なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
──クモコさん育成計画。
それは、ビーストだったり軍人だったり死ぬがよいだったり、様々な進化プランを持ち合わせる彼女を、できうる限り真っ当な道に送り出すための計画である。
まぁ誤解を恐れずに言うのであれば、彼女のそれは普通の人と同じ……先の展望に無限の可能性を持っているだけ、とも言えるのだが。
根本の部分に『獣の子』という性質が埋まっている以上、その生育には慎重さを要されることもまた必然、というわけなのだった。
……小難しく語ってみたが、つまりはこういうことである。
「ファ○コンウォーズを知ってるかーい!」*1
「ふぁ、ファ○コンウォーズを知ってるか~い……」
「声が小さーい!もう一回!ファ○コンウォーズを知ってるかーい!」
「ひえ~!もう勘弁して欲しいッスー!!?」
──軍隊式こそ育成の花!これぞ天下の名トレーナーってやつよ!
ってのはまぁ、冗談として。
ともあれ、肉体面だけではなく精神面の育成も平行して行っていくというのが、今回のクモコさんのトレーニングに必要なこと……ということになる。となれば、驕りや増長している部分を叩き直すのに軍隊式は打ってつけ。
それは本人もなんとなーく自覚しているためか、文句は言いつつもトレーニングを投げ出すことだけはしていない……というのが、今の状況なのであった。
……まぁ、あんまり訓練漬けにするとどこぞの軍人殿、ターニャ・デグレチャフさんみたいなキャラになりかねないので、ほどほどに休憩も挟んでいくわけなのであるが。*2
訓練が行き過ぎると、出世して安全な後方勤務でエリートコースに乗りたい……とか言ってる人になるってのも変な話だけども。性格はあとから付いてきて、属性だけで進化先が決定する……みたいな感じなのかもしれない。
なお、その進化方法が確かであるのならば、彼女をリムルさんとずーっと模擬戦をさせていたら、アズサ・アイザワさんになるかもしれない……なんて懸念もあったりする。*3
……いやまぁ、クモコさんからの進化先としては、アズサさんは結構安牌な方だとは思うけどね?なろう系きららみたいな作風だし。
ともあれ、彼女がこれからどうなっていくのか、というのは未知数。
なので、できうる限り人と仲良くなれるようなキャラになって欲しいなー……なんて思いを込めつつ、愛の鞭を振っている私なのでございましたとさ。
「……後学のために一応聞いておくんッスけど、もし仮にクモコさんが人類に敵対するー、とか言い出したらどうするおつもりなんでしょう……?」
「はい?ええとそうですね……言い出しただけならば、こちらも弁舌を以て応対することになるのではないかと。──人は愚かで救いようがない……くらいならまぁ、別にそこまでおかしい話でもないですから」
さて、休憩を宣言したため、クモコさんが近くの木陰に避難しながら、こちらに声を掛けてきたわけなのですが。
その内容というのは『自分が人間に敵対し始めたらどうするのか?』という、一種の仮定からくる疑問。
……この訓練の必要性の部分に関わることなので、真面目に答えを返すことにする私なのでした。
とはいえ、人間を『愚かだ』とか『救えない』だとか思うこと自体は、別におかしくもない……というか思ってしまっても仕方のないことだと私達自身も思っていることなので、そこに関してこちらが怒りを示すようなことはない。
淡々と反論などを返し、相手の心変わりを期待することになるというだけのことだろう……と答えを返す。
「……ええと、さっきまでの話だと、キーアさん達って人間の守護者というか、人間最優先……みたいな感じの人だと思ってたんッスけど、実は違うんッスか?」
「いえ?違いませんよ?人間至上主義者ですよ、特にキリアは。ただまぁ……
「……???ええと、よくわからないんッスけど……?」
そんなこちらの言葉に、首を捻ってむむむと唸るクモコさん。
こちらの発言だけを聞いていると、人間のやることなすこと全てに手を貸すくらいの過保護、という風に思えていたらしいが……別にそういうわけではない。
