なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「さて、あさひさんのダイナマイッ☆……な玉体を磨くお仕事は、無事に終わりを告げたわけなのですが……」
「その言い方、どことなくいかがわしいから止めないかい?」
あの後、ドンモモタロウ状態の桃香さんを、どうにか正気に戻した私達。
結果としては響になった銀ちゃんと、X
分身による効率的な作業分担が求められていた先程の仕事に対し、次の仕事は単純な速力を必要とする作業となる。と、言うのも。
「あー、すみません。次はそことそこを繋いで貰えますか?それとその次はそっちをー」
「反復横飛びかな、構わないとも!」
「まるで分身しているかのような高速機動……」
「そもそもの話、実際に分身するんじゃダメなのかい?」
「そんなことするともれなく床が抜けます」
「まさかの重量制限?!」
琥珀さんからの指示を受け、ケーブル類を抱え上げながら、手早く繋ぎ換えていくX君。
次なるお仕事は、琥珀さんの研究のお手伝い。……気になるその内容はというと、なにかのミニゲームとかでしかお目にかかれないような、コンピューターの配線を手早く繋ぎ換える仕事、というものなのだった!
……無駄に洗練された無駄のない無駄な動き*1の極みじゃないですこれ?
実際、ケーブルを高速で繋ぎ換えるだなんて作業、どういう職種なら出てくる作業なのか?……という疑問もあり、響ちゃんからは疑惑の視線を向けられ続けていたわけなのですが。
……なんか無駄に好青年化しているX君には、その辺りの胡散臭さは関係ないようで。
彼は嬉々として琥珀さんの言葉に従い、機械の間を行ったり来たりしているのだった。……なんか、プーサー状態満喫してないあの人?
「……琥珀、とりあえず一応聞いておくんだけど……これって無意味な行動、ってわけではないんだよね?」
「はい?……ああええと、一応今回の仕事の裏というか、そういうものについてはもう聞いていらっしゃるんですよね?」
「え?ええと……健康診断も兼ねているとか、そういう話でいいのかい?」
「それですそれそれ。で、ですね?この持ち上げるのにも嵌め込むのにも、それなりに力の必要な大型ケーブル。……実は色ごとに、重さとか長さとか変えてありましてですね?」
「……もしかしてこれ、ダンベル代わりだったのかい?!」
「その通りでーす。なのでまぁ、本当にミニゲームみたいなもの、なんですよね☆」
とはいえ、琥珀さんの言葉を盲目的にこなしているのは、あくまでもX君だけ。
先述した通り懐疑的な感情を滲ませていた響ちゃんは、琥珀さんに『この一見無意味な行動には、一体なんの意味があるのか?』……ということを尋ねに行って。
返答として『そもそもこの施設自体が健康診断用の設備なので、作業そのものはさして意味のない行動ですよ?』……なんていう言葉を聞かされ、唖然とした姿を見せていたのだった。
「……ええと、ホントにこの作業には意味とかないんですか、キーアさん?」
「なんで私に聞くんです?……いやまぁ、意味がないと言えばないし、あると言えばあるって感じなんですけども」
「ええ……なんなんですか、その中途半端な返事……」
そうして響ちゃんと琥珀さんがあれこれと話している中、桃香さんがこちらにそっと耳打ちをしてくる。……さっきの仕事が鱗磨きに健康診断が混じっていたこともあり、こちらの仕事も健康診断以外の他の作業が含まれているのではないか、と疑っているらしい。
響ちゃんが既に目の前で、ここの主任的な相手に尋ねているにも関わらず、なんというかとても熱心な探り具合というか……。
思わずちょっと苦笑いしてしまうものの、言葉を濁した通りこれに関してはなんとも言えない私である。
一応、名目としては『重量上げ』や『反復横飛び』など、身体測定を作業内容に盛り込んだ結果として生まれたのが、この『高速ケーブル接続』だと琥珀さんから提出された仕様書には記されていたわけなのですが。
……取り扱っているケーブルから、ほんのり魔力っぽいものが漏れている辺り、なにかしら他の実験をついでに進めている……という可能性は過分にあるわけでして。
「……じゃあやっぱり、裏でなにかやってるんじゃないですか?」
「ただねぇ、ほんのり漏れてるってだけだし、そもそもこの量でなにかできるかと言うととても微妙、と言うかね……」
「むむぅ……」
ただ、この作業がなにかしらの実験の手伝いの一環である、とすると。
……ケーブルの大きさに対して、流れている魔力が少なすぎるし、第一ゆかりんに黙って実験するとか、あとでしこたま怒られるに決まっている、という問題のクリア方法がないということもある。
要するに『なにかある』と断言するには、ちょっとばかり証拠が足りてない感じがあるのだ。……無論、本当になんにもやってないとは思わないけれども……。
「後々行う予定の、別の実験の予行練習だけしてる……って風に見た方がいいかなーというか。実際、今あれこれやってるX君に、悪影響とかはなさそうだしね」
「はぁ、なるほど。……悪影響、本当にないんでしょうか、あれ」
「良いかい銀時君。今の君はか弱い少女の姿なんだ、危ないことは僕に任せてくれればいいんだ、わかるかい?」
「……まぁ、うん。君がそれでいいんならいいよ、うん」
「あー……いやまぁ、プーサー的な好青年力が溢れて仕方ない、ってだけだろうし……ってうわぁっ!?どしたの桃香さん!?後ろになんか見えるんだけど!?」
「──光帯を回します。我らの三千年の研鑽に、確かな答えを見いださなければ」
「なんかゲーティアみたいなこと言ってる!?」
とはいえ、実際に今琥珀さんの実験を手伝っているX君に、変な影響とかは見られない。……いやまぁ、なんか王子様気質が行き過ぎて変なことにはなってるけども。
でもそれは、あくまでもX君そのものが変だ、というだけの話。……変身したことだけを理由にするにしても、ちょっとおかしいところはあるが……この実験が彼女に変化をもたらした、ということではないはずである。
なのでまぁ、なにかこう
視線を桃香さんに戻した時、その背後に
……あかん、なんか知らんけど嫉妬の炎が燃え上がっておるー!?
