なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・なりたいものになれるよう

 吾輩はスライムである。名前はまだない。*1

 ……いや嘘付いた、俺の名前はリムル=テンペスト。『転生したらスライムだった件』*2の主人公である。……いやまぁ、覚醒度が足りてないのか、はたまた何かしら問題でも起きているのか、大賢者は居ないしヴェルドラとも繋がってないし人型にもなれないのだが。*3

 

 

「……んー?リムるんどうしたの、突然黄昏ちゃって」

「いや、なんというか……これでいいのかなー、というか」

「あー、私達スペックチョーダウンしてるもんねぇ」

 

 

 そんな風に思考に耽っている俺に、声を掛けてくるのは大きな蜘蛛。……こっちは『蜘蛛ですが、なにか?』*4の主人公なわけだが……うん、こっちもこっちで今の蜘蛛の姿以外にはなれないこともあって、なんというか呼び方が難しい。

 本人は「蜘蛛子でいいよー?」と言うのだが、それは正直名前じゃないよな、っていうか。

 ……まぁ、勝手に名前を呼んでしまうと名付けとか発生してしまいそう*5だし、結局は蜘蛛子って呼ぶことになるんだけども。

 

 さて、俺達がのんべんだらりと怠惰な日々を送っているのは、新秩序互助会のとある一室。

 雑に言ってしまえば、ルームメイトである蜘蛛子と一緒におやつをポリポリ食べながら、何をするでもなく駄弁っている……と言うのが、今の俺の状況である。

 

 だからまぁ、このままの生活じゃダメなんじゃないか、なんて風にも思ったりしているのだが……。

 

 

「……ふむ、察するにレベルアップに邁進するのは気が引ける、というところかの?」

「……まぁ、そんなところかな」

 

 

 この部屋にいたもう一人──『賢者の弟子を名乗る賢者』の主人公であるミラが、そんな言葉を口にする。

 

 彼女はまぁ……ちょっとした相談に乗って貰う為に部屋に呼んだのだが。他の転生者達が俺達を少し遠巻きに見ているのに対し、特に気にすることなく話し掛けてくれる……その姿に少し甘えてしまっているような気がして、どうにも気が滅入ったりもする。

 

 とはいえ、俺達だけで考えていても、答えが纏まるはずもなく。だからこうして、恥を忍んで彼女に頼み込んでいるのだった。

 

 

「なぁ、お願いだ。どうか、キリアさんに取り次いで貰えないだろうか?」

 

 

 

 

 

 

「はぁ、リムルさんと蜘蛛子さんが、ねぇ?」

「うむ。今向こうにおる者の中では、色々と深刻な……と言うと少し大袈裟かもしれぬが、どちらにしろ気が参っておるというのは確かなようでのぅ」

 

 

 ある休みの日の朝。

 これまた突然訪問してきたミラちゃんが告げたのは、とある二人組の様子を見てやってほしい、という依頼だった。

 

 その二人というのが、リムルさんと蜘蛛子さん──いわゆる人外系なろう主人公達だったというわけで。

 どうしたものか、とため息を吐くミラちゃんに同調するように、私も小さく頬を掻く。

 

 なろう系の作品というのは、そのほとんどが『異世界転生』系の作品である。

 テンプレート的なものがあり、読者達に対して基本的な説明を省くことができるからこその、ある意味での流行り……とでも呼ぶべきようなものなのだが……それゆえに、作者達はなにかしらの独自性を付与することに邁進しているわけで。

 

 その中で先の二名は『人ではないモノに転生した』という共通点を持つ主人公である。*6……そしてそれゆえにもう一つ、少しばかり深刻な共通点というものを持っている。それが、

 

 

「捕食系のレベルアップが主体……ってところが引っ掛かってる、ってわけなんだよね?」

「うむ。わしらは──特に向こう(新秩序互助会)の面々は、自身を転生者だと思っておるものが大半じゃが……だからといって精神的に転生前──原作と同じである、という保証もなくてのぅ」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という成長スタイルである。

 ……いやまぁ、単に『食べて強くなる』というだけなら、トリコとかも該当するわけだけど。この二人に関しては、もう少し踏み込んだ話になるわけで。

 

 

「レベルアップのために相手を捕食し、その性質を獲得したり能力を奪ったりする──言うなれば弱肉強食の理に偏重してるから、原作の彼らと違って()()()()()()()今の彼らだと、成長することに躊躇が生まれる……と」

「うむ……特に今生──この世界には彼らの原作と違い、断りもなしに食べてもよい相手──単純な敵というものが基本存在せぬ。必然的に食らう相手は【顕象】だけとなり、そもそもにレベル不足の彼らには荷が重い、ということにも繋がるわけでじゃな?」

 

 

