なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ええと……
「そのまんまの意味だよ。……えーと、ナポレオン要素を一回取り外そうとしてる、って言えばわかる?」
「ああなるほど。……って、外せるのか?外せないから困ってるって話だったように思えるんだが」
「おっとごめん、言い方が悪かったね。
「……そこはかとなく怖いんだが?」
「大丈夫大丈夫、そもそも今現在のサイトの姿の方が怖いからね!」
「……そこらの住人に怖がられていたのはそれか……!」
私の発した言葉に、首を傾げていたサイト。
まぁ確かに『自分に戻る』だなんて言葉は、平時であれば単なる哲学とか自己研鑽の言葉としてしか聞こえないだろう。
が、そこは我ら『逆憑依』。
上に被さっているモノを取り除こうとしている、という風に受けとることもできるはず、というのは言うまでもない。……まぁ彼の言う通り、大本の『逆憑依』そのものは言わずもがな、【継ぎ接ぎ】の方も容易に引き剥がすことは叶わない……ということはわかっているため、そういう風に受けとることは(今更)ない、というのも確かな話なのだが。
なので、彼からそういうツッコミが返ってくるのも当たり前なわけで。……言い方を間違えたな、と反省した私は別の言い方をしてみたわけなのだけれど……いや、これもこれで誤解を招くな?
身体的な機能を不全にする……という風にも受けとれるため、彼がちょっと引き気味になるのも仕方ない言い方だったと反省。
……反省ばかりで身に付いていないのでは?というゆかりんからの非難の視線を受け流しつつ、怖い云々についてはサイトの今の姿の方が怖いよ、と話を逸らす私なのであった。
見て貰えればわかるけれど、現在のサイトの姿というのは顔がサイト、首から下がナポレオンというもの。……ここでいうナポレオンが普通のナポレオン……身長のさほど高くない、史実ベースの彼ならばそこまでおかしくなかったのかもしれないけれど。
生憎と彼のボディになっているのは筋肉モリモリ、マッチョマンなわけで。
……DIO様も満足できるかもしれない*1
結果、今のところ彼のあだ名は『平賀
「……サイドチェストなんざ、した覚えはないんだがな」
「ナポレオン要素だけならチャックボーンならぬボタンボーンなんだろうけど、本来のそれと違って顔と体が釣り合ってないからね。街尾さん扱いは想定の範囲内だと思うよ?」
「まぁ、最初にアンタも言ってたしなぁ」
微妙そうな表情で、頬をポリポリと掻くサイト。
顔と体が釣り合ってないというツッコミは、向こうで初めて出会った時にもやったけど。
それでもまぁ、長く付き合っていれば『慣れ』というものは生まれるもの。
そうしてサイトも住人達も慣れきってしまい、彼の容姿が『変』ではなくなってきて、その反応が当たり前になって……その流れのまま、彼はこちらに来てしまったわけである。
そりゃまぁ、今さら容姿云々で驚くのか、みたいな気分に彼が陥ってしまうのも宜なるかな、というわけなのだった。……互いに認識がずれているわけだしね。
「ええと、話が脱線しているようですが……」
「おおっと、ごめんごめん。ありがとうねアルトリア」
「いえ、サイトさんはルイズの大切な方ですから。私が心配するのは当然、というものです」
そんな感じにむぅ、と二人で唸っていると。アルトリアから話が変な方向に飛んでしまっている、とのツッコミが。
出会った当時のほわほわ感に比べると、しっかりとした空気を纏うようになったなぁ……なんてしみじみとしつつ、私はつい、と手を振る。
その動きに合わせ宙には燐光が舞い、思わず周囲がそれに視線を奪われる中、光が形作った光輪──いわゆる簡易ワープゲートから、重力に引かれるようにしてとある物体が落ちてくる。
おっと、なんて言葉と共にそれをキャッチしたサイトが、それを明かりに翳せば。
「……ブレスレット?」
「うむ、琥珀さん謹製変身ブレスレットであるっ!」
「なんで貴方がちょっと得意げなのよ……」
戦隊ものとかで見掛けるような、特徴的な形の腕輪であることがわかるのだった。
「……変身ネタはまだ続くのな」
「【継ぎ接ぎ】の安定利用ってなると、やっぱり変身システムに組み合わせるのが安全だからねぇ。……朝起きたら私は毒虫になっていた*3、とか嫌でしょ?」
「あー、安定してないと変な姿になるかもしれないし、区切りがあるものじゃないと、その姿と一生付き合わなきゃいけなくなるし、ってことか」
「そーいうこと」
渡された腕輪をあれこれと検分するサイトを横目に、銀ちゃんがぽつりと呟く。
今回は変身──【継ぎ接ぎ】についての話が多くなっているが、それも元を正せば
可及的速やかに【継ぎ接ぎ】の影響をどうにかする必要に迫られた結果が、今回のあれこれと忙しかった仕事の理由、というわけである。
