なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・お前の中にお前を見たぞ

「ひえーっ!私を一体どうするつもりッスか!?別に食べても美味しくないッスよー!なんてったって私、凄まじく苦いッスからね!」*1

「いや食べませんよ。っていうかそちらの感性でこちらを測らないでくださいよ……そもそも私、聖女なんですよ?」

「あ、そうだったこの人聖女だった」

「……もうやだこの人……」

 

 

 徐々に徐々に、化けの皮*2が剥がれてきたのだと思われる蜘蛛子さん。そんな彼女の今の喋り方はとあるキャラ──()()()()()()()()()()*3

 ……まぁ、陰キャを標榜していた蜘蛛子さんなので、その喋り方自体は問題ではないかもしれない。*4

 だが、彼女の抱える()()を思えば──それは問題以外の、何物でもないのかもしれない。

 

 

「……蜘蛛子さんと言えば、先のリムルさんと同じく最終的な到達点は神。……とはいえ、そのランクだけで言うのであれば、恐らくは蜘蛛子さんの方が下、というのは間違いないはず。なにせ、彼の最終地点はそちらの世界で言うところの『D』達と同じ。──作中においては神としては新参者であった蜘蛛子さんが、彼と同格であると言い張るには少しばかり無理がある……と言えなくもないでしょう」

「お、おう?なんで唐突に私の話を?……それとその、口調というか声音というかが、随分とお変わりになっているのではありませんこと?」

 

 

 ため息を吐きながら語るのは、彼女についてのこと。

 

 傲慢な部分も多く、ともすれば犠牲も厭わぬ面も多いゆえに根っからの善人、とは言えないものの──人に関わってくる異形としてはまだマシな方、という面もなくはない彼女。*5

 とはいえ異形は異形、人の命を奪うことに忌避のない彼女が、なにかを踏み間違えれば災厄と化していた可能性──というのは、彼女の眷属達が起こした事件を見れば、なんとなく察することはできるはずだ。*6

 

 ……まぁ本人が()()()()って言っていた通り、その可能性は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あり得ないことでもあるわけなのだが。……こういうキャラに共通する『自分の自由意思に干渉する相手に容赦しない』性質も持ち合わせていることだし。

 

 ともあれ、弱い存在から神にまで成り上がる──初期状態の弱さに意味のあるタイプとしての彼女は。

 確かに、誰かに負けたあとの再興を目指すための()としては、最良のモノだと言える存在だろう。

 ──再誕のその直前に見たものが、彼女(キリア)ではなかったのならの話だが。

 

 

「……えと、なんの話……」

「敗北した相手に次は勝つ……そう願って次の機会を待つ。それはまぁ、間違いではない話だけど──でも、それは()()()()()()()()()()、の話。複数の概念(同一の『声』の眷属)を含む存在であったビーストⅢi/Lは、それゆえに対処の手段も多く取れる。だから、負けた相手──大魔王(キリア)に対しての有効なモノを生み出そうとした」

「…………」

 

 

 彼女(ビーストⅢi/L)が負けた相手は、とてもおかしな存在であった。

 

 本来であれば自身に勝った相手に対して、()()()()()()()()()()()()()『再誕』の権能とでも呼ぶべきそれ。

 それを発動した相手は──彼女(ビーストⅢi/L)の常識からは外れた存在であった。

 彼女(キリア)の『虚無』とは、数多を纏めあげたがゆえに()に至ったモノである。……それは彼女(キリア)の本質を語るものではなく、それゆえに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女(蜘蛛子さん)は、

 

 

「生まれるモノの原型として、弱きモノを。弱いだけでは足りないから、そこから強くなるモノを。それゆえに形は蜘蛛子さんのそれを。更には参考にした大魔王(キリア)を元に、自身の因子を可能な限り放り込んだ(数多を纏めあげるモノを作ろうとした)結果──生まれたのは本来の長所が全て潰しあった存在。()()()()()()()()()()からこそ、それは成功だったけど。……それの運用方法を知らない以上、成功はしたけど失敗作であるとしか言い様がなく。()()()()()()()()()()()()自我……ただの人であるそれ・ジナコ=カリギリの自我に従って動き始めたのだった。……まぁ、おおよそそんなところなんじゃないですか?」

