なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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夏の麦茶はよく冷えている

「さぁ私と母親力バトルよキリアさあああ私は赤ちゃん!」

「アスナさんーっ!!??」

「マジかよ、秒で負けたぞアイツ」

 

 

 さて話は戻って。

 どちらが真の母親なのか、世界に見せ付けてあげるわ!……とかなんとかいう、謎のはりきりを見せていたアスナさんなのであったが。

 家の中に入ってキリアと対面した途端、彼女はそのまま流れるように負けを認めてしまったのであった。

 唖然とする銀ちゃん他数名の前で、アスナさんはキリアの膝枕の上で優しく頭を撫でられながら、至福の笑みを浮かべている。

 

 

「はい、はい。母親として頑張るのもいいけれど、時には貴方も他人に甘えたりしなさいな。今日は何が食べたい?私が好きなものを作ってあげましょうね」

「ママー!」

「……これはひどい」

「それさっきまで赤ちゃんだった銀ちゃんが言う?」

 

 

 見た目だけならば、小学生前後の少女にしか見えないキリア。

 それゆえということなのか、今の彼女はバブみオーラを全身に展開している状態。

 もし仮にどこぞのファミコン赤い彗星*1がこの場に居たのなら、高速でスライディングしながらおしゃぶり装備して甘えに来るだろう、という推測ができるほどのバブみオーラであった。……イメ損にもほどがあるなその予想図。

 

 まぁともかく、アスナさんが大敗を喫したのはご覧の通り。

 よもや背中にクリークが見えるほどの、母オーラを持つアスナさんが負けるとは思わなんだが……でもまぁ、それも当たり前の話なのであった。

 

 

「って、言うと?」

「ちょっと前に話題に出しましたけど……キリアが真っ当に自身の役目を遂行する場合、その果てに待つのはティアマト神やガイア神などと同じ『新たな大地となる』という結末。……言い換えれば、彼女は最新の大地母神となりうる者なのです」

「あーなるほど。持っている母パワーの規模的に、どう足掻いても勝つのは無理だった……ということになるわけですね?」

「そういうことになりますね」

「……当たり前に言ってますけど、母パワーってなんなんです……?」

「おいしっかりしろ桃香、お前にまで離脱されると、ツッコミの負担が全部俺に振り掛かる羽目になるんだよっ!!頑張れマジで頑張れ!」

「いやちょっと銀さん、私には無理ですよこれ……」

「桃香ーっ!?」

 

 

 先述した通り、彼女は新たな秩序を生む糧となるタイプの存在である。……いやまぁ、『星の欠片(スター・ダスト)』自体が全部大地母神系列の技能なので、当たり前と言えば当たり前なんだけど。

 その中でも殊更に()──彼女(キリア)よりも低い位置に居るのは、ただ一人だけであるという特殊性と。

 そもそも件の『一人』は原則的に表には出てこないので、実質的に彼女が一番下……いわゆる首領格みたいなところも合わさって、彼女は母としての性質を色濃く持つモノでもあるというわけで。

 

 基本的には魔王として振る舞うから、その辺りを実感することはほぼない(一応、凄まじく面倒見がいいので、その辺りから感じ取れるかもしれないが)のだけど……、何の因果かこうして母性的な部分が表に出てしまうと、闇属性というものが持つ本質……原初の混沌的な性質も相まって、結果としてダダ甘な母と化してしまうのである。

 

 

「闇属性の持つ本質……?」

「光と闇っていうのは、そもそも善悪とは別種のモノである……という話ですね。言うなれば世の中には『良い闇』や『悪い光』みたいなものも存在している……ということになるのでしょうか?」

 

 

 私の言葉に桃香さんが不思議そうな顔をしていたので、あわせてそちらの説明もしていく私である。

 

 悪を許さないというのは、正義・ないし善性からの行動ということになるだろう。

 が、例え相手が悪であろうとも、与えるべき罰というものには程度がある。──例え相手が極悪人であろうとも、なんでもしていいわけではない。

 これは、『善』というものが『正しければなにをしてもいい』という免罪符ではなく、あくまでも『己を律し、間違ったことをしないようにする』ための指針でしかないこと、および他者に向ける正義とは、本来のその道を正すためのモノである……という事実に基づくモノだが。

 それをキチンと理解せず、悪であれば全て滅ぼす……みたいな過激派思想となる者は、それなりに存在しているわけで。

 

 今この話を聞いて、視線を逸らしている当の桃香さんが良い例である。

 彼女は『未来を視る』力を与えられた結果、人の所業に絶望し『人間は全て悪であり、それらは正さなければならない』……なんて祈りを抱いたことがある……もとい、()()()()()()を持っている人物だが。

 

 例え人間の本質が悪であれ、彼らが全て悪行のみを犯すわけでもなく、また悪行のあとに()()()()()()()相手ばかり、というわけでもない。

 反省すれば全てが許されるわけではないが、かといって反省したことが情状酌量の余地を生まないわけでもない。

 罪に対して罰は必要であれど、それを同じ人間が定めようとすればどうしても主観が混じり、正しく()()()罰とはなり辛い。

 

 人が人を裁くことの無意味とは、結局のところそれらの疑問点がもたらす『相手を裁くことすらも罪である』という結論に回帰していくものであるが……まぁ、その辺りは置いておくとして。

 

