なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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夏にはそうめんだが、夏バテしてない人には物足りない

「……はっ?!俺は一体なにを……!?」

「あ、キリアさん銀さん起きましたよ」

「そっ。それならまぁ、さっさとお昼にしましょうか」

 

 

 赤ちゃんにされてから数分後。

 意識の断絶から復帰した銀時が目にしたのは、ガラスのボールに入ったそうめん*1を机の上に置くキリアと、それらの準備を手伝うようにして動き回る他の面々の姿であった。

 

 その姿は母親を手伝う子供達、という風にも見えなくもなく……。

 

 

「……ふっ、そうか。ここが家族の団欒、ってわけか……」

「いやなに言ってるのよアンタ、気持ち悪いわね……」

「あれー?!!」

 

 

 我々は家族という絆を手に入れたのだな……。

 言うなれば運命共同体。

 互いに助け、互いに励まし、互いに思いあう。

 家族は一人のために、一人は家族のために。*2

 そんな絆を手に入れられた(洗脳とルビを振ろう)のだと思っていた銀時に叩き付けられたのは、『嘘だっ!』という意味合いの言葉だった。

 これには漢銀時、むせるより他なしである。

 

 

「あー、キリアなら母親モードはもう解除されてるわよ?」

「ええ……さっきまでのあれこれはなんだったんだよ……いやまて、なんでお前さんまた人形サイズに?」

「今回のあれこれの元凶が、私のサイズの問題だったからよ……」

「あー……」

 

 

 そんな彼に元気を出せ、と声を掛けてくるのはキーア。

 ……なのだが、本来ならもう少しハスキーな、もといシルファとしての声が返ってくるはずのそれは、何故かキーア自身の少し高めのものだった。

 何故に?と疑問の声をあげる銀時に対し、キーアが述べたのは『キリアを正気に戻すため』という言葉。

 ……つまるところ、キーアの身長と雰囲気がキリアの郷愁を誘う……というのが、彼女が母力を発揮した理由であるため、その理由を取り除けば元に戻るのでは?……という予想が当たった、というそれだけの話なのである。話なのだが……。

 

 

「……なんか、色んなもんを犠牲にしてねぇか……?」

「仕方ないでしょう、こんなことになるとは思ってなかったんだもの……」

 

 

 つるつるとガラスの食器からそうめんを啜る、キーアの顔は暗い。

 

 背丈が小さいと困る・存在の確立をしないと困る……などなどの理由から、わざわざ大きくなる方法を見付け出して来たというのに、それが無意味に近かったのだと言われればそうもなろう、という話である。

 まぁ、一応『存在の確立』という意味では全く無意味だった、ということはなかったので、やらないよりもやった方が良いことであったのは間違いではないのだが。

 

 ハルケギニアに迫っていた危機を放置するのも、寝覚めが悪かったろうし。

 結果としては万々歳である……と自分を慰めるキーアは、小さな体でそうめんに悪戦苦闘しているのだった……。

 

 

 

 

 

 

「……んで?なんか流れで昼飯にお邪魔しちまったけど、俺らはこのまま解散でもいいのか?」

「んー?……あー、じゃあまぁお手伝いでもして貰おうかな?ホントなら一人でできたんだけど、今の私じゃモノを運ぶのとかは辛いところがあるし」

 

 

 昼食のそうめんを食べ終えた銀ちゃんから、そんな感じの疑問が私に飛んでくる。

 

 今こっちの家に来ているのは、銀ちゃんと桃香さんにXちゃんの三人。ゴジハム君はさっき向こうで見た限りは家に居なかったので、買い物とかにでも出掛けていたのかもしれない。

 

 そうなると、家に戻れば彼の用意した昼食が待ち構えているのでは?……と思わなくもなかったのだが、その辺りはこっちでお昼を頂く、という流れになった時点で桃香さんが連絡を入れていたそうなので、特に問題は無いようだった。

 ……前々から思っていたけれど彼女、本来の桃香──恋姫の劉備らしからぬ有能さである。

 ポジショニング的には、新八くんも兼ねてますので!……などと言いながら眼鏡を掛けている桃香さんは、その辺りの眼鏡スキーのハートを鷲掴みしそうな可愛さを誇っていたが……まぁ、今回の話には関係ないので放置。

