なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「いい加減落ち着きました?」
「……おかげさまで落ち着いたよ。でも、正直これはダメだと思うんだ……」
数分後、あさひさんがその龍体を動かして作ってくれた小影の下で、両手で顔を覆いながらさめざめと涙を流す少女が一人。
一度倒れて意識が途切れたせいなのか、変身状態での精神が実際の人格としっかり接続された形となった銀ちゃん……もとい響ちゃんである。
まぁ勿論、本人的には
「……この姿で『深海』とか『沈む』とか云々は、色々と洒落にならないんじゃないかな?」
「む、それもそうだね。……じゃあとりあえず浮上しよう浮上!面舵いっぱーい!」*3
「適当な掛け声をあげるのは、止めた方がいいと思うけどね。……どうでもよくないけど、元々の私とキャラ違いすぎじゃないかな今?」
「それが変身、それがTSF*4の醍醐味というものだよチミィ」
「……君も大概おかしくなってないかい?」
「そりゃまぁ、マスコットキャラクターだからね、今の私!」
こちらに呆れたような声を返してくる響ちゃんだが……それも仕方のない話。今の私は無理矢理にバイパスを繋いで、銀ちゃんを響ちゃんに変身させている状態!
そんな無茶をやっているのだから、私の人格にも多少悪影響はあるってもんさ!
なお、その辺りの悪影響云々の話を聞いた他二人が、凄まじく動揺していたが……最早後の祭りである。
まぁ、今回の仕事達が終わるくらいまでの時間なら、どうにか銀ちゃんの方の変な影響を抜くのは問題ないだろうとは思う。……つまりなにが言いたいのかって?それはね?
「みんな!!!"
「「!?」」
「ハラショー。*6やってやろうじゃないか(ヤケクソ)」
制限時間なんてあってないようなもの、さっさと仕事を終わらせちまうんだよぉ!!
ってなわけで、魔法少女的分身……もとい、
私達の鱗磨きテクが明日を救うと信じて、ご愛読ありがとうございました!
「……嘘まで付いての発破掛け、ご苦労様っす」
「あ、バレました?」
まぁ無論、八割くらい嘘なわけなのですが。
眼下で「「銀(時君/さん)のバベルを守れぇぇぇっ!!!」」とかなんとか叫んでいる女性陣二人を眺めつつ、日傘を差してルーツさんの頭上に陣取っているのは、増えた私達のうちの一組。
休憩中とでも言わんばかりのその私達は、龍の頭の上に佇んだまま、あさひさんと会話を続けていたのだった。
「嘘っていうと、別に私は問題なく戻れる……ってことかい?」
「戻るだけなら特には。……あっ、また変身したいってことなら、いつでもさせてあげるけど?……今回のはまぁ、単なる確認とか実験とかの意味合いが強いんだよね」
「確認……?」
日傘を持っている響ちゃん……もとい銀ちゃんが、彼女の頭の上で座っている私に声を掛けてくる。
その言葉を聞きながら私は小さく頷いて、今回の目的をぽつぽつと話し始めるのだった。
と言っても、別に難しい話ではない。
「変身した時のデータが欲しかったんだよね、元々魔法少女みたいな変身技能を持ってないような人の。特に性別違いのやつが一番重要、というか。変化の規模としてはかなり大きいし」
「……それは私じゃなきゃダメだったのかい?」
「いんや別に?……いや怒らんといて。男性から女性だけじゃなくて、女性から男性への変化も確かめたかったから、よろず屋メンバーが丁度良かったんだよ……銀ちゃんは特に、原作で性転換したことある人だから私が変身させるのも楽だったし、他二名もよろず屋メンバーの因子が含まれているから、多分変身対象としては向いているだろうし……って感じで」*8
ドラゴン磨きと銘打った今回のお仕事だが、実際は真夏前の健康診断も兼ねており。
掃除している間の面々を、遠隔で体調確認したりするついでに、予測や推測から得られた情報を元にした『性転換実験』も今回の仕事に含んでおいた、というのがここまでの話。
ついさっきは【継ぎ接ぎ】混じりなので悪影響があるかも、なんて風に脅しを掛けたけど。データを確認してくれている琥珀さんからの言葉によれば、それらの影響はほんの軽微なもの。
少なくとも、変身を解除したあとに変な後遺症が残るような気配は、今のところ見られないとのことだった。
……まぁさっきも口にしていた通り、こっちから好き勝手変身させられるわけでもないので、原作で変身した逸話のある人が好ましかった、というところもなくはないのだが。
「なんでまたそんなことを……」