 悪い光とはまぁ、そういうこと。

 正しさばかりを押し付けて、それがなにをもたらすのかをわかっていない者達。

 恵みの雨も無しに日光だけを与え続けても、植物はただ枯れていくということを理解できない者達……とでも言うべきか。

 もっと雑に言うのであれば──ずっと世界が明るいままならば、人は眠りという休みを取ることすらままならない。それは決して、()()ことではない……ということになるだろうか。

 

 対して良い闇、というのは──人の眠りをもたらすもの、人が休むための理由になるもの……という説明が一番わかりやすいと思われる。

 

 人は明るい内に動いて、暗くなれば家や安全な場所に戻り、そのまま睡眠を取ったり休暇を取ったりするものだ。

 これは言い換えれば、夜の闇とは『人に休暇を進言するもの』でもある、という風に呼べる。

 まぁ、夜中に動く生き物(猛獣)がいたりだとか、はたまた人は夜目が利かないので足元が覚束ないだとか、休まざるを得ない理由としての意味合いも大きいわけだが……そういうのも引っくるめて『夜は人を休ませるためのものである』とすることができる、という話なわけで。

 

 実際、ずーっと明るい場所に居ると、人というのは時間感覚などが狂い、その内体調不良になってしまったりする。

 無理にでも眠ればよいのではないか、という話でもあるのだが……その場合、睡眠中に周囲が明るいと体に様々な悪影響がある、という研究結果があることを留意しなければならなくなる。

 

 ──結局のところ、人には『闇』が必要不可欠なものなのだ。

 休む、という行為の理由としても必要だし、()()()()()()という感覚・慎重さを養うためにも必要だろう。

 

 そういうものが、良い闇。

 様々な立場から、人を嗜め足を踏み留まらせるモノ。

 無謀な前進は自身だけではなく、周囲の者をも巻き込むものであることを知らせてくれるもの……というわけである。

 

 そして、その『良い闇』というものこそが、本来の『闇』というものの本質である……というのが、キリアの持つ性質に関わってくる話なわけだ。

 

 

「要するに、愛し子達のための揺りかご……ってことになるわけですね。──夜の闇は、一日の終わり。疲れを癒し、明日への気力を養うために眠る人々。それらを守護し、優しく包む宵闇──それが、彼女の司る『母たる闇』とでも呼ぶべき性質、というわけなのです」

「……えーと、『陰』の気は『女性』的なモノとして扱われる……みたいなことでいいんでしょうか?」

「……まぁ、そんな感じでいいと思いますよ?」

 

 

 こちらの説明をなんとなーく理解したのか、おずおずと声を返してくる桃香さん。

 

 彼女の言う通り、陰陽的な考え方では『陰』の気を女性的なもの、『陽』の気を男性的なモノとして扱っている。

 母を闇、父を光と呼ぶ風潮は、遥か昔から存在していたわけである。……まぁ、初期も初期の『母たる闇』としての性質を忘却し、単に闇は恐ろしいもの……という風に伝えている今があるからこそ、陰は悪く闇は悪く黒は悪い……みたいなイメージが先行してしまっているわけなのだが。

 

 まぁ、その辺りは今回の話には関係ないので投げるとして、改めてキリアの話に戻ると。

 そもそもに大地母神系列の技能である『星の欠片(スター・ダスト)』、その中でも明確に彼女よりも下──言い換えれば彼女の『母』となる人物は一人しかおらず。

 それゆえ、潜在的に母としての素養を持つ彼女は、こうして箍が外れると母パワーが暴走し、周囲全てを慈しみ・包容し・愛してしまう……というわけなのである。

 

 ……え?わかり辛い?

 んじゃまぁ、基本的に抗うの無理……ダイスロールで100D100──百面ダイスを百個振って合計値百以下を出さないと発狂します──みたいな感じのノリで、相手を赤ちゃんにしてしまうのが今のキリア、ということです。

 

 

「……いや待て、それほぼ発狂確定じゃねーか!?」

「頑張って全部一出せば回避できますね。一を百回、という時点で最早奇跡的な確率でしょうが」*2

「死ねと言ってらっしゃる!?」

「赤ちゃんになれと言ってますが?」

 

 

 銀ちゃんが叫び声をあげたため、小さく苦笑を返す私である。

 なにせこれは序の口。強制赤ちゃん状態を回避したところで、そもそもキリアはティアマト神のような結末を()とするもの。……彼女を母と認めず反逆することは、寧ろ彼女にとっては望むところであるため、こちらの対応は全て肯定されてしまうのだから。

 ……どこまで行っても母の手の上、とかなんとか言われてしまいそうなそのあり方は、とりあえず逃げを主張するのが一番、と言ってしまっても過言ではないあり方であり。

 

 

「そういうわけなので、撤退、撤退ー!」

「アスナは?!」

「同じように赤ちゃんにされたいならどうぞ!」

「……すまんアスナ、お前の犠牲は忘れああああ俺は赤ちゃん!」

「銀ちゃーん!!?」

 

 

 とりあえず尻尾を巻いて逃げるか、と決心した途端に引き摺り込まれた銀ちゃんに、絶叫する羽目になる私達なのでありましたとさ。……ゲームオーバーかな?

 

 

*1
『機動戦士ガンダム』シリーズより、シャアのこと。ロリコンマザコン扱いされることの多い彼だが、本質的には家族を求めている……というような指摘をしている作品が存在する

*2
純粋に考えるのなら100^100分の1、ということになるか

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