最後に立ちはだかることを目的としている、という
「つまり、人の愚かしさを否定するつもりはないのですよ。愚かだから、弱いからこそ見えるものもある以上、人の全ては肯定されて然るべきなのです。無論、その愚かさが破滅へと繋がるのであれば、私達もそれなりに苦言を呈することはありますけどね」
「……人のことビースト云々言うわりには、キーアさん達も大概人類悪ッスよね……」
「褒め言葉ですね、ありがたく受け取っておきます」
「ええー……?」
そう思う私達は、人のあらゆる罪禍を否定しない。
間違いの積み重ねの果てに、その糧を活かす道を生み出すことを願うがゆえに。その取っ掛かりのため、立ちはだかる壁となることを望む……というのが、私達が魔王を僭称する理由でもある。
なのでまぁ、別に間違えたことそのものを責めるつもりも、間違って迷走することを否定するつもりもないのであった。
……まぁ、立ちふさがる壁であることを願う以上は、別に甘やかすつもりもないわけなのだが。
それはそれとして人外達に甘くしてやる理由はないので、基本的に彼らに対しては塩対応なのも確かなのだけど。
「……ええと、人外だからクモコさんにも塩対応、ってことッスか?」
「人に寄り添う者であるならば、人を無闇に傷付けぬ者であるならば──そういう相手に対しては、私達側に敵対の意思はありませんよ?無論、そうでないのならば、生まれてきたことを後悔させてあげますが」
「……この人、大概ヤベー奴なんじゃないッスか……?」
「失礼な。ヤベー奴だと理解しているから、こうして一歩引いてるんじゃないですか」
「これで!?」
なお、そうやってあれこれ話している内に休憩時間が終わったため、クモコさんは再びトレーニングのために走りだすことになるのでありましたとさ。
「お、お帰りキリア。そっちはどんな感じだ?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくださいましたリムルさん。クモコさんのこの勇姿をご覧下さい!」
(……なんかテンション高いな?それとなんか蜘蛛子のニュアンス変じゃね?……あと、この音は一体……)
訓練一日目の終わりの時。
集合場所に戻ってみると、リムルさんとミラちゃんが楽しげに会話をしているのが見えた。……どうやら向こうはいい感じにトレーニングを行えたらしい。
トレーナーとウマ娘……じゃなかった、トレーナーとスライムっ子のコミュニケーションは、確りと取れているようである。
ならばこちらも、確りと連携やらコミュやらが築けていることを証明せねばなるまい。……と、言うような対抗心?から、パチンと指を鳴らす私である。
リムルさんは相変わらず怪訝そうな?空気を滲ませた顔をしていたが……まぁ静かに聞きたまえよ。
そう私が目で語る中、周囲に流れる音は次のような感じ。
♪ブゥーチッブゥーチッ、ブゥーチッブゥーチッ*5
リムルさんは更に首を捻っていたけれど、ミラちゃんはなにかを察したのか遠い目。
とはいえここまでやっておいて残りをやらない、というのもあれなので、そのまま続行する私。
音が聞こえているのは、私の背後。なにやら黒いセットが、こちらにゆっくりと近付いているのが見えている。
私は彼らの視界の邪魔にならないように、その手前からスッと横に退け。……ゆっくり回転しているお立ち台のようなものに、彼らの視線を集める。
さて、露になったお立ち台の上に立っていたのは……?
♪ペーペケッペッペ ペーペーペペ ペーペケッペッペ ペーペーペペ
「oh、モーレツ♡」*6
「ぶふっ!?」
そう、結果にコミットしたクモコさん!
スカートを履いて、下からの突風にいやーん♡とばかりにしなを作る*7彼女の姿なのであった!
……え、どの辺りが結果にコミット*8したのかわからない?スカート作れるようになったんだよ、糸の使い方上手くなったんだよ。
「そこかよ!?」
「そこッスよ?糸の使えないクモコさんなんて、クモコさんの風上にもおけないッスからね!」
「いやそりゃそうだけどさぁ?!」
なおご覧の通り、リムルさんからはツッコミの嵐なのであった。なんでだろうねー(棒)