なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「謎のヒロインX、完全復活です!」
「わーわー!」
「ひゅーひゅー!」
「いやはや、どうもどうも。あんな風にくよくよしてるのとか、私らしくもないですよね!……途中なにか電波を受信したりもしましたが、ともかく復活のXです!」
「え?謎のサーヴァントX爆誕?」*1
「別に夏映画ではないですね……」
次の現場に向かう前に、変身状態を解かれた二人。
数時間ぶりの元の体に、銀ちゃんは小さく息を吐き。Xちゃんはむん、と気合いを入れていたわけなのだが。
……こうなってくると、これから先の仕事に関しては適当でもいいんじゃないかなー、というような気持ちになってくる私である。
「……んだよ、なにか問題でもあんのかよ?」
「いやねー?さっきはあとで聞くだろうから、ってことで聞いてなかったけど。普段とは違う体だから違和感があるとか、動かしにくいところがあるとか。……そういう話をするような場所っていうのも、これから先の現場にはあったわけでねー?」
「……ってことはなにか、単なる仕事だけじゃなくて観測的なモンも含まれた仕事がまだまだ続くってのか……?!」
「あくまでもついでの聴取、だけどね。肉体が精神に与える影響って意味では、私達はちょっと微妙な立ち位置にいるわけだから」
思わずげんなり、としたような顔を見せる銀ちゃんに、こちらも苦笑を返す。
私達なりきり勢は、『逆憑依』という現象により『元々の人間の上に、創作物のキャラクター達が被さっている』もの、という風に認識されている。
無論、単にキャラクターが覆い被さっているわけではなく、その性質やら性能やらに関わる別の要素──『名無し』という存在についても仄めかされているわけだが……それらは個別に干渉しあっているわけではなく、全てが
なにが言いたいのかと言うと。私達の今の人格というのは、あくまでも
性質的な部分にだけ絞って見る場合、大本の人格が憑依によって変貌したモノでは
なので、肉体の変化が精神に変化を及ぼす可能性……というもののモデルケースとして、私達は実は不的確だったりするのである。
「なんでまぁ、本当はこれから先、一緒に精神面での影響とかも調べたかったらしいんだけど……Xちゃんが結構気にしてたとかの話もあって、その辺りの検証は一先ず置いとこう……って感じになったってわけ」
「なるほどなぁ……んじゃあ一応聞いとくけど、次の仕事ってのはなにと兼ね合わせる予定のもんだったんだ?」
「それはねー……」
「新作水着のモデル……ねぇ」
椅子に座って膝に肘をつきながら、ポツリとぼやく銀ちゃんの言葉を遠くに聞き流しつつ。あれやこれやとポーズを取り、写真を撮られている女性組一同。
次の職場は、服飾関連の場所。
以前シャナも言っていた通り、なりきりというモノがキャラに『なりきる』ことを主体とするものである以上、大抵の場合において服装の変化というものは意識されない……正確に言えば『服装は変えない』というのが普通だったわけなのだが……。【継ぎ接ぎ】の成立条件があまりにも緩いことなどを鑑みて、単なる服装の変化が私達にもたらす影響、というものを本格的に調べる必要がでてきたわけなのである。
まぁ、雑に言うのであれば『季節系の限定キャラ』の影響範囲の考察、とでも呼ぶべきか。
単純に見た目の変化にとどまるような、スキン系の服装変化を導入している作品ばかりなら良いのだが。
世の中には水着ガチャや晴れ着ガチャなど、元のキャラクターとは性能が違う……だけにとどまらず、レアリティの増加や性能の向上など、実質的なマイナーチェンジの手段としてそれらを活用している作品が、数多く存在するわけで。*2
服が違うと性格が違う、なんて作品も世の中には存在するわけなのだから、服装による影響を調べる必要が強い、というのは誰しにも頷ける話だと言えるだろう。
今回の場合は、それに加えて性別がひっくり返った状態での、その性別として正しい服装──肉体的ではなく精神的な面での異性装が、実際にどれくらい当人の性的な意識に影響を与えるのか?みたいなところも調べたかったようだが……まぁ、今となっては無い物ねだりである。
よもや銀ちゃんに、響ちゃんに着せる予定だった水着を着せるわけにもいかんだろうし。……え、パー子?そういうのええから。スク水パー子とか一部の人しか喜ばんわ。
「……いや、つーかそもそも響にゃ夏季限定グラフィックはねもがっ!?」*3
「はいはーい、銀さんはですねー、余計な火種を巻くようなことを口走るのは、いい加減止めましょうねー?」
「いやそもそも今ここにいるメンバーだと、水着云々で性能うんたらかんたらとかXにしか関係なうごげぇっ!?」
「あーりーまーすー!私とは同姓同名の別人みたいな感じだけど、一応『桃香』にも水着バージョンはあーりーまーすー!!」
「でもその作品F○NZ○だしこの前サ終しぐえーっ!?」
「なんでわざわざそっちなんですか!?普通にG○EEとかモ○ゲーの方ですー!!」
「いやそっちも終わってぎゃあああ!?」*4
