なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
お化けより怖いものなんて幾らでもある
「……俺、もうダメかもしんない」
「おいおいおい諦めんなそこで諦めたら最後だぞ自分をしっかり持てネバー・ギブアップ!」
「サイトも自分をしっかり持とう?もうなにキャラなのか、端から見たら全然わかんないことになってるよ?」
「おおっと」
自身に取り憑こうとしている悪霊がいる──。
そんな感じのことを悟ってしまった榊君が、膝から崩れ落ちる姿を見た私達は、慌てて彼の周囲に駆け寄ったわけなのだが。
……ええと、今回みたいなパターンは初めてなので、どうしていいものやら困惑している、というか。……いや、ホントにどうすればいいので?
ほら見なよ、サイトなんて困惑し過ぎて、サイトとしてもナポレオンとしてもベクターとしてもおかしなキャラ付けになってるじゃん。……なんでシューゾー?
多分全体的な扱いとしては【顕象】の特殊なパターン……【継ぎ接ぎ】の変化系、ということになるのだと思われる今回のあれこれ、なのだけれど。
なにぶん『意思ある相手』に対して憑依してくる『意思ある相手』、というパターンが未知のもの過ぎるため、なにをどうすればいいのかちょっと検討すらしかねている、という感じなのだった。
「思わず『対応策?そこにないならないですね』って言っちゃいそうな感じというか」*1
「洒落にならないから止めなさい……うーん、私が境界をパパっと弄る、ってのも考えたけど……変に弄ると融合が早まる、とかありそうで怖いわよね……」
「そ、そうだ融合解除!融合解除を使ってしまえば……」*2
「場に融合モンスターがまだ出てないから、使っても不発なんじゃないか?えーと、あれだ。『オーバーレイユニットはフィールド上には存在しません』的な?」*3
「おのれコンマイ語ォッ!!!」
皆があれこれと意見を述べるものの、具体的な方案には結び付かない。
現状が『取り憑こうとしてるかも?』という予測の段階であることもあり、榊君から出てきた案も不発。単にコンマイ語の複雑さを証明する結果に繋がっただけなのであった。
「いいや落ち着けぇ……素数だ、素数を数えるんだ。素数は自身と一以外で割れない孤独な数字。俺に勇気を与えてくれる……」*4
「一枚足りない……」*5
「最初っから素数ですらない!!?……って、あれ?」
混迷を極める榊君は、遂には落ち着けと自身に言い聞かせ始める始末。素数数えとか擦られ過ぎて*6いて最早落ち着けないだろう、なんてことを思っていた私なのだが。
突然周囲にボソッと響いた声に、皆が辺りを見回している。
榊君は「え?キーアさんの声じゃないの今の?」みたいな視線をこちらに向けてくるが、私はぶんぶんと首を横に振って否定。
幾ら私が
そんな私の言葉にそれもそうか、と一つ頷いた榊君は、なにかに気付いたように再び自身のデッキを確認し、
「……『覇王烈竜』……『覇王黒竜』……『覇王白竜』……『覇王紫竜』……いや、全部あるな……」
「……あー、さっき『烈竜』だけ数えてなかったから、一枚足りないってそれのことかと思った、みたいなこと?」
「そうだけど……それをキーアさんが言うってことは、やっぱりさっきのはキーアさんの言葉じゃなかったんだね……」
数え終えたあとに、がっくりと肩を落としたのだった。
……どうやら、さっきの『一枚足りない』が『烈竜が足りてない』という意味のモノだと認識していたらしい。結果はご覧の通りなわけなのだが……それが彼なりの足掻き、ということはなんとなく理解できる。いや、だってさぁ?
「……
「うむ、我の言葉だ」
「うぎゃあぁあああああでたぁぁあああぁぁああ!!!?」
「うるさいわ馬鹿者」
「ぶへぇっ!?」
この状況下で、ぼそりと呟く必要のある相手などただ一人。
それが誰なのかを薄々理解している榊君は、青かった顔を更に青くさせて、次の言葉を紡ごうとし──唐突に自身の肩に乗っていた
ともあれ、やっぱり現れたのは先ほどぶりの龍体のズァーク。……なんだけど。
なんというかこう、ちょっとデフォルメ入ってる感じというか、マスコット感が増えているというか……ともかく、その小ささも相まって、なんか親しみやすさがアップしている感じになっているのだった。
そんな風に周囲から観察されているからなのか、どこかトゥーンっぽいズァークはニヤリと笑みを浮かべたのち、こちらにこう告げてくる。
「オイラはズァーク!……だったか?」*8
「……はい?」
突然リンゴが好きそうな感じの挨拶をされた私達は、困惑のまま
「……ええと、もう一度説明して貰っても?」
「ぬぅ、物覚えが悪いな貴様。ではよーく聞くがよい。──青だ、青を作るのだ!」
「……主語を抜くのを止めて下さらない?」
困惑の渦に叩き込まれた私達であったが、数分後再起動。
見た目はトゥーン、でも透けてるから多分アンデット……みたいな状態のズァークを伴い、席に座り直したわけなのですが。
そこで彼から話を聞く内に、再び軽く宇宙猫していたというわけなのでございます。
と、言うのも。
彼は先ほどから「青が必要」「青が足りない」と繰り返し喚くばかり。
主語が抜けているため、その言葉の意味を理解するのに四苦八苦していたのである。
……いやまぁ、デュエリスト組が気付いてくれないとリアリスト組はなんのこっちゃ?……ってなるのは仕方ないわけでですね?
