なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ええまぁ、はい。今更貴方の独断専行をあれこれ言うつもりはないけど……それで?」
「えっと、そのあとは目が覚めたビジューちゃんが──周囲の補助を受けながら
「その言い方だと、素直に戻らなかったってこと?」
「うん、まぁ……ここにきてあそこがネオ・ヴェネツィアが混じった世界だった、ということが引っ掛かって来てね?……彼が言うところによれば『我等と名前を一にする者達を、不埒にも浚おうとする者あり。至急討滅されたし』ってことらしくってね?しょうがないから私達は、みんなで城下町の路地裏を探索して──」
場面は移って、なりきり郷の
こめかみをひくひくさせながら、眉根は下がり泣きそうな顔……という、お前どこの
既に事後──過ぎ去ってしまったことであるとはいえ、だからと言って内容についての報告が必要ないわけではない以上、こうして彼女に資料を渡し、合わせて説明をする……というのは重要なことなわけなのだが。
一組織の長としては単に報告を受けるだけではなく、勝手な行動を叱ったりする必要もあるのは事実。それゆえに今回のゆかりんの態度は、基本お怒りモードなのだけれど。
同時に、事前に今回のあれこれについて知らされていたとしても、自分にはどうにもできない案件だった……というのもひしひしと感じているらしく。
結果、その複雑な感情が表情に出てしまっている……というのが、今の彼女の
まぁつまりは、あとで愚痴られるのは既定路線だということ。その辺りは甘んじて受けることを、内心で承服しつつ。
アカリちゃんが変なものに巻き込まれやすい体質であること、今回もそのせいで悪霊的なモノを引き寄せてしまっていたこと。
それを水の精霊が(役職名繋がりで)心配していたこと、および私達が見付けた彼女が、既に悪霊に引かれて水底に落ちるところだったこと。
──そうして沈んでいく彼女を、大きな猫のような
ゆかりんは頭を抱えながら、机に突っ伏してしまうのだった。
「……ええと、何故そんなことに……?」
「最初に私が言った、ハルケギニアに行くことになった理由。……覚えてる?」
「え?ええと……ゲートが不安定だから、だったでしょうか?」
機能停止中のゆかりんは一先ず置いておいて。
一緒に報告を聞いていたマシュが、なんでそんな事態になったのかと問い掛けてきたため、その理由を解説する私である。
最初に述べた通り、私が改めてハルケギニアを目指したのは、ビジューちゃんの力が不安定であるがゆえに、虚無が暴走して無差別に開いてしまっていた
……が、途中で臭わせていた通り、今回のあれこれの原因というのは、彼女だけに責の全てが及ぶものではない。
じゃあなにが理由だったのか?と言うと、トリスタニアがネオ・ヴェネツィアとの混ざりものだった、というところが大きい。
私達が最初にたどり着いたのは、トリスタニアの路地裏だったが──あそこは正確には
「……はい?」
「正確には『
言うなれば、トリスタニアの中にアクアがある、ということになるか。
なんでそんなことになっているのか、というのは不明であるが、ともかくあの場所には本来交わらない二つの世界の法則が流れていた、ということは事実。
結果、土地の縁として『アクアに関わりがあるもの』を引き寄せていた、ということになるらしく。
逆に言えば、あの路地裏は路地裏になる前から、火星の土地であったらしい。
「……ええと、よくわからないのですが。つまり、トリスタニアは後から上に書き加えられたもの、だったということですか?」
「テスクチャ的な考え方をするなら、そうなるんだろうね。……いやまぁ、その辺りを厳密に説明するなら、ハルケギニアの土地の上にアクアの土地、更にその上にトリスタニア……って感じになるんだろうけど」
「……不可思議な世界過ぎではないでしょうか?」
「まぁ、二次創作も混じってる世界、って時点でマトモじゃないよねぇ」
困惑するマシュに、嘆息を返す私。
私もまぁ、最初は単に世界観が混じっているだけだと思っていたから、その気持ちは良くわかる。
幾重にも世界の法則が折り重なっているせいで、起きるイベントのフラグが多重化している──。
その事実に気付いたからこそわかった真実であるし、そもそもそれを知ったからといってなにができるわけでもない。
精々、今回の世界扉があちこちに開いている理由が、そもそも次元境界線が不安定な状態で安定しているから*3、ということであると気付くきっかけになるくらいのものでしかないし。
「安定させるのが端から無理というか、繋がることを抑制はできないというか。……だからまぁ、今回の最終的な対処に繋がる、ってわけなんだよね」
巨大な猫の王──ケット・シー*4が居たのも、大本を正せばあそこがアクアだったから。
水底にアカリちゃんを連れていこうとしていたのは、どうにも漆黒の君ではなかったようだが……どちらにせよ、彼女が正邪問わず人以外のモノを引き寄せる質、というのは間違いでもなさそうだし、それがあの土地の縁によるもの、というのであればどうにかする手段というのはほぼ無いとも言える。
……いやだって、ねぇ?