「なにやってんの二人とも……?」
なお、余計なことを言っていた銀ちゃんは、桃香さんに拳で沈められていた。素直に女性陣の水着を見て目の保養にしてれば良いのに……というやつである。
っていうかそもそもの話、去年の夏に遊びに行った面々からあぶれているのは、今この場では参入時期がクリスマスである桃香さん一人だけ。
……性能変化云々の意味合いがしっかりと発揮されるのは彼女だけなので、端から論理が破綻しているのは当たり前なのであった。
「まぁ、XとXXは別物──成長前と成長後では別キャラクターである……なんて話を持ち出された場合、『謎の水着ヒロインX』などという胡乱存在が生み出される可能性は十二分にあるわけなのですが」
「流石に横暴が過ぎるでしょ!?縛りはどうなってんのよ同キャラ縛りは!」*5
「アルトリア属にルールは無用でしょう?」
「いい加減にしろよぶっ飛ばすぞ武内ィッ!?」
なお、こっちはこっちで『アルトリア属が増える可能性は幾らでもある』という話を出されたため、ちょっと混乱する羽目になったりしていたのだった。
……まぁ、ただでさえ青と黒、Xに青槍まで水着版があるのだから、一応若い頃扱いの白に、黒槍の水着化はありえない話ではなく。
そして白が許されるのなら、青と青槍が別枠になっているように、XとXXが実は別枠だった……なんて屁理屈が飛んできてもおかしくはないわけで。
一応はギャグっぽく言っているのに、実際はあまり笑えない話になっていることに、思わずツッコミを入れずにはいられない私なのであった。
まぁそんな胡乱な話は、一先ず脇に置いておくとして。
今回は服飾関係の仕事ということで、誰が担当をしているのかなーと、ちょっと気にしていたりもしたわけなのですが……。
「……五条君はまぁわかるとしても、まさかマクモ君が居るとはねー……」
「名字被りもありますし、別に
「なりきりって自分のやりたいものやるもんだろー?そりゃまぁ、オレの場合はドラマCDしか声付きはないから、ちょっと珍しいかも知れないけどなー」
次から次へと新しい水着を持ってくる人の中で、目立つのは二人。……その二人以外は『逆憑依』ではない、という点も踏まえて語るのであれば──服飾系でわかりやすいキャラと、奇をてらったキャラの二人、ということになるのだろうか。
まぁ、本人達にはそんな感覚はないとは思うのだけれど。
ともあれ、ハベニャンとかミス・クレーンとかではなく、『着せ恋』と『仕立屋工房』からのキャラクター、という辺りに驚きを感じたというのは間違いでもない。*6
ただ、その辺りにはどうにもちょっとした理由、というものがあるらしい。
「なるほど、他の面々は出払ってたと」
「それから、八雲さんから『キーアちゃん達相手ならある程度粗相しても問題ないわよー』ってお墨付きを貰った、ってところもあるな」
「……おのれゆかりん……いやまぁ、確かにちょっとした問題なら気にしないけども……」
マクモ君の言葉に、遠い目をしてしまう私。
時期的な問題というか、そもそも服飾関連が最近まで発達していなかった弊害というか。
ともあれ、服に関するキャラクターが今のなりきり郷に不足している、というのは間違いではなく。
その中でも腕の良いキャラクター……先述したハベニャンのような服飾系の人物は、現在他の仕事に回されているようで。
今回のこの仕事には──言い方は悪いが、マクモ君達のような再現度の低い面々が回された、ということになるらしい。
そもそもの話、五条君はあくまでもアマチュアだし、マクモ君の方もキャラとしてはプロの仕立屋だが、センスが壊滅的という欠点を持っている人物である。
なのでちゃんと再現度が高かったとしても、問題が起きる可能性はそれなりにある……と言えるわけで。
ならばまぁ、モデルをしてくれる人間側に、ある程度の問題対処能力を求めるのはわからないでもない。
……一つ盲点があったとすれば。
再現度が高くないがゆえに、寧ろ普通の服飾能力を発揮できているマクモ君の存在ということになるのだろうか。
「あー、まぁ確かに。
ううむ、と唸るマクモ君。
彼は天選という特殊な職業の人物だが……その能力は、自身の作り出したものに特殊な効果を付与する、というものである。
仕立屋である彼の場合、作り出した服に特殊な効果が付与されるわけで。
能力を上手く使えない可能性のある今の彼の場合、下手に天選としての力が使えた場合、逆に問題を起こしてしまう可能性が高い。
ならば再現度足らずで、その辺りのあれこれがそもそも発生しない今の方がマシ、とも言えなくもないわけである。
なお、この点に関しては五条君の方も同じ。
再現度の高い五条君とはイコールアマチュアになってしまうため、単に服を作るという点においては、今の方が腕が良いという変な逆転現象を起こしているのだった。
「良いか悪いかを聞かれると、どうにも困惑してしまいますけどね」
自身の現状に対し、たははと笑みを浮かべる五条君。
その笑みに同調しつつ、私は頬を掻くのであった。
……え?男性なのに女性の水着を作ってるのかって?そもそもこの二人中身女性だけど?