なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・何も無いとは何も無いことではない(哲学)

 蜘蛛子さんもといクモコさんに隠された真実を暴き、その謎を白日の元に晒した私達。

 そんな中、次に目指すこととは即ち──。

 

 

「はぁ、結局私も鍛練はするんスか?」

「そだねー。健全な精神は健全な肉体に宿る、とも言うし」

「……あ、誤用の方を積極的に採用していく感じなんスね……」

 

 

 ──そう、クモコさん育成計画だね。別に改造計画でも可。

 

 なんやかんやで現在は脅威度の低いクモコさんだが、それでもなろう系主人公を核にした存在である、ということに変わりはない。

 原作において彼女が本気で強くなることを目指したのは、彼女の持っていたスキル『禁忌』の影響が大きかったが……。*1

 

 

「いや、今持ってないモノに拘泥するつもりは、クモコさんサラサラないッスよ?……まぁ別に、現状が禁忌カンスト状態だったとしてもクモコさん、特に変わんなかったとは思うッスけど」

「おや意外。なにかそれなりのリアクションがあると思ってたんだけど……?」

 

 

 こちらのクモコさんには、その辺りの気持ちは一切ない様子。……いやまぁ、最初に聖女(キリア)に話を持ってこようとしていた時点で、その予兆はあったわけだけど。実際に彼女の口から聞かされると、ちょっと拍子抜けしてしまうと言うかですね?

 

 でもまぁ、それも仕方のない話。

 原作の『蜘蛛子』と違い、彼女はビースト──人類悪の欠片から生まれた存在である。

 自業自得の面も強かった『蜘蛛ですが』世界における人間達を、それでも愛していると語った女神のようなもの。……愛してるとまでは言ってない?細かいことはいいの。*2

 

 ともかく、人類愛から零れ落ちた存在である彼女は、名前こそ『クモコ』と類似しているモノの。……似ているのはあくまでも、その()()()()なのである。

 

 

「妖精国の話とか見たあとだと、記憶にない前世の罪まで背負わされ続けるあの世界の人間を、こっちがあれこれ言うのもなんかなー……と思っちゃうんスよねー。清く正しく間違いを犯さない者でなければ解放されない……とか、それ『鍵はあるから出られるよね?』って屋上に閉じ込めた相手に、地上に投げた鍵を指差しながら言うようなもんじゃないッスか?」

「うーん、そこはかとなく邪神()めいた台詞。誠意があるからまだマシ、なんて言われる辺りにあの世界の詰みっぷりを思ってしまいますね……」

 

 

 クモコさんの言葉に、思わず苦笑いをしてしまう私。

 神の視点で『なんでできないんだ』と語る彼らは、ともすれば『ヴァルゼライド閣下ならできたぞ?』と語る糞眼鏡*3のような……いや、流石にアレと比べるのは失礼か。

 

 まぁともかく。

 魔科学によって世界を支える大樹・世界樹が枯れかけていた『テイルズオブファンタジア』のような感じで、過去に滅びを迎えていた世界……というのが、『蜘蛛ですが』世界の異世界であり。*4

 そしてその世界で今稼働しているシステムは、『FGO』における妖精国のような、人が罰を受け続けるためのモノだったりするわけなのだが……。*5

 

 そもそもの話、七大罪だけではなく七美徳の方も管理者スキルになっている辺り、真っ当に救う気ゼロとしか言いようがない……っていうか、『貯めると救われる』とかいう触れ込みの浄罪ポイント、それを一定値獲得することで習得するスキル……という体で支配者スキル【救恤(きゅうじゅつ)】が紛れ込んでる時点で、罠以外の何物でもないって言うかね?*6

 

 これ、素直に輪廻から解き放ってやる気ないよね。ギュリエディストディエスさん、その辺り見もせずに『浄罪システムで救われた奴が~』云々のことをWEB版では言ってたんです?ってなるというか。*7

 少なくとも『禁忌』はカンスト時点で持ち主発狂するし、死んだりしたらシステムに従ってスキル回収&原則記憶没収、ついでに無理矢理のスキル回収によって魂の磨耗まで発生するんですが。

 ねぇねぇ、これでどうやって()()()()贖わせる気なの?ってツッコミたくなるというか。

 

 いやだって、ねぇ?

 人間の特徴とは、その千差万別さにこそある。

 素晴らしい人もいれば、とかく酷い者もいる。老若男女の違いがあり、抱える夢に違いがあり、目指す先にも違いがある。

 人の命の尊さと言うのは、結局のところその玉虫色の輝きが、一つとして同じではないところにこそある。

 

 ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と読み取れてしまうようなシステムとか。──なんだろう、逆に滅ぼされたいのかな、このたかが人外風情共が……ってなるというか?