私達が見たのは、ケット・シーに助けられてゴンドラの上にそっと寝かされていたアカリちゃんの姿だけど、そのあと私達が彼女を見付けるまで、他の危ないものから彼女を守っていたのは、他ならぬ
現れた私達に『遅いぞ、単なる者達よ。九命の隠者*5はもう立ち去ったあとだ』などと不満げな態度を取ってくる水の精霊とか、正直意味わかんないし。
まぁともかく、『ARIA』の主人公である、灯里ちゃんの同位体?とでも呼ぶべきアカリちゃんの存在、それそのものもまたあの不安定な世界の証明である以上、放置することはできず。
結果として、不安定な世界に楔を打つことになった、というわけなのでありましたとさ。
その成果?とでも呼ぶべきものが、次に紹介するモノである。
「……だからって、世界扉に固定化まで掛けたモノをクローゼットに設置、って!ナルニア国じゃないのよいい加減にしなさいよもー!!」*6
「だってやりたかったんだもん!クローゼットじゃなくて机の引き出しにする案もあったけど、そっちは引き出しぶち壊しそうだから嫌だったんだもん!」*7
そう、ゆかりんの言う通り、ハルケギニアに続く世界扉。それを、私の部屋のクローゼットの奥に設置したのである。
ゆえに、それを更なる混沌であるなりきり郷の場所効果で肯定してやる、というのが今回思い付いた対処法なのであった。
これは、『ゼロの使い魔』における最終目標──サイトの地球への帰還を、虚無やらなにやらの運命から引き剥がす……という目的も含まれている。
要するに、聖地奪還どころか新天地への交通手段を既に確保してます、という事実を上から追加することにより、不安定な世界を物語終了後の世界に塗り替える、というものだとも言えるだろう。
これにより、わざわざ聖地に近付いてエルフ達を刺激する必要もなくなり、更には大隆起もこっちから戦力を送って無理矢理平定する、ということも可能になったわけなのだ。
「……そんなことが可能なのですか?」
「雑に時間系の技能とかで風石の成長を止める、とかでも時間は稼げるしね。そもそも例え精霊石を破壊しても、数万年後?とかには再び大隆起の可能性はあるらしいし、それならあの世界を別の法則で塗り潰す方向であれこれ考えた方がいいんじゃないかなー、というか」
マシュからの疑問にそう答える私。
ゼロの使い魔における最終局面において精霊石は破壊され、大隆起の危険は去ったが……さらりと『いつか再び起こる』と明記されていた辺り、どうにも自然現象として地下に風石が溜まる、という状況は覆せるモノではないらしい。
ならば、既に『ARIA』の世界法則が混じっている現状、更に他の法則を混ぜて風石溜まりができないようにするのが健全、というものだろう。
あとはまぁ、立派になるまで戻る気は無さげだったアルトリアに、一度トリステインに戻って貰おう、という意図もなくはない。……継承権の関係上、彼女が不在時にはどうしてもビジューちゃんに負担が集中するため、その辺りの緩和を狙ったものとも言えなくはないか。
それから、ルイズやサイト達にこっちのことを知って貰ういい機会にもなるかなー、と思っていたりするし。前述のアカリちゃんの保護というか検査というか、そういうのもしておきたいところもある。
……そんな感じに色々と理由はあるのだが、一番大きい理由はやはり、
「ええと……いつもより背が大きいのは、せんぱいがまだシルファさんのままだから……ということで宜しいのでしょうか?」
「そうそう。……キリアは確かに
今回の旅の目的として、私が大きくなるための下準備……という面が大きかったことは否定しない。
私とキリアはニアイコールなので、両者が同じ世界にいる場合存在の場所を食いあってしまうが。*8
ルイズは私達にとっては、いわば母親のようなもの。彼女が居る環境において、私達は共に派生キャラとしてしか扱われなくなるのである。
まぁ、ここにいるキリアは作り物ではなく、どこかにいる本人がたまたま現れたものなので、その辺りの影響を実際には受けないが。
存在として不安定な私の方は、それらの影響をもろに受ける。
結果、キリア登場によって勝手に弱っていた私は、ルイズ登場によって勝手に復活することと相成ったわけである。
……まぁ、まだ完全に馴染んではいないので、今のところはシルファの姿でないと前よりは大きいものの、幼稚園児みたいな身長になってしまうわけなのだが。
ともあれ、ちゃんとした目線であれこれできるのは、とてもありがたい。……最終的にこの形に持っていくのが理想で、かつ下準備なしでやろうとすればビジューちゃんが酷いことになっていたのは確実だったので、今回みたいなとても迂遠なやり方になっていたわけだが……ともあれ、上手くいってよかった、というやつである。
「その結果として私は突然増えた異世界についての説明を上司にしなくちゃいけなくなったんですがー!?」
……ゆかりんの嘆きはスルーである。
愚痴は聞くので頑張って欲しい。
彼女の悲鳴を聞きながら、これからどうしたものかとあれこれ思考を巡らせる私なのであった──。