なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
ここに集いしモノ達は、皆音に聞こえしチート達。
それらが互いに干戈を交え*1、覇を競いあうのであるからして、その見ごたえは如何ほどのものか。
さあ、者共よ。いざ集いて勝鬨をあげよ。
凱旋の歌を歌い、勝者を讃える準備をせよ。
──チート達の頭脳戦、開幕である!あるある……(エコー)
(……なんと欺瞞に満ちたタイトルコール。おおブッダよ、眠っているのですか?)*2
「……どうしましたか母様?どうにも心ここにあらず、と言った感じですが」
<……ナンデモナイワヨー
「???……まぁ、問題がないのであれば、私としては別に構いませんが」
どこかここではない場所を見つめるような態度を見せる目玉な母は、こちらの言葉にどこか含みのあるような様子を見せつつ、それでもなお特になにかを言うことはなかった。
……そこはかとなく不穏ではあるが、なんでもないと言われてしまえばこちらに追及の余地はなく。
仕方がないので、模擬戦を行っている二人の方に視線を戻す。
蜘蛛子さんの方が実際にはどうなのか、というのはわからないが。
少なくとも、リムルさんの方がRPGで言うところのレベル1状態、というのは間違いがないはず。また、彼等の使える技のうち『捕食』は自動的な縛り技になってしまっているため……。
「あっ、ずるいぞ蜘蛛子!『ひっかく』は反則だって!」
「ふははー、なんとでも言うがいいー。……っていうかそっちだってスライムだから『ちいさくなる』とか使ってるじゃん!初期戦闘から回避技積むのは卑怯じゃないんですかー!?」
「そうでもしないと勝てないだろー!?」
「そりゃそうだー!」
「ええ……」(困惑)
……うん、なんと言えばいいのか。
ゲームの方のポケモンの最初の方。
博士から貰ったばかりのポケモンで、ライバルとバトルを行う時と同じような感じ……とでも言えばいいのか。
お互いに使える技は『たいあたり』とか、その辺りの低級技のみ。それゆえに、絵面としては凄まじく地味な戦いが繰り広げられている……といった状況になっていた。
……のだが、その状況の膠着にいい加減焦れて来たのか、互いに『たいあたり』以外の技も持ち出し始めたのが今の状況……というわけなのである。
いやまぁ、蜘蛛子さん側は自身の腕を使っての『ひっかく』を使い始めた、というだけだし。
リムルさんの方も、『ちいさくなる』を使って回避率を高め始めた、という見た目の地味さには然程の変化のない、些細な戦法変化だったんだけどね?
というか、互いに『きりさく』『いあいぎり』、『とける』『たくわえる』『はきだす』とか使わない辺り、加減とかもしているのだろうし。*3
とはいえそれはそれで、問題というか疑問点というかがあるわけでですね?
「……もう見た目的に完っ全にポケモンバトルじゃないですか。こんなのイトマルとメタモンのバトルでしかないじゃないですか、もう」*4
「……メタモンは『へんしん』しかできないでしょうに」
「いやまぁ、それはそうなんです
「いや、別にそこは驚かなくていいから」
なんで尋常にポケモンバトルしてるんだこいつら、感がツッコミ所として噴出しているわけでですね?……いやほんとに。
メタモンは『へんしん』しか使えないだろ、というツッコミがキリアから飛んできたけど、それを踏まえてすらやっぱりポケモンバトルに見えるというか。
使う技もポケモン的なものばかり。『捕食』が使えないとはいえ、こんなに空気感が片寄るものなのかと、ちょっと首を捻ってしまう私なのでございます。
「……彼等はいわゆる『なろう系』なのでしょう?その一番の特徴と言えば、属する作品が設定部分をテンプレート化するという形で共有することにより、読者への煩雑な世界説明を省くこと。……今回で言うのであれば、戦闘のテンプレートを『ポケモンバトル』を使うことで簡略化し、周囲にわかりやすくしているというだけのことでしょう」
「は、はぁ、なるほど?……ええと、つまりはこういうことですか?本来、幾らテンプレートに従うとはいえ、個々の個性を見せるのはどんな作品でも常識のこと。ゆえに、同じ『なろう系』のミラさんやアインズさんは、自身の世界法則に添った技能を使えているのに、彼等がそれを行えない理由とは──それは、今の彼等が凡百の作品に堕ちている……即ち
そうして不思議そうにしていた私に、キリアが告げたこと。
