なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「うむむむ……困りました。なんでこんなことになったのか、ルビーちゃん皆目見当も付きません……」
「ええ~、流石にそれは困りますよぉ~。ルイズだって、今の俺の姿を見たら困惑するに決まってるじゃないですかぁ~?なんとかならないんですか、琥珀さ~ん?」
「う、うわぁ胡散臭い……中身がサイトさんなんだから、本当はそんなこと一切ないはずですというのに、全体的な空気感とでもいうものが胡散臭いの化身です……」*1
「あ゛あ゛?!誰のせいだと思ってやがんだ誰のっ!こりゃあポイントが加算されちまうなぁ~、じゃんじゃかじゃんじゃか貯まっちまうってもんだよなぁ~!?」*2
「いや怖いんですけどー!?ベクターさんモードを気楽に使うのはやめてくださいましー!」
「おおっとごめんごめん。なんつーかこの姿だと、どうにも感情的になっちまうというか……」
……なんだこれ?
サイトに起きたとんでもない事態に、思わず責任者もとい琥珀さんを現場に呼び出すことに相成ったわけなのだけれども。……普通に話しているはずなのに、サイトもとい真月の当たりが強い気がするというか。……え?いきなり胡散臭いの化身にされればそうもなる?それはそう。*3
とりあえずこれが『変身』であることに間違いはなく、なのでそのうち戻るはず……というのが琥珀さんの当初の予想だったらしいのだが、どうやら今回は変な混線でも起こしているらしく。
ゆえに自然に元に戻るという可能性は低く見積もられる結果となり、どうにかして元に戻そうと悪戦苦闘しているわけなのだが……ご覧の通り、その作業は難航しているのだった。
……こんな状況下で更に
やった瞬間戻れなくなる可能性も大なので、絶対にやらないでくださいね煽らないで下さいね……と琥珀さんから、本人周囲共に釘を刺されていたりもしているため断念している。
まぁ、この真月の中身はサイトなので、そんなことをするつもりは最初からサラサラないだろうけども。
ともあれ、本来であれば首から下がサイトに上書きされ、少なくとも見た目だけは元に戻るはずだった、今回の実験。
現状は何故か全身が真月になる、という意味不明な状況に陥っているわけなのであった……。
「ふむ……?」
「アルトリア、なにか気になることでも?」
「いえ、大したことではないのですが……あのデュエルデュエル、光ってはいませんか?」
「光ってる……?……ってあ、ホントだ、うっすらと光ってる」
そうして皆があれやこれやとてんやわんやしている中、サイトの姿を見ながら顎に手を置き、ふむと小さく声をあげるアルトリアが一人。
その声に反応した私が声を掛けると、彼女はスッととある一点を──彼の腕に装着されている、変化してしまったブレスレットを指差すのであった。
変身ブレスレットから変形したそれは、見た感じZEXAL時代の……それこそ真月零が付けていたものと同じ形のデュエルディスクとなっており、今は収納形態となって彼の腕に収まっている。
で、その内の一部分──言うなれば墓地に相当するスリットが、内側から仄かに光っていることを確認することができたのである。……ええと、わかりやすく説明すると──墓地効果が発動しようとしている、みたいな感じ?もしくは墓地からカードを手札に加えようとしている時、みたいな。
「あ、あぁ?なんだこれ、墓地からなにが来やがるってん……」
こちらの言葉に気が付いたサイトが、スリット部分に手を翳すと、こちらの想像通り墓地からカードが一枚、外に向けて飛び出してくる。
それを手に取ったサイトは「うげ……」と言えば、こちらにもわかるくらいに露骨に嫌な顔を浮かべたのだった。
……なんだろう、すっごいいやな予感がするんだけど。
そんなこちらの思考を感じ取ったのか、助けを求めるような視線をこちらに向けてくるサイトだが……生憎と私はデュエリストではない。
そして相手は、この状況の謎を解く鍵とおぼしき、自己主張してくるカードである。……諦めて召喚してみて欲しい。
大丈夫大丈夫、ここはゆかりんルーム。
最悪ゆかりんがなんとかしてくれるSA☆……というこちらの思考が伝わったのかは定かではないが、サイトは「……ポイント十万点……」とかなんとか呟きながら、渋々デュエルディスクを展開し、そのモンスターゾーンにカードをセットするのだった。
……どうでもいいけど、そのデュエルディスクってエクストラモンスターゾーンはないんだね?*5
「ええい、やかましいってんだよテメェは!?静かに待ってろ!!」
「わぁ、サイトがすっかりベクターに。これはルイズに教えてあげないと」
「ぬ、ぬぐぐぐ……!」
「はいはい、変な喧嘩しないの。……ところで、私からは絵柄とかは見えなかったけど、なんのカードだったの、それ?」
「ああ?んなもん、これから召喚されるモンスターを見りゃわか
こちらからの些細なからかいに、過剰なまでに反応するサイト。……うーん、この分だとちょっとしたことで、すぐに一億ポイント貯まりそうな感じだね?