 そんなー!と喚く彼女を置いて、銀ちゃんからの質問に改めて答える私なのであった。

 

 なお、途中で『一人でできた』に耳をピクッ、とさせていたどこぞのバカ(キリア)が居たみたいだが、視線を合わせると赤ちゃんにされるので皆そっちを見ないようにしていた、ということを合わせて記しておく。*3

 

 ともあれ、仕事の話である。

 折角大きくなったのだから……とばかりに、色々と仕事を終わらせる予定だったのだが、生憎と今の私は妖精サイズ。

 幼児体型にすらなれない状態(外で変身するにしても、こっちの世界では準備に時間が掛かる)なので、手を貸してくれるというのなら喜んで借りたいところなのである。……まぁ、当の銀ちゃんは『やぶ蛇だったか』みたいな顔をしていたわけなのだが。

 

 

「いやだってよぉ、まさかこのタイミングで頼まれごとが来るとは思ってなかったと言うか……」

「報酬の方なんですけど、こんな感じになりますが?」

「…………我らよろず屋、この依頼謹んでお受けいたしましょう」

「いや早っ」

 

 

 なお、『えー、やだ銀時仕事したくなーい』みたいな顔をしていた銀ちゃんはというと、こちらが提示した報酬の桁を見た途端に、わかりやすいくらいに目の色を変えていたのだった。

 ……別に守銭奴というほどではなかったはずなのだけれど、目の前で大量に積まれた現金には逆らえなかったらしい。

 まぁ、そういう扱いやすいところは嫌いじゃないけどね(暗黒微笑)

 

 

「いやあの、銀さん?依頼を受けるにしても、もう少し考えてから受けた方が……」

「いやいや大丈夫だって桃香!こっちにゃ百万馬力のXだって居るんだぜ?生半可な重さの物体ならパパッ、と片付けておしまいって寸法よ!」

「おや、銀時君が私をそんなに頼りにしてくれているとは。──ふふふ、これはひさびさに腕が鳴る、というものですね!」

「よっ!X、総大将!ちょー期待してるぜー!!」

「ふっはっはっはっ!お任せをーっ!!」

 

「……はぁ。キーアさん、詳しい内容を教えて頂けますか?」

 

 

 なお、よろず屋メンバーの中では一人、桃香さんだけがなにか不穏な空気を感じ取っていたようだが……、その辺りは残りの二人にはわからなかったようで。

 纏め役としての役割も兼任する彼女は、密かに私へと業務内容を尋ねて来るのでしたとさ。

 ……確認したあと、微妙な顔で「……んー、いやできなくもない……?今月わりと厳しいしなぁ……」とかなんとか呟いていたわけなのですが。……なにに使うためのお金を稼いでるんだろうね?食費とか掛からないはずなのに。

 

 まぁそんなこんなで、よろず屋一行を引き連れて仕事場に向かった私達なのですが。

 

 

「「………………」」

「おっ、やっと来たっすねー。今回は銀時さん達っすか、宜しくお願いするっすね」

 

 

 ()()()()()()()()あさひさんの言葉を耳にしながら、その場に佇む私達。

 しかして私達の間に言葉はなく、重苦しい空気だけが漂っている(主に銀ちゃんとXちゃんの間)。……それもそのはず。今回の仕事というのは……。

 

 

「じゃあしっかり洗ってほしいっす。……変なところとか、見たり触ったりしちゃ嫌っすよ?」

「ドラゴンウォッシングゥゥゥゥッ!!!」

 

 

 その頬をポッ、と仄かに染めた巨体のドラゴン──もとい、ミラルーツの前で突っ立っていた私達一行。

 ()()()()()の仕事というのは、本格的な夏を迎える前にさっぱりしたい……というあさひさんもといミラルーツさんの鱗磨き、ということになっている。

 

 なのでまぁ、銀ちゃん達にはそれを手伝って貰うところから始めようと思っていたわけなのですが。……なにやら不満でもあるのか、持たされていたデッキブラシを地面に放り投げる銀ちゃんの姿が、そこにはあったのでしたとさ。

 

 