 

 ……ああうん。まぁそういう(キリア)の感覚は置いとくとして。

 

 ともかく、あの世界が人に対して『ご都合悪い』感のある世界だった、というのは間違いないだろう。人は正しくないんだ、みたいな空気があったというか。

 ……それを()()()()()()()()()、とかは一先ず置いておくとして。*8

 

 最終的にはあの世界は、蜘蛛子さんの犠牲によって救われたが……そうでなかった場合、人類の約半数を犠牲にすることで救われる形になるはずだった、と言われている。

 それは、システムの目的・およびそれを失わせることこそがあの世界の救いであり、その付随として起きる惨事だったわけだが……それが嫌だと言われるのは、事前にアベンジャーズでも見ておけば自然と想像できる話だろう。*9

 

 ()()()()()()()()()()()──即ち、人類の絶滅が待っているのだと言われても。

 ──その半数の中に自身の親しき人がいるのであれば、その犠牲を許容することを簡単にはできなくなるはずだ。

 

 生憎と、あの世界の勇者はアベンジャーズ達のように、その事を声高に叫ぶことはできなかった。……そこにもまた、Dの悪趣味が関わっているのがなんとも言えないわけだが。

 さっきのRPG云々の話に『テイルズオブシンフォニア』──一人(女神)の犠牲と世界とを天秤に掛ける……という話まで持ち込んでいる*10辺り、この物語にもし完璧な正解があったのであれば、それは文字通り全てを救える者だけだった……ということになるのが悪辣極まりない。ゲーム好きにも限度があるわい、と言うか?

 

 だからまぁ、『ご都合悪い主義』なのである。*11

 

 ──人族は端から詰んでいる。過去の罪は贖うこともできず、魔王は人を憎み続け。天座す神は、その諍いこそを望み。そうして疲弊し、魂はいつか消え失せる。……入滅したのです、と嘯いていないとやってられないレベルのクソゲーだろう。

 救いの道に見える浄罪システムも、禁忌によって『贖え』ループされるんだから、もはやコントローラーぶん投げが正規ルートのような気がしてくる始末。

 

 ──罰を与えるだけではなく、罪を許すシステムを。*12

 妖精国での彼女の言葉ではないが、そもそも許す気のない罰はもはや罰ではない、としか言いようがない。

 それを反省しろと言われて反省できるのは、本当に限られた一部の人だけ。生まれた事が罪(存在罪)だなどと言われて、はいそうですかと納得できる人間など存在しないのだ。*13

 

 ……だからまぁ、あの世界はああいう風に終わるしかなかったのだろうな、とも思う私である。

 

 とまぁ、ちょっと長くなったけど、あの世界の構造そのものへの愚痴はこれでおしまい。*14

 ここからはその世界を下地にしつつも、別の価値観で綴られた形となっているクモコさんの話、ということになるのだが……。

 

 

「確かに、全然別人って感じだけど……ビースト由来ってのが、どうにもアレな感じでねぇ……」

「ああはい、言いたいことはわかるッスよ。保護観察処分中みたいなもの、ってことッスよね?」

 

 

 小さくため息を吐く私に、クモコさんは苦笑を交えながらそう答えてくる。

 ……彼女の言う通り、ここにいる彼女は『蜘蛛子』とは厳密には別人に当たるため、そちらの問題点を気にする必要は薄い。

 が、代わりにビーストから生まれた存在であるため、その影響を気にする必要があるのである。スキルシステム的に述べるのであれば、『禁忌』の代わりに『獣の権能』がくっついている感じ、というか?

 成長するスキルとして『獣の権能』がくっついているとか、そんなのどこぞのラケルさんを警戒せざるを得ないというかですね?

 

 

「……こうして考えてみると、同じ声の人にヤベー人多すぎやしないッスか?」

「ラケル先生は見えてる地雷だけど、そうじゃなくてもビッキーとかも変な方向に誘導できたらヤバそうだしね……」*15

 

 

 そうでなくともクモコさん、中の人が売れっ子さんなのも相まって、その可能性──変貌しうる形にバリエーションがありすぎるのである。

 キリアを参考にして生まれたのが彼女である以上、例え形や力を失っても因子はその中に残っている、と見るのが正解。それは即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということに他ならない。

 

 ……つまり現状でこちらの見える範囲から外すのは論外、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、ある程度の成長を見届けなければならないのだ。

 

 

「……一応発言させて貰うッスけど、別に今までのまま現状維持、ってパターンもあると思うッスよ?」

「元々貴方が(聖女)を頼りにされていたのは確かな話。──理由に関しては自身の獣性を切り離して欲しいとか、そういう方面の話だったと予測しますが……ともあれ、そこまで頼られていたのであれば、最後まで面倒を見るのは聖女の誉れ。私もその役目を果たすことを約束致しましょう」

「あやべっ、墓穴掘ってたッスか自分!?」

「……頑張りましょうね、クモコさん?」

「いやッスー!いやッスー!!自分死にたくないッスー!!!実力行使(BUSTER)はもうこりごりッスー!!!!」

 

 

