なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
そろそろ夏が近付いて参りました
「ふぅむ……」
「……なんですか、キリア。貴方がいると口調を
ハルケギニアでのあれこれやら、新しく増えた異世界やら。その辺りの事情からもたらされる興奮から、冷めやらぬままのある日のこと。
自室で椅子に
今の私の姿は、ハルケギニアでのそれ──シルファ・リスティのもの。
それと最初にこの姿になった時に言っていた通り、雰囲気とかも騎士感が強くなっているため──見ようによっては男装の麗人、というような評価を貰うこともあるかもしれない。
──そのせいということなのか、はたまたなにかの運命の悪戯か。
ともかく、キリア的には今の私の姿に
「……その耳がうちの娘に似ている……」*1
「雰囲気だけでしょうが!?そもそもあの子は俺っ子系、口調も態度も私とは別物でしょう?!」
「いやー、一応私の分化?分身?化身?みたいなものなわけじゃない?キーアってば。だからこう、対面してると弄りたくなるところが大きかったんだけど……今の貴方を見ていると、母性がひしひしと沸いてくるというか──ね?」
「なにが『ね?』……ですか、正座して膝をぽんぽんと叩いて、そこに寝転がれと主張するのは止めなさい!」*2
その結果として、最近の彼女は母親スイッチがオンになってしまっているらしく。……隙あらばこうして、人を猫可愛がりしてこようとするのである。
これならばまだ、通常時のからかってくる方がマシというもの。
ガシガシと頭を掻いた私は、そのまま椅子から立ち上がり、部屋を出ていく。
背中に掛けられる『夕飯までには帰ってくるのよー』の言葉に、苦虫を噛み潰したような顔になりながら、私は家の外へと飛び出すのだった。
「……で?うちに来たってのか」
「ぬぐぅ、まさかこんなことになるとは思ってなかったというか……」
で、そうしてやって来ましたのは、お隣さんであるよろず屋銀ちゃん。
机に肩肘を付きながら、イチゴオレをストローからずずず、と啜る銀ちゃんに愚痴を溢しつつ、ソファーに横になっている私である。
……いやまぁ、その内元の場所に帰るだろうから、それまでの辛抱だと自分に言い聞かせていたのだけれど。……ここまでキリアにクリティカルするとは思っていなかったので、正直対応に困っているのだ。
「……帰るってーと」
「元の場所に。……そもそもあの人、今のところ
「……いやまぁ、その辺の話はよくわかんねーから、どーでもいいけどよぉ」
「よーくーなーいー!!なんで帰るのか、ってのが『自分が居るだけで世界は滅ぶが道理、ゆえに自分の性質に自分をぶつけて相殺してる』ってのが今キリアがここにいられる理由なんだから、ぜーんぜん関係なくないしどうでもよくないー!」
「いや、設定云々を知ってるのはお前だけなんだから、結局俺らにゃ大して意味ある話でもねーよ。今世界が滅んでない、ってことは変わんねーわけだし」
「ぬぐぐぐ……」
彼女は本来、そこにあるだけで今ある世界の法則を無為に落とし、新たなる世界の秩序を紡ぎ始める者である。
ゆえに、彼女がその辺りの危機的状況を一切発生させず、単なる人のように振る舞っていること自体が、結構驚愕の状況なのだが……この辺りの設定は私が
それゆえ、その辺りの危機感的なものは、他の面々にはわかって貰いにくいモノとなっているのだった。……銀ちゃんの言う通り、現状世界が滅んでいない、ということは事実なわけなのだし。
でもまぁ、いつか彼女は帰るだろう……という理由がそこにある、ということくらいは理解して欲しい私である。
「ふむ、察するに──滅ぼす気ならとうにやっている。今彼女が無害な姿を晒しているのは、偏にこの世界で確かめたい何かがあるからだ……とか、そういうことで間違いないでしょうか?」
「そう!その通りXちゃん!流石宇宙刑事!」
「振り向かないことは若さの証ですからね!」*3
そんな中、こちらの言いたいことを正確に理解してくれるのは、こっちの世界では意外と常識人なXちゃん。
普段着が通常Xちゃんなせいで常にパツパツ、という世の青少年達の教育に悪そうな見た目をしている辺り、本当に常識人なのかは怪しかったりもするが!