 彼らは異形であるがゆえに、他者を害することにあまり躊躇がない存在である。*7

 少しばかり考えればわかる話であるが、現代において普通の生活を送る場合()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼らの世界(原作)はファンタジーな世界であることが普通であり、現代のように原則戦闘行為を行う必要がない、なんてことはない。

 言うなれば物理的な弱肉強食の世界であり、そんな世界であるがゆえに敵対者に容赦をしないのは、寧ろ当たり前のことなわけだが。

 それを現代に持ち込めば、()()()()()()()()()()()()()()というのは、考えなければならないことだと言えるだろう。

 

 どんな存在であれ、それが現実であるならば、母も父もなく生まれてくることはあり得ない。

 それはすなわち、どんな存在であれそれを想う者がいる、ということに繋がる。

 その人物の所業如何によって見放され、結果として想う者が居なくなるというようなことはあるが……ともあれ、過去現在未来の全てにおいて、誰からも想いを向けられていない存在を見付けることは、とかく難しいことだろう。

 

 それがなにを意味するのかと言えば、例え相手が極悪人であれ、それを害するのであれば必ず報復の口実を与えてしまう、ということ。

 復讐の連鎖を止めるのは難しいと言うが、正にそれ。

 相手を殺しているのであれば尚更、その誰かを大切に想う誰かは、必ずこちらを害そうとしてくるだろう。

 そしてその誰かにも、()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──つまりは、だ。

 敵対者に容赦なく、その全てを殲滅するというのは。

 極論、自分以外の全てを──ともすれば、自分自身をも滅ぼさなければならないかもしれない、そんな愚行なのである。誰かを大切に想う誰か、という連鎖が止まらない限りは。*8

 

 ゆえに現代において、迂闊に相手を殺すことは非推奨となっている。

 例え恨みがあれ、憎しみがあれ。その手に掛けてしまえば、それは(えん)となり(えん)となる。

 その繋がりは、いつか必ず己を殺す。そしてそれは、今生の話ではないかもしれないのである。……というような話は、少しばかり脱線しているので置いておくとして。*9

 

 まぁともかく、彼らのレベルアップ手段である捕食という行動が、それが確実な相手の死を伴うものである以上、推奨されざる行為であることは確かな話。

 そして、彼らが本当は『逆憑依』である以上、まっとうな人としての感性が捕食という行為に忌避感を抱かせるというのも、決してわからない話でもないわけなのである。

 

 ……【顕象】相手なら別にいいんじゃないのか、と言われそうだが。実は、ここにも落とし穴がある。

 その落とし穴とは、彼らの自己認識。……自身を『逆憑依』──なりきりだと自覚していない彼らにとって、『逆憑依』と【顕象】の見分けは付かないのである。

 

 

「そうでなくとも、アルトリアみたいなパターンはまず捕食できないしね」

「うむ、彼女に関してはほぼ生きた人と同じ存在。……原作のあやつらならば、状況次第で選ばなくもない選択肢かもしれぬが。現状のあやつらでは、まず選ぶことはあり得ぬと断言できるじゃろうな」

 

 

 つまり、彼らが【顕象】を捕食しようとする時、その認識は人を食べようとしているというものと、大して変わりがないというわけで。

 ……そりゃまぁ、自身を転生者だと思う割に、成長に対して消極的になるわけである。

 

 特に彼らは、初期状態では貧弱過ぎる存在。*10

 本来なら持ち合わせている各種チートスキルも機能していないというのだから、色々とやる気が失せてしまうのは仕方ないとしか言いようがない。

 

 ……というか、仮にやる気になったとしても、仮に【顕象】を捕食することを許容できたとしても。

 その先に待っているのは、どうにかして捕食できるようになるまで相手を弱らさなければならないという、至極当然の帰結──戦闘行為の必要性である。

 

 彼らは転生者(という自己認識)であり、その成長には余念がない。

 ……つまりは他者の手を借りることは絶望的、どう足掻いても加算できる手札は己ともう一人、同じ悩みを持つ相手だけ。

 それにしたって、仲良く半分こできればいいが……もし仮に、きちんと一体まるごと捕食しなければレベルの足しにはならない……なんてことになってしまえば、目も当てられない事態に陥ってしまう可能性が非常に高い。

 

 結果、危ない橋過ぎて触りたくない、なんてことになってしまっているのだった。

 

 

「……だからお主──正確にはキリアの()()を見た時、天啓のようなものを受けたとしてもおかしくはないというわけでな?」

「ああうん、普通の成長手段とは別な──それも誰かを傷付けることのない手段があるとすれば、それこそ藁をも掴む気持ちで声を掛けようとするのはわからないでもないね……」

 

 