そもそもの話、【継ぎ接ぎ】の大規模なものが『逆憑依』であるとも考えられる以上、それらの事態の解決には【継ぎ接ぎ】を調べることが一番の近道……というのは、ある意味では周知の事実であった。
じゃあなんで今まで、その辺りの研究が進んでいなかったのか?……といえば、単純に取っ掛かりがなかったということが大きいだろう。
「取っ掛かり?」
「琥珀さんにしても、偶然自分自身の【継ぎ接ぎ】が成功したから、その経験を生かしてあれこれ研究しているわけだけど……そんな彼女でも、実際に『逆憑依』の人々に出会うまで、大した研究はできていなかったわけだよ。……いやまぁ、研究初めて三ヶ月で【継ぎ接ぎ】見付けてるんだから、あの人も大抵おかしいんだけども」
現状の【継ぎ接ぎ】の研究というものは、基本的に琥珀さんがその全てを切り開いてきたものである。
一応、お国の方には勝手にあれこれするなよ、と釘を刺してはいるものの……それでもなお(実は隠れて研究していたなどの理由で)琥珀さん以外から【継ぎ接ぎ】関連の研究成果を聞いたり見せられたりした、という話はトンと聞かない。それは新秩序互助会の方でも同じである。
こちらよりも早い時期から存在していた新秩序互助会の方でもそうなのだから、結局のところ琥珀さんが【継ぎ接ぎ】研究の最先端である、という事実は変わらない。
じゃあなんでそんなことになったのか、と言えば──純粋に【継ぎ接ぎ】が研究し辛いから、ということに他ならない。
「……ん、んん?なんかおかしくねーか?【継ぎ接ぎ】は発生しやすい、起こしやすいのがウリなんだろ?研究なんざ幾らでもできそうなもんだが……」
「銀ちゃん、大切なことを見落としてるよ。……【継ぎ接ぎ】は、あくまでも『逆憑依』だと起こしやすいってことを」
「……あー?」
散々【継ぎ接ぎ】は発生しやすいだのなんだの言っておいて、研究し辛いという言葉はおかしいのではないか?……そんな銀ちゃんの言葉であったが、なにもおかしいことはない。【継ぎ接ぎ】とは『逆憑依』や【顕象】にとっては非常に起こりやすいモノであるが、同時に
更に、琥珀さんが『失敗例だが成功例』と呼ばれていた通り、仮に発生させられても酷く中途半端なモノにしかなり得ないものでもある。
要するに、別に私がお国に『早まったことするなよ?』と脅しを仕掛けずとも、そもそも研究したくてもできない可能性の方が高いのである。『逆憑依』の保護を、積極的に行っている組織がある以上は。
「……あー、うちと向こうか」
「私はてっきり向こうで急進派がなにかしてるんじゃないか、なんて思ってたけど……見てる限りそんな気配はなし。ってことは、人工的に『逆憑依』を生み出そう、なんて研究は琥珀さんの元居た場所だけがやっていて──」
「成果が出なかったからもう研究もしてない、って?」
「その理由は、そもそもどうすれば『逆憑依』になるのか、【継ぎ接ぎ】が起こせるのかわからなかったから……ってことになるってわけ」
私の言葉に、小さく鼻を鳴らす銀ちゃん。
今でこそ琥珀さんはすっかり琥珀さんだが、最初の内はもう少し分別がある人だったように思う。
……言ってしまえば、そのキャラらしい行動──それが二次創作的な誇張であっても構わない──により、被っている
大きくなったゆかりんなどがわかりやすいが、変身という形式で八雲紫を【継ぎ接ぎ】する、というその再現度の増やし方は、決して本人の演技が上手くなったとかそういう話ではないだろう。
五条さんもそうだが、それらの場合は『全体におけるキャラの割合が増えた』という風に見た方が、遥かに近いように思えるわけだし。
そんな感じで、そもそも火種を生み出すことも、その火種を炎にすることすら全て手探りとなるのが、【継ぎ接ぎ】というものの研究の真実である。
研究というものに対し、些か厳しいところのある我が日本*4において、目に見えて成果の出ない事業がどうなるのか……というのは火を見るより明らかだろう。
結果、【継ぎ接ぎ】というものの研究は琥珀さんが見付け、琥珀さんが探すままに任せられている……という現状に繋がるのだった。……まぁ、一応成果があったのに三ヶ月で見限ってるのはどうかなー、と思わなくもないけども。
「最近はなんもかんもサイクルが短いしなー」
「流行り廃りとかねー。国民的なあれ、ってことなのかなぁ?」
銀ちゃんと二人、深々とため息を吐く。
基本的には益をもたらしてくれているという認識だからこそ、研究そのものはおざなりになっているのかもしれないが……擬獣みたいなものが現れ始めた辺り、もう少し危機感とかを持ってほしいと思わなくもない。
まぁ、そんなことを言ってもお国は変わらないのだろうなぁ、なんて諦感を覚えつつ、いい加減腕輪の説明をして欲しそうにしているサイトの元に向かう私達なのであった。