なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
そんなわけで、次の日の朝。
なりきり郷から離れ、都内のとあるオフィスビルを目指す私達。
なお、マシュとハセヲ君は目立つのでグラサンと帽子で変装していたりする。特にマシュは帽子は目深に被って、その
……私?私は単なるロリだから、変装とかしなくてもだいじょぶだいじょぶ。
「そんなふうに考えていた時期が私にもありました」*1
「ダメじゃねーか」
「その、寧ろせんぱいは、何故自分は大丈夫だと思っていたのですか……?」
二人からのツッコミを苦笑いで受ける私は、いつの間にやら人の波に囲まれていた。なに ゆえ。
……んー、別に美少女が歩いてたからって、こんなに大量の人々に囲まれるわけないんだけどなぁ?
なんて風に思っていたのだけれど、どうにも私は自分の容姿に無頓着過ぎたらしい。
……なんか、行く人行く人みんなに、滅茶苦茶写真撮られてるんですがそれは。
……は!これはまさか、私なんかやっちゃいましたかフラグ?!
チートオリ主が一度ならず何度でも行うというアレが、私にも来てしまったと言うのか……!?
『はーい、面白がってなくていいですからねーせんぱい?』
「む、誰が面白がってるだって?──当たり前じゃないか」
『わー、傍若無人魔王ムーブ流石ですねー(棒)』
「それほどでもない」*2
『そこはちょっと躊躇って貰えませんかぁ?!』
手に持っていたスマホから声が聞こえてきたので、それに合わせるように言葉を返す。
……無論、そこから話し掛けて来ているのは、みんなのアイドルBBちゃんである。
まさかの私のスマホにダイブ、リアルでもアシストオッケー!というわけだ。あまりの早業に止める暇もなかった。…………中身のデータとかどうなったんだろうか?
ところで、スマホにケーブルを付けたら、プラグインしてトランスミッションしたりとかできないだろうか?*3
『BBちゃん.exe*4ですか?まぁ、できなくはないと思いますけど……』
「やっぱりできるんだ!?つまりスーパー☆ハッキングとかも?!」
『いやなんですかそれ?言いたいことはわかりますけど』
なるほど流石スーパー電脳後輩BBちゃん、そこに痺れる憧れるぅ!*5
……ってなわけで。オッケーBB、この人だかりから助けて?(わりと切実な願い)
『はいはい。ではせんぱい、スマホの画面を皆さんに見せて下さいねー』
「?はいはい」
そんな感じに、どこぞのアシスタントにお願いする時のようにBBちゃんに話し掛けてみたら、突然にスマホの画面をみんなに見せるように言われた。
疑問符を浮かべつつ、言われた通りにする私。
『はいはーい、皆さん注目して下さいねー。──必殺、BBちゃんフラッシュ!』
「うおっまぶしっ」*6
するとどうだろう、スマホから謎の光……何の光!?*7が発せられると同時、周囲の人々が一瞬呆けたような表情をしたあと、何事も無かったかのように私の周りから解散していくではないか!
……これあれやね、有名なあの黒服の人が使ってるやつやね?*8
『近いものではありますね。正確には、光を浴びる前に執着していた対象への思いを失わせるようなものになっています』
「それはまたなんとも……ん?つまり私は今ので飽きられた……ってコト!?」*9
『端的に言うとそうなりますねぇ』
「がーんだな、心を挫かれた、もう動けない」*10
「せ、せんぱい落ち込まないで下さい!私はせんぱいに飽きたりしませんので!」
「え?……えっとありがとう?」
「いや、なんだこれ」
そんな感じにちょっとしたコントを展開していたら、ハセヲ君に呆れられてしまった。
……嫌だなぁハセヲ君。こんなことくらいでいちいちツッコんだり呆れたりしてたら、いざなりきり郷に来た時にはいろいろと大変な事になるぞう?
何せあそこじゃ毎日がドッタンバッタン大騒ぎだからネ!*11…普通の人も居るけど、問題児も結構居るからね、仕方ないね。
「マジかよ行きたくねぇ……いやその前に、外でハセヲ呼びは止めろって」
「ん?……ああ、三崎君だったっけ確か?」
「そうだ。ハセヲなんて名前そうそう居ねーんだから、下手に目立つよりかは
「ふむ、そうなるとマシュの方も
「え?あ、はい。こうして外に出ている時には、そちらの名前で呼んでいただいた方がよろしいかとっ」
(……めっちゃ西洋人の顔してるのに『じゅん』って名前で呼ぶのも大概目立つと思うのですが……まぁ、いっか)
なりきり郷のヤバさに呆れるハセヲ君から、外では『ハセヲ』なんて風に呼ぶと目立つから止めろ、とのお言葉が。
それを言うならマシュって呼び方も目立つのでは?って感じになったので、一応元の名前を呼ぶようにしようかと提案してみたら、あっさり了承された。
……なんだかBBちゃんから、何か言いたげな空気を一瞬感じたのだけれどなんだったんだろう?