「あー、もしかしたら僕、わかっちゃったかもしれません」
「なに!?それは本当か真月!?」
「いや、一応サイトって呼んでくださいね?そこ認めちゃうと戻れなくなる気がするんで。……まぁともかく」
そんな中、おずおずと手をあげるのは真月……もといサイト。
すっかり今の姿も見慣れてしまった彼は、心までゲス化するつもりはない的なことをぶつぶつと呟きながら、ズァークの言いたいことを推理していく。それによると、
「多分ですが『覇王竜』に色が足りない、ということを言いたいのではないかと」
「……色が足りない?えーと青だから……リンクモンスターってこと?」
「そうそうそれです。『覇王竜』、ひいては『四天の竜』と言えば、召喚法に添ったバリエーションを持つ……というのが常識です。アドバンス、ペンデュラム、フュージョン、シンクロ、エクシーズ……。アニメで登場しなかったものも含めれば、大体の召喚法を網羅していますよね?」
「そうだねぇ。召喚法の名前が入っている、という定義だとすると範囲は狭まるけど」
ズァークは、リンクモンスターを求めているのではないか?……というのが、彼の主張なのであった。
確かに、アドバンスの方の『オッドアイズ』からの派生であると思われるモンスター達や、ペンデュラムの方の『オッドアイズ』からの派生であると思われるモンスター達など、彼らは複数の召喚法を取り込んでいるとも言えるカード群だ。
最近では『ペンデュラム・儀式モンスター』まで増えている辺り、彼らの召喚方法の拡充についての執念とでも呼ぶべき情熱は、かなり熱いモノなのだと言うことが伺えるだろう。
……まぁ、『召喚方法の名前がモンスター名に含まれている』というネーミング法則から儀式は外れている辺り、微妙な扱いの悪さを感じないでもないが……ともかく。
エクストラデッキから特殊召喚できるカード、という共通点を持つのが『四天の竜』の特徴。
それゆえに、その内『リンク』対応のモンスターも出るのではないか?……とまことしやかに噂されていたのだが……。
「今のところそれが出てくる気配はなし。一応『魔術師』系統のカードは出ましたけど……ネーミングの仕様上、『魔術師』カテゴリには含まれないので微妙なところ……と言った感じに『榊遊矢、およびズァークに対してリンクモンスターを与える』ことにコナミがとても慎重になっている……ということは疑いはないでしょう」
「あー、確かに。なんかこう、ペンデュラムテーマとかにリンクをあげるの渋ってる感じがあるよね」
続けてサイトが述べた通り、
まぁともかく、『カテゴリに属するモンスターしか特殊召喚できなくなる』という制限を持つモンスターが多く存在する以上、カテゴリに属しているかと言うのは、それだけカードの利便性に関わってくるものとなる。
だからこそ、新マスタールールの環境下では『LINK VRAINS PACK』に選出されるかどうか、で揉めたりもしたわけなのだし。
そうでなくとも二人はペンデュラム使い、再度のルール変更で苦しい思いをしているのだから、リンクが欲しいという思いは人一倍強いだろう。
だからこその、一枚足りない。リンクをさっさと寄越せ、という怨嗟の声だとサイトは解釈したわけなのだが……。
「──間違っておらぬが間違っておる」
「あれー?」
それを聞いたズァークから返ってきたのは、そんななんとも言えない返答。
意味わからん、とばかりに困惑するサイトに対し、ズァークはやれやれとばかりに首を左右に振ったのち、再び自身の主張を声高に叫ぶのだった。
「仕方ないからもう一度言ってやろう。──我が求めるのは青!何故か『烈』という形で濁された、
「……覇王、」
「青竜……?」
その内容に、私達は思わず顔を見合わせることになるのだった……。