「……あー、あの言葉って予想以上に気にしてたんだね……」
唐突なジェラシーストームに慌てふためく羽目となった私は、とにかく原因を断つために一度X君を響ちゃんから引き離し、彼女の話を聞いていたのだが。
やけにプーサー感マシマシになっているなーと思ったら、ちょっと前に彼女が口にしていたこと──
まぁつまり、どういうことか雑に言わせて頂きますと。……獅子王とかも混じってるあのアンリエッタに、そのうちお色気路線すら奪われるんじゃねーかという焦りである。
「……単純に清純派としても勝ち目はなく、かといって威厳を出すには、ユニバース産であることが足を引っ張る。……その上あの成長の仕方、師匠を気取るにも無理があるというわけさ」
「だからこう、いい機会だからいっそ男性バージョンで売り出そうと?」
「言い方はあれだけど、まぁ概ね間違いはないかな」
キャラ被りの恐怖、というものには理解はある方だと思う私である。
遠い目をしながらふっ、と笑うX君の姿に、思わずなにも言えなくなってしまうのだが……。
「──
「……その言い草は、あんまりじゃないかな?」
そんな彼女の言葉を聞いた響ちゃん……もとい銀ちゃんから返ってきたのは、鼻で笑うような言葉だった。
その態度には流石のX君もカチンと来ていたようだが……。
「
「──銀時君……」
続いて放たれた言葉に、彼女は雷に撃たれたかのような衝撃を受けていたのだった。
──ちょっと照れながら言われたその言葉は、つまりなんであれ自分を求めている、という意味合いの言葉で。
つまらないことで悩むなよ、お前はいつだってお前だろう?……そんなことを告げる彼の姿に、思わず笑みを浮かべてしまう。
「
「……銀時君……!」
「あー!あー!恥ずかしい台詞禁止ですー!*2っていうか私も同じ事を言おうとしてましたのでー!だから特別とかそういうんじゃないんですよXちゃん!銀さんにそんな甲斐性ないですからー!」
「桃香さん……(ため息)」
座り込んでいた彼女に手を差し出す銀ちゃん。
その傍らではさっきからなんか残念になってしまった桃香さんが、あれこれと言葉を重ねているが……。
思わずため息を吐いてしまう私とは違い、X君はなにやらニコリ、と彼女に笑みを向けて。
「桃香もありがとう、僕に発破をかけてくれたんだろう?」
「え?あその、そういう面もなくはないですけど……」
「ああ、ありがとう、桃香」
「───っ!!?」
するりと桃香さんに近付いた彼女が行ったのは、その姿に見合った気障すぎる行動──手の甲へのキスで。*3
そんなことをされると思ってなかった桃香さんは、途端に茹でダコになって口をパクパクさせていたわけなのだけれど、口許に人差し指を当てながら、こちらにしか見えないようにウインクをしてくる彼女の姿を見ていれば、それが色々とわざとである、と言うのは直ぐ様理解できてしまうわけで。
思わず半笑いを溢す私を見て、響ちゃんが小さく苦笑をし。
な、なんなんですかもー!と叫ぶ桃香さんを囲んで、暫く笑い合うことになるのだった。
「うんうん、青春ですねー☆」
「わぎゃあっ!?ななななんで録画してるんですかー!?」
なお、さっきから空気になっていた琥珀さんは、密かに一連の騒動を動画に収めていたのでしたとさ☆