なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なんでからかわれてるんですかね、私……」
「桃香さんの反応が面白いからではむぎゅ」
「ええいうるさいですうるさいです、そんなこと言うキーアさんなんてこうしてやりますー!」
暫くして、無駄に洗練された無駄のない無駄な仕事に戻ったX君と、それの手伝いをし始めた響ちゃんを他所に。
一先ず手持ち無沙汰になった私と桃香さんは、琥珀さんの指示で計器の確認などの手伝いを行っていたわけなのですが。
周囲からからかわれ続けていた桃香さんは、ご覧のようにすっかりご機嫌斜めに。
しまいには「恥ずかしい台詞禁止ー!」などと叫びながら、私の頬をぐにぐに引っ張ってくる始末となってしまったのでした。……なんというか、わりと珍しい姿ですね?
「ハァ……ハァ……め、珍しい?」*1
「ええと、その敗北者みたいな呼吸については置いとくとして……まぁ、はい。わりと余裕綽々というか、泰然自若というか*2……桃香さんに対しては、わりとどっしりとしているイメージがなくもないというかですね?」
変に息を切らす彼女に、声を掛ける私。
……原作からしてみればおかしな話だが、ここに所属している桃香さんというのは、ドジっぽいところとか天然っぽいところとか、そういう原作での彼女の気質とは無縁な感じの──どちらかと言えばクール系の類いの性格、という印象の人である。
まぁ、キャラクター構成の部分に皮肉屋のエミヤだとか、はたまた憐憫のゲーティアだとかが混ざっているのだから、それなのに原作と同じ
ともあれ、こうして感情に振り回されている彼女の姿というのは、なりきり郷での普段の彼女を見ていると、わりと珍しいもののような気がする……というのは確かなのであった。
そもそもの話、彼女はそれらの自身に纏わるあれこれを、あくまでも『設定である』と距離を置いているようにも見えるし。
「……むー、まぁその、基本的には冷静沈着であることを心掛けてはいますけど……別に
と言うような、私の考えを述べたところ。
彼女から返ってきたのは──ある意味では珍しく、ある意味では見慣れたもののような──そんな感じのへにゃっ、とした言葉なのだった。
……具体的に言うのであれば、恋姫の劉備らしいへにゃっと感というか。
ともあれ、彼女が言いたいことを纏めるのであれば、次のようなことになる。
原作の彼ら彼女らとは性格が違うけれど、模しているキャラはその人物以外の何者でもない──というタイプの『逆憑依』は、なりきり郷と言わず新秩序互助会にすら多数存在する、いわばスタンダードなタイプのなりきりだと言える。
それに対して桃香さんというのは、最初から
半オリジナル、とでも呼ぶべき彼女のようなタイプというのは、『逆憑依』という現象の中ではかなり珍しいタイプの存在でもある。
原典とのキャラの違いという点では、似たような例としてゆかりんなどがあげられるが……彼女の場合は桃香さんとは違い、再現しているのはあくまでも『原作の八雲紫』を前提としたもの──既にある原型の上に、新しく性格を盛り付けている……という認識が正しい。
対して桃香さんの場合、冷静沈着であるだとか悪を憎む性質だとかのパーソナリティは、
両者は一見似ているように見えるが、その実拡張性の差などの観点から見れば、かなりの差異があることがわかる。
ゆかりんの
変身という行程を踏む必要こそあれ、原義に近い『黒幕系八雲紫』もこなせてしまう辺り、その汎用性というのは目を見張るモノがあるだろう。
これに対して桃香さんの場合は──『冷静沈着な桃香』というパッケージングが最初からされているため、そこから大きく逸脱した性格には──少なくとも
原作のような、いわゆるあざとい系や天然系の行動を彼女が取ろうとしても──大本が冷静沈着で固定されているために、どうしても『計算して動いている』ようなものになってしまう。
普通のなりきり組と違い、彼女に対して計測される『再現度』とは、あくまでも『二次創作としての桃香』であるため、原作の彼女とは逸脱した存在になってしまうのだ。
なので──彼女は意図的に、『桃香を演じることを止めている』時があるのだという。