 そんな状況下で、黒子ちゃんの能力を強化して見せたキリアの姿と言うのは、福音だとか祝福だとか、そういう神の恵み的なモノに見えたとしてもおかしくはない。

 そりゃまぁ、死に物狂い……ってのは大袈裟だけど、どうにかして接点を持とうとするのはわからないでもない。わからないでもないのだが……、

 

 

「……なんで今なの?」

「さてのぅ、こればっかりは二人に聞いてみぬことにはなんとも……」

 

 

 ……その奇跡とでも呼ぶべき事態を起こしたのは、最早三ヶ月以上前のこと。

 なんで今更コンタクトを取ろうとしたのか、その理由が今一把握できないのである。いやまぁ、単に話し掛ける切っ掛けがなかったのだと言われれば、納得する他ないのも確かなのだけれど。

 

 

「まぁ、確かにのぅ。お主が向こうにおったのはそれなりの期間じゃが……その間に話し掛ける暇があったかと問われれば、微妙と言う他ないしのぅ」

「うむ、大体仕事ばっかりしてたからねぇ」

 

 

 ミラちゃんの言葉に、小さく頷く私。

 彼女の言う通り、向こうでの私は基本的に仕事に次ぐ仕事、忙しさに殺されかねないほどのハードワークであった。

 なのでまぁ、話し掛ける暇が無かったという主張は、素直に受け入れざるを得ないのである。無論、それにしたってもう少し早い時期に言い出してもいいのではないか、というツッコミを入れられないこともないわけだが。

 

 

「……まぁ、困ってるなら話くらいは、聞いてあげたいところなんだけど……」

「ぬ、その言いぶりだと、なにか問題でもあるのかのぅ?」

「……いや、見りゃわかるでしょう」

「…………うむ、小さいのぅ」

 

 

 まぁそもそもの話、今の私は妖精サイズ。

 話を聞くのも一苦労、っていう問題があるんですけどね!

 ……と口を開けば、ミラちゃんは曖昧な表情で沈黙しているのだった。*11

 

 

*1
夏目漱石氏の小説『吾輩は猫である』における序文から。とても有名な作品である為、様々なオマージュやパロディが存在する

*2
伏瀬氏による小説作品。タイトル通り、スライムに転生してしまったとある男性を主人公とした作品

*3
それぞれ彼のできること・持ち合わせている能力・繋がっている存在。スキルも発動していないので、ほぼ単なるスライム状態である

*4
馬場翁氏の小説作品。こちらは蜘蛛に転生してしまった女子高生の話、ということになっている

*5
他者に名前を付けること。名を知るということは呪術的にも意味があることだし、名を付けるともなれば魔術的な繋がりを生むことにも繋がる。『転スラ』においては名付けとは魂の回廊を築き、それにより魂の系譜を広げるものとされる。なお、名付けには魔素を消費し、魔素は魔物達の生命力でもある為、迂闊な名付けは魔物自身の大幅な弱体化を招くことになる為、本来であれば原作のリムルのような大量の名付けは行えないはずだったりする

*6
最初は人外だが、後に人型になれるようになる……という共通点も持つ。なおこの『人外転生したが後に人型になる』パターン、人によっては蛇蝎の如く嫌う人も居たりする(最終的に人の姿になるのであれば、人外になる必要性はないのではないか?……みたいな文句を言われることが多い)

*7
人外系主人公の面白みでもある部分。要するに『普通ではできないことをする存在』としての人気とでもいうもの

*8
限度がどこにあるのかわからない、と思われてしまった場合、味方側からも排斥される理由となりうる。この辺りはセイギノミカタとして邁進した結果、友人だと思っていた相手に裏切られて処刑されたエミヤなどがわかりやすいか。復讐を成し遂げた場合もそうだが、きっかけがあったとはいえ()()()()()()()()()()()を選んだ、という事実はとても重いのである

*9
国が死刑を執り行うのも、極論は復讐の連鎖を止めるためである(個人の問題ではなくさせることで、無理矢理にでも納得させるモノとしての面もある)。情が混ざらずに他者の罪を量る、なんてことはほぼ不可能なのはご存知の通り。故に個人に任せた断罪は必ず極論となるので、それを防ぐ目的もある

*10
リムルに関しては微妙では?と思われそうだが、ここでの『初期状態』とはあくまでもこの作品での初期状態を指す。『捕食者』しか持っていないので、そもそもレベルアップするのにも苦労するのは間違いないだろう

*11
fgoの初代クリスマスイベント『ほぼ週間 サンタオルタさん』における、とある場面でのエミヤの台詞『─────(曖昧な表情で沈黙している)』から。復刻が2016年と古く、知らないという人も多いかもしれないイベント。配布サーヴァントである『サンタオルタ』が欲しい、という人も多いかもしれない……

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