なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「まぁ、話はわかったよ。つまりは公式の手を借りず、自らの手でカードを精製・ないし入手したい……ということだろう?」
「別に間違ってないけど、その言い方なんか人聞きが悪くない?」*1
「いや、人聞きが悪いもなにも、実際に公式のお世話にはなれないんだろう?」
「まぁ、そうだけど……」
こちらの事情を一通り説明したところ、ライネスはふむと頷きながら軽く手を叩いた。
地獄の亡者の如く机に沈んでいた面々は、その音を聞いて徐々に復活していく。
彼らは一様にライネスを見つめ、一体どうするつもりなのかと問い掛けているかのよう。ズァーク君までそんな感じなので、流石のライネスも小さく苦笑を溢しているのだった。
「生憎と、私はデュエリストでもなんでもない。でもまぁ、魔術師の端くれとして、アドバイスできることというのも、多少は存在しているわけでね?」
「魔術師……?なんです、デッキから他の魔術師でも呼んできてくれるんですか?」*2
「……いや、そんなデュエリスト視点でモノを言われても、こっちとしても困るわけなんだが……おほん」
そうして周囲の視線を集めつつ、彼女は次にするべきことをこちらに教えてくれようとしたのだが……サイトから飛び出した横やりめいた言葉に、出鼻を挫かれたような視線を向けたあと、一つため息を吐いている。
いい加減真面目に話をしよう、ということなのか。
そんな彼女の様子を見たサイトはといえば、肩を軽く竦めながら黙り込んでしまうのだった。
……そう言えば、サイトの真月化も解決しなければいけない事態の一つ、だったか。
状況の流れるままにズァーク君の方を優先してしまったから、いつの間にか例のポイントが貯まり始めているのかもしれない。
こっちもこっちで解決しなきゃなぁ、なんてことを内心でぼやきつつ、ライネスの次の言葉を待っていると。
「では次にすべきことだ
「はいはーい!ここからは私、保登心愛がバッチリ引き継いじゃうよー!」
「……いやココア?人の台詞を遮るのは止めて欲しいんだが?」
「あ、ごめんねライネスちゃーん!嫌わないでぇ~!!」
「いや嫌わないから、だから抱きつくのはやめたまえ、暑苦しい」
「えー?少なくとも外よりは暑くないよ?なんてたって、冷房の効いてるラットハウスの中だからね!」
「そういう問題でもないんだがね……」
突然店の奥からズザザーッ、とばかりにスライドしてきたココアちゃんが、場の空気を完全に席巻してしまう。
これには話をしていたライネスも唖然……とまでは行っていない様子。空気感的に、どうにも『ライネスがココアちゃんを呼ぶ』前にココアちゃんがフライングして来た、ということになるらしい。
つまり、タイミングこそ前後したものの、この流れそのものは予定通りのモノだと言うこと。──即ち、彼女が次なる行動指標のために呼んだのはココアちゃん、ということになるわけで。
……ええと、マジで?
思わず口調が変なことになったが、そうなるのも仕方のない話。
確かにココアちゃんはなんだかんだでデュエリストだが……それでも、オカルト*3方面には(多分)関係のない人物。この状況下で紹介される相手としては、不適当な人物に思えるのだが……。
なんて風にこちらが思っていることを察したのか、ライネスはニヤリとした笑みをこちらに向けてくる。
「彼女は単なる取り次ぎ役、だよ。本当に紹介するべき相手は、彼女の関係者の方だ」
「ココアちゃんの関係者?って言うと……」
「こんにちはキーアさん。無論、私のことになりますよね」
「うわっ!?……ってあ、はるかさん。とてもおひさし、ぶり、ですね……?」
「なんで疑問系なんですか……いやまぁ、私もなんだかとっても久しぶりにお会いした気分でいますけど」
でも多分、お昼とか頂く時に顔を合わせているはずですよね?……といったことをこちらに尋ねてくるのは、ココアちゃんの姉であるはるかさん。
どうにも、ライネスが紹介したかったのは彼女の方、ということになるらしい。ってことは……。
「ええ、お察しの通りです。まさか私にまで辞令が飛んでくるとは思っていませんでしたが……ともかく、
「え、ええ……古ぅ……フレーズしか聞いたことないネタとか飛ばされても困ります……」
「あ、あれ?……い、いえ!フレーズが古いとかはどうでも良くてですね?!」
……突然の発言に戸惑ったりしたものの、彼女の話を纏めると次のようになる。
日本各地で霊の目撃情報が多発、至急対応されたし──そんな辞令が、お国から発布されていたのだ、と。
「……え、まさか日本全国各地にズァークが現れたとか……?」
「流石にそんなことになっていたら、もっと大騒ぎになっていますよ。過程こそ様々ですが、至るところでお盆が早くやってきた、みたいなことになっているそうなんです」*5
青い顔をしながらまさか、と戦く榊君に対し、はるかさんはその発言の内容を苦笑いを浮かべながら否定する。
はるかさんといえば、すっかり
なのでまぁ、古巣からヘルプが飛んでくることも、極々稀にだがあるそうで。
今回のそれも、そのうちの一つ。……いつものそれ──彼女ができないと断っても、他の人員が受け持つだろうモノとは違った、という点を除けばの話だが。
「……ええと、つまりどういうことなんでしょう?」
「規模こそごまかしきれる程度の小ささですが、それが起きている範囲が広すぎるのだそうで……端的に言ってしまうと、手が全然足りていない、とのことなのだそうです」
首を傾げる榊君に対し、小さくため息を吐きながらはるかさんが声を返す。
なんでも今回のお国からの要請、実はゆかりんの方にもちゃんとした依頼として受諾されているもの、なのだそうで。
それゆえ、五条さんを筆頭とした霊や妖怪などのオカルト関連のエキスパート達は、既に出払ってしまっているのだ。
……え?なんで私が知らなかったのかって?
