なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「そういうわけで……今回は宜しくお願いしますね、お二人とも」
「お、おう。……ところでその、肩に乗ってる目玉は一体……?」
「母です、お気遣いなく」<ハハデスヨ
「はぁ、なるほど母……って母ぁっ!?」
数日後。
切りたくもない切り札を切ったことで、どうにかキリアになれるようになった私は、久方ぶりに新秩序互助会の施設の土を踏んでいたわけなのですが。
神妙な面持ち……面持ち?スライムなので表情のわかり辛いリムルさんと、蜘蛛だけど表情のわかりやすい蜘蛛子さんを前に、一端自己紹介などを行っていたのでございます。
……え、肩の目玉?
突然沸いて出た、聖女の母という目玉。
その存在に困惑する二人を見ながら、はてさてどうしたものかとこっそりため息を吐く私なのでした。
「まぁ、私の母については一先ず横に置いておくとしまして……まずは現在のお二方の実力を調べる、ということでよろしいでしょうか?」<ヨロシイ?
「え、あ、ああ。宜しく頼む」
「はーい、宜しくお願いしまーす」
(……なんか軽いな?)
一先ず色々横において、二人の実力を確かめることにした私なのだが。……リムルさんの方はまだしも、蜘蛛子さんのテンションが若干おかしいような気が?
むぅ、そういえば蜘蛛子さんと言えば
──もしかしてこの人、実はヤバい人なのでは?
などという予想が、一瞬脳裏を掠めたのだけれど。
(……うん、ないな)
自分で予想しときながらアレだが、『ないな』と首を振る私である。
……いやまぁ、なんというかそもそもの話として時期が合わないし。残党かも?みたいな予想も、正直キリアが相手にしていた時点で、狩り残しとか期待できないし……といった感じで、すぐさま否定される程度のモノなのであった。
……まぁ、悠木さんは売れっ子だし、声被りは仕方ないってやつだよね、多分。
蜘蛛子さんにしては高い気のするテンションも、スピンオフ成分が強いとかの理由である可能性が高いだろう。
そんなわけで、無駄な警戒を投げ捨てようとした私なのですが。
「じゃあなにをするんですかハチ。とりあえず反復横飛びでもしますかハチ」
「……なんですかその語尾……」<マモノー
「?語尾とは一体なんのことでしょう?ハチ」
(う、胡散臭ぇ~っ!?)
……なんでそうやって投げ捨てようとした途端に、変な語尾を突っ込んでくるのかな!?
聞き取り辛い小さな声ではあったものの、彼女の言葉に付随している語尾は明らかに『ハチ』と述べていた。……どんな語尾だよ、どこの大臣だよ……*3というツッコミをしなかっただけ、褒めてほしいくらいである。
……いやいや、もしかしたらその辺りのネタを知っていて、わざとこっちに聞かせているのかもしれない。
だったら素直に『まもの』って付ければいいじゃねえかとか、語尾がハチとか意味不明ザウルス*4とか色々言いたいことはあるけど、ほらアレだ、ギャグ担当が喋ってるとかかもしれないし!……ギャグ担当ってなんだよ?*5
「……?お、おい、大丈夫か?なんか体調悪そうだけど……」
「……つかぬことをお伺いしますが、蜘蛛子さんとはそれなりに長いお付き合いなのでしょうか?」<イツカラー?
「いつから?……えーと、梅雨になった辺りだったっけか……?」
「そうだねー。その辺りくらいだねーハチ」
(だから露骨ぅ!!)
なので、こちらの百面相を心配して声を掛けてきたリムルさんに、逆に蜘蛛子さんとは長い付き合いなのかを尋ねてみたのだけれど。……アウトカウント貯まってきちゃったんですけどォ!?
例の
まぁ、梅雨そのものはそのあと六月になってからちゃんと訪れていたし、蜂の巣を駆除するのなら作り始めである梅雨前がいい*6……みたいな話もあったため、こちらが記憶違いで覚えている、という可能性は限りなく少ない。
と、なると。
……私に出会った途端、露骨に語尾にハチハチ付け始めた蜘蛛子さんが、なにかしらその辺りのことを匂わせている……というのはほぼ確定。……っていうか、蜘蛛子さんってば確か蜂嫌いというか蜂が苦手(倒せないわけではない)だったはず*7なので、わざわざ蜂を匂わせる言葉を呟くこと自体、わりと変なのである。
ということは、彼女はその語尾(小さくてリムルさんには聞こえていないらしい)によって、こちらとなんらかのコンタクトを取ろうとしている、ということに……?