それは、『なろう系』におけるテンプレート化とは、作品の取っ付き易さに関与するモノであるということ。
だが同時に、取っ付き易さとは
そんな彼等が、今は『ポケモンバトル』というテンプレートに頼っている……それが意味することとは即ち、彼等が彼等の世界の法則を発揮できていない、ということに他ならないのだということだった。……端的に言えば最後の言葉通り、
……いやまぁ、彼等のレベルアップ手段である『捕食』が使えない・使いにくい現状、レベルが高いはずもないというのは最初からわかっていたのだが。
それでもまぁ、ここまで『そのキャラであること』に疑問が付くような状態だとは思わなかったというか。……蜘蛛子さんの方は、半ばわざとそうしているような気も
彼女は恐らく、『陽蜂』によって
それが正しい場合、その中身には生身の人が──なりきりとは関係のない一般人が含まれている、ということになるはずだ。
これがなにを意味するのかと言えば──あの時出会った『鹿目まどか』や『沖田総司』がそうであったように、彼女もまた
全体的な構成こそ『人の上に創作物がペーストされている』ということで、一般的な『逆憑依』と同一に見えるが。その本質は『【顕象】の中に人が呑まれている』という方が正しい。
本来であれば無秩序に自己の拡大・成長・進化を求める【顕象】に、その存在の楔を与えることで制御する……という、
それを是とする時、ここにいる彼女はわざと実力を低く見せかけている、ということになるはずなのである。……はずなのである。
……なんで二回言ったのかは、皆さんお気付きの通り。
彼女がビーストⅢi/Lの眷属であるとするのなら、レベルの制約はあってないようなもの。
にも関わらず、彼女は聖女キリアをあてにするような行動を行っていたのである。わざわざ語尾までご丁寧に変えて、だ。
どういうこっちゃ、と私が警戒する理由もわかって貰えるはずだ。
更に、この模擬戦にはリムルさんの実力を測るついでに、蜘蛛子さんの隠している実力を見抜くためのモノという意味合いも含まれていた。
……そうして見抜いた彼女の実力は、なんと
これには聖女キリアちゃんも困惑顔、「ん!?まちがったかな……」と首を捻る始末。
いやだって、ねぇ?
最初からその気配はあったとはいえ、まさか本当によわよわ蜘蛛子さんだとは思わないじゃん……?
こうなるとなにか私には窺い知れないような変な理由で、彼女がこちらの協力を求めていたのだ……という風に解釈する他ないと言うか。
……まぁ、蜘蛛子ちゃんの正体については、一先ず横に置いておくとして。今度はリムルさんの方である。
こっちに関しては当初の事前申告通り、ほぼほぼドラクエの序盤敵のスライムと大差のない戦闘力……といった印象。
一応、その体を生かして相手を窒息させるとか、鎧の間に入り込んで相手を溶かすとか。そういう『強敵としてのスライム』の動きはできなくもなさそうではある。……できなくもなさそうと言うように、その選択肢を彼が選べるかと言えば、思わず脳裏に疑問符を浮かべてしまうわけだが。
体質変化がスキル判定されるのであれば、例えば毒の体になるだとか、体の一部を硬化させ細く鋭くして針になる……だとか、そういう攻撃方法は今の彼には行えない手段だろうし。
さっきの戦闘でも初期技に『ちいさくなる』を使っていたように、どうにも『攻撃すること』それ自体に忌避感が見えるような気がする……というか。
確かに『たいあたり』はしていたけれど……あの速度なら避けることは難しくはない。それは逆に言えば、
あそこで『たくわえる』からの『はきだす』くらいしていれば、『捕食』でのレベルアップを嫌っているくらいの印象で済んだのだが。
スライムとしての基本技能、『体内になにかを取り込む』すら攻撃に活かさなかったその姿には、色々と思うところを抱えてしまう私なのであった。
「……おーい、もう模擬戦はいいのかー?」
「ああはい、模擬戦はその程度で大丈夫です。……気になることができましたので、続けてその確認のための訓練も行いましょうか」
「?なんだかよくわからないけど、はーい」
突然黙り込んで考え事を始めた私に、二人が近寄ってくる。
そんな二人に次の訓練について声を掛けながら、私は今回の案件が一筋縄ではいかないことを、改めて認識し直すのであった。
……ところで蜘蛛子さんや。最早その返事というか空気感は、蜘蛛子さんのものではないと思うんですよ、私。