今の私は妖精サイズだから、手を借りる云々以前の問題なのですよ、はい。
だからまぁ、ゆかりんがこちらに話を持ってくる、ということ自体が発生しなかったのです。
まぁ、結果としてこうして別口で首を突っ込む羽目になっている辺り、ゆかりんにあれこれ聞いとけばよかったなかなー、とも思うわけなのですが。
ともあれ、五条さん達を投入している以上、事態の収拾は時間の問題だ、と思われていたそうなのだが。
結果はご覧の通り、離職に近い扱いのはるかさんに話が回ってくる程度には、事態の解決には遠い……ということになっているようで。
「で、その理由が……」
「はい。発生範囲の広さ、それから規模が小さいがゆえに
鬼太郎君に五条さんが居て、早々に片付かない事態。
……これだけ聞くとぬらりひょんでも復活したのか、と思ってしまう話だが。*6
その実態はつまるところ、手数の足りなさに起因するもの……ということになる。
大掛かりな存在を祓ったり倒したりする、というのであれば二人の戦力は過剰に近いが、それがちまちまとした探索なども含むものである……というのなら話は別。
二人共『多重影分身の術』とかは使えないため、捜索範囲の広さ・存在の薄さなどを兼ね備えた今回の事件では、単なる一ユニットとしてしか扱えない……ということになっているわけで。
結果、元々はなりきり郷だけの人員で行われていたこれは、今や新秩序互助会どころか、はるかさんのような人にまで救援要請が必要な事態に発展してしまったのだった。
救いがあるとすれば、世間一般的には『幽霊の目撃情報が増えた』くらいで済んでいる、ということだろうか。
「まぁ、それはそれで一般の方が面白半分で幽霊探しを行う、というような事態を招いてしまっているわけなのですが」
「うーん夏の恒例行事。……ええとなんだっけ、まだ本格的な夏でもないのに、外はからっからの真夏日だったりするんだっけ?」
「ええ、はい。そのせい……というわけなのか、上の方からは『夏の暑さと一緒にお盆まで前倒しになった』……なんて言う冗談?まで飛び出すほどだそうで」
「ふーむ。郷の中はまだ初夏も初夏って感じだし、あんまりその辺りの感覚にダメ出しはできないけど……」
まぁそれはそれで、普通の人が面白がって廃墟とかに幽霊探しに行ってしまう……みたいな二次被害を出しているみたいなので、あまり笑い事でもないのかもしれないが。
なんでも、今年の六月は記録的な暑さなのだそうで。
郷の中では気温が調整されており、一応今の気温は初夏の頃──大体二十五度付近になっているのだが。
外に出ればまさに灼熱、まだ六月だというのに気温が四十度を越えたところもある、なんてことになっているのだそうだ。
火山噴火のあった年は冷夏になる*7……なんて話もあるが、今年は当てはまらないとのこと。
これから八月になっていく内に、更に気温は上がっていくだろう……なんて予測が立っているため、今から人々は戦々恐々としているのだそうだ。
まぁ、そんな感じなので『夏が前倒しになった』なんて戯れ言も、笑い話としては微妙な感じとなっており。
結果、霊の帰ってくる時期として有名なお盆も、前倒しになったのでは……なんて話が出てくるようになった、とのことであった。
「ふぅむ、お盆ねぇ……」
「これが強ち冗談とも言いきれないらしくてね?これは紫から貰ってきた資料なんだけど」
「うん?何々……『原因不明ながら、霊的な気配が増加の兆しあり』……?」
で、この冗談、どうにも冗談で済ませていいものなのか、微妙なところがあるのだという。
どういうことかと言うと、実際に霊的なモノの出現──この場合は【兆し】や【顕象】の発見数が増えているのだそうで。
いや、さっきから言ってるじゃん?……と思う人も居るかもしれないが、さっきまでのそれは
こちらは、それらの確認作業の結果、本当に霊が発見されている、という数値上での問題の方。
……まぁ要するに、最初は本腰を入れていなかった調査作業(それでも
さっきの冗談は、この報告が上がる前に言われたもの。
……口は災いの元、なんて風に突っ込まれても仕方のないモノ、というわけである。
そもそも最初に二人を投入したこと自体、実際は『悪戯とか勘違いとかだろうけど、とりあえずこいつらを投入しておけば問題は解決するだろう』みたいな、結構大雑把な理由だったそうだし、なんというかもう……なんというか、だ(語彙力)。
「で、ここに来てそこのズァーク君。彼も地縛霊なのだと言うのであれば、その発生の原因はこれらの幽霊騒動に関係がある、と見てもおかしくはないんじゃないかい?」
「……ええとつまり、カード作成じゃなくて元を潰す形で成仏させる、みたいな……?」
で、そこまで語り終えたライネスは、どうだろうとでも言うようにこちらに視線を送ってくる。
……このズァークの発生原因が、一連の幽霊騒動に関わっていて。それから、それらに黒幕が居るのだとすれば……確かに、それをどうにかすればズァーク君を満足させる必要なく、この問題を解決できるかもしれない。
まぁ、頼み事?をスルーしてそういうことをする、ということに一抹の不安というかがないわけではないが……。
「正直手詰まりだし、ズァーク君には悪いけど君の発生理由から探ってみるとしようか」
「う、うむ?いやその、確かに我は今霊のようなものだが……」
「なんだっていい!覇王を捨てるチャンスだ!」
「霧が出ておらぬか!?」*8
正直、暑さで茹だるのと近いような状態の、榊君をこのままにしておく方がアレである。
そういうわけなので、私達は一度解散し、各々準備を整えることにするのだった……。