「銀ちゃんが響ちゃんになっていることからわかる通り、【継ぎ接ぎ】関連の技術は思ったよりも危ない、ってことはわかるよね?」
「……ちょっと前から色々調べてるみたいだ、というのは聞いているよ」
首を捻る響ちゃんに説明するのは、【継ぎ接ぎ】という現象の持つ危険性。
今回は『変身』という法則性を与えることで、技術の拡張を行っているが……逆に言えば、なにかしらの『道』──方向性を与えれば、【継ぎ接ぎ】は本当に
最近起きた色々な事件のせいで、その辺りを再び洗い直す必要が出てきたのである。
「
「例の人達、というと──ああ、彼らのことか」
上に被せられた響ちゃんの性格に引っ張られているのか、いつもよりも理知的な感じのする銀ちゃん。
その辺りもデータとして収集しつつ、話は続いていく。
今回彼らに予め話をしておかなかったのは、相手の同意や意識が向いていなくても、【継ぎ接ぎ】による変化は深部にまで行き渡るのか、みたいなところもなくはない。
まぁ、銀ちゃんが響ちゃんになっているのは、半ば偶然的なものがあるのだが。
「……と、いうと?」
「二次創作における響のドランカー要素が、銀ちゃんの甘いもの中毒に変換されたんじゃないかなー、というか」
「……私が言うことじゃないけど、普通そういうのって男女が逆なんじゃないかい……?」
「いやだって、銀ちゃんってば酒は確かに飲む方だけど、甘いものの方がイメージ強いじゃん。ついでに響ちゃんも、甘いものも食べるけどウォッカ飲んでるイメージが強いから、ひっくり返したら似てる似てる」
「……そういえば【継ぎ接ぎ】って、結構いい加減だったんだっけね」
こちらの言葉に半目になりながら、そう声を溢す響ちゃん。……うん、まぁなんというか。
「……すっかり慣れちゃったね、艦娘のか・ら・だ♡」
「っ、そういうの言うの止めないかい?!折角意識から外してたのに!」
坂田銀時分が削ぎ落とされ、すっかり駆逐艦・響と化している彼の姿に、思わずにししと笑ってしまう私。
そんなこちらの様子に、彼女は響らしからぬ声をあげていたのだった。……ふむ、気が昂ると地が出てくる、と。
「ふむ、なるほどなるほど。色々言ってはいるけれど、結局のところは彼らの救助のためということか。──なら私に否定意見はないな。存分に私の体、彼らのために役立ててくれ!」
「アッハイ。……ねぇ響ちゃん、誰これ?」
「私と同じように変身させたXだろう?……いや、まさか私と違って『謎のヒーローX』になるとは思わなかったけど」
ヒソヒソと会話を続ける私と響ちゃんの前で、爽やかな笑みを浮かべているのは彼女と同じように変身したXちゃん。
……なのだが、【継ぎ接ぎ】の効き方が変な方向に行ったのか、現れたのはアーサー王……もとい、プロトセイバーっぽい感じになった、ジャージ姿の好青年だった。
まさかの『謎のヒーローX』の登場に目を点にした私達は、彼女の性格の変化に更に目を点にする羽目になったわけなのだが……問題はこれだけにとどまらない。
「……ん?今俺と目があったな!これでお前とも縁ができた!」
「ひぇっ」
「なんで桃香はドンモモタロウに……ってあ、桃繋がり……?」
「モモタロスが既に埋まってるからか……っ!!」
私達の目の前で、こちらを覗き込むようにして見ているのは、いわゆる戦隊もののヒーローの一人。……まぁ言うまでもなくドンモモタロウなわけだが*9、こっちはこっちで凄まじく雑な『桃』繋がりと、それからネットミーム的な『縁結び』属性が殊更に強い状態になってしまっており、正直意志疎通すら困難となってしまっている。
せめてモモタロスだったのなら、もう少し会話のしようもあったのかも知れないが……今日はよろず屋に居なかっただけで、そもそもモモタロスの席は埋まってしまっている。
彼……彼女?自体は今回のあれこれには(その性質的に)向いてないこともあり、家に居なかったことを殊更には気にしていなかったが……、こんなことになるなら呼んでおけばよかったかもしれない。
「……とりあえず、男女一例ずつ検証できればいいということで、桃香さんは戻そう。これは流石に
「……妖怪縁結びだよ。どんな相手とも目があっただけで縁を結んでしまえるすごいやつだよ」
「響ちゃん!?」
なお、こんな状況の最中、いわゆる意趣返しだとでもいうのか。
響ちゃんが唐突に解説を始めたため、それに反応する桃香さんもといドンモモタロウをどうにかするのに、それなりの時間を浪費する羽目になったことをあわせてここに記しておきます……。