(……いやいや?そもそもの話、キーアとキリアが同一人物ってのは親しい人しか知らない話のはず……)
どっこい、現在の私こと聖女キリアと、魔王キーアは名目上とは言え別人、というのが新秩序互助会での常識のはず。
そこら辺の詳しい事情を知っているのは、精々がアインズさんくらいのはずだ。
彼女が例え『陽蜂』の残党であったとしても、
(蜘蛛子さんから送られてくるキラキラとした視線)
……な、なんか知らんけど期待されている眼差し……?!
ここまでされてしまえば、流石のこちらも事情を把握するというもの。少なくとも、蜘蛛子さんに関しては
同時に、彼女が『陽蜂』の残党であるという予想も、半ば確定したと言っていいだろう。どうやってキリアの攻撃から逃げたんだ、とかツッコミどころは幾つかあるが……。
(こちらの視線から逃れるように、
……わざとだなこいつ!
魔王らしく試練を残したのか、はたまた人類の未来に
彼女が意図的に取り零しを発生させていたというのは、その態度からほぼ確定。
あとで問い詰めなければなるまい、と内心で決心した私だったが、それはそれとして疑問は残る。そう、リムルさんの方である。
彼は声が悠木さんってわけでもないから、『陽蜂』の件とは無関係だろう。ならば彼の場合は純粋に『自身の成長のため』にやって来た、ということになりそうなのだが……。
「……まぁ、とりあえずは置いておきましょう。生憎と私は戦闘力は皆無ですので、お二人で模擬戦を行っていただく、という形でよろしいでしょうか?」
「え゛」
「はい……って、蜘蛛子?どうした変な声出して?」
「ななななんでもないよー。模擬戦、模擬戦だよね、はいはいりょうかーい」
(……あ、諦めたなこいつ)
まぁ、こうして考察を続けても問題解決には至るまい。……ということで、とりあえず先ほど言っていた通り、二人の実力を確かめるために模擬戦を行って貰うことにしたのだけれど。
……うん、なんか露骨に態度が変わったな、この蜘蛛子さん。『陽蜂』が
つまりはキーアと(大魔王の方の)キリアはイコールで、
……要するに、大魔王の方と同じく、大聖女的な強化形態があると思っていたんじゃないか?……と思われるわけで。
うーむ、あんまりちゃんとアニメを見てなかったんだろうなー(死んだ瞳)。
ちゃんと見てれば、聖女の方のキリアがクソザコナメクジなのはすぐにわかるはずなのになー(乾いた笑い)。
……喜んでいいのか悲しめばいいのか、なんとも微妙な気分になってきたけど、その辺りの私の気分は脇に退けるとして。
多分、聖属性の相手を騙すのなんて余裕だし、同格相手ならどうにかなるはずだし……みたいな気分でここに来たのだろう。
結果はご覧の通り、作戦の変更を余儀なくされる哀れな蜘蛛子さんが一匹、ということになっているわけなのだが。
まぁ幸い?そもそも
ならば精々、裏にまだ誰か隠れていたりしないかどうか、思う存分探らさせて頂くとしましょう。……と、若干投げやりな気分で決心する私である。……投げやりな気分の理由?横の母が黒幕みたいなモノだからですね。
心の中でため息を吐きつつ、蜘蛛子さんへの警戒度を下げる。
そんなところまで
──なので、ここからはリムルさんに集中する。
時間はあったはずなのに、タイミングはあったはずなのに。何故かこんな時期外れになってから声を掛けた来た彼。
蜘蛛子さんに煽動されてそれに乗っかった、というだけの可能性もあるが……だからこそ、変に気を抜くことはしない。
わざわざついて来たがったキリアのこともある、用心し過ぎても問題はないだろう。杞憂に過ぎなかったとしても、支払うのは自身の徒労感だけ、なのだから。
──そう、これから始まるのは頭脳戦。
腹のうちを明かさぬモノ同士の、高度でハイレベルな探りあい。
──キリアちゃんは喋らせたい~チート同士の頭脳戦~、開幕である!*8
(……タイトルからしてフラグしか見えないわねー)
そんな風に決心する私の横で、キリアだけがしらーっとした視線を向けていることに、だーれも気付いていないのだった……。