 そんなことを述べた私に対し、クモコさんは死にとうない、と首を左右に振っていたが……。

 大丈夫だよクモコさん、死ぬ死ぬ言っている元気があるうちは、死ぬことなんてまずないからね。

 それとさっきから言っている通り、貴方は成長パターンを間違えるととても厄介なので、その心身の健やかな成長を見届けるのは、聖女としての私の職務なのですよ。

 ですから、文句なんて言ってなくていいからさっさとやれ(突然の豹変)。

 

 やっぱり凄女じゃないッスかー!……と泣き叫ぶ彼女の背を押しながら、彼女の鍛練を始めるために移動する私達なのであった……。

 

 

*1
『禁忌』とは『蜘蛛ですが、なにか?』の世界に存在するスキルの一つ。『禁忌を犯した者が得るスキル』であるが、その為七美徳の一つ『慈悲』に関しては凄まじいまでのトラップが仕掛けられている

*2
とはいえ、天使としての理解なのでやっぱり上位者目線なのだが

*3
『シルヴァリオ』シリーズのキャラクター、ギルベルト・ハーヴェスおよびその台詞。俗に『光の奴隷』などと呼ばれる者の中でも特級にヤバい人物。この作品での『無限を持ち出せば大概のことはどうにかなる』理論を、努力に置き換えた上で万民に唱える……みたいな無茶苦茶を行っている

*4
この『特殊なエネルギーの使用により、星が滅び掛けている』というストーリーラインは様々な作品で見られる(『FINAL FANTASY Ⅶ』における『魔晄』など)モノであるが、そのアーキタイプは恐らく『高度経済成長期の環境破壊』だと思われる

*5
上記の『星を滅ぼした人間の愚行』に対しての罰。永遠の煉獄での輪廻転生・およびスキルシステムによる人間の燃料化を指す。本来であればそれをとある神の犠牲で越えようとしていた、ということも述べておくべきか

*6
ここでの言葉の意味は『一般的に美徳とされる行動を行うことにより、支配者スキルに至るということは、即ち浄罪システムによる救済を受けられるような人間は『慈悲』などの使用を躊躇わない可能性が高い』ということ。どこかで『禁忌』スキルの獲得条件に引っ掛かる可能性が高い、ということでもある

*7
『蜘蛛ですが、なにか?』に登場する管理者、神の一人。『浄罪システム』云々の台詞は、作中で酒を飲んだ時に述べた愚痴。とはいえ、正直『浄罪ポイント幾つ貯めれば輪廻から解放されるの?』という疑問的に、微妙な台詞としか言いようがない。途中で【救恤】を獲得することが目に見えている時点で余計のこと。真っ当にそれを獲得する人物であれば、ほぼ確実に戦場に行くか、巻き込まれることになるのは目に見えており、その中で死を迎えるのもほぼ確定事項だろう

*8
創作の神の権威を証明するのは作者・および読者だが、創作の民衆達の性質を左右するのもまた作者・読者である

*9
どこぞのゴリラがやったこと。無作為に宇宙から半数の命を消す、という暴挙にはヒーロー達も憤る他なかった

*10
現行のシステム成立の為に、一人の天使がその生け贄となっている。人類の半分を犠牲にしないのであれば、彼女はそのまま命を落とす

*11
『負のご都合主義』のこと。『ご都合主義』が主人公達にとって都合のよい事ばかりが起きる・ないし起きているように()()()()()()ことを指すのに対し、こちらはその逆で都合の悪い事ばかりが起きてしまう・()()()()()()()()()()()()()()状況のこと。両者とも読者の主観に左右される面も少なくない

*12
犯した罪を許されないということは、逆に言えば開き直りを生む可能性がある、ということでもある。いわゆる『無敵の人』など、『どうしようもないのだからどうにでもしてやる』という人間を生まない為にも、罪を許される何かを用意することは大切なのである。無論、それが『死という慈悲』となることもあるかもしれないわけだが

*13
一人の犠牲の上に生きている、というがそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。遠い国の誰かの事まで気に病んでいるような人は、そもそも普通の暮らしすら覚束ないことだろう。そういう意味で、少々自罰的というか悲観的というか、とにかく思い詰め過ぎなのである

*14
『邪神Dを殴り倒せる選択肢が端からない時点でアレだと思います。え、願われたから助けただけで恨まれる筋合いはない?喧しいどこぞのトリックスターみたいなクソ邪神。寧ろ殴りに来るやつが居たら面白がってただろうがテメー』『人側の視点こそあれど、目の前の対処にか掛かりきりな状態で、世界がどうたらなんて考えられるやつの方が少ないっての。人があれこれと思索に時間を割くことができるようになるには『豊かさ』がいる、とは言うけども、それって『より良い豊かさを求めている』時点で厳密には()()()()()()ってことを理解してないやつの発言ぞ?』とは彼女の言

*15
それぞれ『GOD EATER 2』のラケル・クラウディウス、『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズの立花響のこと。声優は両者とも同じであり、前者はラスボス・後者は主人公


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