まぁともかく、ゆかりんが横から仲裁と、それからサイトが墓地から引き抜いたカードについて聞くために声をあげていたが。
彼はそれに見りゃわかんだろ、という風に答えようとして。──デュエルディスクが異常な発光を始めたため、発言を途中で取り止めることになったのだった。
光の発生源は、先ほどセットされたカード。恐らくは正常な操作に従ってフィールドに召喚されようとしているのだろうが……ソリッドビジョン*6云々の演出にしては、光の発生の仕方がおかしいような?
その輝きは先ほどのサイトのそれと同じく、辺りを染め上げるほどの強い輝きへと変化していき。
それを受けた銀ちゃんがまたもや「目が、目がぁ~!?」と呻き始め。そして次の瞬間、
「んな、ズァーク!?」
私達の前に姿を現したのは、巨大な龍──『覇王龍ズァーク』。『遊☆戯☆王ARC-V』におけるラスボスであり、かつてハルケギニアにおいてエンシェント・ドラゴンと同一視され、私もといビジューちゃんが相対することとなった存在。
そんな存在が、サイトのデュエルディスクから現れ、静かにこちらを睥睨していたのだった。
これには先ほどまで緩い空気だった他の面々も、瞬時に緊張感に包まれ。
今は佇むだけの彼が、これからどう動くのかをつぶさに観察して……ん、なんだあの米粒みたいなの?
警戒する皆をよそに、私の視界に映ったのは──謎の白い……白い?粒のようなもの。
疑問形なのは、それが小さ過ぎるために色がきちんと確認できず、結果として白く見えているだけなのではないか……と思ったからなのだが。
ともあれ、巨体を誇るズァークからしてみれば、それこそ米粒と変わらない大きさのそれは、彼の龍の胸元──コアのような場所へと飛来していき。
「……は?」*7
謎の壮大な音楽と共に、コアになにかしらの衝撃を受けたズァークは、四天の龍へと分裂。
脳内に流れる『わたしがやりました』とか『THE END』の文字に困惑する私達の前で、彼らは淡い光に呑まれていき……。
「……え、ここどこ?!ってあれ、八雲さん?!」
「え、榊君?!」
光が晴れた時そこに居たのは、四枚の龍のカードを持った榊遊矢君、その人なのだった。
「……ええとつまり、ギャラクティック・ノヴァ*8が破壊される時の音楽と共に、突然現れたズァークは四天の龍に分離していって。その四体が輝きに包まれ、それが晴れると……」
「そこに榊君が居た、ってわけ」
「……ええと、とりあえずレディエンしとけばよかったりする?」
「ノーでお願いしますわ、特にカルタの用事もないし」*9
「そりゃまたなんともつれない話ですね……ってそうじゃなく」
謎の儀式?的なものの混乱から覚めた私達がまず行ったことは、ここに突然現れた榊君が、私達の知っている榊君なのかどうかを確かめることであった。
基本『逆憑依』関連の事件において、既に居る存在が重複するということはなかったが……まぁ一応、念のためというやつである。
その結果、この場に突然現れた榊君は、以前運動会などで司会をしていた彼と同一人物であることが判明……したのはいいのだが。
それはそれとして、突然彼がテレポートしてきた……という新たな謎を生み出すこととなったのは間違いないわけで。
「……うーん、単純に考えればズァークと榊君だから、ってことなんでしょうけど」
「何故今なのか、何故サイトのデュエルディスクから現れたのか……疑問は尽きないわね」
むむむ、と唸る私達。
原作的なモノを考えれば、ズァークが別たれたあとに榊君が出てくる、というのは別段おかしな話ではない。
あそこまで『ラスボス倒しましたー!』みたいな演出だった以上、分裂してはいたけれど扱いとしては『ARC-V』終盤のそれと同じ、と見てもいいはずだ。
……はずなのだが。それはあくまでも、榊君が
「……いや、この状況に彼を突っ込むことで、【継ぎ接ぎ】によって彼の中に他の三人を追加しようとしている……?」
「いやキーアさん、しれっと怖いこと言わないで下さいよ!確かにこう、四天の龍とか持たされてますけど!ほらご覧の通り、私めにはなんの弊害も……弊害も……」
「……なんとなく予想できたけど、なにがあったの?」
その中で思い付いたのは、一連の流れに彼を放り込むことで、
勝手に乗り移られようとしているとか、本人からしてみればおぞましいことに変わりなく。
ゆえに彼は今の自分に他三人の気配はない、と否定しようとして……エクストラデッキにいつの間にか追加されていた『黒竜』『紫竜』『白竜』の覇王竜を見付け、その顔面を青白く染めるのであった。
一つ区切りとしまして、次回からは幕間となります。