「あーもうなにするんすか。別にタダじゃないんっすよ、それ」

「ああいやすまん……ってそうじゃなくて!!物運びは!?」

「え、洗剤とか結構な数運ぶことになるけど……?」

「なるほどねぇ!!で、この仄かにバチバチしてんのはっ!?」

「あー、すみませんっす。これでも結構抑えてる方なんすよ?」

「抑えてるわりにはー、俺手が痺れて動かないんだけどぉーっ!?」

 

 

 無論、そんなことをすればあさひさんに怒られるのは当たり前。

 ほんのり辺りを漂った龍種の怒気に若干怯みつつ、それでも銀ちゃんの勢いは止まらない。

 

 物運び云々は──今ある洗剤では確実に足りないので、所定の場所からそれを持ってくる必要があったりするし、流したあとの水が環境に悪影響を及ぼさないように処理する必要もあるので、その辺りの準備のために穴……というか水路を掘る必要もある。

 なのでまぁ、水と洗剤と土を運ぶのが、ここでの主な仕事となるのだろうか。……と述べたところ、一応納得したのか彼は次の疑問を呈示する。

 

 そっちは電気系の痺れを併発している、というものだが……ううむ、特注のゴム手袋なのだがまだ足りなかったか。

 あさひさんもでき得る限り辺りに電気を漏らさないようにしている以上、これ以上の対処は難しいだろう。……電気耐性を上げる魔法でも掛けようかな?一応、それくらいなら今の私でもできそうだし……。

 

 みたいなことを述べていけば、彼は「ちーがーうー!!」と大声をあげていたのだった。

 

 

「ええ……違うって、なにが?」

「俺はね!?ウー○ーイーツとか出○館とかアー○引っ越し○ンターとか、そういうのを予想していたわけ!!で、実際にお出しされたのは『ドキドキ!?ミラルーツとのふれあいツアー』だったわけ!!?わかる!?心労とか疲労とか倍以上違うのわかる!?」

「いやわかるもなにも、桃香さんの制止を振り切って欲に目が眩んだのはそっちじゃん……」

「いえあの、私も巨大動物の清掃?くらいは入っててもおかしくはないかなー、とは思っていましたが。……初手からラスボスぶち込んで来るのは違うのではないかなー、と思いますと言いますか……」

「……ラスボス?難易度的に言うなら一面ボスですよこれ?」

「聞かなきゃ良かった!!」

 

 

 だから言ったじゃないですか、とでも言わんばかりな桃香さんの前で、あわわわと声を震わせているXちゃん。

 ……そもそもの話、あの金額が一日に稼げるという時点で、ちょっとは疑ったりするべきだったというか。

 

 ダークネス人事じゃないですかヤダー!と喚く二人を連れながら、私達はあさひさんの鱗を磨き始めるのでしたとさ。

 

 

*1
小麦で作る細い乾麺のこと。元々の名前は『索麺(さくめん)』(古代中国での読み方)だったのが、『索』の字を崩して書く内に『素』になり、そこからそうめんと呼ばれるようになったのだとか。なお、そうめんだけで食事を済ませる、という人も居るが、栄養バランス的には良くないので、何か付け合わせなりなんなりを一緒に食べることをおすすめするものでもあったり(特にそうめんのみの場合は太りやすい。できれば野菜なども一緒に摂ろうとよく言われている)

*2
アニメ『装甲騎兵ボトムズ』のシリーズの一つ、『ペールゼン・ファイルズ』の第2巻のPVおよび第3話『分隊』の予告に登場するとある文から。戦場における仲間とは運命共同体である……というような語り口から始まり、後半にかけてそれらを全て切り捨てるような言葉に変化していく。『俺の為に死ねっ!』はとても有名な台詞。……なお、戦場は生き物のようなもの。周囲の全てを切り捨てることが正解な時もあれば、周囲と協力して戦うことが正解のこともある。それらを時に切り替えて生きていくようなやり方は、周囲からは八方美人(蝙蝠)としてしか認識されないものである……というようなことも覚えておかなければいけなかったりする。生き死にに貴賤はない。最後に生き伸びたものが勝者だとでも、お前は嗤うつもりか

*3
1991年4月1日から2006年3月31日まで、NHK教育テレビで放送されていた低学年の女児の為の番組、『ひとりでできるもん!』のこと。料理を基準として、様々な家事を教えるモノとして放送されていた(のはあくまでも一時期の話。基本的には料理番組である)


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