なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……その、変身して大きくなるとかは」
「生憎と下手に大きくなると、今の私ってば死ぬっていうか消滅する可能性が大なわけでして」
「ぬぐぅ……噂の大魔王、というやつか!」
「そのとーり。いやはや、ホントにどうしようかねぇ?」
ミラちゃんからの言葉を、ざっくりと切って捨てる私。
そんな対応を受けた彼女は小さく呻いたのち、机に踞ってぐぬぬと唸り初めてしまった。
今回の案件において、求められているのは聖女キリアちゃんの方であり、罷り間違っても魔王・キーアの方ではないだろう。……が、属性こそ
なので現状キリアへの変身は非推奨状態、迂闊に破れば以前の死にかけ・消滅しかけ状態に逆戻り……というわけでして。
いやはや困った困った。いっそのこと、この妖精モードのまま助言でもしに行こうかな?とか思ってしまうような始末である。
「……いやな予感がするが、一応聞いておこう。その場合は二人になんと言うつもりじゃ?」
「そりゃ勿論、キングメイカーな
「却下じゃ却下……いや、意外とちゃんと助言しそうな気もするが、どちらにせよ却下じゃっ!」
「えー?」
まぁ、妖精サイズの助言する人……という扱いだと、今の私はどこぞのマーリンを連想してしまうため、彼らの助言の仕方もそっちに肖ったものになりそうだな、とも思うわけなのですが。
そんなこちらの言葉を聞いたミラちゃんは、やめいとばかりにツッコミを入れてくるのでしたとさ。
「まぁ、冗談はこのくらいにしておくとして……実際どうしようか?リモート*1で顔は隠して声だけで助言する、とかにしてみる?」
「いや、遠隔強化できるのならまだしも、そうでないのなら不満を抱かれるだけじゃろうそれは……」
「ふぅむ、そんなもんか」
おふざけはここまでにして、と前置いて。
実際どうするべきなのか、ということを話し合う私とミラちゃんである。あるのだが……実際、彼らが求めているのは直接会話をして、自分達の状態を確認して貰って、それに見合った対応をして貰うこと……だと思われる。
つまり、顔を見せずに声だけで対応する……なんて手段は愚の骨頂。*2下手をすると、詰め寄られて文句言われて終わりである。いやまぁ、素直に今はそういうの受け付けてません、という形で断ってもいいとは思うのだけど……。
「そもそもの話、キリアの能力向上って
「むぅ、確かに。ともすれば──
「でしょー?」
どうにもこう、彼らが
確かに向こうでの私は忙しくしていたものの、その中で構成員達の悩みを聞く、カウンセリングのようなことも行っていたし。
能力の向上云々についても、単純に彼らの技能を引き上げるのではなく、補強して『いつかたどり着く場所を体に認識させる』……くらいの用法のものでしかない。
いやまぁ前者に関しては、彼らが人外系の存在であったがゆえに、他者の目の多い場所にいることが大半であった私に相談を持ちかけるには、色々としがらみが多かった……と言うことで納得はできるし。
後者にしても、無秩序にただ利用しているだけの能力を、ある程度整理するなどして本来の力を発揮できるように整えている部分もあるので、能力の成長に全く寄与していないかと言われると、無論ノーとなるわけなのだが。
実際、向こうでの鍛練とかはそれらの成長の土台をキチンと固める……という部分も大きかったわけだし。
ただ、こうやって諸々の理由を並べ立てて無理矢理納得するにしても……やはりこの話を
そして首を捻らざるを得ないがゆえに、受けないという選択肢が消滅してしまっているわけなのである。
「門戸は開いていたけれど、それを叩く気のなかっただろう二人の心変わり。……なにがあったのか、って気にするのはおかしくない話でしょ?」
「まぁ、確かに。なろう組が色々と気になる存在……だというのはそう間違いでもないからのう」
わしも含めて、の。
そんな風に笑みを浮かべるミラちゃんに、思わず苦笑を返す私。
なろう系の主人公が、いわゆる『もう遅い』とか『俺tuee』のようなタイプが多い、というのは周知の事実。
なので、感覚的には二人の要望に答えるのが正しい、ということになるわけなのだが……。
「……キリアじゃないんだよなぁ」
「結局そこに戻ってくることになるのぅ……」
ここで話は振り出しに戻る。