なんてやり取りをしていると、呼び方を変えたマシュが、不思議そうな表情でこちらを見ていた。
……えっと、穴が空きそうな程に見詰められてるんですけど、一体どうしたの?
「いえ、その……せんぱいは、『キーア』と呼ばれる事に抵抗はないのかと、今更ながらに思い至ってしまいまして」
「そういやアンタ、版権組じゃなくてオリジナル組なんだっけか。現状アンタ以外の該当者が居ないっていう」
聞かれたのは、私がキーアとして扱われる事に違和感はないのか、という事。
それと、現状一人だけ、版権ではないなりきりキャラの憑依であることの確認であった。
……ふむ。まぁ、聞かれたのなら答えるべきか。
「いいもなにも、
「……?」
「いや、なんというか……まぁ、ここで話すような事でもないし、帰ったらね」
ただ、こんな街中で話す話題でもないだろうし、実際に話すのは今回の一件が終わって、郷に戻ってからの事になるだろうけど。
……なんて風に二人に答えて、改めて目的地へと向かい歩き始める私達なのだった。
「ここがあの運営のハウスね」*12
「ハウス……?いや、それでも間違いじゃないだろうが、ハウス?」
「三崎さん三崎さん、せんぱいは時々古いネタをお使いになられるので……」*13
「甘いぞ楯、これが古いとわかる時点でお前も同じ穴の狢だ!」
「はっ!?」
『いやいや、せんぱいもマシュさんも。そういうのやってなくていいですから。ほら、中に入りますよー』
目的地にたどり着いて、それなりの高さのビルを見上げながら呟く私と、ネタがわからず困惑する三崎君。
……マシュは古いって事だけは知っていたようだが、反応してしまう時点で同じ穴の狢である。
みたいな感じに話をしていたら、呆れ声のBBちゃんに急かされてしまったので、話を切り上げてオフィスビルの中へ。
外は初夏の日差しに照らされてそれなりに暑かったが、ビルの中は流石に冷房が効いているのか、結構涼しかった。
滲んだ汗をハンカチで拭いて、受付に居た女性に今日アポを取って来た者だと告げる。
女性は手元の端末を操作した後「社長がお待ちしております、そのままエレベーターで最上階の社長室までどうぞ」と簡潔に声を返してきた。
……社長へのアポなのに、なんか対応緩いな?
なんて思いつつ、入り口から見て奥に備え付けられたエレベーターに乗って、そのまま最上階へ。
「……あれ?そういえばなんで社長室?」
「言われてみりゃそうだな。……社長が運営もしてるのか?」
何の迷いもなく社長室まで登ろうとしてるけど、これ冷静に考えたらなんで社長室に通されたんだろ?
普通はこういうのって部門ごとに仕事をわけてるから、社長が現場であれこれする、なんて事にはならないと思うんだけど。……という事まで考えて、スッと背筋が寒くなった。
いや、いやいやいや。まさかなー、ないよなー?
イヤーな予感が脳裏を支配し始めたのを頭を振って追い出そうとして、微妙に追い出しきれずに表情が苦いものに寄っていく。いやだって、ゲーム会社で社長とか、ねぇ?
「おいばかやめろ、不穏なフラグを立てるんじゃねぇ」
「私だって立てたくて立てたんじゃないやいっ」
『お二方ー?そうこうしている内に最上階ですよー?』
「えっちょっまっ」
心の準備!心の準備をさせて!……なんていう私達の願いは無情にも踏みにじられ、エレベーターは最上階へ。
……ゴクリと唾を呑み込んで、仕方なくエレベーターから降りる。
そのまま、真正面にある扉の前まで進んで、立ち止まって皆の方を確認すれば、各々なんとも言えない緊張感に包まれているようだった。
とはいえ、ここで立ち止まっていても埒が明かないので、意を決してドアノブに手を掛け。
「ふむ、我輩を待たせるとは言語道断、悪路踏破!
中に居た人物が唐突にマシンガントークを始めたのを途中で打ち切って、思い切りドアを閉めた。
二人と一人が困惑の目でこちらを見てくるのだが、正直なところ無視して帰りたい。
……いやいや。なんで居るんだあの頭のおかしいアストナージ?*14
見間違いじゃなきゃ、今中に居たの、どこぞのイカれたマッド・サイエンティストだったよね?
思わずげんなりとした気分で皆を見るのだが、マシュはよくわかってなさそうだし、ハセヲ君は初見のぴろし3*15に対しての表情と一緒のものを浮かべてたし、BBちゃんはこういう時には頼れないしで、結局私が先導するしかない予感。
……えー、マジで?私アレの相手しなきゃいけないの?えー……?
『ほらせんぱい、ここはずずいっと!』
「くそう、この中じゃ一人だけ完全に
めっちゃ煽ってくるBBちゃんは後でシメる、と心の中で決めて、一つ深呼吸。
……清水の舞台から飛び降りる*16ような心境で、再び扉を開け。
「引っ掛かったな無の申し子、略して
「──あ、はい、どうもです」
──そこには、『"超天才"ドクター・ウェスト・