強さがどれほどのモノなのか、察することはそう難しくないはずだ。
で、そうして空を飛んでいるアルビオンが現実として存在している以上、ハルケギニアの大陸の地下に風石溜まりができている……ということは、半ば確定的であり。
その風石達の大本──核とでも呼ぶべき『
一応、ビダーシャルさんが頑張ってエルフ達を説得しているらしく、原作ほど人間とエルフとの間の関係が冷えきっている、ということは無いそうだが……それでも、過去のブリミルの悲劇──六千年前の大災厄は起きてしまっているし、大半のエルフが人間を見下している、ということも変わらない。
……一回こう、天下一武道会でも開いてエルフ側をぼっこぼこにしてやれば、その変なプライドも折れてマトモになるかも?*3……みたいなことをビダーシャルさんが言っていたが、それにしたって現状エルフに勝てる人間、というのが極少数な時点で難しいだろう。フュージョンしたジョルル氏が、相手のエルフを岩盤する(動詞)*4のを見たいか見たくないか?……で言えば、見たいのは確かだけど。
まぁつまり何が言いたいかと言うと、
「だからまぁ、仮に風石を除去する魔法装置が聖地に眠っているとするのであれば、そっちの方が都合が良いわけだが……」
「問題があるとすれば、使い方がわからないということですね……」
「ですよねー」
皆が一様にため息を吐く。
そもそもに巨大すぎる『大いなる意志』、纏めて消し飛ばそうとすれば必要な威力は相応のモノとなる。
完全な状態の『大いなる意志』であれば、リーヴスラシルとなっていた初代ガンダールヴの命、その全てを虚無の最大魔法『生命』に注ぎ込んで、ようやっと破壊できるとされていたわけなのだから、その規模は推して知るべしというやつである。
と、なれば。
聖地の付近に住んでいるエルフ達が、虚無の爆発に巻き込まれる可能性はとても高く(そもそも六千年前に虚無の爆発に巻き込まれたのが、エルフと人間の軋轢の根本原因である)、それによって余計に両種族の関係を拗らせることになれば、それこそ目が当てられないような事態に陥ること必至なわけで。
ならまぁ、端から虚無での解決を考えず、聖地にあるという魔法装置をあてにするのは、そうおかしな選択ではないわけなのだが……。
仮に聖地に魔法装置があるとして、それがどんなもので、どういう風に使うのかが、私達にはわからないのである。
それは何故かと言えば、『
……さっきの『二次創作』云々の話を思い出して欲しい。
最終巻の刊行がずれ込んだ事で、二次創作者達はそれぞれの選択を迫られた。
絶筆であったため、そのままエタるもの。
どうにかして、結末を書き上げたもの。
今回の『魔法装置』の出所というのは、後者の『どうにかして結末まで二次創作を書ききった』モノにある。
つまり、原作とは全く関係ない、オリジナル展開ということになるわけだが。
……生憎と、私達の脳内にある記憶というのは、原作の展開──暫く時間が経って、代筆によって完結した物語の方である。
それがなにを意味するのかと言えば、私達は実際に魔法装置を目の前にするまで、それが一体どういうモノなのかを窺い知ることができない、ということ。
──ぶっつけ本番で装置を動かすしかない、ということになるのである。
「……聖地に無理矢理押し通るのは」
「多分エルフの猛反発を受けますね」
「前もって装置の検分をするとかは」
「最初にそういうものがある、と知っている風に振る舞っていたのに、何をしているんだと不審に思われるでしょうね」
「……詰んどらんか!?」
ジョゼフさんが叫ぶのも無理はない。
エルフ達にとって聖地とは『
で、あるならば。例えビダーシャルさんが交渉を取り持つとしても、エルフ側から同行者が──それもバランスを取るために、人間に対して不信感を抱いているような人物が選ばれることは必至。
つまり、『聖地に世界を救う装置がある』と述べながら、その使い方を知らないなんて姿を見せた場合。
最悪の場合は相手の無用な反発を招き、装置の破壊までされてしまう可能性があるわけで。
なんやこのクソゲー、と色々投げてしまいたくなる気持ちは、よーくわかってしまう私なのであった。
「……うーん。魔法装置があるのであれば、その解説的なモノをブリミル様が残していてもよいはず。そちらの文献を探して、予め復習しておく……というのが、現状の一番の対処と言うことになるでしょうか……?」
「となれば、ロマリアの書庫をひっくり返す必要があるのぅ」
「こっちからも捜索用の人員を送りたいところだけど……名目はどうしようか?あまり直接的に名付けるのもちょっとアレかな、って思うんだけど?」
「?どうしてですか?」
「敬虔なブリミル教信者であれば、聖地を目指すは当たり前のこと。そこに『世界を救うためのなにか』がある、なんてことを知られれば、強硬派が勢い付く可能性は大いにあるからね」
「
「……政治とか宗教とかって、とっても面倒くさいですね!」
「わぁ不敬」
それからも会議を続けてみた結果、魔法装置が『ある』世界であるのならば、それを作ったのはブリミル・もしくは彼の関係者である可能性が高く、そうであるならば魔法装置の説明書的なモノくらい、どこかにあってもおかしくないだろう……。
ということで一度議会はお開きになった。……まぁ、議論がほぼほぼ煮詰まってしまっていたので、然もありなん。
ただまぁ、説明書もあると仮定するのであれば、始祖の祈祷書にいつものノリで載っている、という可能性もなくはないのだが、そこについては誰も触れることはなかった。
……問題の解決に繋がらないどころか、ぶっつけ本番を推奨する感じの『必要な時だけ読めるようになる』タイプの啓示であるそれが、現状一番可能性が高いことを認めたくなかった、というところも大きいわけだが。
そもそもに始祖の祈祷書自体、トリステイン王家秘蔵の書であることもあり、姫様の居ない現状では貸し出しが難しい……というのが一番の問題だろう。
なにせこの国、王の崩御後に王妃が喪に伏せたまま、というのは原作と変わらないのだから。
「……まぁ姫様が原作と違って、端から王としての資質を開花しているので、国の行く末そのものはそう悲観するモノでもないとは思いますが」
ポツリとぼやく私。
そう、アルトリアが戻ってくるのなら、トリステインそのものが滅びる、ということはないだろう。
ここはブリテンとは違い、理不尽な滅亡を定められた場所ではない。妖精の方のマーリンも、二度同じようなバッドエンドを見るのは御免だろうから、積極的に協力することは間違いない。
なのでまぁ、国の心配事と言うのであれば……。
「ビジューちゃんが今回の案件を解決できるか、それに全ては掛かっているってことになるのかなー」
彼女の力が安定し、かつ水の精霊との交渉を見事成功させること。
……結局、最初のこの問題に戻ってきてしまうのだなぁ、と私は苦笑するのだった。