彼らが求めているのは聖女・キリア。ここでこうしてうんうん唸っている、妖精サイズの魔王さまではないのである。
……うーむ仕方ない。背に腹は代えられぬと言うし、ここは恥を偲んで頼むしかないか。
「む?なにか妙案でもあるのかの?」
「まぁ、うん。結局のところ、今回の相談で一番問題になっていることって、私が
「……う、うむ。そういうことに……なるのかのぅ?」
重々しくため息を吐いた私に、ミラちゃんが意外そうな顔で問い掛けてくる。
確かに、先ほどから散々『無理』と訴えていたのに、一転してどうにかなると言い始めたようなものなのだから、その反応も無理はない。
が、初めから私は同じことしか言っていない。
結局のところ、この問題の解消を妨げているのは、
ここまで言えば、流石に彼女も気付いたようで。
一体なにをする気なのかと目線で問い掛けてくる彼女に、私は更に陰鬱とする気持ちを体の節々から醸し出しながら、対応策を呟くのだった……。
「え、体貸して?いいわよー」
「軽っ!?」
はてさて、場所は移動して私の家……の中の、とある人物の部屋。
……いやまぁ、ぼかす必要性も薄いのでさっさと白状するけど、そこはキリアの部屋である。……件の人物とは、まさしくこのオリジナル様のこと、というわけで。
言ってしまえば同じ存在が同一世界に居るから、存在が霧散しかけているというのが現状。……つまり、
……正直なに言ってんだこいつ、感が凄いが。
キリアはそもそもに
ついでに言うのであれば、彼女は全てのモノに予め含まれている存在。……雑に言えば、不滅の存在なのである。
通常状態において、目覚めていない状態──単なる物言わぬ分子や原子のようになっているのが普通である彼女にとって、自身の意識の連続性は自身の同一性になんら寄与しないのである。*5
……なに言ってるかわからない?じゃあまぁ、今の私は彼女に『私に吸収されろ』と言っているようなものだと思って貰えれば。
それが一般的には臨死に近いものであり、それを彼女が厭うこともない……というのもまぁ、一応覚えておいてもいいかもしれない。
その辺りのことを、なんとなーく知らされていたために、ミラちゃんは先ほどの「軽っ!?」という言葉を漏らした、というわけなのであった。
……まぁ私としては、多分断られることはないだろうなー、とも思っていたので特段驚いてはいないのだが。
「え、ええー……?いや、それが罷り通るのであれば、最初から
「甘いねミラちゃん。
「おっ、ミストさん?」*6
「ちゃうわいっ!ややこしいからちょっと黙ってて!」
「はーい。キリア母さん口閉じまーす」
「母さんでもな……ああはいはい、あとでやってあげるからっ」
そんな話を聞けば、最初からそれをやっておけば──そもそもの問題である、『同じ存在が同一世界にある』という問題も解決できるのではないか?……というようなことを言いたげにしていたミラちゃんだが。
そんなうまい話は転がっていない、というのが今回の話のキモなのである。
今回のこれは──いわば
彼女に近しく、ある意味では娘のような存在である私からの、一種のわがままとして処理されているのだ。
……なので、大魔王として【事態の解決】を自身の討伐判定にしている、現在のキリアが引き下がる理由にはならないのである。
一端除外はできるが、結局は戻ってくるぞ……みたいな話と言うか。
一応、彼女が自身の存在を一時放棄することで、私は以前のようにキーアとしてキリアとして、万全……かどうかは知らないが、とりあえず力を奮うに問題のない状態にはなれるものの。
それはあくまでも、時間制限付きのパワーアップのようなもの。……事態解決の暁にはこの妖精ボディに戻らなきゃいけないし、
今回の場合は『娘として可愛がらせてほしい』という、前回のあれを引き摺った形の
……流石に人の生死に関わるような話は飛んで来ないとは思うけど……相手は大魔王。人の行く先を見守るモノとはいえ、基本的には頼る相手ではない。『皆に成長が見られないから、ちょっとスパルタで行くね~☆』なんてやられた日には、死ぬより酷い目に合うこと必至なのだ。
そういう意味でも、できれば使いたくなかったのが、今回の『融合』依頼……『我らが一つに』案件なのであった。
なお、そのネーミングからミラちゃんのツッコミが入ったことは言うまでもない。