「そこ突っ込まないでくださいますか!?私だってもうちょっとおしとやかな服とか着たいんですよ?だけどあの
「お、落ち着いてXちゃん!悪かった!私が悪かったから頭を前後に揺らすのはやめてぇえ~~~」
「……なにやってんだよお前ら……」
なお、私の横に並ぶと胸囲の格差社会となるため、実はあんまり隣に立ちたくなかったりもする。
その辺りの話を指摘すると、こうして酷い目にあうんだがねおろろろろ。
口から垂れ流された虹色のブツを片付けつつ、改めて話を戻す私。
キリアがいずれここからいなくなるだろう、というのは、彼女が自身の性質を抑えているから。……現れた理由が自身の
ゆえに、その用事が片付けば、彼女がここにいる理由はなくなり。彼女がここからいなくなれば、私が存在の基盤を乱される、ということもなくなる。
今の私の姿は、一種の避難所的なものでしかないので、キリアがいなくなったのならばわざわざ維持する必要もなくなる、というわけなのである。
だからまぁ、こうして私がシルファとしての姿になれるようになった以上、あとは普通に彼女の帰還を待つだけで事は済む、と思っていたわけなのだが……結果としてはこの通り。いつの間にやらホームシックを患っていたのか、私を義理の娘と勘違いする始末なのであった。
……いやまぁ、当の義理の娘は男勝りなタイプの人物であったため、細かい要素を箇条書きにすれば、今の私と似ているところもなくはない……というのはわからない話でもないのだけれど。
「めんどくせぇな、別にいいじゃねぇか。精々膝枕されて、いい子ですねーとかされるだけなんだろ?」
「あめぇよ、チョコラテよりあめぇよ銀ちゃん」
そんな私の様子に、うんざりしたような声を漏らす銀ちゃん。
とはいえこれは、彼女が『母親モード』になっていることがどういうことなのか、ということを彼が知らないからこその認識の食い違い。
言うなれば『うちは赤ちゃんにされてしまう……』と戦くタマモクロスに対し、『所詮はごっこ遊びかなにかだろう?』と言葉を返すようなもの。
当事者と傍観者の間での認識違いは必定、ゆえにそこを懇切丁寧に解説せねばならない、ということなのである。
なのでまずは銀ちゃんのランクを
なお当の銀ちゃんは『チョコラテ……?』と首を傾げていた。
「聞き捨てならないわね、キーアちゃん!」
「そ、その声はーっ!?」
「……いや待てって、ここよろず屋。わかる?お前らのための舞台ってわけじゃなくてね?」
「母がどうのと言われたのなら、私が来ないわけには行かないじゃない!」
「げぇっ、アスナ!」<ジャーンジャーン
「いや、人の話聞いてくれるー?銀ちゃん今結構大切な話してるからねー?」
で、私が母親モードのキリアの恐ろしさ、というものを彼に教えようとした、まさにその瞬間。──奴は、まるで一筋の突風のように、部屋の中に自身の声を響かせたのです。
そう、奴こそは母親の因子をその身に受けたもの。全てを賭けて子を愛す女!すなわち、アスナマーン!……女の子やぞ?じゃあアスナウーマン?語呂悪くね?*4
まぁともかく。
声繋がりで頼光さん要素を持ち合わせる彼女は、確かに
「母が敵だと言うのであれば、同じく母が迎え撃ちましょう。──任せてキーアちゃん、私立派に貴方の母親になってみせるから!」
「はははなんだろうなぁ心強い味方ができたはずなのになんか退路をごりごりに崩されてる気がするのは!」
「き、気を確かにキーア!ここで負けては母達の思う壺ですよ!」
「『母達』って時点で大概パワーワードなんだよなぁ!?」
まぁ、なんというか『勝った方が我々の
そんな風に遠い目をしてしまう私の横で、Xちゃんは精一杯の応援をしてくれるのでしたとさ。
……銀ちゃん?やっこさん一足先に赤ちゃんにされちまったよ。見ろよあのおしゃぶりを咥えさせられて、ピカピカの眼差しを周囲に見せてる銀ちゃん。
未来の希望に溢れた、輝くような目をしているだろう?あれ
そんな感じのちょっとした騒動は、買い物から帰って来た桃香さんに「皆さんなにされてるんです……?」とドン引いた声を掛けられるまで続くのでしたとさ。