「……いやどんだけー。今までのあれこれでそこまで理解したんスか、聖女ってみんな看破持ちなんスか?」

 

 

 詰め込まれた数多の能力(キャラクター達)が対消滅を起こしまくり、結果として器と、消えなかった自我だけが残った存在……蜘蛛子(クモコ)=カリギリとして新生したのである。まさかの クモコが 本名。

 ジナコと蜘蛛子で韻でも踏んだのかという話だが、ある意味ではそれは偶然の結果。()()()()()()()()()()()()()、という自己矛盾によりビーストとしての自覚すら喪失!……したかどうかはともかく。

 

 ともあれ、元の彼女(陽蜂)からは比べ物にならないくらいに弱体化した存在。それが、今のクモコさんなのであった。

 

 そんな推論を述べたところ、彼女から返ってきたのは称賛を交えた拍手。マジかよーみたいな表情付きなので、素直に驚いているらしい。

 ……が、すまないなクモコさん。

 私は今から、君にとてもかわいそうになることをしなければならないんだ(棒)。

 

 

「……え、なんスかいきなり。そこはかとなく不安なんスけど……」

「……聖女キリアとは世を忍ぶ仮の姿。しかしてその本性は、即ち魔王・キーアなりて」

「え゛」

「更に更に、ここに御座(おわ)すは我が母君。なれどその本質、それだけに止まらず」

「え゛ちょストップ、ストッププリーズキリアさん!なんか知らないけど悪寒が!魂に刻まれたトラウマが警鐘を鳴らしてるッス!?」

 

 

 明かすのは私──キリア(聖女)キーア(魔王)は別たれた別人格ではなく、真に同一である存在であるということ。

 彼女の目の前で変身して見せることでそれを証明した私は、その流れのまま、メインディッシュを彼女の前に用意して見せる。

 

 肩に乗っていた目玉の母さん──キリアはすくっ、と立ち上がるとババッ、と飛び上がり。

 私が光に包まれ、代わりに妖精サイズに縮むと同時。その少女は、大地をその両足でしっかりと踏みしめる。

 

 

「そう、ここに御座すは大魔王・キリアなれば!再び見えしこの奇縁、なんと言祝いで見せようか!」

「じゃーん。……来ちゃった♡」

「にぎゃぁぁああああでたぁぁぁぁぁぁあぁあっ!!!?」

 

 

 ──突然現れた魂からのトラウマ対象に、クモコさんは穴という穴から液体を垂れ流しながら泣き叫ぶのだった。

 なお、影縫いはまだ続いているので逃げられません。酷いな誰がこんなことを(棒)。

 

 

 

 

 

 

「はひゅっ、はひゅっ……」

「はいはーい、深呼吸してー、吸ってー、吐いてー」

「……し、死ぬかと思ったッス……」

 

 

 感動の再会(笑)より数分後。

 姿は蜘蛛のままだが、先ほどよりも自然な立ち姿となったクモコさんは、もはや最後の体裁すら投げ捨てて『殺さないでくださいぃぃぃぃ!!?』と猛虎落地勢(もうこらくちせい)、ないし平身低頭覇(へいしんていとうは)を繰り出していたのだった。……え、世代がバレる?クモコさんが自分で言ってたんで私の台詞じゃないんだよなぁ……。*7

 

 まぁともかく、単に(色んな意味で)感動のご対面をやりたかっただけなので、特にこちらに敵対の意思はないですよ、と伝えたところ。

 暫くの間過呼吸を繰り返していたクモコさんは、ようやく人心地付いた様子で一息吐いていたのでありました。

 

 

「いやもう、ホントにここで終わりかと……()()()()()()()()()()んでアレッスけど、マジで背筋から凍る思いだったんッスからね……?」

「ああはい、ごめんなさいです。ちょっとからかってみたくなったと言いますか?」

「なんで疑問系……?この人聖女でも魔王でもなく小悪魔系だったんスか……?」

「いえ、何故かはわかりませんが、クモコさん相手だと虐めたくなると言いますか」

「まさかの私に対してだけのドS!?」

 

 

 なお、どことなく彼女()遊んでいる節があるのは、彼女の声が弄りたくなるタイプのモノであるがゆえ。これで酒呑とか伊吹系の声だったのなら、ここまでからかおうとは思わなかっただろう……とは一応言い置いておくとする。

 