「お恥ずかしい話なのですが……私は未だ、己の業とでも呼ぶべきものとの折り合いを付けきれておりません。この胸の裡で燻る、不徳への憎悪とでも呼ぶべき激情──『劉備になれなかった桃香』の抱えるこれを、己のモノとして抱くにはまだまだ心構えが足りぬのです」
静かに語る彼女は、遠回しに自身が危険物であることを告げていた。
然もありなん、彼女は
力の大小の関係上、彼女が彼と同じになることはないだろうが、それでも組み込まれている
言ってしまえばイマジナリィとしての潜在要素は常に持ち続けている、ということであり。
それゆえ、彼女が様々な場面で遠慮していた、というのは確かな話なのであった。
……無論、こうしてここで述べている通り、それはあくまでも今までの話、なのだが。
「キーアさんは、擬獣達を次々と
こちらに現れて暫く。
彼女はマーリンに見いだされ、こちらの補助をするために私達に接触したわけだが。
……当のマーリンは自身を送り出したのち、特にこちらに接触を図ることもなく、こちらに任せきりの放任主義者と化している。
当初は己を危険物として定め、必要以上に触れ合うことを避けるべきかと思っていた彼女は、そのままでは己に求められる役割が果たせないと判断。
結果、元々の予定であった『協力者として一歩引いた立ち位置を維持する』というモノはご破談と化し、改めてこちらとの関わり方について、試行錯誤を重ねる羽目になったのだった。
そしてその流れの中で──自分の抱える
じゃあまぁ、ある程度は適当でいいのでは?
真面目に『千里眼を持った桃香』として気を張りつめ続ける必要は、ないのでは?
……そんな心境の変化と共に、彼女は『二次創作の桃香』としての属性が少し薄れ、薄れたところに『原作の桃香』の成分が滲み出てきた、ということになるらしい。
大雑把に言えば、ちょっとアホになった。
それが、今現在の彼女は表立って見えるになっただけのこと。……というのが、今回彼女が述べていたことなのだった。
「お恥ずかしい話ですが、ある意味では恋愛脳?的なモノのおかげ、というわけでですね?」
「あー、ってことは今回のあれこれ、あんまり嬉しくなかったり?」
「……男の人は女の人と恋愛をするべきだ、なんてことを言うわけではないのですが──やはり、『恋姫』世界の人物であるという性質が表に来たのであれば、恋をすべきはご主人様……というような感覚は少なからずあるわけでですね?」
でもまぁ、『二次創作の桃香』であることは消えませんので、原作のご主人様──
……遠回しに
それから、張り合い的な意味でもXちゃんはXちゃんがいい、とも述べているわけなのだから、実は怒られてるんじゃないかと思わなくもないというか。……いやまぁ、別に怒ってはいないのだろうけども。
ともあれ、彼女が言いたかったのは概ねそんなところ。
やることなすこと未来を見据えている──事態の解決を願っての行動であることはわかるけど、できれば事前に説明とかちゃんとしてね?……という、遠回しな釘刺し行為でもある、盛大な愚痴大会だったというわけである。
……まぁ、その辺りは甘んじて受けるとしよう。
主導は琥珀さんとはいえ、その行動を止めなかったのは私でもあるのだし。
無論、上に被せられたモノを取り除くための実験として、端から戻す気はあったわけだが。
この仕事が終わって次の場所に向かうまでに、二人の姿を戻すことは確約しておこう……と思う私なのであった。
「あ、あれ?そこまで深刻な話じゃない……というか、言いたいことは別にあってですね?」
「みなまで言うな!よもや桃香さんが『天才たち』と『恋愛頭脳戦』に、そこまで思い入れがあるとは思っていなかったんだ……!!」*4
「何の話ですか!?」
なお、桃香さんはこちらの結論になにか不満があったようだが……その辺りについては、また今度時間のある時に聞かせて頂きたい。なんとなーくだけど、厄介ごとの匂いがプンプンするんでね!
「……なにやってるんだろうね、あの二人」
「さぁ?仲が良さそうなのはいいことだと思うけど」
「お二方ー、それを繋げたら終わりですので戻ってくださいねー」
「「はーい」」
そんな風にわちゃわちゃしている私達の横では、琥珀さんが他二名に対してここでの仕事の終了を告げているのだった……。