 閑話休題。

 落ち着いた彼女に改めて問い掛けたところ、やはり彼女はビーストⅢi/Lの残滓とでも呼ぶべき存在であった。まぁ、本人にはあまりその辺りの記憶は残っていないそうだが。

 

 

「んー、多分その辺りはアレッスね。『蜘蛛子』っていう素体を選んだのが結果として良くなかったんじゃないかと」

「あー……そもそも蜘蛛子さんってば()()()()()()

「そッスね。そもそもの『蜘蛛子』自体の出生がアレなんで、本体への反逆?みたいなのは既定路線と言うか」

 

 

 その辺りの理由は、彼女が語る通りの理由・そもそも上位者の思惑から外れやすい存在であることと……。

 

 

「それとまぁ、模倣としての数値に大魔王(キリア)を選んだこと、だよね。だって『蜘蛛子』と『星の欠片(私達)』、正反対だから相性悪すぎるんだもの」

「はぁ、正反対?……ええと、本体の記憶がないんで変なこと聞くかも知れないッスけど、それってどういう……?」

「どうもこうも、『蜘蛛子』って()()()()()()()()()()()()存在でしょ、端的に言うと。──私達はその反対、強さなんて目指してないもの」

「はぁ?」

 

 

 生き物として、真っ当に天辺を目指した彼女のあり方では、私達のような最弱──底の底を目指したモノとはあり方が正反対だから、というところが大きいだろう。

 改めて説明することでもないので、こちらでは省略するが……詳細を聞かされたクモコさんは、そこから暫しこちらにドン引きした視線を向け続けて来るのだった。

 

 

「いやいや、意味わかんないッス。ジナコ分が多いのもあって、記録としてどこぞの聖女(ルーラー)さん達の記憶とかもあるッスけど……大差ないじゃないッスか、その目標」

「流石にフランスの聖女辺りと比較されるのは、ちょっとどうかと思うな私……」

 

 

 なお、そんな会話を聞いていた(キリア)はと言うと、楽しげに頭……目玉?を上下させていたのだった。……笑ってるけど、一番言われてるのアンタだからなアンタ。

 

 

*1
『蜘蛛ですが、なにか?』内での描写から。とある事情から同種の蜘蛛を食べる羽目になった蜘蛛子さんだが、その味はとても苦かった。まぁ、オオツチグモ類みたいにチョコの味がされても困っただろうが(積極的に『血縁喰らい』しかねない的な意味で)

*2
化けている皮、化ける為の皮。自身の本当の姿を覆い隠す為の何かしらの工夫を行っていることを比喩する言葉であり、物理的に何かを被っていなくても該当する。一部のゲームプレイヤー(ポケモントレーナー)は見るだけで動悸・息切れ・目眩がして来るかも

*3
『ジナコ=カリギリ』。『fate/extra』に登場するキャラの一人。見た目はぽっちゃりな感じの女性。しかしてその実態は……?声優が悠木さんだった為に話題になったことも

*4
これまた作中の描写より。……彼女の元となった相手を思うと、『陰……キャ……?』と首を捻りたくなるかもしれない

*5
なろう系主人公に多いタイプである『身内に優しい』系。敵対者に対し苛烈である面も踏まえ、美点であるかは微妙なところ

*6
作中で蜘蛛子さんがアラクネに進化したあと起きた事件から。『禁忌に触れたこと』『作中でも殊更に人を憎んでいた存在を捕食したこと』などから、人族への積極的な敵対行動を取る分割思考達が現れた。なお本体が『本末転倒』と語る通り、『一人を救う為に他者を全て犠牲にする形になる』『救われたその一人は、その選択を喜ばない』『世界は確かに救われるが、知的生命体の愚かさを克服させられていない為、いつかの未来で必ず繰り返す羽目になる』などの点から悪手も悪手である。特に最後が一番よくない。知的生命体にとっての『知』の難しさというのは、かの巨匠手塚治虫氏も書いているもの(『火の鳥・未来編』におけるナメクジ人間)。単純に解決できるモノではない、というのはよくわかる話だろう

*7
両方とも『土下座』のことであり、それぞれ前者が『らんま1/2』で後者が『アクエリオンEVOL』。さらに後者の方はルビが本来は『DOGEZA』で下には土下座を意味するアスキーアート『orz』までくっついている


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